「勘違いするでないぞ、千草。ぬしと共に在ることが嫌になったわけではない」

「ぶはあ……泣いちゃうとこだったよ」

「ぬしの父に言われたから共にいる……という関係がどうもしっくりこなくなっての。わしはわしの意思でぬしと共にありたくなっただけのことじゃ。そして、ぬしのために奴を食らう」

「でもそれじゃあもう銀に會えなくなるんでしょ？」

「うむ。奴と共に緋禪桜の穢れも請け負う必要があるからの」

「じゃあダメ。なんで一緒にいたくなったのに一緒じゃなくなるのさ。矛盾してるでしょ」

「ぬしを護るためじゃ。仕方なかろ」

「仕方なくない！」

銀は自分が犠牲になれば解決すると思ってる。僕はそんなことをんでいるわけじゃないんだ。

神様っていうのは、なんでこう自分勝手なんだ。

僕も大概わがままだし、人のこと言えたものじゃないんだけど。

「くだらん言い合いは終わったかや？　わっちにはもはや時間は殘されてありんせん。銀狼、その人の子が大事ならば守ってみせるのじゃな……」

「蛇姫様、いけません！！」

そう……鬼燈さんがんだ瞬間だった。

この広間の天井が消え、壁が抜け、とんでもない地響きと共に巨大な蛇が現れた。

ああ、本當に黒いものはそこにどんな模様があるのかわからないくらい黒く、何も見えないようになるんだな、と思った。

蛇の鱗らしい模様も見えない、のない世界、闇がそこに突然現れたような覚。

そんな闇の中に赤くる目が浮かんで、こっちを見ている。

ばっかりと開いた口の、黒の中の赤さたるや思わず目を痛めてしまいそうなほど鮮やかで……。

じろじろとびた蛇の舌がしまわれると同時に、僕らに向かってその巨を突っ込ませてきた。

「いかん……！！」

「うわッ！！」

切羽詰まったように聲を出した銀が、僕を抱き上げて思いっきり跳躍した。

僕すると、僕達がさっきまでいたところにまるで電車が通るかのごとく、蛇の巨がっていく。

跳んだ銀は壊れた屋の端に著地し、僕を降ろしてくれた。

「あれが……蛇姫様の正……！？」

巨大な蛇が這いずり、この樓閣を破壊する音が鳴り響く。

樓閣の高い屋の上から、黒い蛇の全貌を見た。

宙に浮くこの巨大な土地を縦橫無盡に這う巨大な蛇。

それがしばらくしてとぐろを巻いて、頭を高々と上げ、そしてもたげた。

じりりりり……と鱗がれる、頭がどうにかなってしまいそうな音が響く。

赤い目がまっすぐこっちを見ている。稲荷霊山で見たあの大きな蛇よりはまだ小さい。

でも、なんだろうこの威圧は。の芯から震えてけなくなりそうだ。

「気をしっかり持たんか、千草。あれはほとんど悪あがきのようなものじゃ」

「でも……だからこそ厄介そうだよ」

「くふふ、なんじゃ、わかっておるではないか」

「はは……伊達に々験してないからね」

震えるが教えてくれる、尋常じゃない気配。

蛇姫様は、本気で銀をどうにかして僕を奪うつもりなんだ。