《僕と狼姉様の十五夜幻想語 ー溫泉旅館から始まるし破廉恥な非日常ー》19節ー現への帰還ー

じゃあ夜刀姫様のことは夜刀って呼ぶね、とさすがに不敬かなと思いながらもそう言うと……。

「なんとでも呼びなんし。わっちはぬしらに負けたじゃ、何をされようと文句は言うが抵抗するつもりはありんせん」

「文句は言うんだ……」

「當たり前じゃろ!」

「千草くん、この蛇まんざらでもなさそうですのでクソ蛇という呼び名でも良いかと思われますですよー」

「狐は黙りんす!」

「あら、躾が足りなかったですかね。もう一度いっときます?」

「……もうやめてくりゃれ」

手をわきわきとかし始めた九十九さんに対して面白いほど萎してしまった夜刀。いいじにトラウマになってしまっているみたいでちょっと可哀想なんだけど……。

「ぬしよ、ひと段落したならば現へ帰るとするかの? こやつの寢床も用意せんといかんしの」

「そうだね。僕ももう疲れちゃったし……家帰って寢たいな」

「あにさま、こまもねむねむ……」

子鞠も眠たいみたいでふにゃふにゃした聲でそう訴えてきてた。

子鞠は軽いからこのまま僕の肩の上で眠ってもらってもいいけど、帰るならもう汰鞠に預けないといけないな。

「子鞠、兄様ももうお帰りです。こちらへ來なさい」

「はあい……あにさま、またね……」

「うん、また遊ぼうね」

最後に子鞠は僕の頭をぎゅっと抱えてから、どこか寂しそうにしながら汰鞠の元へと戻ってしまった。

肩の上の心地いい暖かさと重さがなくなって僕もしばかり寂しくなりながら……。

「いろいろとまだ気になることはあるけど……帰りますね」

「なんだもう帰るのかい? もうしうちにいてもらっても良かったのに。あんたの化け、いい客取れるんだから」

「槐さん、それはさすがに勘弁してくださいっ」

「あはは、冗談冗談。でもまたおいで、もてなしはうちの子らがやってくれたりするからさ」

「はい、また遊びにきますねっ」

……——。

たくさんの人とお別れをして、僕はこの緋禪桃源郷から出ることになった。

現への道は夜刀が作ってくれていて僕の家と直につながっていたんだけど……。

「千草あんたこんな時間までどこにいってたのよ」

「えへへ」

「えへへじゃないわよ……時計見なさい時計、12時よ」

「……助けてお姉ちゃん」

「かっ……わいいから正直匿ってあげたいけど無理ね。母さんリビングで待ってるから行って來なさい。こってり絞られた後はめてあげるから部屋においで。ね」

帰ってきたときにはもうてっぺんを回っていて……許可もなくこんな遅い時間に帰ってきた僕に母さんは激怒しているみたい。

……とりあえずやばい。超怖い。

玄関で待ってくれてた伊代姉までご愁傷様みたいな顔で見てくるし……。

「ちぃ君〜? 早くおいでなさいなー」

「……は、はい……今すぐに」

顔は穏やかだけど背後に般若のお面をじさせるほどの怒気が見える……。やだぁ怒られたくないー!

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