「なにか知っている風な様子じゃの？」

「顔も見ていないくせに何を言い出しますかこのクソ狼は……」

「カマをかけただけじゃ。うぬは昔から、何を考えておるか摑めん奴じゃからの。さすがは狐といったところか」

「思ってもないことを言いやがりますね……」

いたずらな笑みを浮かべる銀と、狐面のせいで表こそ読めないがあきらかに不機嫌そうな九尾の狐人。銀と、金の神は仲が悪いようだ。

「……あなたも霊山廻りですか」

「うむ。り口はもうし上かと思っておったが、違うようじゃの？」

「今季は數えて４００段目の松の木の下ですよ。もうし下です、間抜け」

「……」

間抜けの一言に、銀路の笑みがひきつってしまう。

「それと、今回はやめておいたほうが懸命ですが？」

「何故なにゆえじゃ」

「蛇が悪さをしているようですから。私が暇いとまを離れてわざわざ様子を見に行くくらいにはこじれちまってるみたいです。まったく、役に立たない山神め」

吐き捨てるように、その言葉を言った狐面のはころんと下駄を鳴らし、階段を下りていく。

銀の橫を挨拶もなく通り過ぎ、銀はしばらくその蛇に考えを巡らせながら煙管を吸い、燻る火皿を銀に発させた。

……——。

「はあっ、はあ……ふう……」

もうそろそろ追いつくといったところで、僕は上から降りてきていた狐面の人と鉢合わせることになった。狐面の人は、その場で止まってぺこりと上品に會釈すると、するりと僕の隣を抜けて階段を下っていってしまったけど。

「うわ、すごい綺麗な髪と尾だな……。尾もふもふだ……９本あるんだ」

あんなボリュームのある尾が９本も……重たくないのかな。なんて思いながら先を急ぐと、銀も降りてきてた。どうしたんだろ。

「もうし下のようじゃ」

「下なの！？　ここまで登ってきたのに……」

「ここは６００段目の九十九折つづらおりじゃ。２００段は降りんといかんの」

「ええ……」

そうして、僕と銀は４００段目のところまで來た。銀が言うには４００段目の松の木の下なんだって。

下っている途中で、あの狐面の人のことを々聞いたんだけど……。あの狐さんが、本來のこの山の持ち主なんだってことはわかった。

もともとはここも銀の山だったらしいんだけど、このお寺が出來た頃くらいに渡したみたい。

「うむ、ここじゃここじゃ」

階段橫に植わってた大きな松の木の下。そこには何もなかったんだけど……。

「よいか、手を離すでないぞ？」

「うん、わかった」

そのまま、その松の木へ向かって直進。もうぶつかる……というところまで來ると。急に辺りが暗くなった。まるでスイッチを使って電気を消したみたいに。