《比翼の鳥》第28話:弱強食

俺は村の外まで出ると、強化を施すことにする。

一瞬、飛んでいくことも考えたが、悪目立ちしそうなので、今回は止めておくことにした。

今回は夕暮れも迫っていることだし、し強めで行ってしまおう。皆、家で待っているだろうしな。

強化を80%、意識拡大を40%に設定。よし、強化完了。

意識拡大はあまり強化しすぎると現実との齟齬が生じて揺り返しが酷いんだよね。

やっぱり無理やり強化してるから、そういう反作用もでかいんだよな。だから、あまり大きく強化すると後が怖いのだ。

一回、80%近くで強化した後、丸1日方向覚が完全に狂ってしまい、満足に立ち上がる事すら出來なくなったのは忘れられない。

俺は意識拡大で強化を実行すると同時に、知覚が大幅に拡大するのをじる。

全てのきがスローモーションのように引きばされていく。

んじゃ、早速行くとするかね。俺は助走をするように、徐々に速度を上げて行く。

トップスピードに乗った事を確認すると、大地を蹴り、木の幹を蹴り継ぎ、森の中をジグザグと言わず、3次元空間をフルに利用して移する。

風のように森をかける。いや、むしろ飛ぶ。

そして、5分後には、目的の場所へと到達していた。

到著と同時に、俺は意識拡大を一旦解く。

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そこは川沿いの開けた場所で、一面に野草が群生している所だった。

とりどりの花も咲き誇り、燦々さんさんと降り注ぐ太けて、どの草花も生命力に満ち溢れている。

更に、この辺りは若干、他の所よりも魔素が濃いようで、空気に神的な雰囲気をプラスしていた。

ここで取れる薬草なら、いかにも効果がありそうだ…そんな事をじさせるほど、この場は特殊だった。

様々な野鳥や、昆蟲…特に蝶がやはり目を引く。羽がっているものがあり、それが、またとても綺麗なのだ。夜になると、同じ景でも全く違うになりそうなじをける。

今度、皆でここにピクニックに來るのもいいな。俺はそんな事を考えつつ、作業に移る事にした。

まず、周囲500m圏を【アナライズ】で解析。ヒッポ草の詳しい位置報を得る。

ほう…。結構な數があるな。ざっとこの周りに1600株近くある。他の場所にも結構あるし、元の世界で言うドクダミ並にメジャーななのかもしれない。

だとすれば、し多めに取っておいても良いかもしれないな。

700株ほど持って行こう。

俺はそう決めると、先程カスードさんの所で使用した収穫用の魔法陣にし手を加えて新しい魔法陣を構築した。

纏まった場所から一気に取ると、生態系がガラッと変わる恐れもあるので、俺はなるべく分散して、平均的に取るように心がける事にする。

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今後もこういう事があるかもしれないので、離れた場所の株をこまめに取るパターンも考え組み込んだ。

そうすると、1本の竜巻では効率が悪いので、20本に増やし、その分太さを限界まで細くする。

刈り取りも竜巻自が行う形に変更した。これで、かなり効率的に採集できるだろう。

俺は早速、魔法陣を起して試運転を行う事にする。

「【セット:アナライズ】【ハーベスト】 スタンバイ!」

誰も聞いていないが、俺はノリノリで魔法陣を起する。

そして、俺の予想以上に…なんとも形容し難い魔法が発した。

それは例えるなら、20の首を持つ大蛇の様だった。

天高くそびえる竜巻はまるで1本1本が蛇の頭だ。

そして、それぞれの首が、地上の獲に次々と襲い掛かる。

食いちぎられ、地面から引き離されるヒッポ草。

を呑みこんだ竜巻はすぐさま、次の獲へと向かう。

その數が20ともなれば暴力的な絵にしかならない。

余波で切れ飛び散る花や草。悲鳴すら聞こえそうな勢いだ。

飲まれた獲は、俺の橫にどんどんと集められ橫たえられていく。

なんだろうか…この居たたまれなさは。

まるで、八岐大蛇やまたのおろちを従えて、無辜むこの民を襲うような悪役の図ではないか…

などと思っているうちに、700株のヒッポ草を食い盡くした大蛇は、その役目を終え消え去った。

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ま、まぁ、とりあえずミッションコンプリートだ。後はこれをヨーゼフさんに渡して、めでたしめでたし…という事にしよう。

俺は、【ハーベスト】は、あまり人前で使わないようにしようと心に決めたのだった。

さて、ここで一つ問題が生じた。これだけの量を持ち運ぶを用意してこなかったのだ。

仕方がないので、今回は風の結界で簡易的な箱とし、空気で浮かせて追従させることにする。

俺のすぐ後ろを追従する形にすれば、自で追っかけて來てくれる自走箱の完だ。

はたから見れば、薬草700株が俺を追っかけて來る様に見えるんだろうが…。

それはそれである意味恐ろしい図になるだろうが、まぁ、今回は仕方がないと割り切った。

その、異次元収納を作らないと駄目だなーと、俺はその必要を痛した。

さて、帰ろうかな…と思った時、俺の探知の端に、気になる反応が見えた。

大きな反応。そうは言っても、獣人族3人分くらの反応ではあるのだが…。

今まで見た野生の個の中では一番大きい反応だった。

もちろん、ルナは規格外だと言っておく。

そんな大きな反応を取り囲むように、小さな反応が複數。

16ほどあるのだが…あ、また一つ消えた。

俺が見ている間に、どんどんと數が減って行く。

おいおい、圧倒的じゃないか。

そんな劣勢に立たされているであろう反応のひとつに俺は、何か既視じた。

あれ?なんか見覚えがある反応だな。なんだろ?それにこの陣形…。特徴的だ。

と、考えている間に、また反応が消えて行く。殘された反応はあと5つ。

ちなみに、その大きな反応が向かっている方向は村の方だった。

このまま村の方に行くか分からないところではあるが、用心に越した事はない。

俺は念の為に、この一方的な殺戮が行われているであろう現場の様子を探っておこうと決める。

「【インビジブル】 スタンバイ!」

俺は、念には念をれて、隠蔽用の魔法陣で俺の姿を見えなくする。

更に、防護結界10枚重ね合わせる。ここら辺も改良の余地ありだなぁ。

先日、5重の結界をルナに破られたのが、俺には地味にショックだったのだ。

もっと強力な結界も作ろうと決意する。

そんな俺は帰り道に差する形で、徐々に戦場を移していく反応を追っていくのだった。

そして、俺が戦場に到著したとき、小さい反応はすでに2つまで減っていた。

俺の視線の先には、まみれになりながらも、懸命に敵を威嚇する1頭のトラのような生き

それを見て、俺は先程の既視に納得が行く。その反応は、先日リリーを襲っていたティガだったのだ。

しかも、今立っている最後の1頭はボスだ。後1頭の命は風前の燈である。完全に腹をやられていて、が止まっていない。

そう分析している間に、反応が消えた。後はボスのティガのみだ。

俺は様子を窺いつつ、100m程まで近づき、大木に背を預けて観戦する。

あの時は戦闘中だったから、マジマジと観察する暇が無かったので、気が付かなかったが、本當にトラに良く似ていると思った。

耳は普通のトラと違いし大きめだが、丸耳なのは変わらない。

今は所々、に濡れてしまっている並みは金と銀のまだら模様で、若干発しているのが分かる。

もしかしたら、俺の時は本気じゃなかったのかな?流石に発していれば俺でも気に留めただろうから。これがティガの本來の姿なのかもしれない。

俺は視線を、ティガと対している方に向ける。それは、長2m以上の大きな熊だった。

しかし、何か様子がおかしい。目が赤り、涎をダラダラと垂れ流す姿に、俺は禍々しさと狂気をじた。

良く見ると、黒いオーラのようなからうっすらと噴出しているのが分かる。

そんな俺の視線をじたのだろうか?それとも、ティガのボスを威嚇する為だろうか?突然、咆哮を上げる。

それは、衝撃波となって、周りの木々を激しく揺さぶり、木の葉を吹き飛ばした。

ティガのボスは、その咆哮を真正面からけ止めるも、し押されるように後ずさりするのが見えた。

結界越しに極めて客観的に見ていた俺も、この景には息を呑む。

その後は一瞬だった。見かけによらず、素早いきで薄する熊の攻撃を、紙一重で避けた…かに見えたティガだったが、その風圧だけで吹き飛ばされ、木に激突する。ティガが全くに相手にならないのは、その一瞬だけでよく分かった。

ヨロヨロと立ち上がるティガ。しかし、その目はなおも諦めていない様だった。

そんなティガの目に俺は、心をかされる。

逃げればいいのに、それをしないんだな。もう、勝ち目はないだろうに。

それとも、何か理由があるのだろうか?

はたから見れば、愚かな特攻と言われても仕方がない。それが賢いやり方とはとても思えない。

それでも、ティガの目には明確に意思があり、それを貫き通そうとする覚悟が見て取れた。

そんな絶的な狀況にあっても、ティガは何とか一矢報いようと、そのかす。

熊の薙ぎ払いという次元を超越した暴風をティガは大きくかわすと、その懐に飛び込み牙で噛みついた。

が、その瞬間、質な音がすると共に、ティガの牙がはじけ飛ぶ。

牙を通さないばかりか、折る裝甲ってなんだよ…。

そして、熊の一撃をもろに食らったティガ。

「ギャウン!」と、思わず出た鳴き聲と共に、ティガは弾き飛ばされる。

そのティガは、こちらの方に吹っ飛んできた。

これで、俺が避ければ、このティガは背にしている木に激突して、絶命するだろう。

それで、この戦いも終わりだ。その後、この熊の向だけ注意して村に帰れば良いだろう。

…それで良いのか?

良いも何もそれが一番、賢・い・やり方だ。

むやみに爭いごとに首を突っ込む必要などない。

やりたい奴にやらせておけば良いのだ。

俺は、爭い事なんかにかかわり合いたくもない。

ましてや、獣同士の生存競爭だ。それそ、人間様の出る幕ではない。

そう、冷靜な頭は告げている。

だが、しかし、は全く別の事を訴えていた。

俺はアイツを助けたい。

一生懸命に頑張っている。今も心は折れていない。

的な狀況でも、果敢に相手に向かって行っている。

カッコいいじゃないか。そんな覚悟を持てる奴なんて人でもそうそういない。

そもそも奴はリリーを食おうとした。

けど、暴な手段ではあったが、俺の言葉を理解し引いてくれた。

助けて益になる事など何もない。

けど、俺は助けたいと…手を差しべたいと思っている。

弱いものが必死に頑張っているのに、見捨てるとか…出來ない。出來る訳が無い。

俺は…げられる弱い側の生きだから。

同じ痛みをけてる奴を目の前で見て、平靜でいられるはずなどあるわけがない。

過去の事が、元の世界の事が一瞬にして、思い起こされる。

努力すら、必死の頑張りすら笑いの種になる、歪んだ世界。

人を見下し、それを糧に生きる人たち。

その中にあって見下されながらも、必死に生きようとあがいていた人たちが、それでも絶し生を諦め、尊厳すらも奪われるそんな世界。

奴は弱かった。吐き捨てられる言葉に、全ての悪意が込められている。

それとは違う世界に來たと言うのに、また同じなのか?

今の俺には力がある。目の前に頑張っている奴がいるのに、それができるのに、助けもせず見下すのか?

死ぬのは弱いからだと、笑って見過ごすのか?

嫌だ!!俺は、そんな奴になりたくない…。

俺は、必死にあがくティガに過去の自分を見てしまった。

それは、本當に稽なほど自己中心的で救いようの無いだった。

ティガの奴は、頑張った。無様なまでに屆かなかったけど、頑張った。

なら、頑張った奴にご褒くらいあっても良いじゃないか。

俺の目の前で頑張る奴くらい、応援したっていいだろう。

よし、助けよう。俺が助けられるのなら、傲慢だろうが自己満足だろうが助ける!

俺はそうをまとめると、隠蔽や結界を全て解除し、飛んでくるティガのを優しくけ止める。

すぐに、【アナライズ】で狀況を分析。幹部分の骨がこそぎ骨折している。

俺は、すぐさま、【エクストラトリート】をかけた後【エクストラヒール】を重ね掛けする。

【ヒール】はが元々持っている治癒力をアップさせることで、を癒す魔法陣だ。

【トリート】は、外部的に施を行う事で、を強制的に理想の狀態に戻す治療魔法陣だ。

【ヒール】を先にかけると骨が変な形で癒著してしまうため、【トリート】で復元したのち、それでも弱っている部分を治療した。

一瞬にして、が治ったティガは、まるで人がするかのように直しつつ、腕の中から俺の顔を覗き込んでいた。

妙にこいつ、人間臭いな。流石は群れを率いるボスって事なのか?

ちなみに、いきなり現れた俺に対して、熊は特攻してきたのだが、今は張り直した防護結界と遊んでいるので、しばらく放って置く事にする。

「ティガさんや。お久しぶりだな。勇敢な戦いっぷりに、俺はしたよ。是非手伝わせてくれ。いや、むしろ勝手に手伝う。」

俺は腕の中のティガにそう宣言する。そんな俺の言葉にまたしても直するティガ。

トラっぽいのキョトンとした顔ってレアだよね。多分、めったに拝めないから今のに堪能しておこう。

しばらくすると、ティガはやっと俺の腕の中に納まっているという事を認識できたように、しきりに腕から抜け出したがる。

むぅ、なかなか良いモフモフだったのだが殘念だ。

俺は、ティガをリリースする。ティガは俺の方を睨むも、その視線に敵意はじなかった。

「んで、ティガさんよ。やる気があるなら、手伝うぞ。行くか?」

チラリと、結界をぶっ叩いている熊を見て促す。そんな俺の聲に、一鳴きで答えるティガ。

その聲には同意の意がじられた。

「そうか…。じゃあいっちょ、熊退治と行きますか!!」

俺の言葉に、ティガは咆哮を持って答えたのだった。

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