《比翼の鳥》第3話:日常の続き
「サト先って、本當にダルマ貓先生に瓜二つだよねー」
クルクルと用にペン回しをしながら、擔當生徒が話しかけてくる。
ちょっと癖のついた髪を肩口までばし、切れ目のある狐の様な目をしたそのの子は、橋本代。
中學二年生のの子。俺の擔當生徒の一人だ。
アニメやBLの素晴らしさをとことんまで語って來るこの腐子は、他の先生ではついていけなかったらしい。
ちゃんと話さえ聞いてあげれば、やる事やるし、いい子なんだけどな。
最近は、あるバスケアニメのカップリングにご執心の様だ。…まぁ、強く生き抜いてほしい。マジで。
「あのキモカワ系と人類を一緒にしてほしくない訳だが…。っと、そこ間違ってるよ。」
ちなみにダルマ貓先生とは、うちの塾のイメージキャラクターだ。
ダルマのような形の招き貓に鉢巻と眼鏡を付けた何とも言えない殘念な仕上がりなのだが、生徒にはなぜか人気がある。
個人的にどこをどうしたら俺に似ているのか全く理解できない訳だが…。ため息をつきつつ、俺はチラッとノートを見て、間違いを正す。
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「え?どこどこ?」
「ほら、問1の②。多分、計算ミス。いつもの除算での癖っぽいから、気を付けて。」
「あ、ほんとだ…。ダルマ貓の癖にむかつく!」
「だから、先生様をよりにもよって畜生と同列にするな!次、同じ間違いしたら、宿題1ページ。もれなくプレゼントな。」
「鬼!悪魔!ダルマ!」
「何?10ページしい?」
「イヤ!真面目にやります。やりますったら!!」
「宜しい。間違えなければいいんだよ。間違えなければ…ね」
ククク…。と笑いながら言う俺をギロッと睨みながらも、橋本さんはしっかりと集中して問題に取り組み始める。そこで、か細い聲で「先生…」と呼ぶ聲がする。
「ほいほい。どうした?」
聲を掛けてくれた生徒の橫に、椅子を持って行き隣に並ぶ。いつも俯きがちなこの子は、今井ほのか。中學三年生。
今年験とあって、最近特に頑張っている。黒髪がつややかで、線はとても細め。目が綺麗で、頬にはしそばかすが目立つ。
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本人はそばかすが恥ずかしいらしい。そのそばかすがまた、何とも言えないらかさを出していて俺は好きなんだけどな。
とても靜かな子で、あまり自己主張はしない。學校ではもうし活発らしいのだが、なんでかこの子は塾では萎しているようだ。
と…し橫顔を見て、ある事に気が付いた。
「あれ?髪切った?」
今井さんはし、驚いたように目を見開いて、こちらを見た後に俯きながら、
「はい…。今日容院で…」
と、恥ずかしそうに話してくれた。
「へぇ。し癖をつけたのかな?良く似合ってるじゃないか。」
そういうと、ますます恥ずかしそうに、俯いてしまった。
おっと、し押しすぎたかな。この時期の子達は難しいからな。程ほどが一番だ。
って…なんか凄いタラシ発言に聞こえるかもしれないが、勘違いしないでほしい。
この時期のの子達は本當に敏なのだ。ちょっとしたことに一喜一憂する。そして、その神狀態は確実に勉強の集中力に跳ね返るのだ。
今は、まだ6月で、余裕のある時期だからよいが、これが験の近付く1月から2月にかけて顕著に表れる。
場合によっては、家出や、校暴力など、警察沙汰にすら発展する可能があるのだ。せめて俺の擔當する生徒からはそんな事態を引き起こしたくない。だから、俺は常日頃、生徒の狀態を外見も含め、よく見るようにしている。
そして、神的に追い詰められたときには、ちゃんと話を聞いてあげられるように、日ごろから信頼関係を構築できるように努力している。
その過程がこの會話だ。やっぱりこの年でもの子はの子。ちょっとした事でも気付いてくれれば嬉しいものだ。
間違っても源氏計畫とかじゃないからね?ホントダヨ?
「と、それで、どうしたの?分からないところある?」
今井さんは、ハッとした後、ノートを指さしながら「ここが…」とつぶやいた。
「ふむふむ…。臺車の問題だね。じゃあ、まず確認!キハジは覚えてる?」
コクコクと、首を縦に振る今井さん。
「んじゃ、それをちょっと書いてみようか。」
今井さんは俺を見た後、丸の中にTの字を描いたような図にキハジと書き込んでいく。
「そうだね。「ハ」と「ジ」はかけ算だからどっちに書いても下にあれば問題ないね。速度を求めるのは大丈夫かな?」
激しく頷く今井さん。
「じゃあ、次ね。臺車の問題だから、ポイントを押さえて行こう。まず…」
そうして、15分後には、問題を理解してホクホク顔の今井さんに次の指示を出した後、他の生徒を見に行くのだった。
「んで?どんなじよ?」
3人目の生徒の橫に椅子を置いて、そう問いかける。
「そりゃ、30分放置もされれば、すごい勢いでページも進みますよ。」
いきなり直球で嫌味を返すこの子は、川合裕子。高校1年。花の子高生だ。
驚くほどのモデル形で、足の長さが異常。何このスーパー子高生?とかかに思っている。いつもは良く笑い、いつも楽しそうにしている印象が強いのだが、さすがにちょっと他の人に時間を取られ過ぎて、放置時間が多かったのか、機嫌は斜めだ。
「いや…、それに関しては弁解の余地もなく申し訳なく…」
と、俺は潔く頭を下げる。あっさりと頭を下げる俺に、川合さんは、
「翼って、本當に偉ぶらないよね。俺は先生だぞー的なじで行かないの?」
と聞いて來た。
塾によっては、先生が生徒に頭を下げるのは舐められるので良くないという話もあるのだが、俺のキャラはなるべく、生徒と同じ視點で話しつつ、頼れる兄貴分もといオッサンを目指しているので、悪いと思えばちゃんと謝るし、基本的に飾らない。教室長もそのキャラを分かってくれているのか、あえて注意されたことはなかった。
「逆に聞くが、俺様萬歳な先生に授業を聞きたいのか?」
「死んでも嫌!」
即答だった。
「と言いますか、一応対外的には先生扱いなので、呼び捨ては勘弁してほしいわけだが。」
「そう言う所が弱いっていうのよ。まぁ、それが翼セ・ン・セ・イらしいところなんだけどさ。」
ペン先をこちらに向けながら、先生を強調して嫌味ったらしく言って來るが、その顔にはちょっと意地悪そうな笑みが張り付いている。先程よりは幾分機嫌が戻っているようだ。
「そこは、俺のキャラだからどうにもならん。遅れたことは、すまん。」
と、再度頭を下げつつ、
「で?何か分からんところはあるか?」
と、聞いた。
「無いわよ。私を何だと思ってるの?」
これである。実は、こんなじだが、川合さんは超が付くほど頭がいい。正確には良くなった。
中學三年の初めは、それはもう、酷いありさまだった。英語ではBe詞と一般詞の違いが判らず、數學では分數の計算問題すら解けず、理科では度が100%になったら世界は水沒すると本気で豪語する殘念な子だったのだ。が、そこからの努力が半端なかった。
毎日の様に塾に通い、しずつ解ける問題も増え、気が付いたら難関私立高校の過去問すら鼻歌じりに解くほどの才と化した。
が…三年の後半から本領発揮なので申が足りず、結局中堅どころの公立高校に行った訳だが、それでもって來た當初に比べれば、恐ろしい差である。
やる気になった子の力を目の前で見る事の出來た俺はラッキーだったのかもしれない。
と言う訳で、ぶっちゃけ塾に來る必要が無いほど良くできる子になっている訳で…正直、俺も教える事が無いくらいである。
「しかし、肝臓はここでしょ!とか、太ももを見せながら豪語していた子の臺詞とは思えんな…」
「ちょ!そんな昔の事とかどうでもいいでしょ!?」
「いやいや…言うようになったなぁと、激しているわけですよ。先生としましては。」
「あー!もう!そんな細かいこと忘れなさい!ほら!邪魔!他の子見てきなさいよ!」
「へぃへぃ。んじゃ、寂しくなったら呼んで下さいねー。」
「さっさと行け!」
そんなじで今日も授業は平和だった。
そんな調子で最後の授業も終わり、今は今日の報告書を必死に書いている訳である。
ちなみに、最後の授業が終わると、何時になっているか?塾に通った事のある人は分かると思うが、うちの塾では21時30分である。
そこから、生徒の個人的な質問を答え、どんなに遅くても21時50分には生徒を帰宅させる。
俺の子供の頃と生活サイクルがおかしいほど違う…。22時とか普通に死んだように眠っていた時間だ。今の子は今の子で々大変なのである。
その後から、報告書の記と言う名の地獄が始まり、なんだかんだで23時くらいにやっと一區切りつく…。
大學生の講師さん達は大この辺りで帰る訳だが、俺と教室長の一日はここから始まると言っても過言ではない。
「さて…教室長。やりますか…」
「佐藤先生。いつも本當にすいません…。出來る所まででいいですから。」
と、申し訳なさそうに頭を下げる相沢先生。まぁ、これくらいなら今日は日をまたぐ前に終わるだろう。
「んじゃ、ちゃっちゃと作っちゃいますかね。」
そう言いつつ、俺は名簿から、今月の模擬テスト日程と対象者をピックアップし、表計算ソフトに打ち込んでいく。
それを見栄えの良い形に形して、プリントアウト。後は、夏期講習の案書の作と、日程のたたき臺作り。ここまでが、今日のお仕事。日程表をるのは明日でいいだろう。
相沢先生はその間、本日の報告書を作し、教室の掃除を行い、新會の生徒の報を力、ファイルの作を行い、夏期講習の準備を行っている。
塾の仕事は本當に々ある。講師の仕事は生徒に教えるだけかもしれないが、教室を運営するにはそれはもう死ぬほど多くの雑務があるのです。
正直やってられるかー!!と思うほど。それを今迄は、教室長1人でとか鬼畜過ぎる。
せめてしでも負擔軽減になれば…と、手伝い始めてから気が付くと位置づけ的には教室長補佐。
しかし、バイト。故に、この作業に対する給料は出ない。あれ?なんか間違った?と思う事もあるけど、とりあえず社會人のように仕事をこなす事ができるようになって、嬉しい俺がいる。
妹様からは、「良いように使われてるだけじゃないの?」と言われるが、それでも良いかなーと思ってる俺は駄目なんだろうなキット。しょうがないじゃないか。何だかんだで、この教室好きなんだし!
ちなみに、仕事が終わったのは1時過ぎでしたとさ。トホホ…。
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