《比翼の鳥》第9話:理解

リリーは、男衆の話を聞くうちに、段々と事を摑めてきた様だった。その顔に困の表を浮かべている。

そして、男衆も、リリーの前ということと、俺が離れたところにいるという安心からか、ドンドン俺へのバッシングを強めていく。うん、君たち、あまりに想定どおり過ぎて、に似た親近すら覚えるよ。

けど、予想外だったのがリーダー(仮)の態度だ。先ほどから何かを考えるような、耐えるようなそういう様子でジッと腕を組んでリリーの近くに陣取り、皆とリリーのやり取りを見つめている。さっきの様子だと、真っ先に俺の悪口を並べ立てると思ったのだが…、意外だなぁ。

最初のうちは、リリーも、「あの…」とか、「いえ、それは違うんです…」とか、耳をへにょへにょさせながら、必死に説明しようとしていたのだが…、俺がティガを倒したのは噓だとか、自演自作だとかそういう話になったとたん、リリーが発した。

「皆さん!いい加減にして下さい!!なんでツバサ様の事悪く言うんですか!!」

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いつものリリーにしては珍しい態度なんだろう。皆、あっけに取られている。

リリーの耳も尾もピンと張りあがり、まさしく、「フー!!」っていうじだ。狼だけど。

しかし、怒ったリリーも良いなぁ…などと俺はかなり見當違いの方向でそのやり取りを靜観する。

「ツバサ様は、私がボス付きのティガ20頭以上に囲まれている中、単、自分のも省みずに助けにきてくれたんですよ!?しかも、そのまま10頭近くのティガとボスを一瞬にして倒した挙句、ボスを恭順させて窮地を救ってくれたのですよ!?そんな勇気のある方が、そんな力のある方が、どうして私を陥れるというのですか!!」

まぁ、普通の覚だと、あの包囲網に突貫するのは自殺行為なんだろうなぁ。もっとも、俺はあれが何頭になろうと何の問題もないわけだが…。

そんな俺のずれた覚とは対照的に、男衆に揺が広がる。

口々に「ボスつきだと!?」とか、「単で10頭!?」と、まぁ例にれず良い反応をしてくれていた。

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うん、第三者の視點でこういう話を聞くのは中々に楽しいな。あの中にいると、恥ずかしさで悶えそうだが。

そんな様子でギャーギャーやっていたリリーと男衆だったが、リーダー(仮)が、徐に口を開く。

「リリーお嬢さん。あの人族が… 「ツバサ様です!!」 ………ツバサ…殿が、ティガのボスを倒したというのは本當ですか?」

リリーの鋭い突込みがりつつも、落ち著いたようにそう質問する。若干、敬稱をつけるのをためらう辺り、心けて見えるがわかりやすくて良いね。そんな俺の思考を知るよしも無いリリーは、何故か得意げに、言い放つ。

「ええ、ベイルさん。間違いありません。あの金並み、そして莫大な魔力量。あれはボスの中でも特に強大な部類のものでした。」

「なに!?」というリーダー(仮)もとい、ベイルさんの聲と「え!?」という俺の聲がハモる。もっとも、俺の聲は小聲だし、距離もあるので誰も気がついていない。ちゅーか、あれで強大!?と、俺は別の意味でビックリしていた。

だって、俺の3次元軌道について來れなかったじゃない!獣の癖に!最期とか、摑まれただけでヘロヘロだったじゃないか…。あれで強いほうだとか納得いきませんよ?

そんな俺の揺をよそに、2人の話は進む。

「それに、ツバサ様はティガのボスを殺すのではなく、言葉を使って引かせました。獣にすらけをかけ、そして心を通わせるその姿勢。このような事、普通のお方ではできません。」

リリーははっきりとそう言った。つか、見てたのか…なんか意識飛ばしてたから、てっきり見てないものかと思ってたんだけどな。そう真正面から賛辭をけると流石に恥ずかしいなぁ。を見なくないから、その方が神的に楽だったからとか、後で報復に來られるのが面倒だったとか、もう絶対に言えない…。

そんな俺の葛藤を知らないリリーは更に話を進める

「それに…。私はこれが、最もツバサ様が信に足るお方だと思う最大の理由ですが…。戦っていたにもかかわらず、殺意がまったく無かったのです。あれほどの狀況下であっても、相手への殺気を纏わずに戦える仁がこの中にいるのですか?きっと、ツバサ様にとっては、あのティガーですら、出來ることなら救いたい対象だったのですよ?」

リリーさん。買いかぶりすぎて俺の株がどうなっているのか怖くて聞けませんよ。大暴落することが決定しているバブル末期の株のようじゃないですか…。

殺気も何も、俺はあの戦いのときも、ちょっと調子に乗ってヒーローごっこしてるくらいの覚だったんです。調子乗ってたんです…すいません!もう俺の心えぐらないでください!

そして、何故かそのようなリリーの言葉を聞いたベイルさんも、

「そうか…俺との戦いのときにも全く殺気をじられなかったのは、そういうわけだったのか。てっきり舐められているのかと思ったが…。戦いの中でさえ、俺の事を気にかけてくれたのか…。それだけのをもった方だということか…。」

何か、俺の知らないところで俺の像が神聖化されていく。やめて!?おじさんはそんな良い人じゃないの!?

ベイルさんの拳を避けてたのだって、そりゃ、可哀相ってのもあるけど、割れてしぶきが飛び散るのが嫌だったってのが大きいんだってば!

そんな俺の心をよそに、周りの取り巻き立ちも、「そういや、ベイルさんに一回もかすらせもしなかったな!」とか、「最後はあんなに派手に投げたのに、ベイルさん怪我してねぇな!」など、それはもう、好意的過ぎる解釈が次から次へと生まれていく。

いや、だから、皆してそんな清らかな敬意のこもった目で見ないでくださいよ!?居たたまれないじゃない!?

俺は、腕を組んで視線を皆から逸らしながらも、背中を汗でぬらしていた。それはもう、びっしょりと。

そんな俺の心は完全に蚊帳の外で、リリーも、「皆さん、わかってくれたんですね…」と、嬉しそうに耳をピコピコさせている。

俺の気持ちもしは分かって下さいよ。リリーさん。

そして、そんなよく分からない盛り上がりを見せる男衆を背に、ベイルさんはこちらにゆっくりと歩いてきた。俺はその様子にとりあえず姿勢を正す。もう、どうにでもなれと言うやけくそな気分が俺を支配していた。

ベイルさんは俺の前まで來ると、おもむろに膝を折り、俺の前に跪ひさまずく。

俺は、その様子を只々、見つめながらも、言葉を待つ。

「ツバサの旦那。勘違いとはいえ、こっちから一方的にご無禮を致しました。本當にすいやせん。」

ベイルさんは頭を垂れると、続ける。

誰が旦那だ、誰が。

「一時の激を任せてしまい、ツバサの旦那にご迷をおかけしましたが、俺は…先程の戦いで、ツバサの旦那の心意気にれました。俺では到底かなわないを持ったお方だとじました。」

その目はとても真剣で、流石に茶化す訳にもいかず、俺もその目の奧に宿る思いをけ止め、軽く頷く。

俺は、ベイルさんに目線を合わせる為、自分もしゃがみ込むと、ベイルさんと目を合わせながら、

「わかって頂けたなら、私はもう気にしませんよ。折角、言葉が通じるのですから、まずはちゃんと話しましょう?」

と、俺は微笑んで提案する。それに、ベイルさんは、そんな俺の様子に驚きつつも

「はい…、面目ない次第です。」

と、耳をシュンとヘタレさせて改めて頭を垂れる。

「私は、この通り人族ではありますが、獣人族の皆さんにはとても好を持っていますよ?リリーには、変だって言われましたけど。」

ちょっと肩をすくめながら、リリーの方に向かって言う。

リリーは、「つ、ツバサ様!?あれは…その…!?」と、ワタワタしながら、しどろもどろに言い訳を始める。

そんな様子のリリーを皆で眺める。不思議と周りの空気が優しくなったようにじられた。

俺はそんな雰囲気の変化をじながらも、

「ほら、あんなに可いのに。人族はなんで皆さんを嫌うのか、私が聞きたいくらいですよ。」

男衆の皆の視線を集めるリリーは顔を真っ赤にしながら、「可いとかそんな…!?」と、皆の視線をけて、完全に舞い上がっていた。それを見て、「リリーさん可いなぁ!ちくしょー!」とか、「困ったリリーさんも…イイ!!」などの発言が相次ぐ。

うん、俺もそれには心の底から同意だ!

俺はそんならかい雰囲気に包まれながら、

「皆さんが、リリーの事が心配でここまで來て下さったことも、凄くよく分かります。ですから、私も皆さんに信じて頂けるように、努力しようと思っています。そこで、できれば皆さんも、私の事を知って頂く努力をしてほしいのです。それで、仲良くなれれば素敵だと思うのですが…。お互い、いがみ合う種族の様ですが…たまには仲の良い例外があっても良いと思いませんか?」

そんな言葉を発した俺に、ベイルさんは食いるような視線を注ぐ。

俺は笑顔で、その様子を見守りつつ、立ち上がると、

「私は、佐藤翼と申します。連れのルナと共に、しばらくの間、この村…レイリさんの所で厄介になる予定です。ご迷をお掛けする事もあるかと思いますが、宜しくお願いします。」

男衆の皆さんに向かって、深々と禮をしたのだった。

そんな俺の言葉に、ベイルさんは、「かなわねぇなぁ…」とボソリとつぶやいた後、立ち上がり俺に右手を差し出した。

「ツバサの旦那。俺は、この村で若頭やってます、ベイルってもんです。分からない事があったらいつでも呼んで下さい。」

そんなベイルの右手をしっかりと摑み握手すると、俺は「こちらこそ宜しくお願いします。」と力強く答えた。

俺達の握手を見た男衆たちも、口々に、「よろしくな!」とか、「任せろ!」とか、「リリーちゃんはわたさねぇ!」とか、「私は誰のものでありませんよ!?」などなど、好き勝手に騒いでいた。なんかリリーの聲も混ざってた気がするがスルーしよう。

やれやれ、何とか綺麗にまとまったかな?と、俺は、勝手に盛り上がる集団を見つつ、息を吐くのだった。

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