《山育ちの冒険者 この都會(まち)が快適なので旅には出ません》46.祭の終わりと事件のはじまり その3
煙で視界が遮られる中、ステルは落ちついて狀況を観察していた。
恐らくこれは『探求の翼』による襲撃だ。
煙幕は複數の場所で発生した。先日捕らえた以外にも実行部隊がまだいたのだろう。
幸いだったのは人のいなくなった閉會後に事を起こしてくれたことだ。これは以前クリスが言っていた「一般人を巻き込まない」という彼らの信條からの行だろう。
今、自分はり口近くにいる。警備の仕事はまだ終わっていない。
どうくべきか。
決まっている。連中の狙いである魔剣の保護だ。
この會場にもう関係者しかいない。おかげでそちらの仕事に集中できる。
そう判斷したステルは煙の渦巻く中、真っ直ぐ魔剣が保管されている展示場に向かって走り出す。
煙は徐々に薄まっているし、ステルの覚は視界を塞がれた程度で方向を見失うではない。
そうして周囲に注意を払いつつ走る中、気配をじた。
人間だ。近づくとローブを纏っているのがわかった。
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関係者ではない。恐らく、敵だ。
「……っ。敵じゃなかったらごめんなさい!」
そう聲をかけつつ、相手の背後から蹴りをれた。
「ぐおっ」
ローブを著た男はそのまま前のめりに倒れた。
ステルは素早く背中を踏みつけ、聞く。
「お前達は『探求の翼』だな。何人くらいで攻めてきている」
「い、言うと思うか……」
「でしょうね」
「ぐっ」
問答は難しそうなので、そのまま一撃れて眠って貰った。
「この狀況で尋問するわけにはいかないよね……」
じっくり報を引き出す時間が惜しい。まずは魔剣の場所までいって、護りながら戦うべきだろう。
方針をそう決めて、再び周囲を見て気づいた。
煙が晴れつつある會場で、警備の者同士が戦っている。
いや、厳には數が魔導を用いて、武裝の貧弱な方を攻めている。
「ス、ステル! 助けてくれ! こいつら仕込んでやがった!」
たまたま近くで戦っていた知り合いの警備。同じ冒険者協會支部所屬のクランがこちらに聲をかけてきた。
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警備の裝備は刃を潰したサーベルくらい。彼は魔導相手にどうにか持ちこたえていた。
「っ! 今いきます!」
ぶと同時、ステルは一足飛びに魔導持ちの警備員に飛びかかった。
「くっ。邪魔だっ!」
敵もステルを無視できないと判斷したのか、魔導をこちらに振り回す。
発されたのは風の魔法。衝撃波の魔法がステルを襲う。
だが、ステルにとってその程度大した障害では無い。
「おおおお!」
右の拳を握り、魔力を乗せた一撃で魔法を砕く。
「なんだとっ」
驚愕した相手を無視して、そのまま一撃。
「はあっ」
「ぐっ」
ステルの一撃をけた相手はそのばで崩れ落ちた。
「あれ。この人……」
倒れた相手の顔を見ていれば、同じ警備仲間の知り合いだ。気さくな人柄で休憩時間に話したこともある。
「……こいつら、最初から仕込んでたんだよ」
「クランさん、大丈夫ですか?」
「なんとかな。しかし、『探求の翼』ってのは恐ろしく手の込んだことをしてたみたいだぜ。この會場の警備は素の確かなものしか雇われてない。経歴がしっかりしてるものしかいないはずだったんだ」
「……この瞬間のために、準備してきたってことですか」
クランは頷いた。
「煙幕がすごくてちゃんと見えてねぇが、連中、一直線に展示場に向かってやがった。俺みたいに立ちふさがった奴だけ排除にかかるじでよ」
「じゃあ、展示場に急がないと」
「ステル。お前は展示場に向かえ。そのままで十分戦えるからな。他の警備が襲われててもとりあえず無視しろ」
「クランさんはどうするんですか?」
「俺は外の連中を助けてる。裝備もねぇしな」
「わかりました。お気を付けて」
そう言ってステルは展示場に向かって駆けだした。
○○○
會場は広いとはいえ、展示場まで走ればステルの足なら五分とかからない。
煙幕が張れる中、ステルは迷わず展示場を目指す。
走りながら、ステルはその辺りに落ちていた石を拾っていた。
警備の時は基本的に人を殺害しかねない投げ矢は持たないように言われていたこともあり、手持ちの武は木剣だけだったためだ。
魔導を扱う『探求の翼』を相手にするなら飛び道がほしい。石を拾ったのはそんな理由からだった。
石はすぐに役立った。
煙が晴れつつある會場、ステル目掛けて襲いかかってくる『探求の翼』を撃退するために使えたのだ。
「……いけっ」
今も自分に向かって魔導を向けてきた警備員姿の男の腕目掛けて石を投げたところだ。
「ぐあっ」
狙い違わず投石が命中し、あまりの痛撃に魔導を取り落とす『探求の翼』の男。
「たああっ!」
「ぐはっ」
そこをすかさず、一撃れて相手を昏倒させる。
ステルの前に立ちはだかる『探求の翼』は大こんな流れで打ち倒された。
そして、展示會場前。
そこには屋外で々な催しをするための広場がある場所でもある。
會場にるためにどうしても通らなければならない場所に道を塞がるように立ちふさがる存在が居た。
「あれは……蕓人さん?」
そこにいたのはステルが毎日のように見ていた魔導の蕓人だ。
口元以外を仮面で隠した男は、ステルに気づくと口の端を一瞬釣り上げてから、
「……っ。貴方もかっ」
どこからともなく小型の魔導を取り出して起した。
「いつものように、楽しんでくださいね」
一言、そんな言葉が聞こえた。
蕓人の両手に持った魔導から小さなの球が生まれる。
多分、ると不味いやつだ。
ステルは心の焦りを抑え、どうにか気持ちを切り替える。
今は、やるべきことややらねばならない。
だから、両手に持った小石をそれなりに力を込めて投擲した。
「それではご覧あれ……ぐあああ……!」
目にもとまらぬ速さで投じられた石は狙い通り蕓人の膝を砕いた。
「ぐおおおおっ」
激痛にその場に崩れ落ちる蕓人。そこに自分の生み出した魔導のが降り注いで何だか大変なことになってしまった。
「うわぁ……」
想定外の自に申し訳なさをじつつも、かなくなった蕓人の様子を見る。
大丈夫。死んではいない。
そのことを確認して、安心する。
「えっと……。とりあえず、先に展示場だっ」
これなら目覚めてもけない。
というわけで、ステルは當初の目標通り、展示場に向かうことにした。
蕓人を倒した以上、展示場までの道を塞ぐ者はいない。
ステルは見慣れたり口に到著し、中の様子を窺おうとした。
その時、近づく気配があった。方向は上からだ。
「あ、リリカさん」
よく見なくてもわかる、空から降りてくる人間などアコーラ市広しといえど一人しか居ない。
ステルの目の前に白い鎧と剣をにつけたリリカがやってきた。
「空から様子見してたんだけどステル君が見えたから。どうなってるかわかる?」
「多分、『探求の翼』です。警備とか蕓人の人もそうみたいでした」
「うえっ。そんな手の込んだことしてたのね。そうだ、魔剣は?」
「これからです」
そう言ってステルは展示場のり口を見る。
中から音もしないし、話しているステル達に対する何かしらの応答も無い。
「行くしかないわね……」
「リリカさん、危険ですよ?」
「大丈夫。危なくなったら壁にを開けてでも逃げるから。一応、関係者だから狀況くらい把握したいし」
左手の腕を見せながらリリカがそんなことを言った。なんだろう、ステルの知り合いには壁にを開ける人が多い気がする。
「わかりました。何かあったら極力僕が護りますから。危なくなったら逃げてください」
「……うん。うん、ありがとう、ステル君!」
「……? じゃあ、行きましょうか」
なんだかちょっと元気になったリリカを怪訝に思いつつも、ステルは展示場のり口を開けるのだった。
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