昔の銀がどれだけ怖かったのかというと……その、山喰らいだとかなんとか潰しだとか……実際に銀が激おこ狀態になった時にしたことがあるんだって。

「銀こわい……」

「これ千草、そんな戯言信じるでないわ。ほれ」

銀は僕の口に、小さなお菓子を持ってきて食べさせてくれてるのはいいけど……。

「ほふ……もふはうぃらな……もが……」

揺してるのか、次から次へ僕の口にお菓子をれてくるものだから、頰がリスみたいになってるんだけど……。

「よかったのう。こやつがおらなんだら、うぬ今頃塊になっておったぞ」

「おい、年、後ろ見てみな。神潰しの目つきが拝めるぜ」

「んん」

後ろを向こうとすると、銀に頭を両手で挾まれて首を固定されてしまった。

黒狼様が言うには、銀の目つきが凄まじく悪いことになっているみたいなんだけど……。

「ワシがこやつをどれだけ大切に面倒を見ておるかわからんらしいの……。それともなんじゃ、嫉妬しておるのか？　黒狼」

「誰がするかよ……。何も知らねェ人の子が、おっかねえ狼に取って食われねェようにな！」

「この様子を見て、取る必要があると？」

銀に抱きこまれて、もはや取られているというか、ものにされているというか……銀がその気になったら今すぐにでももぐもぐされちゃいそうだし否定はできないところが……。

「おいおい年。マジで気をつけたほうがいいぜ、こいつがなんの見返りもなしにだな……」

「あの、心配してもらえるのは嬉しいんですけど……銀にはいろいろ助けてもらったりしてるから、僕も銀に何かしてあげたいん、です」

ちょっと言葉に詰まってしまったけど、いい加減言っておきたいことは言えたような気がする。

銀は機嫌良さそうに尾を大きく左右に振って、僕をより強く抱きしめて頭の耳をはんできた。

覚が無いからお耳はみはみされても足りないような……！！

一方で黒狼様は、それじゃあ何も言えることはなさそうだと、し呆れた風にしてお酒を呑んだ。

「おい銀狼、お前そうやってずっと離さねえつもりか？」

「離す理由がどこにある？　蛇姫がいつ橫からかっさらうかわからん狀況じゃ。こやつのそばにワシがおれば、蛇姫も迂闊に手は出してこんじゃろ」

「はあ……」

黒狼様は、厄介だなと小聲で言って大きなため息をついた。

それを銀が聞き逃すはずがなく、すぐさま聲に怒気を孕ませて黒狼様にその言葉の意味を問おうとするけど……。

「いいか、今蛇姫が姿を曬さんのは……鬼燈の巫が奴を抑えに向かったからだ」

「……黒狼、うぬ。何故それを今まで黙っておった」

「別にもったいぶってたわけじゃないんだぜ。こっちもこっちでのっぴきならねェ理由があるんだ」

二人の間に、嫌な空気が流れた。黒狼様の目つきも、さっきまでと違って剣呑なものになった。

銀が僕を抱きしめる腕の力が、でるそれから護るそれに変わる……。

「酒を呑めよ、銀狼。もったいねぇだろ？」

「うぬ、何か隠しておるな？　全て話せ、さもなければ……」

「さも、なければ。なんだい？　俺を八つ裂きにでもするか？　できるのか？　今のお前が」

「なんじゃと……？」