一どれだけを重ねていただろう。

空中でのことだったから、とても短かったはずなんだけど……なんだかその瞬間だけすっぽりと切り取ったかのような時間の停止を味わったような気がするし……。

月のを背にした銀が屋に著地した頃にはもうは離れていたけれど、まだ銀ののが僕のに殘ってる。

「いだっ！！」

僕を抱えていた銀が、ふいに両腕の力をぬいたから、僕は抱えられていたままの姿勢で落下。

屋におしりを打ち付けて酷い聲を上げてしまった。

その聲で、ふにゃふにゃに垂れていた尾とお耳がピンと立って、銀が我に返ったような仕草を見せたんだ。

「ふあ。す、すまぬ……」

「痛いよ銀……！！」

まだ痛むおしりをさすりながら立ち上がる僕と、まだ惚けたような顔をして、なにか確認するかのように自分のに人差し指と中指を這わせている銀。

蛇姫様が追撃を加えてこないのも気にはなったけど、それ以上に銀の変化だ。

そう長い間ではなかったけど、頬を上気させ惚ほうけた表でをでていた時は、まるでのようだった……んだけど。

一瞬にして目を細めて、にんまりと口元を歪めて、僕に視線を向けて來た時はそれこそどんな花魁ですら真似できないだろうという艶やかな大人の気をぶつけられた。

普通にがっつり心臓が高鳴って、驚きの聲が出ちゃった。

そこから銀が何も言わないでいるというのもまたおかしなことに扇的でどきどきする。

ひたすら高鳴り続けてる心臓を無理やり忘れて、言った。

「これで僕からの許しになった？」

「くふ」

と、いう問いかけに対して銀は妖艶にしなを作って、人差し指と親指の先をつけ、OKのOを作って見せた。

銀もいつの間にか現代に染まってきたなあなんて……、

「じゃあ銀、これからもよろしくね」

「かかかっ、お安い用じゃ」

やっぱりいつ聴いても頼もしい、銀の言葉。

広げて上げた、銀の10本指全てに銀の火が燈り、その火は瞬く間に銀と……そして僕をも巻き込んで発的に大きくなっていった。

僕すらを飲み込んだその銀の火はとても眩しくて、そして優しい溫かさを持っていた。

その火が僕の視界から拭き消える頃に、僕は見上げることになる。

かつて幾つもの山を統べた、銀の並みを持つ誇り高き狼の姿を。

《……ウゥァアア》

全のが逆立つのをじた。僕が今いる樓閣の屋、いや樓閣自……この浮いた土地、その周囲の広大な空までが小さく震えてる。

《ァアアアオオオォォオオォォオーーーーー…………ン》

先ほどまで遠く、欠けていたはずの月が今は本當に近く大きなまん丸お月さまになっていた。

首をそらせ、鼻先を遙か彼方の夜空を衝くほどに高く上げ、その満月に突き刺さるような遠吠えを。

その凄まじく見事な遠吠えに、自分のが々になって吹き飛んでしまったかのような錯覚を覚えるほどの衝撃をけた。

清廉な顔に、淡くる銀のボリュームのあるに包まれたと立派な尾。

紅玉の瞳に切れ長の目。

そう、息をすることさえ忘れそうな……なんて人な狼なんだろう。