《山育ちの冒険者 この都會(まち)が快適なので旅には出ません》64.神研究所

「ついにここに來ましたね。ステルさん」

「はい。楽しみです」

その場所を前に、明らかに気分を高揚させる王から話しかけられ、ステルは無難な返事をした。

「仕事とは言え、ここに來れるのは嬉しいです」

「わたしも、こういう事でもなければれなかったですから。最初に來た時、張しました」

アマンダとリリカも橫でそんな話をしている。どうやらここは、リリカも張するような施設らしい。

研究所。王の公務二日目の中心として扱われている施設である。

研究施設の多いアコーラ市東部にあり、その外観は割と地味だ。

屋上に魔力収集用の魔導が突き立つ円形という単純な作りで、全面硝子張りだとか、意匠を凝らした外観をしているということもない。

ただの白い建。それがステルの第一印象だった。

だが、それはあくまでも外観だけの話だ。

「凄い警備ですね。建も、見た目よりも頑丈さを重視しているんでしょうか?」

研究所は厳重に警備されていた。

周囲は分厚い塀に遮られ、り口も頑丈そうな門。しかも、そこを警備する職員は魔導で武裝しているという用心深さだ。周囲に植え込みが無いのも視界が開けるようにという工夫だろう。

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「ここはエルキャスト王國にとって、とても大切な研究所なのよ。だから警備も厳重。記者さんもれないから、出た後に取材だし」

「他のお仕事と全然違うんだね……」

他の仕事は記者が隨伴し、そこかしこで寫真を撮っていた。対してここは、ステル達だけしかることを許されていない。それだけでこの研究施設の特殊が伝わって來る。

「これはどちらかというと『國としても注目しています』というのをアピールする仕事なのです」

「アマンダ、もうらかい言い回しを……」

「はっ。すいません、姫様」

ヘレナ王にアマンダがたしなめられた後、ステル達は門を抜けて中にる。

ってすぐに設けられたロビーは、外観同様、質素な作りだが、とても広かった。

そこにいたのは三名の職員だ。全員、研究用の白いローブを著ている。

「ようこそいらっしゃいました。ヘレナ王。當研究所の所長を務めております、ウィルマンと申します」

一番年上らしい、白髪の男が前に出て挨拶すると、王がいつもの笑みと共に言葉を返す。

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「よろしくお願い致します。ウィルマン所長」

「そちらのリリカさんの案で館をお進みください。詳しいところは私達が擔當致します」

の手順については打ち合わせ済みだ。ここではリリカが先導し、必要に応じて職員が説明する手はずである。

ウィルマン所長に促されたリリカは、前に出て王のエスコート役として、一禮する。

「それではヘレナ様、こちらにどうぞ」

リリカを先頭に、一行は館を歩き始めた。

「では、最初はこちらです」

リリカが最初に案したのは、天井の高い倉庫のような場所だった。

広い室は、整理された棚のあるところと、瓦礫が放置されたところに分けられている。

その空間で、白を著た職員達が何かしらの道を手に作業をしていた。

「どうですか、ステルさん?」

に聞かれたので、ステルは正直に答えた。

「どうと言われても。あんまり研究所っぽくないというか。魔導、あまりないですね……」

正直、凄そうな場所だから凄そうな魔導があると思っていたのだ。

しかし、見える範囲であるのは手持ちにできる程度の小型のもの。もちろん、それなりのなのかもしれないが、ステルの目を引くものはない。

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これでは王立學院の研究室の方が見応えがある。

そんな回答に、ステル以外が軽く微笑んだ。

同行していた、眼鏡をかけた職員が前に出る。説明してくれるようだ。

「こここここ、こちらにあるのは……」

職員は滅茶苦茶張していた。

「あらあら……」

それを見るなり、ヘレナ王が前に出てそっと話しかける。

張なさらないで……というのは難しいかもしれませんが。私、皆様が素晴らしいお仕事をしていることは承知しております。自信を持ってくださいな。はい、深呼吸」

「は、はいっ。すーはー」

言われた通りに深呼吸をすると、し落ちついたらしく、説明を始めた。

「こちらにあるのは、國跡で発見された中でも神代のものと思われる発掘品です。その中でも魔法と関連のあるものをここで掘り出して、清掃、分類、その後、それぞれの部署に送られます」

そのまま歩きながら、何かの壁の一部らしきものの前まで案された。

そこには緻な図柄が描かれていた。多分、魔法陣の類いだと思うのだが、その手の知識が無いステルには見當もつかない。

「発見されたはここで分類もされ……」

説明が続く中、隣にいるリリカに小聲で聞く。

「今、神代って言いました?」

「そうよ。神様がこの世界にいた時代のもの。ここにあるものは、大がそうね」

「……それって、何が凄いんですか。いえ、古くて凄いものなのはわかるんですが」

「簡単に言うと、神様の力を解析してるのよ」

「ええっ。神様っ! ……あ、すいません。驚いてしまって」

つい大聲を出して、進行を止めてしまった。注目を集めてしまい、申し訳無さに、ぺこぺこ頭を下げるステルである。

説明していた眼鏡の研究者は、笑みを浮かべながらステルに向けて言う。

「ちょっと荒唐無稽に思えますよね。でも、神が実際にこの世界に存在したのは事実なのです。これらのがそれを教えてくれます」

「そ、そうなんですか……」

そうとしか返答できないステルを見て、橫にいたウィルマン所長が口を開いた。

「ここにあるのは見ての通り、瓦礫にしか見えませんからね。驚くのも無理はありません。では、し進んでみましょう。もちろん、お見せできる範囲でですが。リリカさん、お願いします」

「はい。こちらにどうぞ」

所長の自信に満ちた笑みと共に、一行は再びリリカの先導で先に進むことになった。

清掃された廊下からみえるガラスは大半が視界を遮られているが、たまにから取り出されたらしき品が見え隠れしている。

「申し訳ありません。國家機が多いので、殆ど窓を閉めているんです」

「それは、仕方ないですね」

職員と王のそんなやりとりの後、次の部屋に到著した。

そこでは機に向かって、小さな相手に職員が格闘していた。

眼鏡のが前に出て、説明を始める。

「さっきはごめんね。驚かせちゃって」

大人しく話を聞いていると、リリカが寄ってきてそんなことを言ってきた。

「いや、僕が聲をだしちゃったから。ここ、學院の研究施設と隨分違うね」

だからよ。奧に行けば、ステル君が喜びそうな魔導も沢山あるんだけれど。機がね」

「殘念ですけれど。ここにれるだけでも幸運な気がします」

「そういうこと」

そんな會話をはさみつつ、ある程度見學を終えると、休憩となった。

「では、しばしお休みください。この後、當施設の目玉をお見せしますよ」

來客用の個室に案されると、所長達は準備があるということで一時退室となった。

に殘ったステル達四人は、お茶と共に一息つける形だ。

「どうやら、驚いて貰えたようですね」

「はい。いえ、かなり驚きました。神様とか話が大きすぎて」

「そうでしょう、そうでしょう。私もこの施設のことを聞いたときは興して眠れず……」

「アマンダ、自重なさい」

「はっ」

早くも見慣れた主従のやりとりだった。どうやら、この施設に來て一番嬉しいのはアマンダのようだ。

「えっと、それで、なんで神様について調べてるんですか?」

歩きながら、ずっと抱えていた疑問をようやく口にする。多分、進行を止めてしまうと思ったので、ここまで黙っていたのだ。

疑問には待ってましたとばかりに、リリカが反応した。

「そうね。ステル君、魔力って何だと思う?」

質問に質問で返された。

しかも、考えたこともないような話だ。

「魔力っていうと、魔法の力というか、どこにでもあるというか」

ステルのその言葉に、他の三人は満足そうな顔をしていた。正解だったのだろうか。

「正解ね。魔力はどこにでもある。それこそ、空気とか地面だとかとか蟲とか。でも、魔力が何であるのか、なんでわたし達がそれを扱えたりするのかはちゃんと解明されてないの」

「よくわからないものを源に、私達は文明を築いているのです」

アマンダがそんなことを付け加えた。

「そうだったんですか……」

魔力は魔法の力。ステルは自分の中で単純にそう納得していた。

しかし、言われて考えてみれば、呼吸で空気中の魔力を取り込み、一時的に力を飛躍的に増す技なども、萬に魔力があるからこそできることなのだと思い至る。

「魔力とは何か。これは魔法使い達の時代から変わらぬ探求の目標でもあったのです。ここは、世界の創造主たる神々に迫ることによってそれを解き明かそうという施設なのですよ」

この施設の目的についてヘレナ王が教えてくれた。

正直、壯大すぎてピンと來ない。

「ステル君、いまいち把握できてない顔ね」

「いや、凄いとは思うんだけれど。こう、話が大きすぎて」

「ようは古代の魔法使いのしたものと同じよ。研究すると今の技に活かせる……かもしれないの」

「かもしれない?」

リリカの微妙な表現がひっかかった。

ステルの浮かべた疑問に、アマンダが沈痛な表で答える。

「こういった研究は世界各地で行われてはいるのですが、まだ結果が芳しくないのです。神々のしたは今の私達には高度すぎて、『くけど、どうしてそうなるかわからない』というものばかりだそうで……」

「なるほど。一筋縄ではいかないんですね」

流石は神代。神様だ。人間の知恵で簡単に迫れるものではないということか。

「ですが、ここには素晴らしい研究果があるのですよ。それをステルさんにも見て頂きたいのです」

「研究果?」

「そう。世界で最初に、この研究所は神々の産にほんのしだけ手を著けることに功した。手というか、指先……爪の先くらいだけれど」

「す、凄い。一何が……」

とんでもない話だ。それは、人間の技が神々の領域に到達可能であることを意味するのではないだろうか。

俄然、楽しみになってきた。

ステルの気持ちに気づいたらしいヘレナ王が、優しい笑みと共に言う。

「休憩の後、見ることが出來ますよ。もうすぐ、所長達が戻ってきます」

それからしばらくして、所長達が戻ってきて見學が再開した。

ウィルマン所長の言う「當施設の目玉」は厳重に管理された扉の向こうにあった。

重く、複雑な鍵がかかった扉をゆっくりと開きながら、所長がヘレナ王に向かって自慢気に話しかける。

「それではどうぞ。この研究所……いえ、世界の誇る果です」

扉の向こうの室は機材でいっぱいだった。機と椅子の他は、壁を埋め盡くす魔導のそこかしこにじゃ何らかの數字を指し示す、時計のような機がついている。

そして、ガラスで隔てられた向こうにもう一室。

そちらは室そのものが大型魔導とも言うべき場所だった。

壁には時折魔力のが走り、室の中央には天井と床から真っ直ぐにびた細い柱がある。

ステルの視線は、吸い付くようにその柱に向いた。

床と天井からびる柱、その中心部の僅かな空間に、白い直方の金屬が浮かんでいた。

「凄い魔導だ……。これで一何を」

「ステル君。気持ちはわかるけど、注目してしいのはあのちっちゃいのだから」

「す、すいません」

呆れ顔で言われてしまったので、改めて金屬を見る。

殘念ながら、なんだかわからない。

橫を見れば、王もアマンダを一心にそれを見つめていた。二人とも興気味だ。

「あの小さな金屬。あれはね、かつて神々が生み出し、鍛え、數多の神話で語られる武の素材となったとされる神の金屬……。あらゆる邪悪を打ち払うと言われる神の銀」

「それって……」

ステルが自の知識から言葉を出すより先に、リリカが答えを口にした。

「あれが、ミスリルよ」

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