《山育ちの冒険者 この都會(まち)が快適なので旅には出ません》52.ステルとクリス
剣を構えたクリスを見た時、ステルは迷わなかった。
投げ矢を取り出し、急所目掛けて投擲。
明確な殺意の伴った降雨撃破、結果的に全て切り落とされたが、それによってできた時間で一気に距離を詰めてかかる。
地面を蹴り、木剣にいつも以上の魔力を回して、クリスに一撃を見舞う。
「はあっ!」
「おっとぉ!」
ステルの一撃は下がりながらの魔剣の一振りであっさりとはじき飛ばされた。
一瞬、木剣に嫌なが走った。報通り、起した魔剣には強力な力があるようだ。
「リリカさん、大丈夫ですか?」
「……う、うん」
クリスから視線を逸らさず、盾になるようにリリカの前に出て、言う。
その景が面白かったのか、クリスがニヤニヤと笑った。
「いやー、ステル君、なかなかかっこいい登場じゃない。それで、どうするの?」
自分は冒険者で、目の前に相手は手配された犯罪者だ。やることは決まっている。
木剣を構え、鋭く宣言する。
「捕らえます」
「できるかしらねっ」
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魔剣と木剣の斬り合いが始まった。
並の冒険者ならば一瞬で死ぬような致命の一撃が雙方から次々と繰り出される。
つい先日まで友人のように接していた二人だが、どちらも相手の命を奪うつもりで戦いに臨んでいた。
そのくらいの覚悟でないと切り抜けられない狀況だ。
クリスの剣は早く、ステルの覚でもってしても余裕がない。
攻撃の組み立てが上手すぎる……っ。
やはり剣姫の異名は伊達ではない。こと剣での戦いならば、クリスの方に分がある。
武がぶつかるたびに魔力のを散らしながら、ステルはその事実を冷靜にけ止めた。
すぐにはやられないが、今のままでは決め手が足りず、押し負ける。
「やっぱりステル君は楽しいわねっ!」
そんな言葉とともに魔剣の速度が上がった。
「くっ……!」
三度目の斬撃をけ止めた時、とうとう木剣が斬り飛ばされた。
「ステル君っ!!」
リリカの悲鳴があがった。武を失って丸腰になったステル目掛けて魔剣が振られる。
窮地にあってもステルは冷靜だった。落ちついて、特の手袋に魔力を通す。
「おおおおっ!」
竜鱗で作られた右手の甲で魔剣の攻撃をけ流す。木など比較にならない丈夫さの竜鱗は期待どおり、魔剣の斬撃に耐え抜いた。
一瞬だけ、クリスが驚きの表を浮かべたのを見つつ、ステルは空いた左手を振るう。
「ふっ!!」
「うわっ……! あぶなー」
當たれば確実に相手を仕留める拳だったが、魔導の力で一気にクリスが後退した。
見事な判斷力を発揮したクリスが、引きつった笑みを浮かべながら言う。
「何よその手袋。木の剣なんかよりよっぽど危ないじゃない」
「特別製ですから……」
そう言って両手を構えるステル。
その時、周囲が騒がしくなった。沢山の足音と武の音が響いてくる。
どうやら、兵士か冒険者が近くに到著したようだ。
「あら殘念。続きは機會があったらね」
そう言うなり、剣姫は魔力が散るくらいに強く魔導を起した。
「クリスさん。くっ……」
逃げられる。それを察したステルの接近は剣の一閃で牽制された。
一瞬できた隙を突いて、クリスはそのまま空高く逃れてしまった。
後に殘されたのは二人だけ。
そこに、アコーラ市の兵士達がやってきた。リリカが信號弾を打ち上げてからそれほどたっていない、優秀だ。
「クリスティン・アークサイドです。あちらに逃げました」
冒険者章の腕を見せながらそう伝えると、兵士達は連絡に追跡とすぐに次の行にうつった。
それを確認してからステルは自分のすべきことをする。
「リリカさん、本當に大丈夫ですか?」
「…………」
俯くリリカから返事はない。
ステルが助けにった時から様子がおかしかった。間違いなく、クリスに何かされたのだろう。
「あの、怪我なんかは……」
「………むかつく」
「はい……?」
「むかつくわっ!! なによ、世間知らずで苦労知らずでバカで無知で間抜けなお嬢様って!! あったまきたっ!!」
「そ、そんなこと言われたんですか?」
怒っている。予想外の剣幕だ。
「だいたいそんなことを言われたわ。……わたしだって、ここに來るまで々とあったってのに。冒険者に向いてないって言われるくらいまでは我慢できたけど、それ以外については限度ってもんがあるわ。……なによステル君、その顔」
「いや、僕のよく知ってるリリカさんに戻ったなと」
ずっと微妙に沈み込んでいたリリカがいつもの彼らしさを取り戻した。
まさか怒りで元に戻るとは思わなかったが、それが嬉しくて、ステルはいつの間にか笑っていた。
過程はともあれ、調子を取り戻したのは良いことだ。見たじ、怪我も無いようだし。
「笑ってる場合じゃないのよ。ステル君、わかってる? このままあのを逃がしたらアコーラ市の治安維持についてそこらじゅうから叩かれるわ。冒険者協會だって立場が悪くなる。今までみたくけなくなるかもしれないのよ」
「た、たしかに……」
勢いよく恐ろしいことを言われて怯むステル。
そんなことはお構いなしに勝ち気に輝く琥珀の瞳にしだけ弱気な影を落として聞いてくる。
「ステル君、あの、クリスティン・アークサイドを捕まえられる? 魔剣を持った三級冒険者よ」
「ま、まあ。やりようはあるのではないかと……」
「よしっ。わたしと同じ意見ね。じゃあ、行くわよ」
良い返事をけて表を明るくして、どこかへと歩きだそうとするリリカをステルは慌てて後を追う。
「ど、どこに行くんですか?」
「學院。まずは準備が必要よ」
そう言って振り返ったリリカはし沈んだ様子で言う。
「あの、冒険者を荒くれ者って言った。協會も、たまたま上手く機能してるだけの組織だって」
なるほど。冒険者出のリリカにとって響く言葉だったのだろう。
し考えてから、ステルは自分なりの答えを口にする。
「長年冒険者をやったクリスさんの言うことですから正しいのかもしれません」
「……そう」
あからさまにがっかりされた。
「でも、それはクリスさんの考えですから。僕にとってはどうでもいいことです。なんというか、僕にはまだちょっと難しいといいますか」
正直、冒険者について述べろと言われても都會に來て一年もたっていないステルにとってはそのくらいの一杯だ。
ちょっと実りのいい仕事。それが冒険者。なるほど、仕事の容的には、荒くれ者と言われても納得するしかないかもしれない。
リリカ、ぽかんとした表をした後、
「あはは! そうね、どうでもいいわね、あんな自分勝手な人の言うこと、全部真にける必要ないんだわ!」
彼らしい笑顔でそう言い放った。
彼の魔導を起し、全から緑のを散る。
「わたしはわたしの思うとおりにするしかないんだから」
そう言って空高く飛び上がったリリカを、ステルは慌てて追いかけるのだった
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