《山育ちの冒険者 この都會(まち)が快適なので旅には出ません》77.手段

病院を去ったステル達はアーティカの家に集まっていた。

普段は食堂代わりに使っている部屋が即席の會議室だ。

は重苦しい空気に包まれ、アーティカがお茶や軽食を用意したが、殆ど手をつけられていなかった。

「それで、あの『落とし子』にどうトドメを刺しに行くかって話だよな」

「はい。正直、甘く見ておりました。私達の用意した裝備でもっと立ち向かえるものかと」

「ラウリ様に怪我まで負わせてしまいました。これは私共の落ち度です」

そう言ってアマンダが頭を下げるが、この場に彼を責めるものなどいない。

「いえ、王達は悪くないと思う。できる限りのことはした。ラウリ支部長も生きてる。生きていれば、次の手が打てるわ」

「次の手か……。なにか、スゲェ魔法とかないんですかい?」

イルマに続いたグレッグの問いかけにアーティカが申し訳なさそうに答える。

「あるにはあるんだけれど……場所とか道とか時間の問題が……。ごめんなさい」

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「グレッグ、アーティカさんの魔法だって萬能じゃないのよ。凄い魔法使いであっても基本的に一般的な魔法の延長線上の技なんだから、そんなに便利にならない」

「そりゃ、わかってるけどよ。々見ちまったから」

たしかにそうだ。ステルも思わず頷いた。

ことアーティカに限って言えば、「魔法使いは時代遅れ」という現代の常識の例外にいるように思える。魔導で武裝した魔導士相手でも十分戦えるだろう。

それ故に、期待してしまう。「凄い魔法使いなら何とかしてくれるんじゃないか」と。

「それなりに準備はしてきたつもりなんだけれどね。私も見通しが甘かったわ」

「あの、炎の小剣に魔法を付與して貰うのはどうなんでしょう?」

偽の『落とし子』を倒した時、アーティカの援護をけた炎の小剣は凄まじい切れ味を発揮した。

自分とアーティカの魔法を組み合わせれば、どうにかならないだろうか。

「あの魔法を全力で使って、魔剣が一回か二回の使用で壊れるとして、それで倒せると思う?」

「………自信がありません」

かなりの手傷を負わすことはできるだろう。だが、トドメを刺せるほどとは思えない。

決め手にかける。つまりはそういうことだ。

意見が途切れ、室が靜かになったところで、ヘレナ王が口を開いた。

「やはり、王家のを使いましょう。私とアマンダが揃っていれば使うことが出來ます」

「それなら確実に『落とし子』の息のを止められる、と?」

「間違いなく」

イルマの質問に力強く頷くヘレナ。

「そいつはすげぇ。早速やってもら……」

「駄目です」

グレッグの発言を遮ってステルがらしくない聲音で発言した。そのため、全員の注目が集まる。

「……いえ、できるだけ使わない方がいいと思うんですけど」

注目されてつい語気が弱くなってしまった。

ヘレナ王はそんなステルとアーティカを互に見てから、いつもの微笑みを浮かべた。

「ステルさん、アーティカ様から話を聞いたのですね?」

「はい……。その、王家のを使えば、ヘレナ王の命が無くなるだろうって……」

その言葉に橫で「説明しろよ」と表で言っていたグレッグが「おいおい……」と呟いた。

「あの、それは本當ですか?」

「その……なんと申しましょうか……」

イルマの問いに、ヘレナ王はあからさまに戸った。

答えたのは隣のアマンダだ。

「はい。王家のを使えば、王と私の命は確実に無くなります。しかし、『落とし子』を討つことも出來ます。この國を護るために作られた、強力な魔法ですから」

アマンダはを張り、堂々と答えた。それこそが、自分の存在意義だと言わんばかりに。そこに濁ったは何も無い。

「二人一組で発する魔法だったのね……。たしかに、発に必要な人數が多い方が威力も増すものだけれど……」

アーティカが顔をしかめながら言う。理解は出來るが、納得はしたくないということだろう。

「ですが、迷っている場合ではありません。他に手段がない以上、私とアマンダが務めを果たすべきでしょう」

ヘレナの言葉に、アマンダが頷く。

「私も同様の意見です。このような時のために、私は姫様と共にあったのですから」

「やっぱり駄目です」

覚悟を見せる主従に反論したのはイルマだった。

「駄目です。その……できる限り、命は大切にした方がいいですから。死ぬ覚悟でことを起こすなんてあんまりしない方がいい。生きている方が、きっといいですよ、実際」

冷靜な彼らしくないの籠もった、しかし弱々しい言い方だった。これが一度は死を覚悟して行したイルマなりの本音なのだろう。グレッグが心配そうに見守っている。

「しかし、他に手段がありません」

「じゃあ、時間を稼ぐとかはどうです? ステル君の剣とアーティカさんの魔法で弱らせて、時間を稼ぐ間にアコーラ市の強力な魔導を探すとか……」

「この街に『落とし子』を倒す手段がある保証がありません。それに、何ヶ月もかかるようでは……」

「でも……」

そんな風にヘレナとイルマが言い爭いを始めかけた時だった。

「あるわ……」

アーティカが口を開いた。

穏やかだが、力ある言葉で。

「方法は、ある……」

全員が、彼の方を見た。

「出來れば使いたくなかったけれど、多分、どうにかする方法を一つだけ、私は知っている」

「アーティカさん、じゃあ、その方法を……」

「ステル君、それは貴方よ」

いきなり、そう言われた。全員の視線が再びステルに集中する。

「ステル君、貴方は自分と母親のことについて知る覚悟はあるかしら?」

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