《比翼の鳥》第27話:仲裁
ゆっくりと歩を進める俺に、最初に気がついたのは青年の獣人だった。
俺の姿を確認すると、驚愕をその顔に浮かべる。
そんな青年の顔を見て、いぶかしんだ年の獣人が振り返り、やはり俺の姿を見て、急いでの獣人をかばうように俺へと向き直る。の獣人は、俺を恐れているようにササッと年の影へと隠れてしまった。
相変わらずの骨な態度に苦笑しつつ、俺は話しかける。
「お話中のところすいませんね。私は佐藤翼と言います。ちょっと話を聞いていて埒が明かないと思いまして…。ちょっとだけお邪魔しますよ?老婆心ながら、口を出させ下さい。」
そんな俺の言葉に、その場の3人に張が走る。
全員一致して、こいつ何言っているんだ?っていう表だ。
ついでに年の顔には、人族の癖にって言う悪意が見え隠れする。
「しだけ話を聞いたところ、そこの年が依頼された量を確保できなかった。だからもめていると言う風に見えるのですが…。それで宜しかったですか?」
俺は青年にそう問い質す。
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突然の指摘に、青年は狼狽しながらも「ええ、そうです。」と、頷いた。
良かった。とりあえず青年は理的だった。まぁ、もしかしたら、青年自もどうにもならず藁にもすがる思いなのかもしれない。
そんな俺とのやり取りに、年は「ちゃんと持ってきたじゃないか!噓言うなよ!」と、ご立腹だが今は無視する。
「頼んだのは、5本1束で、全部で7束。と言うことで間違いは無いでしょうか?」
俺は、再度そのように青年に訊ねる。それに、青年は頷く。
こちらの認識で問題はないようだ。
次に今もわーぎゃーと五月蝿うるさい年に向き合い、問う。
「そこの年。このお兄さんはそう言っているが、君はどう聞いたと記憶しているんだい?」
そんな俺の問いに、「誰が卑しい人族に教えてやるもんか!!」と、勇ましい啖呵たんかを切る。
ほう。流石に若いな…。そんな態度が、どういうことを招くか全く考えてないと良くわかる。
若さとは、知らないことだ。知らないと言うことは時として勢いを生む。それは俺のようなくたびれたおっさんには無いパワーだ。素直に羨ましいと思う。
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俺はそんな若さに眩しさをじつつも、今回の対応は完全に失敗のパターンだと分析する。
「年。俺は、今の狀況を何とかしたいと思っている。今のように君が騒ぎ続けても解決する可能は無いよ?それは自分でも判っているんじゃないのかい?」
俺は再度、諭すように言う。
しかし、年は相変わらず聞く耳を持たず、挑発を繰り返した。
ふむ…。騒げばどうにかなるわけじゃないだろうに。これは現実をわからせる必要があるのかな?
「年。獣人族は手を差しべようとしている人に対して、そのような態度しか取れない、無禮な種族なのかい?俺が怪しいのは百も承知だが、初めから喧嘩腰では、萬に一つの可能も潰すことになるよ?」
これでどうしても駄目なら怒って…それでも駄目なら最終奧義の鉄拳制裁かなぁ…と思っていた。
良く罰がどうこうって話も聞く事があるし、俺も積極的に拳で語ることはしたくない。
しかし、子供と言うのは自分の論理で生きているのだ。言葉が通じないことだってある。
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そういう時は怒ったり、拳で判らせるしかない場面も多いと、俺は実験で學んでいた。
過剰な暴力は勿論駄目だと思う。けど、絶対に判らせないといけないこともあるのだ。
でないと後で傷つくのは、その子だけではないのだ。周りの全ての人間に危害が及ぶと見てまず良い。そんな火急の場合は手段を選んでいられないと俺は考えていた。
勿論、怒ったり、手を出した以上はその事に対し俺は、自分で責任を取る。
怒ったり手を出すと言うことは、やる方も嫌だし、痛いし、それ以上に覚悟のいることなのだ。
塾と言う特殊な空間ですらそうだったのだ。手こそ出さないものの、大聲でどなったりもした。
いつもは絶対にしないのにだ。
全く…本當にあれは嫌な気分だった。なんで俺がそんな事をと思ってしまうことだってあった。
無関心に、適當にお茶を濁してしまったほうが楽なのだ。お互いに。ただ、それをして俺は、痛い目にあった。
俺も、相手もお互いに結果として最悪の結果に陥ったのだ。その時のことは、後悔してもし足りない。
塾ですら、そんなことは日常茶飯事なのだ。學校ではもっと大変なんだろうと、俺は教師に同をじえない。
俺が腕を組みながらそんな事を考えている間、年は「お前みたいな偽善者にお世話になるもんか!」とか、「卑怯な人族は早く村から出て行けよ!!」とか、相変わらず騒いでいる。
しかし、そんな年の言葉とは対照的に、年に対する周りの反応は逆に冷ややかなのだ。
年の言葉が過剰になるほど、遠巻きに見ている人達の表が不快にそまり、不安が広がっていく。
この空気を読めるなら、この年もこんな事もしないよね。と、俺は冷めた目で年の罵倒をけ流していた。
流石に青年も無禮にも程があるとじたようで、「スルホ君!それは言いすぎだ!」と、非難を始める。
そんな自制を促す青年に対しても、スルホと呼ばれた年は「なんだよ!臆病者!」とか、散々である。
スルホ、駄目だな。完全に自分の価値観だけで判斷して周りが見えていない。これは、言葉でどうにかできる段階を超えているな。
俺はそう判斷した。とりあえずは、ちょっと脅かして見ようか。
その空気をじたのか、今まで後ろに隠れていたがいた。
突然、年の前に出ると、俺に向かって頭を下げる。
「お、お兄ちゃんが失禮をはたらいてしまって…ごめんなさい!!ちょっと疲れて機嫌が悪いだけなんです!許してください!」
と、しっかりと謝罪をしてくる。
おや、妹さんなのか…この子の方がしっかりしてるのね。
俺が心していると、更に続けて
「頼まれた事は、ヨーゼフさんの言うとおりです。私も兄も理解しています。」
と、俺の聞いたことに答えてくれた。その後呟くように、「私達は、ちゃんと達したと思っているのですが…。」と自己主張も忘れない。
そんな後ろで、兄のスルホが、「ラーニャ!!こんな奴に教える必要ねぇよ!!」とか、相変わらず五月蝿く騒いでいる。
とりあえず、勝気な兄は無視しよ…。
そして、俺はやっと話し合いがスタートできると、安心した。
「良かった…。お嬢さんが話の通じる人で助かったよ。」
と、俺は笑顔で答える。そんな笑顔に、お嬢さんは「ラーニャといいます。」と、ちょっとおずおずしながら答えた。
「OK。ラーニャさん。早速、話を進めるよ。いきなり殘念な話で申し訳ないけど、君らはミスを犯しているんだよ。話を聞いたじでは、そこのお兄さん…えっとヨーゼフさんでしたっけ?彼の言うことが正解だ。君らは計算を間違えている。」
そんな俺の言葉に、スルホもラーニャもビックリした表をする。
スルホがすぐに、「噓つくんじゃねぇよ!!」とか、言っているけど無視。
俺は、「失禮…。」とヨーゼフさんに斷りながら、取ってきた薬草を5本1組で分けると、それを2人に見せる。
「見れば一目瞭然だ。君らの取ってきた薬草を束にして見た。どうだい?ここには6束しかないんだよ。」
そんな俺の言葉を聞いて、2人とも顔を青ざめる。
ラーニャは、「そんな…。」と、言葉も無く、スルホは「きっとお前がずるしたんだ!」とか、完全に人のせいにしている。
スルホの思考回路が、かなり殘念なじだなぁ。これは、更生させないと、一家崩壊すらしかねん。
「きっと君達は、総數だけを考えて採集したんだろう?その場合は35本必要だった。けど、ヨーゼフさんは束で依頼したんだよ。初めから言う通りにやっていればこのミスは無かったんだ。何故、ヨーゼフさんがそんな依頼の仕方をしたか、ちゃんと考えるべきだったね。」
よくある話である。人間はどうしても自分の都合の良い風に人の言葉を取る癖がある。相手の言葉の意味をちゃんと組まないと、齟齬そごが生じるのは必然なのだ。言葉は常に不完全なものなのである。
スルホは、それでも納得できないのか、「でも!!」とか言っているが、ラーニャは自分達に非がある事を理解したようだった。
俺はヨーゼフさんに向き合うと、俺は問いかける。
「ヨーゼフさん。ちなみに、この子達に対する報酬は何なのですか?」
「その薬草で作る薬です。その子達の母親が病で伏せっていまして、その材料なのです。」
「なるほど…。それは、今の量では足りないと?」
「ええ。どうしても最低でも35本は無いと難しいですね…。調合が難しいわりには出できる分がないので、どうしても必要なのです。」
「ふむ…。」と、俺は考え込む。今の話を考えると、後5本取ってくる以外に選択肢は無いだろう。
念のために、薬草や薬の予備が無いか確認するも、答えはいずれも無いとの事だった。
俺が組を解析して最適な出方法を模索しても良いが、それではヨーゼフさんの仕事を奪うことになる。
それに、出方法自を俺は知らないので、まずは見て見ないことには、方法の模索も何も無いわけである。
「ちなみに、一番簡単な解決方法は、もう一度採集しに行って、必要な本數を揃えるってことなんだが、それは厳しいのかな?」
そんな俺の問いに答えたのは、ラーニャだった。
どうやら、子供の足では遠いところにあるらしく、今から行っても日がくれるまでに帰って來られないらしい。
とても悔しそうに話してくれた。
明日に先送りすることが出來ないかとも提案したのだが、毎日飲まないといけないらしく、どうしても今日必要だとのことだった。
となると、仕方ないかな。俺が一ぐしかないな。
俺は再度、ヨーゼフさんに問う。
「ヨーゼフさん。お願いがあるのですが…。俺が今からその薬草を集めてきますから、それでこの子達の薬を作ってもらうわけにはいきませんか?」
そんな俺の提案に驚いたのは、スルホとラーニャだ。
「んなこと無理に決まってるじゃんか!!」とのスルホに対し、「そんな。危険です!」と言うラーニャ。この兄にしてこの妹ありか。スルホの殘念さと、ラーニャのしっかりさが引き立つな。
ヨーゼフさんはそんな俺の行が理解できないと言うように、「なぜ、そこまでするのですか?」と、疑いの眼差しを持って聞いてくる。
ま、そりゃそうだよな。俺も自分でやってて怪しいことしてると思うもん。
とりあえずは、もっともらしい理由でもつけておくかな。
「そうですね…。実は調合に興味がありましてね。數回分の材料を確保してくるので、その調合を見せて頂きたいのですよ。それで出來た薬の一部をこの子達の報酬に當ててくれれば結構です。」
俺は即興でそんな事を言う。興味があるのは事実だが、特別にそんな事をしようとは、この騒が起こるまで思っていなかった。
そんな俺を、まだ疑いの抜けない目で見ていたヨーゼフさんだったが、特に自分に損は無いと判斷したのだろう。
「ちゃんと持って來られれば、その條件で良いでしょう。」と、返答した。
よし、今回はこれで大丈夫そうだな。俺は人知れず安堵する
俺は、薬草について詳しく聞く振りをしながら、手に取り【アナライズ】で解析を行う。
この薬草は、ヒッポ草と言うらしい。変な名前だ…。勿論口には出さないが。
解析終了と同時に、俺はヒッポ草の分布を探知で探る。
確かに、若干離れているが數は多いな。良かった…幻の薬草とかだったら森中を駆け巡ることになる所だった。
結構固まって分布しているようだし、距離的にもそこまで遠くない。
俺なら全力で行って戻って15分といったところか。
「よし。覚えました。では、ちょっと行ってまいります。そうですね…し大目に見て30分ほどで戻りますので、調合の準備をしてお待ちください。」
俺はさっくりそう告げると、薬草の分布地に向けて歩き出す。
とりあえず村の中は歩いていこう…。流石に、全力で走ったら地面にが空きかねん…。
悠々と歩いて去っていく俺を、言葉も無く唖然とした様子で見送る當事者達であった。
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