《僕と狼姉様の十五夜幻想語 ー溫泉旅館から始まるし破廉恥な非日常ー》18節53話ー言霊ー

蛇姫様の神使達はただ多いだけじゃない。一人一人が鬼燈さんの結界の要となる札を持っていて、その効力が最も発揮される陣を組んで結界を張ってるらしい。

だからこそ朱音さんの護り火でさえ屆かない強固な壁となり得てるんだって。

そう、僕らはまんまと罠にはまったわけだ。

朱音さんですら破れない結界ではあるものの、本來の銀なら難なく破れるはずだった。

「小賢しいことこの上ないのう、まったく……」

「えーっと、どうしましょ? 鬼燈の巫まであちらについてるとはよそーがい」

「あにさま……?」

先ほどから、のない銀や朱音さんのやりとりが……まるで蚊帳の外から聞こえるようだ。

みんなが離れているわけじゃなくて、僕がおかしいんだ。

それは、突如襲ってきた凄まじい“眠気”。

この癥狀は正直、驚くほどのことではなく……むしろ、今きちゃったかと呆れてしまうものなんだけど……。

むかしから、僕は突然眠ってしまうことがあったんだ。東京にいた頃は全くと言っていいほどその癥狀は出ていなかった。でもここにきて……。

「おいぬし! どうしたのじゃ!」

「おっとと」

ふらふらと倒れそうになってた僕を、朱音さんが支えてくれたみたいだ。

でも、今の僕にはそれすらおぼろげで……。

「ねむ……」

「あにさまねむむ……」

僕の狀態を説明してくれたであろう子鞠が足元でわたわたしているのが視界の端に映った……。

本當に一瞬、風船の紐をふっと離すかのようなイメージで緩やかに意識を手放してしまうと……。

……。

『去いねや、蛇の使い』

蛇姫の神使、その全てに刺すような冷たさを持って放たれた言葉。

その言葉、言霊の圧力か、それまで陣を組んでいた蛇姫の神使達が一斉にその姿を白い蛇に変え、屋敷の方へ散ってしまった。

本當にその一言で、あまりにあっけないその景に呆気にとられてしまったわけではない。

はひどく驚いたような表かべて、朱音に支えられた千草を見ていた。

「銀狼様……今の“聲”って」

「みなまで言わずともよい」

はその一言ののち眠ってしまった千草を朱音に背負わせた。

先ほど千草から発せられた聲は、千草の可らしい聲のものではなかった。

かつて、その聲だけで國を傾けたともされる者の聲。

そして銀にとって深い因縁のある言霊であった。

先ほど神使達を退けた千草の言霊は、銀の神気が失われた時に発した、言霊の強制力をはるかに上回るものであった。

かつて、その強力な言霊と浮世離れした容姿をもって人を、土地を、國を支配したとされる悪狐がいた。

その悪行を見かねた士が國から追放し、とある小さな村に住み著き、そして銀狼によって封印された者。

玉藻前から分かたれし、白きを持つ狐の聲。

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