《比翼の鳥》第33話:紛糾

「さて、今回集まっていただいたのは、そこにいらっしゃるツバサ殿の件じゃ。」

桜花さんは開口一番、そう切り出した。

直球だな、と俺は思いつつも話の流れを見守る。

「まず、最初にツバサ殿の師認定についての話し合いをしたかったのじゃが…。」

そこまで言った後、桜花さんは困ったように周りを見渡し、言葉を切る。

「あの馬鹿…いや、ダグスの奴めが來ておらんので、この4人で採決してしまおうと思うがどうじゃ?」

そんな桜花さんの言葉に、「良いんじゃねぇか?どの道決定も同然だろ?」とカスードさん。

それに対し、「私も決めてしまうのは良いのですが…。」とし言葉を濁すヨーゼフさん。

「は、はぃー!い、いいいいいい、いいと思いますぅー!」と、緒不安定なマールさん。

そんな発言の中で、やはりヨーゼフさんの言葉が気になったのだろう。桜花さんは、「ヨーゼフ、気になるか?」と問う。

その問いに対し、「はい。失禮なのは重々承知なのですが…。」と、申し訳無さそうに言う。

そんなヨーゼフさんの言葉を聞いた桜花さんは俺に視線を向け、「ツバサ殿。」と、呼ぶ。

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俺はそんな視線をけ止めると、桜花さんはそれを確認した上で話し始める。

「昨晩し説明したと思うのじゃが、今回の事にあたって、2つ程懸念事項が出ておる。ひとつは、此花様と咲耶様が本當に霊であるかどうか?ということ。そして、もう一つが、ツバサ殿が本當に霊を使役できるかどうか?ということじゃ。」

それを聞き、俺は頷く。それはそうだろう。実際見て見ないことには信用できないのは當たり前だと思う。

むしろ、慎重であるその姿勢に俺は好すら覚える。

盲信されてもそれはそれで、いつか俺のあずかり知らないところで、責任が回ってくることもあるのだ。

そんな狀況は、真っ平免である。

ただ、一つだけ…。俺の心に小波さざなみを立てた一言があった。

「…一つだけ宜しいでしょうか?」との俺の言葉に、桜花さんは「うむ。なんじゃ?ツバサ殿。」と、返す。

俺は心の底から突如湧き出した不快を、隠しもせずそのまま吐き出す。

「2人は霊ではありますが、大切な娘達です。もちろん、私が頼めば大抵の事は言うことに応えてくれるでしょう。しかし、それは私が無理やり従わせているわけではなく、娘達との間にある絆によるものです。間違っても使役…つまり、無理やり言う事を聞かせていると思ってほしくありません。」

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そんな俺の言葉をけ取った桜花さんは、「なるほど…。それは失禮した。確かに、そのお気持ちはごもっともなことじゃ。」と詫びた上で続ける。

ちなみに、そんな俺の言葉を娘の2人は、「お父様…。」「父上…。」と極まったように聞いていた。

「使役と言う言葉がいかんの。つまりは、霊様と共に心を通わせ、共存できる関係であるかと言う事を示して頂ければ良いのじゃ。」

そんな桜花さんの言葉に俺は、「わかりました。」と、まだこびり付く不快を無理やり飲み込み、頷く。そして続けて、

「では、まずは…此花と咲耶が霊である事をお見せしましょうか。」

と、俺は口を開く。

そして、此花と咲耶を見つめながら、「頼めるかい?」と、お願いした。

そんな俺の言葉に、わが子達は「はい♪」「勿論です!」と、頷くと一度周りをグルッと見回し、目を閉じる。

そして、次の瞬間、わが子達はに包まれる。

その様子を、レイリさんと桜花さんは、特に表かすことも無く黙ったまま見つめる。

対照的だったのが他の3人で、皆一様に驚愕の表を浮かべてその景に見っていた。

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わが子達は宙に浮かび、その形を鳥型へと変ずると、俺に向かって一直線に飛んでくる。

何故か俺の頭の上に2人仲良く降り立つと、俺の頭の上から、『こんなじですわ♪』『これでお気に召したでしょうか?』と、思念にて皆に語りかける。

その言葉で3人は、ハッと意識を戻すと、一変していきなり平伏する。

見ると、桜花さんまで平伏している始末。レイリさんはそんな事無く、し楽しそうに、この景を見守っていた。

いきなりの変わりに、俺のほうがビックリした。

「えーっと、皆さん?いきなりどうしたんですか?」

いくら、霊信仰があるとは言え、これはいささか、大げさすぎやしないだろうか?

しかも、あれだけ疑っておいて、いきなり手のひらを返したように、この態度はどういうことだろう?

俺がそんな風に訝しがっていると、桜花さんが頭を上げ口を開く。

「ツバサ殿。申し訳ない。今回のことは此花様や咲耶様だけでなく、ツバサ殿、貴方も共に試させて頂いたのじゃ。」

その言葉に俺は、ますます訳が分からなくなる。

ん?何か試されるようなことをされていただろうか…。

全く心當たりが無く、俺は思い悩んでしまう。

そんな俺の表を見て、レイリさんが楽しそうに補足してきた。

「ツバサ様。そこのマール様は、呪に長けておりましてね。かにツバサ様に呪いをかけていたのですよ?」

なんだってー!?一いつの間に!?

俺は思わずマールさんを見ると、マールさんは、「お、おおおおお許しくださいぃーーー!!」と、ガタガタ震えながら平伏していた。

全然気がつかなかったぞ…。俺はアナライズで自分をチェックして見る。

結果を見て俺は驚愕した。なんか変な魔力の流れがマールさんへと流れているのがわかる。

何かをきっかけにして、その魔力の流れが俺に逆転して帰ってくるように仕組まれていた。

細かく解析したが、トリガーが何なのか。そして、その結果どうなるのか、今の俺の知識では良くわからなかった。

「確かに…何か式が組まれていますね…。これがどういったものなのかは分かりませんが…。」

俺は戸いながらも、そう答えた。

やはりマールさんを助け起こしたあの時にかけられたのだろうか。

しかし、全然気がつかなかったのは正直、ちょっとショックだった。

同時に、早めに知ることができて良かったとも思う。

防護結界もかけていたが、そういうものと関係なく直に、式をかける方法があると言うことがわかったからだ。

こういった方法をもあることが分かれば、対策を考えることも可能だからだ。

知らないまま、さっくり暗殺とかシャレにならん。

「ちなみに、この法は、俺がマールさんを起こした時にかけられたんですか?」

そう聞くと、マールさんは、

「は、はいぃーー!すいませんでしたああぁぁあー!!かけたくなかったんですぅ!!…けど、桜花様が怖い顔で…。うぅ…。」

と、完全にテンパった狀態で答える。

「ちなみに、あそこでマールがこけたのも、ツバサ様が助け起こしに行ったのも予想外でした。本當は、握手でもさせてその時にかけさせる予定でしたのよ?」

と、レイリさんが補足説明をしてくれた。

つか、あんたもグルか!!もう、驚かないけどね!!

俺がそんな風に思案に沈んでいるのを、怒りのあまり黙っていると勘違いしたのだろう。

ヨーゼフさんが口を開く。

「ツバサ殿。本當に、失禮なことをしたこと、申し開きのしようもございません。今回のことは、全て私が無理にお願いしたことです。先日、貴方に偶然お會いして、人となりを多じたとは言え、どうしても確証を得られませんでした。私達の決斷には、この村の未來がかかっております。力あるツバサ殿を、何の確証も無く認めるわけには、どうしてもいかなかったのです。」

そんな言葉を、カスードさんが引き継ぐ。

「こいつは頭でっかちで臆病だからよ、こうでもしないと納得できねぇんだよ。やり方はちょい、汚ねぇやり方だったが、俺ぁおめぇなら、何の問題がないと思っていたからよ。それで八方丸く収まるならありかと思ったんだよ。それに、リリー嬢ちゃんを娶る位の量があるなら、これぐらいの事は笑って流せや。」

そう、ニヤリとしながら言ってきた。

そんなカスードさんの言葉に、俺は毒気を抜かれ、思わず笑い返す。この飾らない言葉には敵わないわ。

だがしかし、そんなこととは別に、今の発言で、確実に失言が混じった事に、俺は意識を取られた。

予想通り、今の発言に過剰に反応したのが桜花さんだった。

「なん…じゃと?何か今、聞き捨てならん言葉が聞こえたような気がしたのじゃが?」

その言葉に、カスードさんは一瞬、「あ…。」と、言葉をらした後、「ハハハ。やっちまったぜ!」と、自分の頭をペシッと叩く。

そんな風におどけるカスードさんをレイリさんが、困った人を見るような目で見ていた。

ああ、口止めは一応してたんですね。けど、カスードさんこういう人だもんね。こうなるのは必然だった気がするな!

「ツバサ殿?リリーを娶るとか聞こえた気がするんじゃがな?勿論、冗談よの?」

桜花さんは、確実に何か良くわからないオーラを噴出しつつ、俺に視線を向ける。

相変わらず親馬鹿嫉妬モードになった桜花さんの眼力は凄いものがある。

さて、どうしようかな…。変にけ答えするとまた混沌カオス狀態に陥るしなぁ。

俺が、困った顔で頬を掻いていると、橫からレイリさんが言葉を発する。

「お・父・様・。それは本當のことですわ。何か問題でもございますか?」

完全に剛速球でど真ん中直 球ストレートだった。

しかも、長老って呼ばないのね。

娘として対応する気だと今の一言で分かる。レイリさんの目力がそれはもう、凄いことになっていた。

「なんじゃと!?レイリ!!何故リリーをツバサ殿に嫁がせる!?あの子はまだいじゃろう!!」

「あら、お父様?リリーはもう大人ですわ。それにこれはリリーの希でもあるのですよ?折角、孫娘がんだ縁を、お父様の勝手な都合で壊そうというのですか?」

俺は、いきなり発した親子間紛爭を若干引き気味に見ていた。

一応、俺も當事者なはずなのだが、こうも目の前でバトルが繰り広げられると、口を挾むのも憚られる思いだ。

いや、ぶっちゃけ、関わり合いになりたくないと言う思いだ。

帰って良いかなぁ…?駄目だよなぁ…。

ちなみに、ヨーゼフさんとマールさんは、ポカーンとした顔でこの舌戦を見つめていた。

元兇のカスードさんは、ニヤニヤしながら楽しそうに見守っている。

わが子達は、俺の頭の上でづくろいしているじをける。

それから5分程経ち…2人の舌戦は、まだ続いている。

その間、俺達は言葉を発することも出來ず、この不な爭いを見守るほか無かった。

既に、話の容は初期の話とは、全く関係のない過去の事に移っていた。

「そもそも、お父様が、私の縁談を勝手に決めてくるから!!」とレイリさんが、吼えれば…桜花さんが、「それは、おぬしが村中の男共を片っ端から振りおったからじゃろうに!!そうでもせんと、貰い手もなかったじゃろうが!!」と、赤々に思いを暴する。

俺はそんな不な水かけ合戦にうんざりしつつ、「これ、どうするんですか?」と、こっそりカスードさんに問う。

カスードさんは、若干、苦笑いをしつつも、「ほれ、未來の息子なんだろ?頑張れよ。」と、丸投げしてくる。

そりゃ何とかしたいんですけどねぇ…。俺はそう思いつつ、2人の様子を窺う。

2人とも息を切らせ、肩を上下させながらも、未だに何かを言い合っている。

しょうがないな。とりあえず、俺も突っ込むしかないか…と、俺が覚悟を決めたとき。

「もぉ!!リリーの婚禮がどうしたと言うのですか!私も、ツバサ様と一緒にいるルナ様も、3人一緒に嫁ぐのですから、問題ないでしょう!!」

と、完全に全くもって、非論理的な理由で逆切れしたレイリさんが、本日最大級の弾をこの場に落とす。

「「「「えぇぇえええーーーーーー!!??」」」」

4人の族長達の絶が部屋に響き渡ったのだった。

その後の皆の反応は、それぞれ見事にバラバラだった。

「つ、つつつつつ、ツバサ殿!?そ、それは、まことか!?」と、完全に取りした桜花さん。

「ガハハハハ!!!やるじゃねぇか!それでこそ男だぜ!!」と、俺の背中をバンバンと叩きながら笑するカスードさん。

「むぅ。ツバサ殿なら3人くらいなら養えそうではありますが…。」と、冷靜に分析するヨーゼフさん。

「けけけけけ、結婚!!うー、羨ましいですぅー。」と、なんでか羨ましがるマールさん。

そして、そんな四者四様の反応に、苦笑いしか出來ない俺。

どうすんだよ…これ…。と、俺は汗を垂らしながらレイリさんを見ると、すっきりした顔でドヤ顔していた。

そして、俺がどうやってこの狀況を収拾しようかな…と、桜花さんに肩を摑まれ揺すられながら考えていると、探知に異変を察知する。こちらに移してくる人がいるのだ。

その人は、結構な速度で移してくる。…恐らく走っているのだろう。

そして、家の中にり、ドタドタと足音を響かせながら、こちらに向かってくる。

その音で、ようやく他の族長も気がついたのだろう。一瞬にして、騒然とした空気が霧散する。

戸の前まで來たその人は、どうやら跪いたようだ。その場で停止すると、「會議中失禮致します!!」と、大聲で俺達に呼びかけた。

その聲にただ事ではない雰囲気をじたのだろう。場の空気が一気に引き締まる。

「おう、どうした?」と、カスードさんが戸の外に返答する。

レイリさんはスッと音も無く立つと、戸を開けて突然の來訪者をその場にあらわにする。

「ベイルさん?どうしたんですか?」俺は思わず、聲をかけてしまった。

來訪者はベイルさんだった。その顔には夥しい汗が張り付いており、息も切らせている。

かなり急いでここまで來たようだった。その顔には焦りが見える。

ベイルさんは「ツバサの旦那…。」と、驚いたように俺を見るも、自分の使命を思い出したのか、頭を振り桜花さんを見據える。

「村の前に、ティガが現れやした!」

俺はその言葉を聞いて、言いようも無い不安を覚えたのだった。

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