《比翼の鳥》第18話:金狼族の長老

靜かに俺ので泣くルナを、俺は優しくあやし続けた。

俺のエゴで、この子を本當に何度も泣かしている。酷い男だと自分でも思う。

ひとしきり泣いて落ち著いてきたのだろう。ルナは俺の目を覗き込むように見ると、「もう大丈夫…。」と、言った。

改めて回りを見ると、遠巻きに人垣ができるほどの人數が集まっていた。

しかし、その表は一様に怯えや、恐怖、警戒と言ったに彩られていた。

俺はそんな聴衆に対し、悠然と構え佇むレイリさんに目を向けると、頭を下げる。

「レイリさん、お騒がせして申し訳ありませんでした。ルナももう大丈夫です。」

そんな俺を、本當に綺麗な目で見つめると、ちょっと困ったような顔で、「こちらこそ、村の者が失禮を致しました。」と、申し訳無さそうに言う。

そして、落ち著いたルナが、おずおず…と言うじで、レイリさんの前に立ち、「ごめんなさい…。もうしません。」と、頭を下げる。そんなルナを、レイリさんは本當におしそうに自分のへと埋めると、

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「ルナ様…。人の命を簡単に奪っては駄目ですよ?それをして悲しむのは周りの人なのです。」

と、俺の言った事を、再度言い聞かせるように言うのだった。

ルナがそんな言葉に、レイリさんのの中で頷くのが見えた。

…あの綺麗なの中に埋もれたいとか、ルナ羨ましいとか思ってないよ?本當だよ?

そんな俺のじたのか…レイリさんは、ルナを優しく抱擁から解き放つと、

自分のを強調するように下から両手で支え上げ…

「ツバサ様も如何ですか?」と、小首をかしげ、それはそれは楽しそうな笑みで問うてきた…。

その瞬間、人垣からどよめきが起こったのは言うまでもない。

「なんですか…そのおいは…。そんな高等なプレイ、俺にはできませんよ…。やるなら人の見ていないところでお願いしますよ…。」

俺は、余裕ぶってそう応える。もちろん、虛勢だ。もう、溫が急上昇するのが自分でもわかる。

しかし、レイリさんは本當に楽しそうに、「では、この続きは家に帰ってからにしましょう。」などと嘯うそぶく。

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その瞬間俺に、両手では足りないほどの殺意のこもった視線が突き刺さるのがわかった。うわ…これは酷い…。

ああ、発しろって言われる側に來るとはな…。俺はそんな微妙な慨を抱きながら、レイリさんやルナを連れ立って、その場を後にするのだった。

人垣を抜けてすぐに、「ツバサの旦那!」という聲に呼び止められる。

俺をそんな呼び方をする人は、一人しかいない。

俺は、振り向くと、「ベイルさん、こんにちは。」と、聲を返す。

ルナはそんな俺に、合わせてぺこりと頭を下げる。

そうか、ルナは會った事無いもんな…。俺はそう気づくと、ルナに簡単にベイルさんを紹介する。

ルナは、ちょっとおずおずと、ベイルさんに、「ルナです。よろしくお願いします。」と、ぺこりと頭を下げる。

そんなルナに何かをじたのか、ベイルさんは顔を赤くしながら、「あ、あー。ベイルです。よ、よろしゅっす。」と、噛みながら挨拶する。こら、ベイルさんや。リリーはどうした!?ルナはやらんぞ!

レイリさんは、そんな俺らのやり取りが終わるのを確認すると、ベイルさんに聲をかけた。

「ベイルさん、久しゅうございます。いつも、リリーがお世話になっているそうで、ありがとうございます。」

丁寧にお辭儀をするレイリさんに、ベイルさんは、焦ったように、「いや、そんな、大したことは、やめてくだせぇ!」と、手を振りながら照れまくる。そんなベイルさんの様子をレイリさんは、それはもう本當に楽しそうな笑顔で見つめる。まぁ、ニコニコと言うより、ニヤリッてじだけどな!レイリさん、何か怖いっす!

やはり、親だからだろうか。リリーのことになるとレイリさんの過激さが一段上がる気がするな。

まぁ、良い意味で作用していれば良いんだろうが…どうも、俺の中では暴走しているイメージしかないんだけど…。

俺がそんな事を考えていると、「そうだった…」と、前置きしたベイルさんが

「レイリさん、ツバサの旦那、大丈夫ですかい?なんでもガレフの手下共に絡まれたとか…」

と、心配そうに聞いてくる。

ガレフ?誰よ?と思ったが、レイリさんが、「自警団を気取る荒くれ共の頭ですわ。」と、も蓋も無い説明をしてくれた。

ああ、なるほど、荒くれ…ね。確かに下品だったもんな。村人にもあんまり人気無いんだろうと言うことは一発で見て取れた。

そんなレイリさんの説明をついで、ベイルさんも、「次期長老候補なんで、調子にのってるんでさぁ。」と、その背後関係もしっかりと教えてくれる。

「長老の縁ですか?」と、俺が聞くと、レイリさんは黙って頷き、「馬鹿…ですが。」と、ばっさりと切り捨てる。レイリさんが嫌悪を丸出しにしているなぁ。短い付き合いではあるが、レイリさんはちょっと意地悪なイメージはあるけど、ここまで怒るって言う事は無かったよね。相當酷い奴なんだろうなと、俺は覚悟をしておく。

しかし、それと引き換え、ベイルさんは何て良い人なんだろうか。わざわざ心配して聲を掛けてくれるとか。しかも、昨日であったばかりだと言うのにだ。俺は、そんなベイルさんに、

「ベイルさん、心配してくれてありがとうございます。まぁ、こっちは大丈夫ですから…何か會ったら相談に乗ってください。」

と、禮をのべる。ベイルさんは、「いやいや、旦那の力になれるんでしたら、いつでも駆けつけますぜ。」と、かっこいい事を言ってくれる。しかも、ちょっと耳をぴくぴくと恥ずかしそうにかしながらだ。

やべぇ、男でも萌えられるとか、俺はもう駄目かもしれない。

新しい自分を発見してしまった俺は、「ツバサ様、そろそろ…」という、レイリさんの言葉に頷く。そして、それぞれ、ベイルさんに挨拶をしてその場を去ったのだった。

広場を抜けて、村の北へと向かう。どうやら、長老たちの邸宅は北に集中しているらしい。道すがら、話を聞いてみると、長老は、各種族の代表たちで、全部で5人だそうだ。金狼族、銀狼族はわかるけど、他はどんな種族がいるのだろうか?

俺がその事に尋ねると、大きく分けて、黒狼族、白狼族、百犬族があるそうだ。黒、白はわかるとして、百犬族って何だろうか?レイリさん曰く、要は犬族の連合だそうだ。なるほど、だから數が名前に當たってるのか。柴犬とか、コリーみたいな種族もいるのだろうか…。夢が膨らむね!

そんな風に俺がワクワクしていると、長老の家へと到著したらしい。

さすが長老と呼ばれる人の家だけはある。レイリさんの家が農家の家だとすれば、これは屋敷だ。広さも倍以上ありそうだし、家の周りをしっかりとした木の壁が囲っている。瓦こそ無いものの、他の家には無い格式の高さをじさせた。

レイリさんは、「まずは、金狼族の長老様にご相談いたします。」と、今後の事を簡単に説明してくれる。

まず、レイリさんやリリーの種族の長でもある、金狼族の長老さんから説得して、さらに、他の長老を説得していく算段のようだ。さて、上手くいくだろうか…。

門を抜け、玄関前へと移する。ここはフリーパスなんだな。

俺は気合をれなおすと、レイリさんの後ろで姿勢を正す。それを見て、ルナも「ん!」と、背筋をばす。

ほんと可い子だな!抱きしめたくなるのをこらえて、俺は長老宅の戸を叩くレイリさんの背中を見つめる。

戸を叩いて、しばらくすると、「はいはい…」と、奧から聲が聞こえた。

扉を開いたのは、初老のの獣人だった。レイリさんと同じ金狼族だろう。艶こそ加齢のせいか鈍っているものの、見て判る金並みだった。

そのがレイリさんの顔を見て、驚愕する。

「レイリさん!?いて大丈夫なの!?」

そう言って、レイリさんのをいたわる様に手を添える。そんなにレイリさんは微笑むと、「はい、おさまで、元気になりました。」と、自分のに問題がないことを伝える。

その言葉を聞いたは、目の端にるものを浮かべると、「よかった…本當に良かったねぇ…。」と、心から喜んでくれていた。こんな景を見て、改めて完全にレイリさんを治療したいと、心の底から湧き上がる思いを、俺はじたのだった。

ひとしきり、2人で無事を喜んでいたが、ふと、俺達の存在に気がつくと、「あら、いやだわ…」と、恥ずかしそうに呟き、「こんな所で申し訳ありませんでした。どうぞ、中におりください。」と、俺たちを家へと招いてくれた。

俺は、「失禮します。」と、軽く頭を下げながら敷居をぐ。

ルナもそれに続き、俺たちは長老の家へとお邪魔するのだった。

外から見ると判らなかったが、中は吹き抜けで天井が高く、非常に広いじをける。

玄関で靴をぎ、俺たちは通路を通り、客間へと通された。

同じ日本家屋のはずなのに、やはり広さや優さが段違いだった。レイリさんには失禮な話ではあるが、やはりこういったもてなす事を前提とした家というのは、造りからして全く違うものなのだなと、実できる。

俺と同様に、全てがもの珍しいのだろう。ルナの目は先ほどから輝きっぱなしだ。

客間に通された俺たちは、暫くの間そこで待つこととなった。どうやら、長老は最近調子があまりよくないらしく、今日も伏せっているとのことだった。普通なら日を改めて伺いを立てるところだが、今回は場合が場合である。

レイリさんは、失禮を承知で面會を申し出た。

俺も、心苦しくはあるものの、なるべく今の現狀を早期に改善したいと思っているので、その意思を支持した。

娘たちを、あんまりにも閉じ込めると、いつか暴発しそうで怖いしなぁ…。

俺は、そうならない事を祈りつつ、まずは出來ることをしようと思った。

ちなみに、現在、俺たちは何で編んだかわからないが、藁のような座布団の上に正座で座っている。

っていうか、こっちの世界にも正座があるとは…と、俺は改めてすると共に、足痺れて立てないとかいやだから、強化魔法で強制的に足を強化している。これで何時間座っても疲れないし、痺れもしない。魔法って本當に便利だ。

一応、病み上がりのレイリさんと、何も知らないルナにもかけておいた。

足が痺れてぐルナとレイリさんも、ちょっと見て見たかったが、し嫌な予がするので萬全の制にしておきたかったのだ。

杞憂に終わればいいんだけどな…と、俺が思っていると、襖がスッと開く。

「レイリ殿、お客人、お待たせして申し訳ない。」

そう言って現れたのは、金の髭と髪を長く垂らし、こちらへとゆっくりと歩く好々爺のような長老様だった。

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