みの薄い戦いが始まった。

戦いの舞臺は広めの通路。三人で囲むことは難しいが、ラウリとグレッグが一人を相手に戦うには十分な広さがある。

何より、こうした比較的狹い場所はラウリの得意とする戦場である。

「いけっ！」

彼の魔導槍が石槍を次々と生み出す。足下だけで無く、壁や天井。あらゆる場所からだ。

たまに王家の護符を取り出し、魔導槍の起に合わせて使うという用さを見せた攻撃が次々と『落とし子』を貫く。

だが、それだけだった。

「…………」

『落とし子』はラウリの生み出した石槍を軽く手で払うだけで消し飛ばしながら、悠々とした作で歩いてくる。

たまに腳が止まるのは王家の護符を使った時だけだ。

「しは痛がってくれればいいものを……っ」

「支部長！　前に出るぜ！」

びと共に、グレッグが前に出た。魔力で輝く斧の一撃が『落とし子』に見舞われる。

「おらぁぁああ！」

グレッグの気合いが籠もった一撃は、『落とし子』が事も無げに持ち上げた左手によってけ止められた。

漆黒の服の裾から覗く腕もまた漆黒。斧の魔力と反応して、火花のような魔力を散らして、攻撃を止めている。

その様子に、グレッグは焦らない。むしろ、一瞬だが相手のきを止めるのが狙いだ。

「支部長！」

「わかっている！」

狹い通路の隙間に上手にり込んできたラウリが、同じく魔力のを発する槍で連続で突きを繰り出した。

狙いはの左側。斧をけ止めて隙ができている場所だ。

『落とし子』が態勢をわずかでも崩した瞬間に行われた、一か八かの連攜。

幸運なことに、それは上手くいった。

「……っ！」

護符が発した攻撃を嫌ったのだろう。『落とし子』が軽いのこなしでラウリの攻撃を避けた。更に、追撃を嫌ってか、右手を一薙ぎ。

「うおっ！」

「くっ」

ラウリとグレッグはそれを辛くも回避した。振られた右手は魔力の類いでも宿していたのか、そのまま壁を削り取った。

しいただけで恐るべき威力だ。だが、ラウリ達の連攜で、『落とし子』の歩みがれたのも事実。

それを見逃さない魔導士が、この場にいた。

「いけ！」

短い言葉と共に、イルマの持つ魔導杖が輝きを増し、黃金の魔力を放った。

対『落とし子』用に組まれた、護符の加護を含んだの矢が、『落とし子』を直撃する。

「………ぐっ」

効いている。にの矢を突き立てた『落とし子』がき聲をあげた。

いけるかもしれない……。

そんな思いは、すぐに打ち砕かれた。

『落とし子』の右手がの矢にれると、瞬時に消え去ったのである。

「それで終わりか？」

それが、ラウリ達がはじめて聞いた『落とし子』の聲だった。男的でも的でもない、なんともいえない不気味な聲音。

そこから伝わってくるは、失の二文字だった。

「終わらせるか……」

誰ともなく呟くと、『落とし子』は再びラウリ達に向かって前進を始めた。

これまでの攻撃が効果的だったとは思いにくい反応だ。

「もう一息、というところなんだがね」

「でも、こいつは厳しいぜ」

「なに、し危険を侵せばいいのさ」

「危険？　って、おいっ」

ラウリは飛び出した。殆ど軽口といって良いノリで発した言葉にグレッグが反応する前に。

「支部長、無茶だぞ！」

前に出たラウリの背後から、グレッグのびが聞こえた。

もちろん、自分が無茶な行に出ていることなど、彼は百も承知だ。

しかし、狀況的に限界なのも事実だ。事前に貰った裝備は盡き掛け、敵は本気になりつつある。

このままジリジリと希の無い戦いをするくらいなら、勝負をすべきだと、ラウリの経験が告げていた。

「悪いが、この街をお前のような者の好きにさせるわけにはいかないのでね！」

そういって、壁や床を魔導槍で叩き、次々に石槍を生み出す。當然、『落とし子』には通じない、全て腕の一払いで防がれる。

だが、砕かれても石の破片はその場に殘る。

大量に生み出された破片を目くらましに、ラウリは落とし子に接敵する。

構える『落とし子』を見て、しだけ安堵する。

目の前の強敵は、こちらを甘く見てか、自分から攻撃を仕掛けてこない。あるいは別の狙いがあるのかもしれないが、とにかくそれが好都合だった。

ラウリは自の必中の距離で、聲高くぶ。

「來たれ星の加護！」

それはここに向かう前にアーティカが用意してくれた、一度だけしか使えない切り札だ。

王家の護符よりも強い一撃が付與される代わり、槍は持たないだろうという、一撃だけの切り札。

用の魔導槍は聲に応え、青白い輝きを放った。

「我が槍をけよ！」

気合いのびと共に、流星のような一撃が青い軌跡を殘し、落とし子に叩き込まれた。

「ここで終わりにさせてもらう……っ」

に槍が刺さったのを見て、ラウリが『落とし子』封じの短剣を取り出そうとした時だった。

『落とし子』の黒い右腕が、ラウリをなぎ払おうと振られていた。。

に槍が刺さったことなど、まるで問題ないかのようなきだ。

避けられない。

この腕の一撃は致命傷になる。直的に、そう思った時だった。

「風よ、逆巻け！」

突如生まれた橫毆りの風の魔法により、ラウリは吹き飛ばされた。

「ぐはっ、イルマ君か……」

壁に叩き付けられ、そうく。よくよく味方に魔法をうつ娘だ、と思うが言葉にはできなかった。

なぜなら、同時にグレッグの雄びが響いたからだ。

「うおおおおりゃああ！」

り輝く斧の一撃で、落とし子が吹き飛ばされた。

代償に、斧が々に砕ける。彼も切り札を切ったのだ。

更に追撃は続く。

イルマの魔導杖より放たれるの矢が『落とし子』を何度も貫く。

そのまま近くの『落とし子』は近くの壁にぶつかった。

そして、それこそがラウリ達の狙いであった。

ここは『落とし子』へ対抗するための罠が多數仕掛けられた跡だ。

今こそその時とばかりに、その一つが、発した。

壁からの鎖が生み出され、落とし子を絡め取り始める。

ここはエルフも建築に関わったという跡。発する罠はラウリ達の魔導とはものが違う。

壁に固定されもがいている『落とし子』を見ながら、ラウリは先人に謝した。

「よし、やった……な……」

何とか立ち上がり、二人に話しかけようとしたところで、いきなり床がぶつかってきた。

自分が転んだのだということと、左の脇腹辺りにどす黒い傷痕があるのに気づくまでしかかった。

しっかり著込んでいたチェインメイルを貫通した傷からはが滲んでいる。

「かすめていたか……」

何とかこうとするもがかない。どうやらただの傷では無さそうだった。

「支部長！」

「支部長さん！」

近寄ってきた二人に大丈夫だと告げようとした時だった。

『落とし子』がこちらを見ていた。いや、それどころかこうとしている。

の鎖の隙間からこちらを見て、何らかの一撃を行おうとしていた。

「逃げろ……『落とし子』はまだいている」

「なっ……」

二人の顔がひきつったのと、鎖の間から黒い腕が鋭くびてきたのは同時だった。

三人の命を奪いかねない黒い腕の一撃。

しかし、それは突如通路を明るく照らした、の槍の魔法によってはじき飛ばされた。

その場の面々が魔法の飛んできた方向に視線をかすよりも早く、聲が響く。

「ステルさん、今ですわ！」

「はいっ！」

山育ちの冒険者が魔剣を手に戦場にした。