《比翼の鳥》第12話:本心と元兇

「さて、レイリさん。単刀直に言えば、今の俺はレイリさんのお世話にはなれません。」

俺は、自分を飾る事をしだけやめることにした。なくとも、信頼できると思える人には誠実に自分の心を見せたいと思ったのだ。しかし、いきなり直球で否定する言葉に、レイリさんの耳が一瞬にしてへにょーんとなる。わかりやすいな!?

俺はその様子を見て慌てて、更に言葉を付け足す。

「勘違いしてしくないんですが、それはレイリさんが獣人だからとか、未亡人だからとかではないんですよ。全て、俺の心の問題です。」

そんな俺の言葉にレイリさんは首を傾げる。

「俺は…その、恥ずかしい話なのですが、自分に自信が持てません。それは男としてもそうなのですが、それ以前の問題として、人間として自分を肯定できない部分があるのです。」

そんな俺の告白に、レイリさんは、驚いているようだった。

俺はその顔をし困った様に眺めつつ、頬をかいて先を進める。

「俺は…昔、大きな失敗を何回も繰り返しまして、まぁ、自分の信じていたものを殆ど失いました。それからどうも、人間関係…特に異に関しては、恐れが非常に強くなりまして…どうも、そういうや、的なに関しては過剰に反応してしまうのですよ。」

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俺は、ふと、過よぎった過去の苦い思い出を思考の渦の中に無理矢理飲み下す。得も言われぬじった俺の表を、レイリさんはし心配そうな顔で見つめてくれていた。

こんな良い人すら、俺は心底は信じる事が出來ない…。きっとこの人は俺のそういう未な部分も含めて、れてくれるだろう。しかし、それを許さない臆病な俺がいるのもまた事実なのだ。俺って嫌な奴だな…と改めて苦笑する。

勢いで抱いてしまえれば、楽になるのだろうか?それとも、そんな軽はずみな自分を嘆いて更に自分に絶するのだろうか?前者だったらよいが、後者なら致命的だ。俺は自分の為にも、頼ってくれる人の為にも、軽はずみなことはしたくなかった。

ふと、ディーネちゃんの笑顔がよぎった。彼だったら心から信じられると斷言できる。心を直接わしてじた剝き出しの想いは、おそらくを何回重ねても得る事の出來ないものだったろう。

そんな思考の海に深く潛った俺を、レイリさんは不安そうに

「それでは、ツバサ様。私は…ツバサ様に認めて頂く事はできないのでしょうか?私の謝は貴方には屆かせることは出來ないと…そう申されるのでしょうか?」

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そう、嘆いた。その聲に、俺はし覚悟を決める。

そうして俺は、そんなレイリさんを自分でも驚く位、自然に正面から抱き締めた。

そんな俺の突然の行に、驚きと嬉しさのじる聲で、「ツバサ様…?」と、呟くレイリさん。

俺は、レイリさんのを抱きしめながら、しみだす様にゆっくりと、聲を出す。

「こうやって…しだけ甘えさせて頂くのも…俺には凄く勇気のいる事なんですよ…。母親にすら満足に甘えられない分でしたからね。今は…これで勘弁してください。」

そんな俺の様子に、レイリさんは「フフフ…」と、微笑むと、「今は母親の代わりでもかまいませんよ。」と、理解を示してくれたのだった。「けど、ちゃんといずれとして観て下さいね?」と、念を押して來る。

俺は、そんなレイリさんの言葉を真っ赤な顔で聞きながらも頷くと、なんとなしにレイリさんの獣耳をでる。

一瞬、レイリさんはピクッとを震わせるものの、「ふふふ…宜しければどうぞ…」と、し恥ずかしそうなじる小聲で続きを促してくれた。俺はそんなレイリさんにしだけ甘える事にした。しかし、なんでこうこの方はいちいちっぽいのか…。やはり俺にはハードルが高い気がする。

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レイリさんは、俺の背中に軽く手を回し、優しく子供をあやす様に、ポンポンと叩いてくれていた。たったそれだけの事で、自分の気持ちが安らぐのは何でなんだろうか…。そんな不思議な気分を味わいつつ、獣耳のを楽しむ。

やはり、獣人族にとって耳をでられるというのは気持ち良いのだろうか?先程までいていなかった尾が、ぱさり…ぱさり…と、布団の上で左右に揺れている。

俺は、そんな尾の様子を見て、恥心の代わりに、好奇心を深めて行く。

尾にりたい…。俺はもう一歩踏み出そうと決意する。

俺は、レイリさんに「尾ってってみてもいいですか?」と、恐る恐る聞いてみた。

聞いた瞬間、レイリさんが一瞬悩む様に、ピタッときを止めたが、直ぐに俺から離れ、後ろを向くと、恥ずかしさの混ざった聲で、「貧相なものですが…」と、尾を俺の目の前に持って來てくれた。

心もち、何かを期待するようにゆらゆらと左右に小さく揺れているその並みは、まだ褪せて所々パサついているものの、とても綺麗だった。

俺は、そんな気持ちをそのまま言葉に出すと、レイリさんは、もじもじと恥ずかしそうに、所在無げにしていた。

そんなレイリさんに好を抱くと、俺は尾を優しくなでる。

「…ぁ…。」とか、「…っ!?」というなんか艶めかしくも押し殺した聲が聞こえてくる気がするけど、俺はそれどころではなかった。

ああ、凄いな!これは!!このフカフカのモコモコなじ。けど、手ですくと、絡まらず抜けるように俺の手をでて行く。

正に、至高のだった。俺は優しく、しかし、大膽に、尾の隅から隅までをでまわす。

むぅ!この手り…素晴らしい!!尾の中心の質もらかくて、暖かい。球に近い中毒があり、プヨプヨとでまわす。

そして、俺はついに、我慢できずに尾へと顔をうずめて頬ずりをした。素晴らしい!いつまでもこうやって頬ずりしていたいだ!!心もち、レイリさんの甘い香りがじられる気がした。

暫く、そうやって、至高のに酔いしれていたのだが、トサッと、レイリさんが橫に倒れ込む音で我に返る。

俺が慌ててレイリさんを抱き起すと、そこには、頬を上気させ、何とも幸せそうな満足した顔で眠るレイリさんの顔があったのだった。

…あれ?もしかしてやり過ぎた?とじたのは後の祭りである。

そうして、布団にレイリさんとリリーを寢かしつける。右から、ルナ、俺、レイリさん、リリーの順である。

何となく、俺の橫にリリーを置いておくと、朝起きた後凄い事になりそうなので、彼神衛生の為にも、俺から一番離しておくことにした。

一瞬、居間で寢ようかと考えるが、これも修行だと割り切って、俺はルナとレイリさんの間に収まる。

俺は橫になって、しばらく考えていたが、ふと、左腕に暖かくもらかいじ視線を向ける。

そこには、ルナの幸せそうな顔がドアップで映し出されていた。

ひぃ!?近い!?近いよ!!ルナさん!!っていうか、なんで、今まで行儀よく布団にってたのに、俺が橫になった途端、飛び付くように俺の腕をホールドするかな!?

俺は、ルナの綺麗に整った顔を凝視しつつも、そんな焦りのに支配されていた。

いや、焦るな…俺!!今までとは違う!そう、俺はれる為に頑張るのだ!!逃げるのではない!!

この左腕にあたる、らかいも、俺の顔をくすぐる、甘い吐息も全て優しくけ止める為…の訓練…なのだが…。

んがーーーーーー!!!そんな簡単に慣れるか!!コンチクショー!!!

機が収まらんわ!!顔がほてってどうにもならんわ!!俺の未さがそんな簡単に覆せるか!

俺は、心でそんな事を絶しつつ、結局、眠れぬ夜を過ごすのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

夢を見た。

うつ病を発癥した俺は、2年間の投薬治療の後、社會へと復帰した。

別の會社だったが、同じIT系。サーバーの管理を行うその會社に派遣された俺は、その部署で彼と出會う。

人でもなく、仕事ができるわけでは無かったが、一生懸命な子だった。

慣れていない仕事を頑張って覚えようと、努力している姿に俺は応援したくなった。

分かる範囲で、俺は彼の質問に答え、落ち込む時は勵ました。

淡い心に似た気持ちもあったのかもしれない。

の前だから格好付けたい気分もあったのかもしれない。

そして、そんな俺に対して、彼も親しげに優しく接してくれていた。

…そう思っていたのは俺だけだったと知ったのは直ぐ後だ。

俺は、突然上司に呼び出されると、こう告げられた。

に俺が噓を教えた事で、トラブルが発生したと。

そんな!俺のミスで彼にまで迷をかけてしまったのか!?

俺は、後悔と申し訳なさのじった念を抱いた。しかし、上司の話を聞くうちに、どうも話がかみ合わない事に気が付いた。

話をまとめると、俺の教えた事ではない話でミスを引き起こしていたのだ。俺には全く関係のない話だった。

俺は一瞬、その事を訴えようか迷ったが、幸いにして直ぐにリカバーできたとの話だったので、俺はその件を呑みこんだ。

これが、今にして思えば完全に失敗だったのだ。

そして、そこからである。職場の皆の態度が変わったのは。

俺は無能の烙印を押された。

何故か、當事者である彼にすら、事あるごとにののしられる始末。

曰く、俺のせいで間違った。自分は何も悪くない。

曰く、俺の言う事は信用しない方が良い。

曰く、俺は噓をついて人を騙すのを楽しんでいる。

等々、そんな噂がそれとなしに飛びっていく。

俺の事を庇ってくれる後輩もいた。新人の男だが、とてもまっすぐで卑怯なことが大嫌いな奴だ。

俺は、そんな風に庇ってくれる後輩に謝をしつつも、巻き込まれたら大変だから、あまり関わらない方が良いと言っていた。

ある日、そんな後輩が辭めたと聞いた。

慌てて連絡を取ると、「すいません…あんな會社にもう居たくないんです。」

そう、泣きながら謝って來た。俺も泣きながら謝った。俺が巻き込んだせいで彼まで傷つけた。

俺は、後悔した。しかし、それだけでは到底納得などできようもない。

俺は彼を呼び出すと、何か知らないかと聞いた。

そこからとんでもない事を聞くことになる。

「ああ、あいつ、あんたの事庇うから、チームのみんなでハブってやった。」

俺は、なんでそこまで俺を敵視するのか?と聞いた。

そもそもミスの一件は俺とは関係ない事を知っている筈だろうと。

「そんな事関係ない。あんたが悪い。全部あんたのせい。」

「なんで、あんたまだいるの?良くいられるよね?さっさと辭めてくれません?」

「元々、あんた、鬱陶しいから、嫌いだったんだよね。」

「ペコペコしちゃってさ。人の顔窺って、気持ち悪いのよ。」

「勘違いしちゃったの?馬鹿じゃないの?あんたなんか相手にする人いるわけないじゃない。」

最期に彼はこう言い放った。

「あんたがいると、會社の雰囲気悪くなるからさっさと辭めてよ。もう顔も見たくないし。」

事実、俺は完全に會社から締め出される形になっていた。特にからの嫌がらせが執拗だった。

にこやかにお茶を持って來たと思えば、その中には蟲が浮かんでいた。

これ見よがしに、お菓子などを持って來たと思ったら、俺の分は當たり前の様に無かった。

いつも、こちらの方をチラチラ見ては、侮蔑の籠った目で、聲で大笑いしていた。

俺がミスをすれば、喜んで皆に言いふらしに回った。

ロッカーには、時々どうやったのか鍵がかけられて、が取り出せなくなっていた。

仕方がないので事務課に鍵について相談に行くと、更に侮蔑と軽蔑のまなざしを向けられる。

そして、彼達の影響力は上司にも及んだ。

飲み會にはわれなくなった。仕事も回されなくなった。そもそも、報が來なくなった。

その癖、責任だけは俺のせいにされた。

メールも無い、口頭での通達も無し。こちらから言っても待機としか言われない。

窓際族って言葉があったけど、あれって現実は壯絶だな…と俺はじた。

そして、俺は、日常的に彼の笑い聲と、侮蔑の言葉を常に聞くようになった。

ああ、これは幻聴なのだろうと分かってはいた。2度目だからすぐに分かった。

徐々に薄汚い笑い聲と侮蔑が俺の心を侵食していく。

使えないやつ。存在意義などあろうはずもない。むしろ、生きる事が害悪。

「「「「死んでしまえ…」」」」

何とも甘な言葉が俺の脳髄を揺さぶる。

信號のもわからないまま、俺は橫斷歩道に飛び出したいに駆られる。

そのに抗うことなく、ふらふらと、俺は道路に飛び出す。

大きな黒い影が俺を塊に変えようと嬉々として迫って來るのをじる。

ダンプカーなのか、列車なのか…なんなのかは分からなかったが、俺はどうでもよかった。

早く楽になりたかった。

その影が俺を覆い盡くすその瞬間。

「「「 ツバサ ― お父様 ― 父上 は…私達が守る!!」」」

闇を切り裂き、発した。

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