《山育ちの冒険者 この都會(まち)が快適なので旅には出ません》54.決著
手の中の魔導剣が起し。刃にが燈る。同時に自分の魔力で更に武を強化。
これで魔剣とそれなりに渡り合えるはず。
ステルのそんな思考の結果は、すぐに証明された。
ステルとクリスの高度な剣閃が幾度も重なり合い、靜謐なはずの森の中に金屬音が魔力の輝きと共に何度も響いた。
何度目かのやりとりの後、距離を取る。大丈夫だ。魔導剣は木剣と違って折れる様子も、消耗している覚もない。
「へぇ、ちゃんと戦える武を用意してきたってとこかしら?」
「何の備えもなく戦えるとは思ってませんから……」
言うなり、連続で斬りかかる。ステルの剣技は行儀の良いものではない。母から教わったのは拳や蹴りなど、とにかく相手を仕留めるためなら何でもする戦いの技だ。
それはクリスも同じだ。冒険者稼業の中で階位を上り詰めた彼も生やさしい戦いを経験してきたわけではない。ステルの攻撃にに対応し、時に魔導の機を生かして虛を突いてくる。
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互いが森という地形を利用し。木々を足場に三次元的に差する戦いが続く。
「さあ、楽しくなってきたわよ!」
弾むような楽しげな聲音と共に、クリスが仕掛けてきた。
これまでで最も速く、鋭い連撃だ。ステルの実力を持ってしても、防に全てを回さなければならない。
「強い……っ」
たまらず大きく後ろに跳ぶ。木を盾代わりにして、どうにか距離を取りにかかる。
「逃がさない!」
しかし、クリスはその後退を許さない。その機を活かして、木々の間をうようにステルに迫る。
今だ!
目の前に敵が來たその瞬間。ステルは腰の後ろに備えて置いた魔導を左手で握る。
「いけっ!!」
小さな銛のような魔導はステルが軽く振ると先端部が勢いよく飛び出した。
飛び出した先端部からはワイヤーがび、先端が向かっていく。
これは、犯罪者を捕らえるための魔導の試作品だ。
先端部が相手に絡みつき、電撃を流す。出力の調整が今一つなのと、使用回數が一度しか無いので製品化できていないとリリカは言っていた。
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數ある武の中からステルはこれを選んだ。使い勝手が良いように思えたからだ。
これで、一瞬でも隙が作れればこちらの勝ちだ。
先端部は狙い違わずクリス向かって、
「おっとぉ!」
あっさりと魔剣に絡め取られた。
今だっ!
すかさず電撃を流す。
魔導はしっかりと発した。魔剣が激しく発する。
「うわっと……」
慌ててクリスがワイヤーを斬って後退する。
殘念ながらダメージはっていないようだ。あの魔剣の力によるものか、雷の魔法が打ち消されたのだろう。
再び距離をとって、二人は睨み合いの姿勢になる。
「なかなか危ないもの持ち込んでるじゃないの……」
「その魔剣ほどじゃないですよ」
「そうかな。魔導も無しに私と渡り合うステル君も大概だと思うけど。その技、私にもできる?」
「多分、無理ですよ。できても教えません」
「それは殘念」
直後、クリスがいた。
しかし、ステルはそれを見ていた。剣姫がをかすその瞬間を。短い時間だが、既に彼ののきの癖がわかってきた。
彼が足を踏み出した瞬間、ステルは投げ矢を投擲。
クリスはそれを魔剣は使わず、を軽くひねって回避。そのままステル目掛けて一撃を見舞う。
それをけたステルの魔導剣から魔力の輝きの火花が散った。
「くっ……」
「ステル君、わかってると思うけど。普通に剣の勝負をしたんじゃ私に勝てないよ?」
「それはどうでしょうか……」
ステルは大きく深呼吸した。大気中の魔力をに取り込み、全にいつもより多くの魔力を巡らせる。
ステルの切り札の一つ。一瞬だけ能力をいつも以上に高める技だ。
「行きますっ」
一歩を踏み出すと同時、踏み抜かれた大地が発したかのように吹き飛んだ。
これまでにない速度で、ステルはクリスに接近する。
「!?」
「おおおおお!」
この戦いの中で初めてステルがクリスの虛をついた瞬間である。
右手で持った魔導剣を橫なぎに振るう。魔剣でけられこれまでで一番派手な火花が散った。
あまりにも重い一撃に、クリスは両手で魔剣を支え、足を止めることになった。
「なるほど。まだ余力があったわけね」
「そうでも……ないですよ!」
空いた左の手でクリスの腕を摑みにかかる。
このまま片腕を握りつぶす!
一気に勝負をつけるきだったが、そこでクリスの魔導が起した。
それも、これまでにない強さだ。限界まで力を発揮した機用の魔導は、強引にクリスのを空中に跳ね上げた。
○○○
「あっぶない。急離なんて久しぶりに使ったわ……」
空高く自らを放り投げたクリスは一人そう呟いた。
魔導に限界以上の負荷をかけるこの技は切り札だ。ここまで追い込まれたのはいつ以來だろうか。
アコーラ市に來て良かったなぁ……。
一瞬、自分を満たした喜びを振り払い、クリスは空中での姿勢制に気を回す。このまま著地したら、そこをステルに狙われるだろう。窮地はまだ続いているのだ。
下半の魔導を使って態勢を整えた時だった。
自分の前に向かって何かが來るのが見えた。青空に緑の魔力を殘し、空気を切り裂いて白銀の鎧が飛來してくる。
リリカ・スワチカだ。
自由に空を飛べる魔導をにつけたリリカは、一瞬で目の前に來ると、左手を向けて一言言い放った。
「いけ、衝撃波!」
「くっそっ!!」
反的に魔剣を構えたのと、衝撃波が衝突したのはほぼ同時だった。
リリカの衝撃の腕による攻撃は、魔法の一種だ。いくら強力でも魔剣による影響からは逃れられない。そのため、衝撃波の威力は殆どが相殺された。
しかし、空中に留まるのないクリスは衝撃波の勢いを殺しきれず吹き飛んだ。
「まったく……。來るとは思ってたけれど」
ここまで良いタイミングを狙ってくるとは思わなかった。
魔導で姿勢を整え、なんとか著地の姿勢にる。
リリカの攻撃はそれで終わりで無かった。地面に著いたその瞬間、クリスの真上に再び飛來。
「しつこいわよ。お嬢様!」
「うるさい! 大人しくしなさい!」
問答無用で、真上から衝撃波を浴びせられた。
的確に魔剣を向けて防するクリス。
きを封じられた……っ。
目の前、正面から超高速で接近するステルが見えた。
そして、自分は両手が塞がってけない。
次の行に移る前に、ステルの攻撃が自分を捉えるだろう。
それを認めた瞬間、右足の魔導に、投げ矢が突き刺さった。どこで知ったのかわからないが、中樞部分を的確に貫く一撃だ。
最大の武の一つである機力が削がれた瞬間、ステルが目の前に來た。
既にリリカの衝撃波は無い。真上から魔剣を振り下ろす。
姿勢も何もかもがなっていない力ない一撃は、ステルが片手で持った魔導剣に弾かれた。
「やあああ!」
ステルの魔剣の連撃が、魔導の鎧を瞬時に切り裂いた。
そこは彼がリリカに教わった魔導の弱點箇所だ。
これで、クリスの裝備はただの金屬の塊となる。急離も高速機も行えない。
「まだっ!」
魔導の機が失われた今、敗濃厚であることを自覚しつつも、クリスは全力で魔剣を振るう。
狙いはステルの首。剣姫の斬撃は、目の前に來て避けられるほど甘くない。
ステルはその一撃を魔導剣でそれをける。
これまでの火花とは比較にならない、閃が弾けた。
目が眩むようなの後にあったのは、刃の途中まで魔剣がめり込んだ魔導剣だった。
「しまったっ!」
「うおおおお!」
ステルはいた。クリスの鎧。の中央に向かって掌底を一撃。
まともにそれを食らったクリスは大きく吹き飛ばされ、近くの木に激突する。
「ぐ……」
クリスは背中から木に打ち付けられ、そのまま地面に倒れ込む。どうにかこうとあがくが、がいうことを聞かなかった。
けない剣姫の前にステルとリリカが共に近づいてくる。
そして、聲が屆く距離になったところでステルが口を開いた。
「僕達の勝ちです」
「殘念。負けちゃった……」
それだけ言って、クリスティン・アークサイドはその場で意識を失った。
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