《比翼の鳥》第19話:異邦人
素晴らしい!俺は素直にしていた。何かって?そりゃ見事なまでに、俺の長老像を裏切らない長老様だったからだ。
表すら見えないほど髪のに覆われている顔とか、その癖年をとったからこそ出る、貫祿のようなものとか。後は、調子が悪いからだろうか?杖を突きながら歩いてくるこの姿など、とにかく正に理想の長老様だ。
そんな長老様だったが、やはり調が思わしくないのだろう…。ゆっくりとした作で、用意された椅子へと腰をかける。
流石に正座というわけには行かないようだ。
俺は、しでも何かの役に立てばと、こっそり長老に【アナライズ】をかけて、病気の原因を探っておく。
長老を視線の先におさめつつ、俺は解析結果を見て驚く。
…おっと、これは…。もしかすると、今後のカードの一つになるかもしれないな…。
そんな事を俺が考えていると、長老様が口を開く。
「どっこいしょ…。年を取ると、が思うようにかんでな…。お待たせした。ワシが、金狼族族長、桜花である。」
おや、ここで初めての漢字のお名前。異世界は橫文字基本かと思ったが違うのだろうか?
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俺は、後でその事について聞いてみようと、思いつつレイリさんの様子を窺う。
レイリさんは、姿勢よく、靜かに佇んでいたが、長老の名乗りを聴くと、返答する。
「長老様、おの優れないところ、真に申し訳ございません。そして、お久しぶりにございます。レイリです。本日は、村の外より參りました、人族のお客人をお連れ致しました。こちらが、ツバサ様、こちらが、ルナ様にございます。」
俺は、名前を呼ばれると、軽く頭を下げる。流石に平伏までしなくても良いと判斷したためだ。
ルナもそれに習い、頭を軽く下げていた。
そんな俺達の様子を、何故か、長老様は驚いた様子で見ると、言葉を続ける。
「なるほど、なるほど。これは…また、大変なことのようじゃな。」
何故かとても、深刻そうに俺たちの姿を見ながら、地まで屆きそうな顎鬚あごひげをさする。
うーむ、俺もあの髭って見たいなぁ。気持ち良さそうだなぁ。俺のそんなずれた思考とはかけ離れたところで話は続く。
「レイリや。のほうはもう良いとのことだが…?」
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長老は心配そうな…しかし、し懐疑的な目をレイリさんに向ける。
まぁ、そりゃそうですよね。先日まで死に向かって一直線だった人が、いきなり元気になりましただもんね。俺だって疑うわ。
「はい。ツバサ様に治療して頂きました。今はまだ完治とはいきませぬが、生活になんら支障がない程に回復しておりますわ。今後もツバサ様が、継続して治療をして頂けるとの事です。」
レイリさんは淀みなく、そう応えると、微笑を見せる。
治療はそのつもりだけど、こうやって改めて権力者の前で宣言されるとちょっと、ビビッてしまう俺がいる。
いや、頑張るけどね!?小市民な俺は、つい、出來なかったらどうしようとか考えるわけですよ!
まぁ、そんな事今考えても仕方ないと、割り切る。やれる事をやるだけだ。
長老は、「ツバサ殿」と、俺に聲をかける。俺は、「はい。」と、返事をすると長老と視線を合わせ向き合う。
さて、ここからが本番…かな?そんな気を張る俺に、長老は、
「ツバサ殿。まずは、一族を代表してお禮を申し上げますぞ。レイリを救って頂き、本當にありがとうございます。仕方の無いこととはいえ…この森の存続のために、巫の一族たるレイリの家族を切り捨てるようなことになっておりました。金狼族としてお恥ずかしい限りです。しかし、ツバサ殿がその家族をお救い下さった。これは、我が一族にとって、大きなことなのです。」
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そんな風に、俺に頭を下げる。正直俺はびっくりした。この村での人族のイメージはすこぶる悪そうだ。なのにこうして、一族の代表として頭を下げる。これは、相當に広い視野と深い見識を持っていないと出來ないことだ。流石は、一族の長老だけはあるな…と、俺は改めて心した。
「いえ、長老様。過分な謝、痛みります。私の方こそ、レイリさんの家族にはお世話になっており、とても助かっています。」
俺は、そう恐しながら同じように頭を下げる。
そんな様子の俺を、レイリさんも長老も何故か溫かい目で見つめている。
なんだろうか?どうも何かを期待するような…そんな雰囲気をじる。よくわからん…。
そんな俺の戸いをじたのだろうか、レイリさんが聲をかける。
「ツバサ様、前にも申しましたが…人族が獣人族に対し頭を下げることなど本來は絶対にございません。それだけの選民思想に囚われているのが人族なのです。ですので、ツバサ様。人族でありながら私たちに禮を盡くすあなた様は、紛れも無く異質なのです。」
俺はその言葉に頷いて、理解の意をしめす。まぁ、そうなんだろうなとは思っていたが、そこまで骨だったんだなぁというのは気づかなかった。それはレイリさんやリリーがあっさりと、俺の態度をけれた事にもある。
レイリさんはそんな俺の様子に満足げに微笑むと、更に続ける。
「そして、私は、1日この方をお傍で拝見した結果、信頼に足るお方であると確信いたしました。何せ、私達の姿に劣をじつつも、私がを求めても全く手を出さず。さりとて罵倒するわけでもないですし…。娘のリリーを娶って頂きたいと申し上げても、リリーの思いを大切にしろと逆に諭されますし…。全く…ここまで潔癖で誠実なお方は他に見たことがございません。」
そんな風に、ちょっと呆れ気味意にため息を吐きつつ俺をそう評する。暗にヘタレって言われている気がするけど!?
しかし、そんなレイリさんの言葉に逆に反応したのが、何故か外野のルナと、長老様だった。
「して…ツバサ殿。レイリとリリー、どちらが本命じゃ?」
などとぶっ飛んだ質問をいきなりしてくる長老様。
「は!?いや、どちらが本命とかそういうわけでは…」と、俺が釈明しようとすると、長老様は、「何!?貴様!!レイリとリリーのどこに不服があるというのじゃ!!」と、逆切れされる。
俺は、勢いに押されて「いえ、不服などあるわけがないですよ!?レイリさんもリリーもどちらも素敵なですよ!」と、思わずドツボにはまる回答をしてしまった。
それを聞いた、長老様は、「貴様!!いう事かいてワシの可い娘と孫2人同時にいただくつもりか!!」と、完全にぶっ飛んでしまった。つか、長老様とレイリさん親子は縁なのね。こんな狀況で聞かされる話しじゃないだろう!?
更には、その會話を聞いていたルナには、「むー!!」という不機嫌な気持ちを存分に乗せた視線を橫からけるわ…。そんな、2人の攻勢に、俺は困って頬をかく。
そんな俺の様子を、シレっとした態度で見守るレイリさん。
これ、そこの元兇の人。何そんな落ち著いた態度で、り行きを見守っているのですかね?こっちは、あんたのせいで完全にカオス狀態だよ!!
そんな俺の視線をけて、レイリさんは、それはもう素晴らしい微笑で俺を見つめる。
それが、更に場の混を深める結果となった。
その様子に長老が「貴様!?レイリに目を使いおったな!?」と、激昂する。つうか、あんた調子悪かったんじゃないのかよ!?なんでこんな時だけ、元気なんだよ!?
ルナはルナで、益々その嫉妬と思われるのこもった視線…いや、熱線?っていうか、明らかに魔力のこもった視線が飛んでくるんですけど!?
ちょっと!?魔力障壁が反応してるじゃないですか!?何、視線だけで攻撃してきてるんですか、ルナさんや!?
そんなこんなで、十數分、俺たちはギャーギャー言いつつも死闘を繰り広げたのだった。
そして、獣數分後。死闘から生還した、俺たちは、話を先に進めるべく、話し合いを再開した。
長老の顔には、何だか良くわからない疲労が窺えた。俺も疲れた…主に神的に。
「あー…。とりあえず、なんじゃ。レイリの証言からも、ツバサ殿が信頼に足る方だと言うのはわかった。しかし、娘と孫はやらんぞ?」
さらっと、自分のを乗せつつも、俺を認めてくれた長老様。まぁ、娘のことが絡むとぶっ壊れるとか、なかなか親しみの持てる長老様だ。面倒ではあるが…。
俺は、そんな長老様に、苦笑しながら「わかりました。」と、返答する。
ちなみに、機嫌の治まらなかったルナはただ今、俺の膝枕を堪能中。
幸せそうに、「んふふー♪」と、俺の太もものさを堪能しているご様子。時々、俺が頭をでてやって、事なきを得ている。
このルナの完全なる無禮講狀態のおで、先ほどまでの真面目な雰囲気が木っ端微塵にぶっ壊れてしまっている。
何故かレイリさんは俺の真橫まで移してきて、ぴったりと寄り添って、ニコニコしていた。いや、あんたがそこにいると、長老の圧上がるから!今も、なんか長老様のこめかみ辺りの場所がピクピクいているからね!?
とりあえず、休戦狀態の俺たちは、真面目な話へと戻る。
「しかし、こうなってしまうと、駆け引きするのも馬鹿らしいのぉ。」
長老がそんなちょっと困ったような、しかし、楽しそうに言う。
それは俺にしても同じ気持ちだった。長老の言葉を聞いて思わず苦笑する。
そんな俺の様子を見た長老は、し表を崩すが、次の瞬間、表を引き締めたものに変えると
「ツバサ殿…。単刀直に聞こう。」
と、話を切り出す。
俺はそれに、頷いて返す。その様子を見た長老はこう切り出したのだった。
「ツバサ殿。あなた様は、この世界とは異なる場所より來たお方…すなわち、異邦人ではないだろうか?」
その言葉に、俺は息を呑んだ。
なんとなく、俺のことがばれているとは思っていたが…。元々隠そうとはしていなかったからな。
ただ、こうもピンポイントに指摘してくるということは…過去にそのような例があることを意味している。
さて、どうするか…。と言っても、正直ここまでさっくりと指摘されてしまっては、とぼけようが無いことも事実だ。
しかも、今までの経緯から察するに、俺に危害を加えるような話ではないのではないかと推察できる。
何故なら、もし不都合な存在なら、こうして俺にその事を明かさず、丁重にお帰り願うか、それに類する何かしらのアクションをするはずだ。
むしろ、レイリさんの行を見るに、ここに引きとめようとする思いすら見え隠れする。長期的に見ればどうなるかは判らないが、短期的にはこちらとしても願ってもいない話だろう。
俺は、そう結論付けると、覚悟を決め答える。
「ご推察のとおりです。ルナは…わかりませんが、なくとも私はこの世界ではない、別の世界より來たと思います。」
俺のそんな言葉に、皆、一瞬息を呑むものも、その空気には「やっぱり…」という、安堵にも似た理解のが窺える。
ちなみに、外野のルナはそんな雰囲気とは無関係のところで、俺の膝枕を堪能している。
やっぱ、大だよ…あんた…。
「ちなみに、參考までにお聞きしたいのですが…、なんで私が異世界から來た…異邦人だとわかったのですか?」
俺は、ふと疑問に思ったことを聞いてみる。
それに対し、レイリさんが答えた。
「先ほども、申しましたが…まず、お二人の獣人に対する意識の違いが、一番大きいですね。後は、価値観の圧倒的な違いや、その強大な魔法技、そして、何よりここにいる人族であるということも理由の一つです。」
人族であることが、理由?俺はそこにだけ、引っ掛かりを覚える。
そんな俺の態度から、長老が更に、説明をけ継ぐ。
「ツバサ殿。ここに人族がいると言うことがそもそもおかしいのだ。ここは世界の果てにある、忘卻の森の最奧にある村なのだよ。そんなところに、人族がり込むには、結界を抜け、更に他の獣人族の村に立ち寄り、ようやくたどり著ける場所…それがルカール村なのじゃ。」
なるほど…。普通に來ようとしたらそうなるのか。結界は人族を拒む。そして、萬が一森にり込んだとしても、普通は他の種族の村の目にれるはず。しかし、俺はそうではなかったと言うことか。
そんな俺の様子を窺いつつ、理解が及んだと判斷したのだろう、更に話を進める。
「そんな場所に、突然現れた人族の旅人。どう考えても不自然であろう?しかも、もし、結界を抜けてきて、且つ他の村の監視もすり抜けたと言うなら、大問題になる。しかし、異邦人であるならば、納得いくのじゃよ。何せどこに出現するか誰にもわからないのじゃからな。」
ちょっと楽しそうに、長老は語った。
なるほど…。異邦人はある日突然、現れる存在なのか。そりゃこんだけの奧地でいきなり人が現れたらびっくりするよな。
そういう怯えの気持ちも村人たちの視線には込められていたのかもしれないな。
俺は、そんな事を思いながら、異邦人について更に詳しく説明をけるのであった。
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