槐さんが持ってきてくれた著は、いつも銀が著ている黒を基調とした著。

月や雲の金刺繍はってなかったりするけど、それでも見た目的には十分綺麗な著だった。

いつもなら神気を使って、自分で著付けをする銀だけど今はそんな余裕はないみたいで、槐さんに著付けをしてもらっていた。

「髪はぬしに手をれてもらいたいのじゃが」

「髪？　僕、いつもの銀の髪型のようにはできないよ？」

「よい。後ろに束ねる程度で十分じゃ。その代わり、丁寧に梳いてほしい」

「……ん、わかった」

鏡の前に座る銀の後ろに回って、槐さんに渡された漆塗りの櫛でさらさらと銀の髪を梳いていく。

でるように、ゆっくりと。ふんわりした艶のある銀の髪。

長さがあるからひと束手に取るとし重みをじる幻想的な髪。

「むぅ、ぬしよ、子扱いはいただけんぞ」

「あはは、ごめんごめん」

梳き終わって銀の小さな頭をお耳を避けながらでていると、むすっとしながらそんな言葉で僕を制してきた。

「ごめんね、僕のせいで……」

なにも、面白がってやっていたわけじゃない。鏡に映った僕の暗い顔を見て、銀もそれはわかっていたみたい。

「ぬしが気に病む必要はない。腑抜けておったわしがわるいのじゃ。ぬしを護ると言っておきながら、このたらく……。けないのにもほどがある。逆に罵られても何も言えん失態じゃ」

そんなことを、真剣な表で鏡に映った自分の顔を見據えて言う銀だけど、そんなの仕方ないことだと思うんだ。

正確には何年かわからないけど、長い間山の祠に封じられてきた銀が、人にとって永遠とも思えるような時間を経て舊知の仲に會ったんだ。

決して、顔には出さないし態度にも出さなかったけど、そう……楽しかったんだろう。

嬉しかったんだろう。

それこそ、僕が黒狼様に嫉妬してしまうくらいに、銀は楽しんでたはずなんだ。

でも、そんなを押し殺して僕を護るっていう約束を守ってもらっても……多分、それはこの先長続きしない。

僕は、銀とずっと一緒にいたい。

「いいよ、銀。そんな気を張らなくて」

「……」

「今回のことは、僕が自分でなんとかする」

「ぬ、それではわしがそばにおる意味が……」

「意味なんていらない。銀がこうしてここにいてくれることが僕にとって重要なことだから」

これは僕視點での言葉だ。これは、銀にとって納得できる言葉じゃない。一方的な気持ちの押し付けだ。

「言ったでしょ。僕は銀がずっと一緒に居たいって思えるような男になるって」

「う……うむ。忘れるわけなかろ……」

ふいに、銀の頰に赤みがさして視線が泳ぐ。思い出して、どこか照れているように。

「護られてるばっかりじゃ、僕はそういう男になれないと思う。銀の好みはどうあれ、僕が納得できない」

「ぅむ……ちょ、ぬし……。こんな時にそんな真剣な顔で……」

「だから、僕がなんとかするし……。今の銀は、僕が護りたい」

「……っ」

僕がそう言うと、ぼっと湯気がでるんじゃないかと思うほど顔を赤くして、耳をぴんと立てて、ついでに尾も思いっきり立たせた銀。

膝立ちで後ろにいた僕は、銀の尾を顎にけて餅をついてしまった。

「くぅっ、おい！　ぬし！　ずるくないかと思うのじゃが！」

「ずるいってなんでさっ」

「それを今言うか！　こう見えて、わしは結構落ち込んでおる！　落ち込んでおるのじゃ！　弱みにつけこんで、そんなっ……そんなっ……ずるいじゃろ！」

立ち上がって振り返って、顔を真っ赤にしたまま々ながり混じる凄まじい形相を浮かべて、銀はそうやってまくし立ててきた。

でも、自分でも何を言っているのかあんまりわかってないみたいだ。