《比翼の鳥》第17話:試練の前に

「ツバサ様。霊…とは、どのような存在かご存知でしょうか?」

突然、レイリさんがそんな事を聞いて來る。俺はディーネちゃんに聞いた事を思い出しつつ、

「そうだな…。まぁ、人の隣人とも言える存在で、人の魔力を糧として生きる者かな?」

そんな風に答える。それを聞いたレイリさんは、「その通りでございます。」と、頷くと

「そして、霊様は、めったに見る事は葉いません。それは絶対數がないのもそうなのですが、彼らは警戒心がとても強いのです。」

そうだったかな…。魔力の撒き餌をすれば、すぐに寄って來る程度の認識しかないんだが…。実際、ルナだって機嫌が良い時は知らずに霊を纏わせてるくらい近な存在だったしなぁ。

俺のそんな表を読み取ったのか、リリーが口をはさむ。

「ツバサ様。私も良く森に出かける事がありますけど、霊様にお會いしたことは、今迄に3度しかありませんよ?しかも、私が近寄るとすぐに消えてしまいましたし。」

そんな風に、ちょっと寂しそうに耳を垂らしながら言う。ふむ、リリーだったらきっと霊に好かれると思うんだけどなぁ。魔力がない事が影響しているのだろうか…。

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しかし、リリーの言う事を考えると、霊にとって俺の魔力がよっぽどおいしいんだろうな…。ディーネちゃんも大人の味って言ってたし。ルナもルナでデザートらしいから、その関係で霊が寄り易いんだろうなぁ。

そんな事を考えつつも、俺はさらっと事実を述べる。

「んー、まぁ、霊自は俺やルナにとっては近な存在ですからね。向こうから勝手に寄ってくることも良くありますし。」

そんな俺の何気ない一言に、リリーは息を呑む。レイリさんは、「やっぱりそうなのですね…」と、重く呟く。

はて?何がそんなに問題となるのか…いまいち著地點が見えてこないなぁ。

暫く、レイリさんは考え込んでいたようだったが、決意したように面を上げると、

「ツバサ様、ルナ様、この村の長老達に會って頂けないでしょうか?」

そう切り出した。俺は、いずれ會うつもりだったし、全然問題ないのだが…。つか、複數いるって事は元老院みたいに、何人かで統治しているんだなー。てっきり、金の王様がいるのかと思っていたのだが…。

しかし、どうにもレイリさんの表い。今の話からするとうちの子の事が何か関係しているようだ。そう考えると、し慎重にならざるを得ない自分がいる。

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「レイリさん、この村の長と會うのは良いのですが、何故そのように考えたのか聞かせてくれませんか?俺自、なんでレイリさんがそこまで仰々しく構えるのか、不思議でならないんですよ。」

先程からの、レイリさんの真剣な様子をじ取っているのだろう。俺の肩とルナの掌に鎮座する我が子達も、心もち不安そうだ。

そんな俺の言葉をけて、レイリさんが口を開く。

「ツバサ様。先程も申した通り、私たちにとって霊様は敬意をもって対するものであり、近な対象ではありません。言うなれば、信仰の対象…に近いものがあります。」

ああ、なるほど…。何となくその言葉で俺は理解する。

「つまり、そういった信仰の対象を付き従えてしまっているのが問題なんですね?」

そんな俺の言葉に、レイリさんは一瞬驚くと、「その通りでございます。」と、微笑みながら答える。

リリーは、俺とレイリさんのやり取りを見て疑問をじたのか口をはさむ。

「お母さん。ツバサ様は確かに凄い事してるし、此花ちゃんや咲耶ちゃんが霊で驚いたけど、なんでそれが問題になっちゃうの?」

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獣耳をピコピコかし、不思議そうにするリリーの言葉に、レイリさんは「皆がリリーみたいに思ってくれればいいのだけれどね…」と、娘の純粋さを喜ぶように頭をでる。

うん、リリーみたいな良い子ばかりなら、問題にはならないのだ。問題は、事実を曲げて解釈された場合にある。

「つまり、霊を使役している…。もしくは、場合によっては隷屬させていると取られることが問題なんですね?」

その言葉に、レイリさんは黙って頷いた。

つまり、信仰の対象でもある霊様を、ずるがしこい人族が、強制的にいう事を聞かせている…。と言う構図にされるのが不味いのだ。

実際、獣人族から見て、人族の評価はすこぶる悪い。言いがかりには持って來いの材料だろう。

もっとも、言いがかりではないのかもしれない。過去に霊大戦などと言う忌々しい爭いを生み出した位だ。今もその様に霊を束縛するものが無いとは言い切れない。

「此花ちゃんや、咲耶ちゃんをツバサ様が託・さ・れ・た・ことで、その様な言いがかりをける事は十分に考えられます。なので、ツバサ様、ルナ様には、師の認定をうけて頂きたいと思っております。そして、その試練を行うには、長老全員の許可が必要となるのです。」

ん?今なんか違和じる発言が出たが…レイリさんもしかして勘違いしてる?

うーん、まぁ、別に今の所、大した問題ではないから良いのかなぁ?場合によっては訂正しないとな。

しかし、師か。なんかいい響きだね。そういう資格みたいなものを取る事で、牽制しようという試みだな。納得できる話だ。長老たちからのお墨付きが頂ければ、なくともこの村の中での問題は抑えられるだろう。

俺はレイリさんの考えを理解すると、了承の意を伝えるべく聲を発する。

「分かりました。そういう事であれば、是非お願いします。俺は、できればこの村の人たちと…ひいては他の部族の方々とも仲良くなりたいですからね。その第一歩に必要であるなら、努力は惜しみません。」

「ルナも頑張るよ!此花ちゃんや咲耶ちゃんと外で一緒に遊びたいもん!ね~?」

ルナも、俺の言葉に同調するかのように決意を述べる。そんなルナの言葉に、わが娘たちも嬉しそうにピュイピュイと鳴き聲で賛同を示す。

しかし、この姿だったらルナはいつも通りにご機嫌なんだな?やっぱり人型を取った時だけなんだな…嫉妬心が芽生えるのは。これは、ルナの心が落ち著くまでは、鳥型でいて貰った方が良いのだろうか?

俺が、そんな思考をしていることを読んだのか、わが娘たちはしきりに不満の波をぶつけてくる。

しかも、鳥型でピピィ!!とかキュルゥウウ!ってじで威嚇しているし…。つか、喋れるでしょ!君たち!言いたい事あったら言葉を発しなさいよ…。

しかし、そんな俺の心を知ってかしらずか、娘たちの攻勢はやまなかったのだった。

そんな姿を見て、リリーは怒っている2人も可いなぁ…と、ウットリした様子で見つめていた。止めて下さいよ…マジで。

とりあえず、朝食を取ってから、長老たちの元へと向かう事になった。

ちなみに、今日の朝食は何かの穀らしきものを練って焼き上げたお焼きと、なんだかわからない菜類と青菜っぽい何かを茹でただった。

お焼きは、まんじゅうに近いがあるのだが、如何せん中に何かっている訳でも無いので、し大味だった。逆には、なんだかよく分からない出だしが出ているらしく、コクとうま味が深いもので、とても味しかった。思わず2杯ほどお代わりをしてしまった。

食事がいらないのに、なんとも贅沢なだ。もしかしたら、無理させてしまっているかもしれないから、機を見て食材を調達してこようと心に決める。

食事が終わって、一休みした後、俺とレイリさん、ルナの3人は長老に達に會うために出かける事となった。

リリーと、此花、咲耶はお留守番である。

此花と咲耶が別れ際に出した、なんとも悲しそうな鳴き聲が心に刺さる。

ついでに、なんでか妙に悲しそうなリリーの姿も焼付いた。主に獣耳の垂れっぷりが…。

みんな!早く師になって、帰って來るからな!と心で誓うと俺達は、出立した。

まずは、レイリさんを先頭に、広場へと向かう。

そんな俺達を、通り過ぎる人たちが皆、凝視する。

一番の原因は、レイリさんだろう。

今日のレイリさんはとても綺麗だった。日のを反するその艶やかな髪に、尾。

獣耳と尾は心もち、気分よさげに、ふりふりといている。

先日の生気の無い顔とは違い、生命力に満ち溢れた笑顔がそこにはあった。

そんなレイリさんの変貌とでも言うべき変化に、皆驚いているのか、純粋にそのしさに見とれているのかは分からない。

そんな風に、村人の視線を集めつつ広場の口へと差し掛かった俺達に、唐突に立ちふさがる影が3つ。

何とも、品のなさそうで、頭の悪そうな笑みを浮かべた獣人族の若者たちだった。

並みは、金、銀、茶と、メダルの1~3位が揃っていてバランスの良い配だ。狙ってやっているなら、ひねりくらいはやっても良いんじゃないかと思う。

もっとも、その艶が、ぼっさぼさで、がっかりなじだが。

先日來た男衆より、更に著崩して殆ど服のをなしていない。本當に殘念だが、それが更にアホっぽさに拍車をかけている。

俺等の進路塞いだ3人組は、何が楽しいのか「ヘッヘッヘ…」と笑いながら、値踏みするような視線を向けて來る。

うーん、この雑魚で殘念なじは酷いな…。と俺は思っていた。勿論、口には出さないよ?大人ですから。

そんな道を塞いだ3人組に、レイリさんは表を消したまま、「何か、ご用でしょうか?」と、問い掛ける。

それに、金並みをした獣人が、ニヤニヤとした表のまま答える。

「あんた、レイリさんだっけ?悪くしてんだろ?そんな人族、放っておいて、向こうでし休もうや?」

そう言いつつ、レイリさんのを舐めまわすように見つめる。

そんなやり取りを、俺は楽しそうに…、ルナはキョトンとした顔で見つめている。

俺はそっと、ルナに、「これはね…ナンパって言ってね…」と、説明を始めた。

その様子が気にらなかったのか、茶の獣人が、「んだ!てめぇ!」とか、凄んできたが、俺は無視して、説明を続ける。

そんな俺の様子がおかしかったのか、レイリさんは、「ふふふ…」と、口に手を當てて笑うと、次の瞬間底冷えのする目で金の獣人を見つめ、

「坊や…。おままごとはお家に帰ってから、お友達としてなさい。私たちは、先を急がなければならないので失禮するわね。」

と、歯牙にもかけず、通り過ぎようとする。

そんな様子に怒ったのか、金の獣人が「おぃ、ちょっと待てよ!」と、レイリさんの肩を摑もうと手をばす。

しかし、その手はレイリさんの肩に屆く前に、突然現れた炎の壁に阻まれて、屆かなかった。

の獣人は、「うぉあ、あち!」と、けない聲を上げ、手を引っ込める。

そんな様子を、汚いものを見るかのように、レイリさんはチラリと、目を向けると

「いい加減、坊やたちは帰りなさい。火遊びするにはまだ早いわよ?」

と、壯絶な笑みで彼らを見據える。

おう、流石、大人のだ。あんな笑い方は、苦労を知っているにしかできないね!!

ちょっと、そんな魔の笑みに俺はし惹かれながら、そんな様子を見守る。

ふと、レイリさんは俺が見ていることに気が付いたのか、俺と視線が絡まると

「あらやだ…恥ずかしいわ…。」と、頬を染めて顔をそむけてしまう。

更に、獣耳はへにょへにょに伏せながらもピクピクといていたし、尾もふっさふっさと左右に揺れていた。

何その可らしさ。反則でしょ?と、俺はちょっとをキュンとしながらそんな可いレイリさんを堪能した。

しかし、それが良くなかったのだろう。

完全にコケにされた挙句、可いレイリさんを目の當たりにして、完全に八つ當たり気味に俺にターゲットが移った。

「んだぁ!てめぇ!何ニヤニヤしてる!」

と、完全に言いがかりともいえる発言をする、と問答無用で俺に襲い掛かる。

俺は一瞬どうしようかなぁと、思ってしまったのだが、これがいけなかった…。

そう、忘れていたのだ…ルナの事を。

俺に危害を加えようとした3人を見た瞬間、ルナのリミッターが外れたのが分かった。

一気に魔力が膨れ上がる。

「ヤバい!!!」

俺は咄嗟に、最大級の防魔法陣を構築する。チンピラの3人に向かって。

一瞬の差で、俺の防魔法が発した。

その一瞬後、何百と言う氷の槍が3人に向かって突き刺さる。

それはもう、正に機関銃の掃の様だった。

俺の防魔法は、ルナの苛烈な攻撃に1秒間に何十と言う悲鳴を上げながらも、辛うじて防ぎ切った。

魔法の衝撃とその余波で、周りはもうもうと煙に覆われていたが、それも徐々に晴れて行く。

その後には、もちをついて失した男たちがいるだけだった。

良かった…本當に…。ルナに人殺しをさせずに済んだ。俺はそれを自分の事のように喜んだ。

そんな俺は、そっと安堵の息を吐き出すと、ルナを抱きしめ、

「ルナ…。人殺しは駄目だよ…。俺も、レイリさんやリリー、それに此花や咲耶、皆悲しむ。頼むから、もうこんなことはしないでくれ…。」

俺は、震えながらルナにそう語りかける。

怖かったのだ。俺のためにためらいも無く、人を殺してしまいそうな、そんな純粋なルナの心が…。

俺を理由に人を殺させることに、おれ自の心が耐えられなさそうだった。

それが俺の裁を保つためだろうが、単なる偽善であろうが、関係ない。嫌なものは嫌だった。

そんな俺の心の葛藤と苦悩をじたのだろう。ルナは息を呑むと、「ごめんなさい…」と呟き、泣き出した。

そんな俺達の様子を、レイリさんは優しい顔で、見守ってくれていたのだった。

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