《比翼の鳥》第3話:獣人族

レイリさんは、その瞳の奧に様々なを宿したまま、靜かに語り始めた。

「ツバサ様は、我ら獣人族が、人族からどういう風に見られているかはご存知でしょうか?」

俺はその問いに、リリーから聞いた事を伝える。

「そう、人族は私たち獣人族の事は人と認めていません。獣であると。だから、反抗する獣には容赦なく苛烈に接し、これをさなければならない。そういう思いに囚われております。」

そう言った後、レイリさんは、「愚かしい事です。」と寂しそうに呟いた。

俺は頷きをもって、それをけ止める。

確かに愚かだ。こんなにも誠実で、しかも見かけも麗しく、耳と尾まで付いている完璧なモフモフ集団なのに。

そんな俺の心境までは判らなかっただろうが、同意する様子を驚きの表で見つめると、し険しい表を崩し、

「ふふ。ツバサ様のように理解のある人族はとてもないのです。まったくいない…とは申しませんが、人族の意識を変えるほどの多さはおりません。」

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そうか…やっぱりないんだな。こんなにも素敵な外見なのに。やはりあれかな?國とか貴族とかの思があるのかねぇ。敵を作っておけば民意は作しやすいからなぁ。

そんな事を考えつつ、俺は、「なるほど…」と、呟き、その先の言葉を待つ。

「人族はそのような考え方ですので、殘念ですが我々獣人族はしばしば、人族の脅威に曬されるのです。」

何かが起こった…いや、今もなお、何かが起こっているのかは何となくわかってきた。

「この村は、度々人族の襲撃をけているんですね?」

その俺の問いに、レイリさんは頷くと、

「はい、仰るとおり、人族はこの集落だけでなく、他の獣人族の集落に対しても執拗に侵攻を続けております。」

愚かな。こんな所で戦爭なんぞしても、得るものはないだろうに。それとも何か得るがあるのだろうか?

或いは、それほどまでに禍深いか…何か事があるのか…?これはいずれ、人族の町にも行かないと判斷できないな。

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そんな思考に沈む俺をよそに、レイリさんの話は核心へと進む。

「我々は數もなく、この広大な森の中でお互いの部族の縄張りを尊重して暮らしております。結果として、拠點も離れてしまっているので、連攜を取るのが非常に難しいのです。そのため、數年前まで、我々は苦戦を強いられていました。」

それはそうだろうな。數で劣るなら正攻法では難しい。恐らく獣人族は的に人族より頑強なのだろうが、それでも數の暴力には勝てないだろう。ゲリラ戦を主軸に森に引き込んで戦えば、しはやりようもあるだろうが、森の奧地までられると、ジリ貧だ。特に、森に火を放たれたらどうしようもないだろうな…。異世界だろうがなんだろうが、戦爭の基本って変わらないんだなぁ。

しかし、今は平和なようだ。話しぶりからもそれは伺える…それを可能とした何かが話の本筋に関係しているのか?

そんな俺の思考をよそに、話は進む。

「12年前、我々は滅亡のふちにおりました。もう、これ以上戦線を維持できないという狀態へと追い込まれたのです。この集落も戦火の元に曬され、私の夫…リリーの父親もその戦火で、命を落としました。」

俺は眉をひそめながらも、話の続きをじっと待つ。

こちらの悲壯な話とは対極に、炊事場からは楽しそうに騒ぐ2人のの聲が聞こえる。

何を話しておるのやら…。まぁ、気分的には和らぐんだが。

「我々はそこで、最後の賭けに出ました…。その結果、私たちは何とか今日の安寧を手にれたのです。」

なるほど…何か戦況をひっくり返すほどの何かを投した…と。

そんな戦略兵級の何かってなんだよ…。何となく嫌な予がするなぁ…。

俺の表がわかりやすかったのか…それとも、何か思うところがあったのか

レイリさんはし自的な笑みを顔にり付けると、

「竜でございます。竜神、ナーガラージャ様の力をお借りして、我ら一族は辛うじて勝利を収めたのです。」

竜…さすが異世界…やはり竜もいるのか。しかも竜神ときたもんだ。そりゃちょっと見て見たいな…。

やっぱり、西洋のドラゴン型だろうか?それとも東洋の龍型だろうか?きっと空とか飛んで、ブレス吐きまくったんだろうなぁ。いつか會おう。よし、きっと會いに行こう。

そう思いつつも、俺はふと思った疑問を口にする。

「つまり…その代償が、今の狀態ということですか?」

その言葉に、レイリさんは靜かに頷くと、こう続けた。

「はい。この森にいる全種族。犬狼族けんろうぞく、貓族びょうぞく、卯族うぞく、翼族よくぞく、狐族こぞく、貍族りぞく、子族ねぞくからそれぞれ巫が集まり、力を結集してなんとか契約を結んだのです。」

「なんということだ…」

俺は思わず、そう呟いていた。

犬や狼だけでなく、そこまで多種多様な種族が存在している…だと!?

貓族…基本中の基本ゆえに外せない。語尾にニャンが付くか確認せねば!!

狐族…なんと言うことだ一番のモフモフ度を持つだろう種族だ!!絶対、尾に顔を埋めにいかないと!!

貍族…耳は丸耳なのか!?貴重な丸耳…モフりたいぞ!!

子族は…ねずみか!小柄な種族なのかもしれない。全モフれる種族かもしれないぞ!?

卯族…ウサギ!?生バニーだと!?けしからん何としても見に行かねば!!

翼族…翼が生えているだと…ヤバイ、翼に包まれて寢て見たい…顔はどうなっているのだろうか…?

俺の完全にベクトルがずれた呟きに、レイリさんは

「はい。その結果、現在この森はナーガラージャ様の守護結界によって、守られております。その対価に我々巫たちは、こうしてナーガラージャ様に魔力を貢いでいるのです。」

そうして、一呼吸置いた後、し悔しそうに

「しかし、殘念ながら我々巫の力も均一ではなく、私は比較的魔力のないほうでした…。そのため、このような醜態を曬すことになっております。このままですと、私は近いうちにお役目を果たせなくなるでしょう。そうなった時に、その役目が回るのは…」

そう言って、ルナと楽しそうに何かを話しているリリーへと視線を向ける。

「娘のリリーになるでしょう。狼族、犬族共に、魔力は全種族の中で最も低いのです。その中でも比較的魔力の高い我が一族のを引いているのは、もう娘意外におりません。」

そう呟くレイリさんの橫顔はとても苦渋に満ちた表をしていた。

「私が生きられないのはまだ、自分の選択なので悔いは…無いわけではありませんが、納得はできます。ですが…その辛さを娘にまで負わせることになるとは…。私はそれがとても無念でなりません。」

レイリさんは、自分の心境を恥じることなく、俺に話してきた。

それは親として誰にも吐き出せず、誰にも託すことの出來ない気持ちを俺に吐き出したという事だった。

きっと見かけ以上に、彼の気持ちは追い詰められているのだろう。

例えそれが、ある程度信用が置けるとじた人だとしても、いきなりポッと現れた怪しい旅人に、そんな思いを託すようなことは、普通しない。

そんな切実な親としての気持ちを、俺はけ取り、聲を発する。

「レイリさん。まさかここまで…自分の思いも含め、詳しく話してくださるとは思わなかったので、まずは謝を…」

俺はレイリさんに、深々と頭を下げる。

そんな俺の様子に、レイリさんは、「そんな、やめて下さい…ツバサ様。」とうろたえる。

その言葉を聞き、俺は頭を上げると、

「実は、お話をお伺いしたかったのは、レイリさんの調不良をなんとか解消したかったからです。そして、私は最初、その魔力供給を強制的に止める方向で対処を考えていました。しかし、それでは問題の解決が図れないどころか、悪化させてしまいます。ですから、別の手段を提案しようと思います。」

そうなのだ。実は魔力を吸収している式を、強制的にブロックすることはあまり難しいことではない。破壊していいなら一瞬で破壊することが可能だ。しかし、今の話では対価にこの森を守護してもらってるらしい。俺がこの式を破壊することで、森の守護を消すことになれば今の平和は簡単に破られてしまう。

そうしたら、今レイリさんが苦しむ以上に、沢山の獣人達が苦しみの中におかれることになるだろう。

俺は、なんとかして、獣人たちを救いたいと思い始めていた。そして、それには、この目の前で苦しんでいる母親を救わなければならないとわかっていた。

俺はそんな事を考えると、微笑みながらレイリさんに語りかけた。

「さて、別の手を提案する前に、一つ確認したいことがあります。恐らく、私はレイリさんの癥狀を回復することが可能です。」

そう言い切る俺を、正に驚愕した顔で、レイリさんは見つめる。

「しかし…正直、私は自分で言うのもなんですが…怪しいですよ?そんな私の言葉を信じて頂けますか?」

俺のその問いに、レイリさんは最初は戸った表だったが、し目を細めて笑うと、

「ツバサ様。私も巫の端くれ。人の良し悪しを判斷する力には長けていると自負しております。そして、娘もその一族でございます。あの子があそこまで懐いている方は、あなた方が初めてですよ?私も、そして娘もでしょう…あなたが悪しき存在であるとは到底思えません。それで私が例えだまされてしまったとしても、私に悔いはございませんよ。」

それはとても楽しそうに、そう言った。

俺はそんなはっきりと斷定され、なんとも言えずに頬をかくと

「そこまで言われてしまうと、頑張らないわけにはいきませんね…。」

と、肩をすくめてそう言った。

よし、では、治療を開始しようか。この優しい親子の笑顔のためにも…ね!

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