《山育ちの冒険者 この都會(まち)が快適なので旅には出ません》45.祭の終わりと事件のはじまり その2
多くの関係者の心配をよそに、展示會は深刻なトラブルなく、最終日まで運営された。
そして、展示會最終日。
事件が始まるのはこの日である。
ともあれ、外の重鎮を呼んで行われた展示會閉會の催しは滯りなく行われた。
「このような催しがアコーラ市で行われたこと、想像以上の沢山の方々に足を運んで頂いたこと、そのどちらも喜ばしく思います」
王都からやってきた偉い人のそんな言葉でもって、展示會は閉じられた。
日程を消化したら、後は撤収だ。
最終日であっても沢山やってきた來場者は外へと追いやられ、會場はどんどん閑散としたものになっていく。
出店や店、企業の展示なども片づけられ、展示會場はそれまでの喧噪を忘れ去るかのように、殺風景になった。
閉會式の後、リリカ・スワチカは展示會場にいた蕓人と話していた。
彼はここ數日、仕事の合間にこの魔導を使う蕓人のもとに駆けつけて、見することを日課にしていた。
服の各所に様々なや音を発する魔導を隠し持つこの蕓人は、屋外での人気者だ。
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ステルに話を聞かされて試しに見してみたのだが、実際に見て驚いた。
この蕓人は市販の魔導を上手く組み合わせたり、ちょっとした改造をしてショーとして立させていたのだ。
一見、魔導の力に頼っているようで、裏にあるのは途方もない研鑽とアイデアの數々。
なまじそれらがわかるだけに、リリカはすっかり虜になってしまっていた。
閉會後、人ももなくなりつつある広場で、片付けを始めた蕓人に、リリカは思い切って話しかけてみた。
蕓人は朗らかな態度で、リリカの話に応じてくれた。
話題はちょっとしたことだ。
好きな魔導のメーカー、便利だったもの、しい魔導。些細ながらも、どれもリリカにとっては貴重な報である。
「へぇー、この後は王都にいくんですか」
「稼げる時に稼がないといけないからね」
最後にこれからのことを聞くと、蕓人はそう教えてくれた。
機會があれば、王都に行こう。できればステル君と一緒に。
蕓人と別れ、自の仕事場であるホテル・エイケスタの作業場に向かって歩きながら、リリカはそんなことを考えた。
○○○
ほぼ同じ頃、魔剣展示室。
クリスティン・アークサイドは片付けが進みつつある展示室で魔剣のそばで佇んでいた。
彼の今の役割は魔剣の護衛。くわけにはいかない。忙しそうに働く職員を手伝うこともじられている。
ぶっちゃけ、凄く暇だった。
打ち合わせでは、片付けが終わったら何人かの護衛が來て、一緒に魔剣を運び出すことになっている。
そこから先のことはその時にならないとわからない。
わかっているのは、アコーラ市の研究施設に運ばれること、それだけだ。
何重にも防護が為された魔剣を、それとなしに見る。
臺座に飾られている姿は変わらないが、裏では展示會の期間中も、警備の魔導が何度も改良された。
今、この魔剣にどれだけの仕掛けが施されているのか、クリスも把握していない。
「…………さて、そろそろかしらね」
魔剣から目を離し、よく働く人々を眺めながら、クリスは小さくそう呟いた。
○○○
リリカが仕事場へ戻った頃、ステルは展示會場の出り口近くに居た。
式典後の見回りで、出口を見失った親子を送り屆けた直後だった。
「これで終わりかな……」
親子に向かって手を振りながら、笑みを浮かべるステル。
合間に別の仕事がったりしたものの、楽しくも大変だった警備の仕事はこれで終わりだ。 振り返り、場を見ればもう客はいない。
撤収の進む寂しげな景の中をステルは歩く。
向かう先はいつもの休憩室だ。そこで荷を回収してからリリカを會う約束である。
「…………ん?」
恐らく、ホテル・エイケスタでの夕食となるであろうことを想像しながら歩いていると、人影が目にった。
展示會場前の広場。撤収作業が進み閑散とした中、人影があった。
魔導を使う蕓人である。
連日活躍していた人だ、撤収に時間がかかっていたのだろうか?
そんなことを考えながら、「せっかくだし聲をかけよう」と思ってステルが近づいた時だった。
蕓人は懐から筒狀の魔導を取り出すと、それを空に向けて起した。
「おおっ」
と音の魔導だ。巨大な花火のような輝きが幾度も生まれ、閉鎖した會場を彩る。
「すごい……」
閉館後の粋な計らいにするステル。
その直後だった。
ステルの周囲。展示會場の各所から発音が発生し、周囲に煙が充満した。
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