《比翼の鳥》第4話:治療

早速治療を開始したいところではあったが…

治療を開始する前に、俺は懸念事項について、先にレイリさんに尋ねておくことにした。

「では、早速治療を開始したいところではあるのですが…2つほど約束をして頂きたいのです。」

俺は、そう切り出す。

「はい…なんでしょうか?」とのレイリさん問いに、俺は提案した。

「一つは、これから私が行う治療魔法を見て、その技レベルを評価して頂きたいのです。」

レイリさんはし戸った表をしたが、「わかりました。」と頷く。

「もう一つは、もし、仮に…その技レベルがレイリさんの常識の範疇を大きく超えるならば…その事は決して口外しないで頂きたいのです。リリーにも言い聞かせて頂くことも含めてお願いします。」

この提案には流石に、レイリさんは訝しがった。まぁ、そりゃそうだろうが、とりあえず言質はとっておきたい。

「ツバサ様の意図は察しかねますが、わかりました。元より、恩人であるツバサ様の害となることはしないつもりです。娘にもちゃんと言い含めましょう。」

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そう言ってくれたので、俺は心ホッとする。これで、とりあえずはどうなるか判らないにせよ、全力で治療に専念できる。

ようは気分の問題ではあるが、後ろ盾があるのと無いのでは、やはり気持ちの持ちようが全然違うのだ。

「ありがとうございます。では、とりあえずの処置として、レイリさん、あなたの魔力を回復させます。」

いとも簡単にそう言う俺を、レイリさんはが空くんじゃないかって言うほど見つめる。

妙齢のにそんなに見つめられると照れるぜ…。というか、その程度でこの反応…先が思いやられる。

とりあえず…詳しく分析しよう。

俺は、分析用の魔法陣である【アナライズ】を起させる。

一瞬、レイリさんを包むように、球形の魔法陣が現れ、1秒もかからず消えた。

よし、完了。ふむふむ、やはりかなり弱ってるなぁ。

ふーん、レイリさんは火と風のハイブリッドか。金狼族はそういうものなのかな?まぁ、良いやデータ更新。

んじゃ、俺とレイリさんの間に循環経路の構築っと。うん、問題ないね。

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後は、俺の魔力を魔方陣を介して、レイリさんの魔力波長に合わせてっと。

うーん、あまり急激にやるとレイリさんの負擔になるから、外に吸い出されている魔力の1割り増し位でいいかな?

よし、まずはこんなものかな?

俺は一通り準備を終えると、レイリさんに聲をかける。

「レイリさん、では始めますが、心の準備はよろしいですか?」

そう問いかけるも、レイリさんはぽかーんとした顔で俺を見つめている。

「レイリさん?」ともう一度聲をかけると、「あ…ええ、はい。大丈夫です。」と何とか生還なされた。

うーん、この後大丈夫かな。今のだけでその反応はちょっと不安だな。

まぁ、いいや。この反応だけでも俺の魔法は匿が必須だとわかる。まぁ、々、驚いて頂こう。

式展開。」

実は特に発聲する必要は無いのだが、雰囲気は大事だ。

俺の聲と同時に、レイリさんと俺の間に、1枚の中型魔法陣が浮かび上がる。

丁度、座った俺の座高と同じくらいの直徑を持ったその魔法陣には、様々な記號と幾何學模様、そして、その緻な形に合わせてとりどりの彩が込められている。

その魔法陣は、俺の思い描いた手順を忠実に再現し、魔法を次々と構築、発する。

魔法が構築されるたびに、魔法陣はその姿を変える。それは正に萬華鏡カレイドスコープ。

最初は一つの魔法陣だったが、俺とレイリさんの間の空間には、既に數え切れない程、多くの小型の魔法陣が展開している。

それは、魔法陣の縁を沿うように回るものもあれば、融合・分離を繰り返し、自らの形を変えていくもの、俺とレイリさんの間を、積層しながら埋めていくものと様々なものがある。

そうこうすること、僅か5秒。の施行が完了し、魔法陣は次々と消えていき、後にはまたも意識を飛ばしているであろうレイリさんと、そんな彼と向き合う俺が殘った。

ふと気になって、リリーとルナの方を見ると、特にこちらのやっている事に気づいた様子は無く、なおも楽しく話をしているようだ。…と、リリーが視線を外したほんの一瞬の間に、ルナは俺の方をちらりと向いて、ニコっと微笑んだ。

さすがルナさん。俺が何やっていたかわかってるようだったな。全く、アフターケアも萬全じゃないか。本當によく出來た生徒だよ。

視線をレイリさんに戻すと、まだお帰りにならない様子。

うん、こうやってどっかに意識を飛ばした姿を見ると、親子なんだなと実できるね。なかなかレイリさんにもかわいいところがあるって事だ。もう、この際だからじっくり観察してよう。

いやー、流石に年を重ねた故の気みたいなものがあるなぁ。んで、調が悪いからだろうけど、その儚さがまたその気に磨きをかけている節があるんだよね。リリーと同じ金の髪の上に鎮座する耳はピーンと立ったままだし…。うん、ピクリともかない。尾もぺたりと地に伏したまま。あー、あのボリュームのある尾に顔を埋めてモフりたいなぁ。

そういえば、レイリさんの服裝なのだが、これがビックリ。著っぽいものなんだよね。襦袢はだじゅばんって言うんだっけ?あれに、一枚肩掛けを羽織るじだ。これも気を出すのに一役買っているね。

そんなじで、俺はレイリさんの細部までじっくりと堪能すること2分ほど。

ハッ!?といったじでレイリさんの意識が降りてきた。

そして開口一番、

「つ、ツバサ様!?今の魔法は…いえ、そもそもあれはなんですか!?魔法なのですか!?」

それはもう、元気に俺に問いかけてきた。

あまりに元気に飛びついて、俺の肩をユサユサと揺らし始めたので、俺は式の効果と、その功を知る。

今のところは俺の魔力を変換して、補充しているだけだから本的な解決になっていないが、まぁいいだろう。

俺の魔力の減りも全くといっていいほど無い。

うん、良かった良かった…と、相変わらずレイリさんに揺さぶられながら俺は喜んでいた。

そんなレイリさんの聲を聞いて、こちらに気づいたのだろう。

母の様子に目を丸くしたリリーが「お母さん!?」と驚きながらこちらに駆け寄ってくる。

「ちょっと!?お母さん!?どうしちゃったのよ!?ツバサ様に失禮でしょう!!」

そう言って、リリーは俺の肩を揺すっていたレイリさんを引き剝がした。

そんなレイリさんは、リリーに引き剝がされた後、俺をそれこそ々なえて見つめていたが、頭を振ると、しっかりと俺に視線を向けてきた。そこには、混した様子は無かったので、俺は言葉を発する。

「さて、とりあえず応急治療ですが終わりました。恐らく効果の程はご自が一番実していると思うのですが…。どこかおかしいところはありませんか?気分が悪いとかあったら、すぐに仰ってくださいね?」

その言葉に、レイリさんだけでなくリリーも俺を見る。リリーは今の俺の発言の意味を図りかねるようにだ。

レイリさんは自分のの様子を、もう一度確かめるように目を瞑ると、俺をしっかりと見據えた。

そして、スッと音も無く立ち上がる。その姿はまだ、若干の不安をじさせるものの、凜々しくしかった。

その様子を、事態を理解できていないリリーは、「お、お母…さん?」と、信じられないように見つめる。

そして、レイリさんはまたも、スッと音も無く座ると、「本當に…ありがとうございます。」と述べながら、三つ指をついて、俺に深々と禮をした。

それを見た俺は、うーん、ディーネちゃんも三つ指ついてたけど、やっぱ三つ指って、全世界共通の作法なんだなぁ…と正にどうでも良いことにしていた。

そして、このままにしておけないので、「気になさらず。けど約束は守ってくださいね?」と軽くお願いしておいた。

それをけて、レイリさんは「はい。」と笑顔で答えてくれた。これならきっと大丈夫だろう。

そんなカオスな狀態にルナが、炊事場から戻ってきて、「ツバサ、お疲れ様。」と笑顔でねぎらってくれる。

それに俺は、「後片付けありがとう。どう?々知ることができた?」と返す。

ルナはそれにし考えた後笑顔で頷いた。

とりあえず、全然全く理解できていないリリーは、俺らの様子を疑問符だらけの頭で、互に見つめる。

耳が「え?え?」ってじで互にパタパタ揺れているのを見て、俺は非常に和むのだった。

そんなちょっとした騒の後、レイリさんはリリーに事のあらましを説明した。

リリーは最初、レイリさんが回復に向かっていると言う事実を理解できないようだった。

そりゃそうだよな。「洗いしている間に、実は、治っちゃいました~テヘ♪」見たいな話、普通は信じられない。

そんな娘の様子に、困ったような嬉しいような微妙な表をしたレイリさんは、「しょうがないわね。」と言いながらスッと立ち上がると、炊事場の方に向かって歩き出す。その足取りに危なげな様子は微塵もじられない。

先ほどから、常にレイリさんの狀態はチェックしているが回復度合いが素晴らしい。この數分の間に、損傷し衰えていたが修復されていく様子がリアルタイムで見て取れる。正に神だ。元々魔力枯渇が原因だから、それさえ回復すれば問題はないって事か。恐らく、獣人特有の能力の高さも一役かっているのだろう。まぁ、テンプレが適用されていることが前提ではあるが。

レイリさんは、炊事場でテキパキと料理の仕度を始めると、魔法を使い水を出し、火をかけ、何かを調理し始めた。

ああ、なるほどね。魔法で料理の補助をしているのか。そうか、だから水源が必要ないのか。ほんと魔法便利だなー。

そんな母の様子をリリーは、「お母さんが…料理してる…」と、信じられないものを見るように見つめている。リリーさんや、耳が手旗信號をあげるごとく、上下左右に目まぐるしくパタパタしてますよ?なるほど、混するとこうなるのか。正にカオスなきだ。面白いな!

そんな混したリリーを目に、レイリさんは調理を終え、こちらへと歩いてくる。

その手にはし大きめのお盆。その上に木のカップが4つ。なるほど、落ち著くには良い手だね。

リリーは、微笑むレイリさんからカップを恐る恐るけ取ると、ジッとその中を見つめる。

俺もルナもお禮を言いつつ、同じようにカップをけ取ると、カップの中を興味深く観察し、ついで匂いをかぐ。

スッとした香りだなぁ。あ、これさっきの鍋にってたのかな?多分ハーブティー的な位置づけじゃないだろうか。

俺がリリーの様子を伺うと、リリーは匂いをかいで…「カムル茶だ…。」と呟く。

そして、恐る恐る一口。驚いたように「あ、お母さんの味…。」と一言。

リリーは、微笑むレイリさんの顔を窺うように見つめると、

「お母さん…治ったの?」

と恐る恐る聞いた。

そんなリリーに微笑みながら、「ええ、ツバサ様が治療してくれたのよ。」と優しく微笑む。

まだ信じられないように俺を見てきたので、俺は微笑みながら、「とりあえず、もう大丈夫だよ。」と頷いて応える。

そんな俺の言葉をけて、リリーは目に涙をためると、あっという間に決壊させた。

そして、レイリさんのに飛び込むと「おがぁざ~ん!!」と、堰を切ったように泣き出した。

そんな様子の娘に、レイリさんは「あらあら…」と微笑みながらも、その目の端にるものがあった事を俺は見逃さなかった。

ルナと俺は、カムル茶なるハーブティをすすりつつ、二人でそんな親子の様子を暖かく見守るのだった。

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