《比翼の鳥》第2話:日常

急いで階段を駆け下りリビングへ。しかし、誰もいなかった。代わりに機の上に一言。

『お父さんと買いに行ってきますー(はぁと)』

「かっこ はぁと かっことじ じゃないよ!?還暦間近のバカップル!!年を考えろ!」

いかん。思わず怒鳴ってしまった…平常心平常心。

メモにある通り。うちの親は非常に仲が良い。正におしどり夫婦。

ちょっと無口で寡黙な父。長年大手の製薬會社に勤め上げた父は、基本背中で語るタイプ。

外見はしっかりと老けていく割に言は退行していく母。

あと、今は仕事なのでいないが、スポーツ萬能、頭脳明晰、容姿端麗、但し手が(だけでなく口と足も)早い妹を加えての4人家族だ。

そして、一応長男の筈の俺は、今必死にスーツ著用中…と、髭そって…歯磨きを30秒でこなして、だしなみOK!

そんな鏡の中には、髭を剃り白で短髪で、自信のなさそうな顔をした、くたびれたおっさんが映っていた。

我ながら幸薄そうな顔だな…と、自分自をそう評価する。

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オヤジ狩りとかにさっくりとあいそうな顔だ。

しかも、最近し太り気味だから、顎が気になる…。

ダイエットしないとなぁ。けど、し太めの方が子供たちのウケは良いんだよなぁ。

などと、つい思案にふけってしまった。

俺は、イカンイカンと、首を振るとそんな現実を振り払うように玄関へと向かう。

「行ってきます!」

誰もいない家に挨拶をして、おっと…鍵もしめてね…と。俺は、駅に向かって走り出した。

JR東戸塚駅。最近、妙に開発が進んだせいか、ベッドタウンとして急速に発展している。

ちょっと十數年前までしなびた住宅地だったのに、気が付いたら駅前にタワーやら商業ビルがにょきにょき生えて來た。

そして、人口もいきなり増えた。そのせいか空き地が次々とマンションに早変わり。

最近では山すら削ってマンション造ってるよ。もうマンションいらないよ!と言うのが地元人の素直な想。

そんな急発展した駅を橫目に、バスターミナルから2分ほど離れたビル…すなわち俺の職場へと駈け込む。

「こんにちはー!遅れてすいません!」

俺は自ドアを開けつつ、聲をかける。

「こんにちは。佐藤先生。時間は大丈夫ですよ。今日も宜しくお願いします。」

今日もさわやかな笑顔を浮かべつつ、挨拶をして來きたのは、ここの教室長。相沢貴志さん。イケメン。

年、27歳と俺の年下にもかかわらず、既にこの教室のトップですよ。

健康的なさわやかさを常に欠かさない教室長は、趣味がテニスとこれまた、イメージにれない完璧っぷりで…その癖、変に偉ぶらない。けど、叱る所はちゃんと叱る。この年にして正に理想の上司だった。

こちらが、逆に恐してしまう部分もあるのに、絶えず俺の事を立ててくれるやり手だ。

さて、ここまで読んでくれた皆さんの中には、俺が今、何の仕事をしているのか気になる人もいると思うのだが…。ズバリ、塾講師である。まぁ、バイトだけど。

主に低學力層を中心に見る大手の個別型の指導塾だ。うちの教室は生徒の人數も多めで、席が40席以上ある。

學校の教室を思い浮かべてほしい。生徒の機の前と後ろにパーティションがあり、機の左側にはパーティションの壁がある。

右は通路になっているので機は半個室狀態だ。

先生は通路に椅子をもちこみ、生徒の橫に座りながら一人一人教えて行く。

先生一人につき、見る生徒は最大で3人。この3人と言うのが実に曲者で…時と場合によってはギリギリ回せないんだよね…。

まぁ、ここをけるにあたって、最初は絶対無理だろうなーと思って応募したんだよね。

一応理系と言いつつも、「方程式」位しか覚えてないし、英語とかアヒルさんのオンパレードな績だったし。

それでも、一応、昔から人に何かを教える事に興味があった俺は、一度やってみようと、清水の舞臺から飛び降りる気持ちで応募して試験をけたんだ。

…うん、自分がアホだったって気付いたのは試験をけた後なんだけどね。「2次関數」とか、あっさり忘れているし、「三平方の定理」とかなんでしたっけ?みたいな狀態だったよ。

テストが終わった後、思わず顔を覆ってしまった俺の気持ちもわかってくれるだろうか?

それで、來週からお願いしますって言われて、大丈夫なのか?この教室?って、本気で心配してしまったよ。後で聞いた話だと、數學の試験は8點…。酷いなおい!!しかも100點満點でね!!

それで何で俺を雇う気になったんですか!?って教室長に聞いたら、

「勉強はってから出來ますが、人柄はすぐには作れないんで…。佐藤先生なら優しそうだし大丈夫って思ったんですよ。」

と、イケメンにしはにかんで言われたら、でなくても撃沈ですよ。頑張る!俺、頑張るよ!と単純にも一生懸命勉強して、しでも教室の役に立てるようにお手伝いするようになって…。そんな俺も、3年経って、ようやくベテラン講師と呼ばれるようになりましたとさ。本當に不思議だね!

そんな訳で、革靴を指定の下駄箱にれて、今日の授業を確認…。ほう、今日は手のかからない良い子ばかりじゃないか。準備も特に手間が無いし、余裕がありそうだ。

何か出來る事があるか聞いておこう。

「教室長。今日は、授業前にやる事ありますか?」

「うーん、そうですね…。では、掲示り換えをお願いしても良いですか?」

そう言って、教室長はカウンターの上にある紙束を指さした。

「了解です。では、授業準備終わったらやっちゃいますね。」

「はい。準備が終わってからで良いのでお願いします。」

こんないつものやり取りの後、俺は授業準備をささっと済ませて、掲示の張替えを行っていた。

この掲示の張替えが実に面倒なのである。席が40席以上ある為、結構な時間を取る。

剝がしてっての繰り返しだ。こういう地味に時間がかかる割に、果が目立たない作業と言うのは、結構多い。

そして、どうしてもそういう仕事は皆やりたがらない。だから、俺はそういう仕事を率先してやるようにしていた。こういう作業の繰り返しが信頼につながるのだと俺は思う。

今では、教室長からの信頼をじるようになったしね。もっとも、自分ではたいしたことをしているつもりは無いんだけど…。

そんな事をつらつらと考えつつ、掲示り終わったころに、他の講師と一緒に生徒たちがって來た。

「こんにちはー!!」

今日も、戦闘開始だ。

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