《山育ちの冒険者 この都會(まち)が快適なので旅には出ません》53.二度目の激突
二人が辿り著いた先は、王立學院魔導科の敷地にある研究室の一つだった。
付で何かのやりとりをしたリリカに案されたその場所を見て、ステルは驚いた。
「凄い。これ全部武や防ですか」
「そう。わたしの裝備もここで調整してるの。そういえば、ステル君を連れてくるのは初めてね」
そこは魔導、とりわけ武防を開発する施設のようだった。棚には剣、斧、槍、杖といった魔導が整然と並び、機材の上には開発中の魔導の部品が並んでいる。
リリカは、機材の一つの上に自分の剣を置いて、作を始めながら言う。
「ステル君、その辺にあって使えそうなもの、持っていきましょう。どれならあのを捕まえることができると思う?」
こちらを見ずに作を事も無げにそう言って來た。
「か、勝手に持ち出していいんですか?」
「いいのよ。さっき許可を取ったから。安心して」
気になったことにあっさりと返答された。そう言われたら、素直に従うステルである。棚に並んだ魔導に興味が無いと言ったら噓になる。
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「えっと、見ただけじゃどんな魔導かわからないんですが。ボーラみたいな足を止められるものがいいかなと」
「投網は駄目だったらしいじゃない」
「ええ、だからもっと丈夫なもので、できれば僕の手から離さずに使えるものがいいですね」
「なるほどね。そっか、やっぱりステル君の力ってそういうものなのよね」
「え、ええ。気づいていたんですか?」
「仮説……いえ、推測ね。ステル君、ゴーレムがどうやってあんな巨を支えてるか知ってる?」
「いえ、考えたこともなかったです。そういうものじゃないんですか?」
アコーラ市の各所で労働力として働くゴーレム。それはもう當たり前の景としてけれてしまっているのもあり、それほど細かく考えたことは無かった。
「ゴーレムの素材の多くは石。何もしなければ、一歩歩く前にバラバラになっちゃうようなものなのよ。だから、魔力で支えるの」
「へぇ。ただの魔法でく巖だと思ってましたけれど、々やってるんですね」
「そう。々やってるの。部に魔力を流して支えたり、強度を上げたり。々ね。だから、ゴーレムを組む魔導っていうのは設計図みたいな……話が逸れたわね」
作が終わったのか、パチンと音がした後、魔導剣がり出した。
「わたしはステル君の力はゴーレムをかすのと同じようなものだと思ってるの。実際、貴方のを覆う魔力の流れが見えるしね」
「流石ですね、そこまでばれてたとは」
照れ笑いを浮かべるステルに、リリカは振り返り、真面目な顔で言う。
「でも、どうやってそれを引き起こしてるのかはわからなかった。通常、魔力を自在に扱うには呪文なり魔法陣なりが必要なのに、ステル君はそれを息を吸うような覚で実現してる」
「それは、そういうものだとしか言えません……」
ステルの力は、母にできると言われた通りにやったらできただけだ。
申し訳ないがそれ以上の説明はできない。
詳しい回答は期待していなかったのか、特に何をいうでもなく、リリカはるのをやめていた魔導剣を手に取った。
「とにかく、今大事なのはステル君の力があの魔剣に有効だってことよ。報告だと、どの魔導も斬られて使いにならなくなっちゃったんでしょ」
「僕の木剣も斬られましたけど?」
「でも、何合も打ち合えた。わたし、見てたわ。あの魔剣、自分の中の莫大な魔力をぶつかった瞬間にしだけ解放してるの。並の魔導なら持たないけれど、常に魔力で防されてるステル君の剣は持ちこたえた。最終的に押し負けちゃったけれど」
魔導剣をステルに差し出した。
「そこでこれよ。わたしの魔導剣をとにかく頑丈になるように再調整したわ。これとステル君の力を合わせれば木剣よりも長持ちすると思う」
「いいんですか? それでも壊れちゃうかもしれませんよ」
きっと魔導剣がしずつ消耗して折れるだろう。実際にしたからわかる。あの魔剣はそういうものだ。
「持ち主がいいって言ってるんだからいいのよ。後は作戦。今すぐに思いつく方法って何かあるかしら? ここの魔導についてなら大解説できるけれど」
「そうですね……いくつか質問をさせてください。上手くいくかはわかりませんけど……」
並んだ魔導のうち、いくつかを見ながら、ステルはそう答えた。
○○○
アコーラ市中央公園。かつて、ステル達がクリスと訪れたその場所は広い。
敷地の森の中、誰も訪れないような寂し場所にぽっかりと空いた広場にクリスはいた。
彼はたった今、『仕事』を果たしたところだ。
すがすがしい気分である。余裕ぶって行していたが、かなり危なかった。アコーラ市の対応は的確でこれ以上時間を掛けていれば、量に押されて捕まっていたかも知れない。
今のところ、追っ手は來ない。だからクリスは満足に浸りながら、軽く休憩していた。
このまま夜を待って高速でアコーラ市を出しよう。
時刻は夕方。逃げるのは容易い時間が近い。
この街にいる理由はもう無い。あれと合流して、仕事が果たしたことを伝えるだけだ。
そうすれば、魔剣の更なるを知ることができる。
そんなこれからのことを考えて、何とも言えない高揚がわき上がって來たときだった。
木々の間の空に信號弾があがった。
森の奧から黒い上下を著たよく知る年が現れた。
「あらステル君。久しぶりね」
「お久しぶりです」
軽いジョークをけ流した年はその手に木剣では無く見覚えのある魔導剣を持っていた。
「リリカちゃんはどうしたの? 足手まといだから置いて來ちゃった?」
「ええ、危険ですから」
特に申し合わせたわけでもなく、そのまま二人は武を構える。
リリカちゃんもいないってことはないと思うけれど……。
々と言ってはみたが、心中でクリスはリリカのことを評価している。あの手の人間はなんだかんだで立ち直るはずだ。
「クリスさん、あなたの行は迷です。それに、リリカさんを傷つけました」
「結果的に傷一つついてないはずだけれど?」
「心の問題ですよ」
「ああ、それは苦手分野だわ。ステル君がどうにかしといてくれる?」
「あなたを捕まえてから、考えてみます」
そっけないやりとりの後、本日二度目の激突が始まった。
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