《僕と狼姉様の十五夜幻想語 ー溫泉旅館から始まるし破廉恥な非日常ー》第8節ー咲かない桜ー

(なんだあいつ、私服でうろちょろしちゃってさ。補習遅刻しちまうけど……まあいっか)

あっ、なんだか登校中の人と目が合ってしまった……。しかも、髪を茶に染めてて、制服は著崩して出させたり。セーター腰に巻いたり、スカート短くてもうなんかヤンキーみたいなの人だ。そんな人が、通學鞄を肩に擔いで訝しげな表を浮かべて、挙不審者の僕に向かって真直ぐに歩いてくる。

うわわわわ、僕、東京行ってた時にもああいう人いっぱい見たけど怖そうで苦手だよお。

目つき悪いし、なんだか言葉遣いも悪そうだしで怖いんだよね……。

そりゃあ高校だし、ああいった素行の悪そうな人もいるとは思ってたけどまさか目をつけられるなんてことは……學もまだなのに!!

「よ、何してんだ。探しか?」

「あ、えっと……」

うおお、近くで見ると結構綺麗な人だ。化粧も薄いし、口調の割に聲はらしい。ストンと落ちたサラサラのストレートヘアはやっぱり明るめの茶に染まってはいる。けど、この人ちゃんとした格好すれば、ものすごく清楚な見た目になるんでなかろうか。

なんて怖さを紛らわそうと、無駄なことをしばらくおどおどしながら考えてしまった。

……じゃないか。にしてもえらく可い見た目してんな……)

「その……僕、は」

「聲がちっさいっつの男の子。なんか探してるみたいだったから聲かけてやったんだよ。はっきり言ってくんないとわかんないじゃん」

なんてことを、し呆れた風に頭をぽりぽり掻きながら言う。

え? この目の前の怖そうなの人は、僕が困ってる風だったから聲をかけてくれたと? まさか親切な人なのかな……。いや、見た目で決めちゃってる僕が全般的に悪いんだけどさ。

「弓道場を探してるんです。お姉ちゃんにお弁當屆けに來たんですけど、場所がわからなくて」

「ふぅん、おつかいね。弓道場ならほら、そこの校舎回っていけば、変わった見た目のたてもんあるからすぐに分かんよ。なんかわかんなかったら職員室にでも行きな。多分今日センコー一人くらいいるだろうからさ」

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「あっ、ありがとうございます! 助かりましたっ」

「はいよ、あんまちょろちょろして迷うんじゃないよ」

場所を教えてくれたその人に頭を下げて、僕は踵を返し、言われた方へと歩いて行った。

途中でなんだか後ろ髪を引かれたようなじがした。ちょろっと振り返ると、校舎に向かって歩いていたそのの人が、こっちに気づいてひらひらと右手を振ってくれたから、軽く會釈して足早に。

「弟かぁ。そおいや伊代の奴が弟東京から帰ってくるっつってたな。ま、あいつの弟があんなおぼこい奴な訳ねーし。伊代の弟ってのはどんなイケメンなんだろうな、気になっちまうな」

あれ、なんだか鼻の奧がむずむずするぞ。僕の噂でもされてるんだろうか……。

気付けばもう12時を回りそう。まだお晝休み始まってないといいんだけどな。

……。

そろそろいい時間だからと言って、神谷先輩がお晝休みの合図を出した。お腹の空いていた部員たちの話し聲が、一層雑多なものに変わった頃。

私は弓道場の一角にある床の間でカバンの中を見て愕然とした。

「あっ……お弁當持ってくるの忘れてる」

「うひゃひゃ、ばぁーっかでー伊代にゃん!」

哉、一回シバきね」

間髪れずに哉が、馬鹿にしてきたところに腹を立たせたけれど。忘れてしまったものは仕方ない。購買に……。

「そういえば春休み中って購買開いてなかったわよね……」

「開いてねーにゃん。前半はお晝までなら開いてたけど、後半は購買のおばちゃんも春休みにゃいだだだだだ」

購買は開いてない、この辺りになにか食べられるようなお店もない。どうしようかしらと、哉の首を固めながら思案していると。弓道場の方が妙にざわついてる。

なにかしらと床の間と弓道場を仕切る障子戸を開けた。

「伊代、なんかえらい可い男の子があんたのこと呼んでってさ」

「可いおと……え?」

一瞬耳を疑ったけど、ふと弓道場のり口に目を向けると。

「あ。伊代姉だ」

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私の可い弟が、小さなカバンを持ちながら、どこか安堵したような笑顔を浮かべて片手を振ってくれていた。

「ええ? 伊代にゃん何? あの子彼氏!? いつの間にあんな年下子貓系男子を手篭めにー!!」

「うるっさいわね、私の弟よ。へんな目で見ないでくれる?」

またそこで部員たちが妙にざわつき出して……。

「えっ、あの子伊代の弟ッ? 似てないわー、全ッ然似てないわー」

「よく言われるわ」

「凜々しい形の姉との子みたいな弟って、どう産み分けしたらそんなことになるの……」

「平子先輩まで何を言い出すんですか……」

先輩方まで、私と弟の姉弟コントラストに納得がいかないみたいね。そんな戸いの言葉を口にしているけれど。

これ以上騒がれても面倒ね。

「柊の弟なのか、あの子。一瞬、妹かと思ったよ」

「神谷先輩まで……。すこし話してきます。お晝休み中に騒がせてすみません」

しだけ頭を下げて、私は千草を弓道場から外に連れ出した。

なんだかこういう、が今いる狀況と関係のない、部外者的な位置にいる時に會うと妙に嬉しいわよね。

授業參観の時に、母と會う時と同じような気持ち。

外に出て、弓道場への扉を閉めたのはいいけど。このり硝子の戸って、薄いから聲はまる聞こえでしょうね。向こうで部員たちが聞き耳立ててるのがわかるわ。

特に哉。あとでもう一回シメないとダメね。

まあ変なことは話さないだろうしいいんだけど。

「どうしたの? 千草、こんなところまで。制服の採寸?」

「違うよ!! 伊代姉お弁當忘れていったでしょ。屆けに來てあげたんだー。へへ、高校って広いね、ここがわからなくてちょっと迷っちゃったよ」

「お弁當を! でかしたわよ、千草! 流石さすがは私の弟っ、可い!」

「うわあ! 可いって言わないで……っていうか可い関係ないでしょ今!」

思わずハグしてしまった。別にここ、複雑なとこにないのに迷っちゃう我が弟……可い。

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「へぇー、弓道著似合ってるね、伊代姉。和裝好きだから憧れちゃうよ。髪も後ろで結ってるんだ」

「そうね、あんたに見せるの初めてだものね」

服や、よく見るような武道の道著とは違うのよ。袴や白袖、上半の印象を引き締める當てと。部活中は邪魔になるだろうからと、後ろで結った髪のおかげで隨分いで立ちが変わってる。そのせいか、千草が私を見る目が輝いてる。

もうきらきらしちゃってる。

「その當てとかいいよね、弓道っぽさが出てて。はい、お弁當」

そう言いながら、下手くそに、弓を引く仕草をした千草。なに、いちいち可いんだけどこの生き、奪ってしいのかしら。

「ありがと、助かったわ。このお弁當がないと、お晝ごはんなしで午後の部活をやり通す事になるところだったわ」

この格好を褒めてもらったこととお弁當の事。その、両方の事をまとめてお禮を言っちゃったけどわかってもらえたかしら。

それにしてもせっかくここまで來てくれたのだし、このまま帰しちゃうのももったいな……悪い気がするわね。

「そうだ、千草ご飯は食べてきたの?」

「うんー? 食べてきたよ。ここに來る前に、母さんが作り置きしておいてくれた、朝ごはんお腹いっぱい」

「じゃあ、せっかくここまで來たんだし、ちょっとお晝ご飯に付き合ってくれる?」

と、私が言うと千草は、部活はどうするの? といった風に首を小さく傾げてくれた。

あ、私ちょっと懐かしさでしてる。この子のこの仕草はい頃によくやってたのよね。あんまり喋らないから振り手振りで事を伝えようとしてたからかしら。疑問に思ったことがあったらこうして首を傾げてくれる。

でも千草……、それ他の人だとなかなか分かってもらえないわよ?

「今はお晝休みだからわざわざ道場にずっといる必要はないのよ」

「そうなんだ。結構自由なんだね。僕は大丈夫だよ、どこで食べるの?」

「お気にりの場所があるの。あんたもきっと気にるわ。と、その前に——……」

いい加減聞き耳立ててる奴らに釘を刺しておかないと、ねぇ……?

振り返って弓道場の戸をしだけ開けて顔を覗かせると案の定、いるわいるわ聞き耳軍団。哉を筆頭に同級生から先輩まで數人……。

「と、いうことなのでし出てきます。お晝休み終わりまでには戻ってくるので……ああ、あと水を差すような真似したら腕の関節ぶっこ抜くわよ、メス貓」

「ひいいいい、なんでみぃだけっ?」

「率先して聞き耳立ててるからよ」

そうして、最後に哉の怯える顔を見ながら戸を閉めた。そのやりとりを見ていて、苦笑いを浮かべている千草を連れて、校舎の外周を回るようにしてある場所に案した。

そのあるところというのは、正門から真逆の方向にある小高い緑の丘。綺麗に短く刈られた芝生が敷かれてる。それはまるで絨毯のようにその丘を覆っていて、その頂上には一本の立派な桜の木が植わってるの。

もう三月の後半。もう、四月に突しようとしているところなのだけど。他のところに植わってる桜の木は、儚げで淡い桃の花びらをチラつかせているというのに、この桜の木はまったく花を咲かせる気配はないわ。

「いい丘だね。お日様が近くにじられて風も気持ちいいし、何よりこの芝生の香りが心地いいな」

「でしょう? でもここ、この學校の生徒にはかなり不評なのよ」

「ええ? なんで? お晝やすみとかになると真っ先に人でいっぱいになりそうなのに!」

お晝寢とかお弁當とかお晝寢とかで! なんて真剣な表で言うものだから、おかしくてつい笑ってしまった。あんたは気持ち良く寢ることしか頭にないのね……。

二人して木の下、芝生の絨毯の上に座って、私は千草が持ってきてくれたお弁當を鞄から出して開ける。母さんが作ってくれているそのお弁當の中は、いつも通り味に気を使いつつ、カロリーや栄養を考えてくれているおかずが、ぎっしり詰まってる……。意外と私は燃費悪いから、お弁當箱は大きめなのよね。

「こんないいお晝寢スポットがなんで不評なのさ」

そうよね、何も知らない人間からすればここは、吹き抜ける風がとても気持ちいい小さな丘だものね。

「この桜が原因なんだけれど……」

そう言いながら頭上に枝を張る桜の木を見上げると、千草もつられて見上げてくれる。花も葉もない桜の木はどこか寂しげで、見上げる私たちには足りなさと寒々しい印象を與えられるわね。

「この桜の木の周りにいると、不幸になるらしいわ」

「ざっっっくりし過ぎだよッ」

どんな不思議な理由が出てくるんだろうと、待ち構えていた千草にはどうもけが悪かったみたい。思ったより激しい突っ込みを頂いてしまったわ……。

でも、そんなありきたりな噂、言い伝え、ジンクスっていうのは。

「理由がわかりやすくて、実際にそういった事例が起こっているからこそ、みんなが共通認識を持ってしまうものよ?」

「実際にそういった事例があるっていうことは、この桜にまつわることでなにかあったんだね」

「聞きたい?」

「ううん、聞きたくない。ここ、伊代姉と一緒で僕もお気にりにするから」

「知らぬが仏ってやつね」

「聞いたところで、多分僕ここを嫌いにはならないと思うけどねー」

変なところで意地を張りがちなのはこの子の分だから。姉の私からすれば、微笑ましいというかなんというか。

ならないと思うって言ってしまっている時點で、ここを嫌いになるかもしれない可能を、怖がっているってことになってしまうのだけど。

この子にとって、嫌いたくない何かをじ取ってしまったのかしら。昔から勘が鋭かったり、なにか見つけるのが得意だったりしたから。

他の人が見てない、見えていない部分を平然と見てるような子だしね。

「あーん」

「え? あ、えっと。あーん」

お箸でつまんだ唐揚げを、手をけ皿にしつつゆっくり千草の口に運んであげた。し戸いはしたけれど、すぐに小さなお口を開けてくれたからすっぽりと収めてあげて、千草から一言。

「おいひぃ」

「ん」

目を閉じて、等間隔で咀嚼する千草の顔をのんびりと眺めながら、今こうして3年ぶりに帰ってきた弟の時間を堪能してるわけだけど……。なんだか視線をじるわね。校舎の方からかしら。

……。

「なんだ。伊代、あいつ男でも作ったのかよ。わざわざあんなとこで逢引とか……って、は?」

三學期の績が芳しくなく、春休み中に補習をけなければならなくなり、學校に來ていた茶髪の彼は、補習の合間の休み時間、あることに気がついた。

桜の木の丘に面した校舎、その三階窓際に座っていた彼から、とある男と晝食をとる柊伊代の姿が丸見えだったのだ。

そしてよく見れば隣の男は今朝、聲をかけたみたいなもやし男ではないか。

彼は姉にお弁當を持ってきたと言っていた。普通に考えれば……。

「うっそ、あれ伊代の弟だったって、マジ……?」

補習の合間、その晝休みどきにいかにも素行不良の生徒は、なんとなく視界に収めたその景に驚かされた。

それが、ただのカップルであればさして驚きもしなかったのだろう。が、まるで男を寄せ付けない、校でも隨一の高嶺の花なんて言われる彼と。その弟……と思わしき人だったためにいてもたってもいられず、晝食もそこそこに教室を出て行ってしまった。

……。

その頃、柊家の家、千草の部屋。

「あおん」

銀髪の狼様は、いい加減寢ているのにも飽きてきた。依然として素っのままで無防備極まりないが、締め切った千草の部屋はもったりとした熱を持ち、うっすらと汗をかくくらいにはなってきた。

朝はまだ寒いくらいだったが、季節が季節だ。お晝頃になると外の気溫はぐっと上がる。

「わおん」

布団を抱き込み、目を閉じている彼の、平たく寢かされていた頭の狼耳がピンと立ち反応を示す。

「ぅむ……? 汰鞠たまりの聲が聞こえたような気がするのじゃが……」

抱き込んだ布団を離し束ねていない、艶やかな銀の髪をベッドの上で引きずらせながら、気怠げに上半を起こす。そして、小さく欠あくびを一つ。

の白く大きく形の良いは、重力の概念を無視しているかのようにツンと張っている。マットレスに沈み、形を変えるむっちりとしたおからびる尾は、しなりと橫たわったまま。

すぐ隣のカーテンを引き、開けると寢起きには辛いほど眩しいが差し込んできた。その天然スポットライトは、彼しい肢を強く照らす。

を包み溫める日差しを心地よくじながら窓を開けると、ひんやりとした空気が一斉に部屋に流れ込んできた。

「んん、汰鞠、どうしたのじゃ? なにか問題でもあったかの」

「わう」

窓を開けてすぐ下には瓦葺の屋がある。モッフリとした皮を持ち、凜々しい獣がその屋に何かを伝って登り、千草の部屋の窓の前まで來ていたのだ。

「なんじゃと? 仲間たちに知らせるために、あやつの匂いがする何かがしい? ……んむ……そうは言われてもの、千草は今、姉に弁當を屆けると言って出かけておるのじゃが……」

汰鞠は、銀狼様が祠を留守にする理由を山の他の狼たちに知らせ、お付きになる人間の事を嗅ぎ分けられるようにしたいらしい。そのために、千草の匂いが分かるようなものを求めてきたのだという。

とんと窓枠に足をかけ、部屋に悠々とってきた汰鞠と呼ばれる狼は、すんすんと匂いを嗅ぎながら彼の匂いがするものを探そうとするが……。

「これこれ、この枕はいかん。儂が使うものじゃ。あやつの匂いを嗅ぐのに丁度良よいのじゃ」

「わう」

「ぬ、本人から嗅ぐことはできるが……。ほれ、こうしてあやつが出かけている間はできぬじゃろ。お前さんの嗅覚ならわかると思うがあやつはとても良よい匂いがするでな。癖になるやもしれん」

寢起きでまだ表に気がらず、とろんとしている銀。部屋の各部に鼻を近づけ、匂いを嗅いでいた汰鞠という狼を抱き上げて、らかなに頬ずりしつつ……。

「んー、あまり荒らしてはいかんと言っておるじゃろ……」

「くぅん……」

「ううむ、儂が探してやるでな。し待っておれ」

汰鞠を床にあった座布団の上にそっと置き、そこからかないように言い聞かせた後。近場にあった簞笥を悪いと思いながらも開く。

千草がよく著ている類ならば、匂いも染みついているだろうという考えから、ここを探そうと思い至ったのだが……。

「うむ、これがよかろ」

「わう」

するりと出してきたのはグレーのボクサーパンツだった。同じものが幾つかあったから一つくらい……といった考えからだろう。

差し出されたそのパンツを汰鞠は口でくわえ、一度だけぺこりと會釈すると、ってきた窓から颯爽と外へ飛び出し山へと帰っていったようだ。

「気をつけて帰るのじゃぞー」

汰鞠を見送った彼は大きくびをした。そして、ハンガーにかけられた著に手をかざすと、まるで風に煽られた羽のように、そこそこの重さがあるはずの著が浮く。そのまま袖を通すと今度は帯が勝手に巻かれ、締められる。

流石は神といった所業である。

「さて、現うつつ酔いもましにはなったの。外に出て久々の現世を見回っても良いが……」

そこで頭の耳ともふりと揺れる尾に意識を移し……。

「今の時代、これじゃと騒ぎになるのじゃったか」

まだ千草の父、京矢と酒を酌くみわしていた頃。その耳と尾をつけたまま外に出たら、理解ある人と場所以外だととても目立つし騒がれるかもしれない。と、言われたことがあるのだ。

確かに人間には獣耳も尾も生えてはいない。が、しかし理解ある人と場所とはなんなのだろうか。ということは、彼が抱える理解できないでいることの一つとなっていた。

「人前に出るときは隠さんといかんな。面倒臭いのう」

その気になればなんとでもなるかと、楽観的に考えながら千草の部屋を後にする。とりあえず旅館の中をぶらぶらと散歩でもしてみようと思い至ったのだ。

なんだかんだと心を躍らせながら、彼は木の香りのする旅館の方へと向かっていった。

……。

「あれ? あの人弓道場の場所を教えてくれたお姉さんだ……」

「ん?」

いくらか千草と分けあって、すっかりカラになったお弁當箱をしまって、食後の余韻を涼やかな風にあたりながら浸っていた。そうしていたら、ガラの悪そうな生徒が……って、あれ葉月はづきじゃない。あの不良娘……まだ補習けてたのね。

「ちっす、伊代ー。あんたも晝休み?」

「ええ、それはもう有意義な晝休みよ」

「よぉ、ちゃんと弁當屆けられたみてーだな。オ、ト、ウ、ト、君?」

そう言いながら、茶髪の不良娘は私の弟の顔をじっと見つめてる。なになに? 面識があるのかしらこの子達。

「え、えっと、その節はどうもです」

千草ったらあわあわしちゃってる。そうよね、まぁこんなヤンキーみたいな子に詰め寄られたら。

「葉月、なんであんた千草のこと知ってるの?」

「あ、千草ってんだこの子。朝校舎前でおろおろしてたから道教えてやったのよ」

しだけ私のを寄せてきた、人見知りする千草におしさをじつつ。千草から目を離そうとしない葉月はづきが恐いヤツじゃないことを説明しないとね。

「千草。そんな構えなくていいわよ。この子見た目派手だけど全然悪い奴じゃないから」

「え、なに? あたし悪い奴だって思われてんの?」

「す、し……」

「バーカ、んな悪い事できっかよ。ウチの親結構厳しいんだっての」

嘆息と共にし文句を言ってから、千草に怖がられていた彼は紹介しろよ。と、なんともえっらそうにわたしに催促してきた。

「この子は中塚なかつか葉月はづきっていって、私のクラスメイト……って今年も同じかはどうかはわからないけど。まぁくされ縁というか、奇妙な運命の巡り合わせがあってというか」

學して同じクラスんなって、態度が気にらねぇってんでちょい話しかけてやったら、あたしン家ちの母さんと、コイツの母さんが昔ツルんでたってことがわかってさ。そっからの付き合いだよ」

ちょうど、私が腐ってたというか、荒れてた時だったわね。こいつが教室で“暗いなあお前、ツレの一人くらいいねーのかよ?”なんて話しかけてきた時は、余計なお世話だなんて思ってたものだけど。

「んなことより伊代! あんたの弟予想と違いすぎるつうの!」

「だから、言ってたでしょ。かわいい弟だって」

「言葉の意味まんまじゃねーか! てっきりお前に似た、とんでもないイケメンだと思ってたんだ、こっちはさ。まさかこんなおぼこい奴だとは……」

「お、おぼこい……?」

うふふ、なにこの子、私の弟貶めてるのかしら? 千草は千草でショックけちゃってるし……。

「でもまあ……可いじゃん。ほんと。あんたがやたら可がってるのもわかる気がしないでもないっつーかなんつーか。放っておけないじだよ、この子」

だからこそ困ってた千草に聲をかけたのかしら……。まあ、この子けっこう誰にでも助け舟出したりする子だけどね。

暴に見えるけど、荒っぽい優しさというか、気遣いができる子だからこそ私は々と相談事を持ちかけたりしてるわけで……

「えっと、褒められてるのかな……それって」

にへら、と締まらない笑顔を浮かべて、千草は私から離れて改まった。さっきみたいな、葉月に対しての拒否はもうじられないわね。

「伊代姉がお世話になってます、伊代姉の弟の柊千草です、僕も今年からこの學校に學なのでよろしくです」

「なんだよ改まっちゃってさ。まあいいや、ちゃんと話せるじゃん男の子! こっちこそよろしくな、可がってやるよ」

「あんた……千草に手ェ出したらわかってんでしょうね」

「そら知るかよ。男の仲なんてどうなっか分かんないじゃん」

うふふふ……葉月ちゃん冗談はほどほどにしてしいものねー。ほんとこの子は周りを気にしないというか自分の道を行くというか……。

「でもま、千草君はあたしの好みじゃねーから安心しなよ、伊代。私はもっと男らしくてカッコよくて私より強いような奴が好きだからさ」

そんなことを、散々イラつかせてくれた後に言われたものだから拍子抜けしちゃった。なにか悪口の一つでも言ってやろうと思ってたのに。

「へぇ、それは安心ね」

「くっ……それ僕を完全否定されてるみたいでやだなぁ……」

「あんたの良さは私がよく分かってるからいいのよ」

し落ち込み気味の千草にイイコイイコしていると、葉月が目の前の桜の木を見上げながら一言。よくここで晝飯食うなあと。

「なんで? ここ気持ちいいじゃない。風の通りよくて、景もいいし」

「今年もこの桜の開花が遅れてっからまともに咲いてくれるか分かんねーってセンコーが言っててさ。なんか変わった花咲くことがあんだろ?」

「花もそうだし、おかしなが詰まった瘤こぶができるとも聞いたことあるわね」

「変わった花に変な瘤って?」

あ、しまったわね。千草にはあまり聞かせたくない話なのに……でも、もうそろそろお晝休憩も終わってしまうし。

「ごめんね千草、そろそろ休憩終わるから部活に戻らないと。お弁當ありがと、気をつけて帰るのよ」

「ええっ」

「じゃああたしはもうし」

と、まだ居座ろうとする葉月だったけれど……校舎の方から、葉月達補習組の面倒を見てる先生の怒號が聞こえてきて……。

「なにやってんだ中塚ーッ、とっくに休み時間終わってんぞ早く戻ってこい!!」

「うわーうっさいセンコーだよマジで。また絞られても嫌だし私も戻るわ、じゃーな」

駆け出そうとした葉月はなにを思ったのか、踏みとどまった。前につんのめってから、千草の方に戻ってきて、ポケットから出した板ガム。それを食いな、なんて言いながら渡して踵を返し、改めて校舎の方に駆け出してった。

私は私で呼びに來た哉のせいで急かされて、満足に千草と話せないまま弓道場に戻ることになってしまった。

背中に千草からの頑張ってねの言葉をかけられ、私は午後も調子よく弓を引くことになるだろう。

……。

「むぐ、忙しないなあみんな」

伊代姉も葉月さんもそれぞれ戻っちゃって、渡されたガムを口にれた僕は、桜の樹の下に取り殘されてしまった。

まだまだお晝過ぎだし、時間はあるけど行きたいところもあるから、そろそろ學校から出ようかな。

「ん?」

丘から降りようと思ったその時、頭の上になにかれた。なにか落ちてきたのか……なんて思いながら頭に手をばしてそのを生んだものを指でつまんで取ってから手のひらの上に乗せて見てみた……ら。

「赤い……桜の花弁?」

小さな花弁の一つが僕の頭に落ちてきたみたいなんだけど、その形はどう見ても桜の花弁。でもそのはよく言われる桜……ではなくのような赤をしてた。

「!」

がさり、頭上の桜の枝が大きく揺れて僕の肩が驚きで大きく跳ねる。恐る恐る頭上を見上げてみると……。

「鳥かなにかが留とまってたのかな?」

何もいなかった。らしき姿も……そして、花弁も。

風に乗ってきたのかな、この赤い花びら。とても薄く、らかく儚げなその花弁はどうしても桜のものとしか思えなかったけど……。

その花弁を芝生に置いてから、僕は改めてこの丘を下りて校門に向かって歩き出した。

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