《比翼の鳥》第4話:日常の終わり
仕事を終えて、家路へと向かう途中。高層マンションの隙間から見える空が妙に明るいと思ったら、今日は満月だった。
丁度、天頂を過ぎて西寄りに向かった位置に仰ぎ見る事が出來る。流石にジッと見ていると首が痛くなる。
「しかし、今月も綺麗な満月だなー」
そう、人心地著いたとき、いきなりの耳鳴り。ついで、突然頭の奧から目の裏を抜けるようにガツンと毆られたような痛みをじた。
やばい…これは、あの頭痛が來るのか?俺がまともに働けなくなった一つの原因『群発頭痛』。いつもは明け方に來るのに…どうして…。
この頭痛、質が悪い事に、ある一定の法則はあるものの、いつ來るか全く読めないのだ。
しかも、痛み方が半端ない。目の奧が焼ける…いや、潰されるような持続した痛みが、いつ終わるのかも分からない位に延々と続く。
痛みの範囲も目の奧ピンポイントの場合もあれば、連鎖的に他の場所に飛び火したりと、バラエティに富み過ぎて、恐怖すらじる。正に、死を覚悟する痛みである。
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「まずい。けなくなる前に…薬…うぁ!?」
再度、波が來る。痛い痛い痛い!!目も開けてられないほど、涙が出て來る。思わずしゃがみ込む。流石の住宅街でもこの時間では人がいない。助けを呼ぶことも出來ず、痛みにのた打ち回る。なんだこれ!?こんなに急激に痛みがきたことなんて無いだろう!?
俺は混しつつ、激痛に思考を躙されていく。
俺が何をした!!そりゃ、仕事は満足に出來ないヘタレだけどここまで苦しむ必要があるほどの悪行なのか!!
いつもとは違い、今日の頭痛はより激しかった。特に左目の奧に激しい痛みをじる。それは、焼けた棒を目の裏に突っ込まれてグリグリされるように遠慮なしに痛覚を刺激してくる。
いっそ殺してくれ!!許してくれ!!頼むから!!涙を流しながらのた打ち回る。何分?何時間この苦行が続く?やめてくれ…もう駄目だ。楽になりたい…。
そう思った時、目の前が真っ白に染まった。
涙を垂れ流す目から見えるのは只々、白い世界だった。
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そして、俺の意識は白く塗りつぶされていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
頬をでる風が心地よい。ザワザワとさざめく葉れの音が心地よい。瞼を通して無遠慮にチラチラと押しって來るがし不快…。
「って、朝!?」
がばっとを起こすと、そこは森の中でした。
なんだこれ?どこだよここ?
々狀況は考えられるけど…。痛みにのた打ち回って、涙垂れ流した三十路のおっさんを拐して森の中に捨てる意味を誰かにに問いただしたい気分だ。
目の前が妙にかすむと思ったら涙を盛大に流した後だった。ハンカチで目元をぬぐう。あの殺人的な頭痛は綺麗さっぱりと引いていた。安堵と、頭痛がまたきたら…という恐怖が混じって俺ののを混沌とさせる。
これは…もしかすると、噂の異世界とか…。
あまりに非現実的な狀況に、一瞬そんなばかげた考えがよぎる。
「まぁ、何でもいいかな?まずは現狀把握が大切でしょ。」
自分を鼓舞するためそう一人つぶやくと、俺は周りをぐるっと見回し、調べ始めた。
まず、俺がぶっ倒れていたのは大樹の傍でした。
下から見上げても頂上が見えないほど大きな木を大樹と呼ばずにどう呼べばいいのか分からない。
幹の部分とか壁だよ壁。世界樹とかきっとこんなスケールだと思う。
幹の太さだけで、直徑20mとかあるんじゃないか?これ。
そして、何故か大樹の周りは一面芝生に近い何か。晝寢に最適のフカフカ。
大樹から100mほど離れた場所から突然森が広がっているんだよね。
何これ?誰が手れをしているの?っていうくらい等間隔で綺麗に整地されてる訳だ。
四方八方は森。木々に遮られて視界はほぼ無し。これは、分けったらまず出て來られない規模。
「困った…」
さて、本気で困った。木々がこれだけ整然と並んでいると、見分けがつかない。
森の中にってちょっと道をずれたら遭難は確実である。
そもそもサバイバル技能とか持つ訳が無い。ニートですし。
今は晴れているし、気溫も過ごしやすいじだから良いけど、夜になればどうなるかもわからない。
獣もいるかもしれないし火位は起こせるようにならないと不味そうだ。
更に、食糧の問題もある。今は得におなかがすいているようなことも無いが、これからどうなるか分からない…。
そこまで考えてふと、違和に気が付く。
「お腹が空いてない…?何で?」
そんな筈は無いのだ。
何せ、夜中の1時までノンストップで作業して飲まず食わずでの帰宅途中。頭痛からここに至る。
もカラカラで、おなかもペコペコだったのだ。それが、目を覚ました後から空腹が全くない。
俺がここに來るまでの記憶に何らかの欠落があるのだろうか?自分の事ながら記憶が無いというのは恐ろしい。
何と無しに、自分の腹をさすった。
そして、自分のの奧から何か得のしれないじをける。
清浄な森の空気を吸い込み清々しいこともあるのだが…それとは別に何とも言えない溫かみを持ったものが呼吸とは関係なく流れ込んでくる印象をける。
「なんだろう?何かが自分の中にって來る様な…」
今迄に無い、特殊な覚に意識を凝らしてみる。
その覚は非常に微細で、意識しないと分からない位だった。
俺は両手をお腹に添えながら、その流れを摑もうと目をつむり集中する。
やはり、何かが流れている様子がじられる。それは細い糸のようなものだ。
そして、その流れを追っていくと、どうやら大樹の周りから自分向かって流れ込んでくるようにじられた。
流れ込んだ何かは、俺の背中とお腹を中心に吸収されて、の奧底に沈殿するように一化していくじをける。
しばらく、そうして、流れを追っていくと、徐々にその先にある大きな塊のようなものをじられるようになった。
大樹の周りのその塊は濃だった。細い流れが集まり一つの塊をなしているようだ。
塊でありながら流的でまるで水が循環するような印象をけた。
それが大樹の周りを循環しているのだ。
より深くじようと意識を向けてみると、細かい支流が森の四方八方へと流れて行くようなじもあった。そして、はぐれた細かい支流の何本かが俺の中にって來る様子もじられた。なんぞこれ?
俺は夢中になって、々な流れを追ってみた。
何せ今迄に無い経験だ。しかも、小説に出て來る様な魔法っぽいじがまた俺の琴線を激しく揺さぶっていた。
最初は近くでないとじる事は出來なかったのだが、時間をかけるとその大きさや濃さで、どんなものがあるか分かるようになってきた。
例えば、小なんかが居るのがわかるようになった。
大きさは小さいものの、濃さが流れのそれよりも濃なので分かり易かった。
そして、それは小さなとを伴って認識する事が出來たのだった。
そのおかげで、ウサギや蛇、ネズミなどの小を見付ける事ができた。
もっとも、狩りのスキルなど無いのでそのまま見逃す事になったわけだが。
そうやって々と探っていると、突然、ある方向から反応がじ取れた。
大きさはそれほどではないが、その濃さが凄いのだ。正に輝く星の様に煌々と自分の存在を解き放っているのである。
「なんて綺麗ななんだろう…。」
思わず、呟くほど繊細で圧倒されるほど大きな存在だった。
真っ白なのに所々彩を変えるその存在は、月を思わせた。
靜かに、蒼蒼と、ある時は黃金に、ある時は赤く。
決して激しく雄々しいものではなく、控えめな、さりとて、無視の出來ない存在を持つ。
どんな生きがこのを放っているのか…。
そのは徐々にこちらに近付いてきている。待っていれば會える。
もし、危険な存在だったらどうしようか?と一瞬頭をよぎったが、こんなに綺麗なを持っている生きになら食べられても良いかなーと、馬鹿なことを考えるほど、俺の意識はそのに魅られていた。
そして、森の奧から現れたのは…
小さな天使だった。
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