《僕と狼姉様の十五夜幻想語 ー溫泉旅館から始まるし破廉恥な非日常ー》20節-和菓子屋のお姉さん

はがつんと夜刀姫の頭を毆り、甲高い悲鳴を聞いてから煙管の吸い口をくわえた。

「うぅ……いちち。しは手加減しなんし! 痛いじゃろ!」

「余計なことを言うからじゃろうが」

「本當のことを言ったまででありんす!」

「……むうう」

本當のことを言われいているのは銀わかってはいた。

だからこそ夜刀姫の言い分に腹が立つ。

「それにしても白狐玉藻かや。なんとも厄介な者に目をつけられたものじゃの。よりにもよって傾國の妖狐とは。厳重に封印を施したのではなかったのかや?」

「鬼燈の巫の力が弱まっておる上、封の楔(くさび)として使ったわしの牙も朽ちかけておる。神といえど時の流れには勝てんな」

「改めて封印することはできんのかや?」

「難しいの。あの封印式は儂ではなく師のものじゃからの。上書きすることはできん」

その昔、邪悪な白狐を封印するために銀狼はその白狐を打ちのめした。

しかし結果として勝っただけで銀狼も満創痍の狀態だった。

そのため封印は高名な師數十人に任せた経緯がある。

「千草には儂がおる。今更出てきたところで渡しはせん……」

(銀狼がここまでれ込むとは……まあ、あのには魅かれるものはありんすが……)

−−……。

春の気の中、僕と伊代姉は學校でのこととか友達のこととか部活のこととか……々と話しながら月並神社近くにある集會場に到著した。

大きなグラウンドのそばに建てられてるその小さな集會場にはもう町の人たちがたくさん居て……。

「あら! 柊さんちの! きてくれたのね〜助かるわぁ」

「こんにちは、加賀さん。哉と詩織さん來てますか?」

「詩織なら境にいると思うわ。哉ちゃんもさっき見かけたけど……あら、こんにちは。柊ちゃんの……弟さん? あらーあらあら、大きくなったわねぇ!」

「久しぶりです! 加賀さん」

來た僕らにいち早く気づいたのは加賀さんだった。

加賀さんっていうのは月読町一の和菓子屋さん、加賀屋の店長の奧さんだ。

旅館に味しい和菓子を納品してくれてるところだけあってた小さな頃から僕を知ってる。

哉さんはあの貓の人として……詩織さんっていうのは加賀詩織さんっていって、加賀家の一人娘で大學生のお姉さん。

「相変わらず可いわね〜。詩織も喜ぶわ、會ってあげてね」

「かっ……かわ……はい、詩織さんにも挨拶してきます」

伊代姉が二人の居場所を聞いたのは、その二人が伊代姉と穣舞踴を行う人たちだからだ。

伊代姉とその二人はお祭りの準備というより穣舞踴の最後の練習、打ち合わせをするために來てるんだよね。

伊代姉と一緒に境の方に上がっていくと……。

「にゃ! ようやっと來たにゃん。伊代にゃんこっちー!」

向こうで手を振っているのは貓の人こと哉さんだ。

その隣にいるゆるふわ系お姉さんは……。

「遅刻はしてないでしょ、哉。こんにちは、詩織さん。今日はよろしくお願いします」

「よろしくぅ〜。でぇ、この子はもしかしてぇ……」

「久しぶりです、詩織さん。千草です、覚えてますか?」

「あったりまえでしょお、ちぃちゃん〜。久しぶりぃ。元気だったぁ?」

「おぷふ」

挨拶するなり真正面からがばっと、ほんとになんのためらいもなく詩織さんに抱きしめられた!

昔からこういう人だったけどやっぱりほんと容赦ないな!

「大きくなってもかわいいね〜。どこのの子かと思っちゃったぁ」

「ふあ、ちょっ……詩織さんくるし……」

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