《比翼の鳥》第34話:憑き
「ティガじゃと!?數は!?避難はどうなっておる!」
桜花さんが、ティガ來襲の報を聞くと、途端に焦ったように矢継ぎ早に質問をする。
そして他の長老達の息を呑む様子がじられた。
なるほど。やはりこの村にとって、ティガはそれなりの脅威なのだろう。
俺はすぐさま探知の網を広範囲に広げる。いた。確かにティガがいる…しかもそれは…。
そんな桜花さんの言葉に気おされたベイルさんは、「い、いえ…それが…」と、言葉を濁らせると、
「ティガは1頭だけです。しかも、村のり口に陣取ってから、寢そべって一歩もきませんで…。」
と、困ったように報告する。
そんな報告を聞いた長老達も、「「「「は?」」」」と、一様に言葉を失う。
逆に俺は、その言葉をもってあのボスだと確信する。しかし、同時に疑問が沸く。
あいつ…何しに來たんだ?一応、助けはしたがそんなに気安い奴ではなかったと思うのだが…。
そんな俺の心境など関係なく、話は進む。
「ディガが…1頭じゃと?それは確かなのか?」との桜花さんの言葉に、「へぃ。見える範囲には1頭のみでさぁ。」とのベイルさん。
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「他に伏兵がいるのでは?森の中はどうでしょうか?」とのヨーゼフさんの言葉に、「ただ今、何人かで捜索中でさぁ。ただ、今のところ報告はねぇです。」との返事。
「む、村の人は…皆さん近づいていないですよね?ですよね?」と、何故か2回確認するマールさん。「へぃ。遠巻きに見ている奴らもいやすが、殆どの奴らは戸を閉めて家に閉じこもっていやす。」と、し表を崩しながら報告する。
そんな皆の質問を一通り聞いた後、今まで腕を組んでジッと話を聞くだけだったカスードさんが、
「ゴチャゴチャ言ってねぇで、現場に行った方がはえぇよ。ほれ、ツバサ。行くぞ。著いて來な。」
そう言って歩き出す。
俺も、そうじていたので、頷くとカスードさんの後を追う。
後ろで、突然歩き出したカスードさんと著いて行く俺にうろたえる様子をじるものの、今はそれを無視する。
ちなみに、頭の上にいるわが子達は、俺が頷こうが首を振ろうが何をしようが、頭から一歩たりともかない。
俺の頭は巣ではないんだが…。
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しかも、俺のきに関係なく張り付けるってどういう力が働いているのだろうか?
カスードさんの背中を追いながら、俺はそんな事を考えていたのだった。
現場へと到著した俺達の前には、まばらに人がおり、皆、不安そうに村のり口の方角を遠巻きに見守っていた。
俺が視線を転じると、そこには丸くなって目を閉じ、まるで眠っているかのように鎮座する1頭のティガがいた。
距離にして100m前後。その先、村の出り口の外側に、り口を塞ぐようにしてにティガがいる。
やっぱり、ボスだな。分かっていたとは言え、こうやって目にすると改めて違和しか出てこない。
何かあったのだろうか?出所が良くわからない不安な気持ちが、俺の奧底から湧き上がるのをじる。
「ふむ。確かに1頭みてぇだな。一、こりゃどういうことだ?」
と、訝しげにカスードさんは気持ちを吐する。
それに、俺は「もしかしたら…俺に會いに來たのかもしれません…。」と、思わず答えていた。
そんな俺の言葉に、カスードさんは驚いたような顔をするも、すぐにその顔に楽しそうな表をり付けると
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「なんでぇ。獣人だけでなく、獣にも手を出したのか?流石にそれは特殊だぜ?」
と、呆れたように言う。俺は、そんな言葉に苦笑すると、
「最近、モテ期が到來しているようなので。人以外からも好かれちゃって困るんですよ。」
と、嘯うそぶいた。
「モテ期?なんだそりゃ?」と、笑うカスードさんに、俺は笑顔を返すと、「ちょっと行って來ます。」と、ティガに向かって歩き出す。その後ろから、「おう、気をつけてな。」と、あっさりした様子で送りだしてくれた。
こういう所がこの人の素敵なところであり、ありがたいところであると、俺は実していた。
俺がティガと直線距離にして50m圏にったとき、ティガの耳がピクッとき、顔をあげこちらを見つめる。
その瞳には変わらず、強い意志がじられるが、俺はここに來て違和を更に強めた。
瞳の中に何かの覚悟と、良くわからないが困や葛藤と言ったものをじたからだ。
俺は、し警戒しつつも、更に歩を進めティガの前まで來ると、ティガに話しかける。
「昨日はお疲れさん。こんなところまで來てどうしたんだ?」
そんな俺の問いに、ティガはとても弱々しい一聲を上げ答える。
一どうしたと言うのだ…。これは…何かに困っている?
今までの仕草や態度を見るに、ティガは助けを求めているようにじる。
俺は、ティガを【アナライズ】で分析する。
そして、その結果を見て愕然とした。
何かは分からないが、ティガのを魔力ではない何か強力なエネルギーが侵食しているのが見て取れたからだ。
しかも、じられるその波は、とても禍々しく、これでティガが正気を保っていられるのが不思議でたまらなかった。
侵食はほぼ全へと及んでおり、これがティガが弱々しい原因だと言うのは一目瞭然であった。
しかし、この力の流れ方…どこかで見たことあるような?
俺がに小骨が引っかかったような、もどかしさをじていると、頭の上よりわが子達の聲が下りてきた。
『お父様。お離れ下さい。危険ですわ。』『父上、この者、憑かれておりまする。』
憑かれる…。墮ちた霊…。
そうか…この力の流れは、霊力か。違和が無くなり、理解がすとんとに落ちる。
そのわが子達の言葉がまるで引き金になったかのように、突然禍々しい気が膨れ上がる。
それは、真っ黒な煙となり、ティガのから噴出し、ティガのを一瞬にして染め上げてしまった。
そんな狀態のティガは、苦しそうに何かに抗いながらも、俺の目を見據え、訴えかけてきた。
俺は、何故だかその時、ティガの訴えかけていることが漠然と分かってしまったのだ。
「殺してくれ。」
ティガの目はそう訴えかけているようだったのだ。
俺はその思いをけ取り、そして躊躇した。
先日は、一時的とは言え、共闘した仲だ。
それに、ティガの生き様のようなものに共を覚えた俺は、こいつを何とかして救いたいと思っていた。
そして、もう一つ。俺が迷ったことがある。
いつもなら、すぐさま、わが子達に聲をかけて、対処をお願いしたはずだった。
しかし、この時俺は、わが子達に危険が及ぶことを考えてしまったのだ。
今まで、どこか軽く考えていたのかもしれない。
わが子達の力を借りると言うことは、この子達を戦いの矢面に立たせると言うことだ。
勿論、俺が矢面に立つのも、危険ではあるのだが、それは俺自が覚悟しているので、自分としてはなんとかなっている。
だが、わが子達を危険に曬すと言う覚悟は、また次元の違う話であった。
俺の我侭で、この子達を危険に曬すのか?改めて俺は自分の心に問う。
そんな自問に、それはしたくないという、思いが強く出た事に自分でも意外にじ驚く。
土壇場でのそんな俺の逡巡が、ティガに時間を與えてしまった。
時間にしたらほんの10秒程度であったが、その間に、ティガの様子は一変したのだ。
目は真っ赤に走り、涎をたらしつつこちらを、唸りながら見據えている。
金だったは黒く変し、黒い煙を帯びていた。
そして、何の予備作も無く、突然ティガは俺に襲い掛かった。
しかし、防護結界に阻まれ、その攻撃は質の音を響かせるに止まる。
その目に理は見けられない。獣のものモノよりも、なお源的な意識がそれを支配していた。
読み取れるのは、圧倒的なまでの怨嗟。
全てを憎み、壊したい。そんな求が俺のを焦がすような勢いで放出されている。
俺は、頭を振る。そして、跳躍して後ろへと下がりティガと距離を空けると後ろにいるであろうカスードさんに向かって聲を上げる。
「カスードさん!このティガは憑きです!!これから対処しますので、念のために、近隣住民の避難をお願いします!!」
俺のそんな聲が聞こえたのだろう。カスードさんから「おう、分かった!既にこの辺りの退避は完了しているぞ!好きにやっちまえ!」との返答があった。
念のために、探知にて周辺の様子を探るが確かにティガの周囲100m圏に人はいなかった。
これなら恐らく大丈夫だろう。
俺は念のために、半球狀の防護結界を半徑50m程で張り、俺とティガをその中に閉じ込める。
とりあえず、これで萬が一にも、村に被害が出ることは無い。
その上で、俺は狂ったように唸り聲を上げるティガを見據えつつ、頭の上のわが子達に聲をかける。
「此花、咲耶。ちょっと良いかい?」
そんな俺の聲に、『勿論ですわ♪』『いつでも行けまする!』と、既に臨戦態勢を窺わせる言葉が返ってくる。
俺はそんな気盛んな子達に苦笑しつつも、言葉を続ける。
「此花、咲耶。聞いてくれ。俺は…君達をこういった危険に曬すようなことをしたくないと思っている。より、正直に言うならば、もし、傷つくようなことがあったら…。もし、萬が一、君達を失うことがあったら…。俺は自分自を許せない。」
俺はそこまで一気に言うと、一旦息を整え、再度語り始める。
「だから、本當はあのティガと戦わせたくは無い。だが…、今の俺ではあのティガを救ってやることはできそうにない。これは、俺の我侭なのだが、できればあいつも…救ってやりたいと思っている。」
どちらも並び立つ大きな気持ちだった。それを俺は天秤にかける。心の天秤は不安定に右へ左へと揺れる。
そんな心のまま俺は、更に語りかける。
「だから、此花、咲耶。君達に問う。君達の力で、あのティガの攻撃をけず、君達自が無・傷・で・ティガを救うことは出來るか?勿論、ティガは多痛めつけても問題は無い。それにしでも不安があるのであれば、俺はこの場でティガを焼き滅ぼそうと思う。君らが危険に遭うのであれば、俺はティガを諦める。そこはどうしても譲れない気持ちなんだ。」
俺は、完全な自分本位な話であることを自覚しながらも、2人に問いかけた。
そこには、俺の逃げにも似た気持ちがあるのだと思う。
例え言質を取ろうとも、危険があることは変わりないのだ。
本當であれば俺は問答無用でティガ焼き盡くすのが正解だ。
この件で、この子達を失うことがあればと思うと…それだけで、心に暗い炎にも似た闇が下りてくるのをじることが出來る。
しかし、ティガを救いたいと思う気持ちも同様に、俺は捨てきれなかったのだ。
そんな思いが俺のを駆け巡り、出口を求めさまようのをじる。
それは熱となり、今も俺のの中を滯留している
そんな俺の言葉を聞いた2人は『『クスクス』』と、楽しそうに笑うと、
『父上、心配ございませぬ。あんな輩に遅れを取ることは萬に一つもございません。』
『そうですわ。あの程度の力で私達に傷を付けることなど、出來るはずもありませんわ。』
『しかし、慢心で萬が一、と言うこともございます。父上、ご心配ありがとうございます。』
『ですわね。お父様。お父様のお優しい言葉、本當に嬉しいですわ。慢心せず、全力で當たりましょう。立派に無傷で討ち取ってきますわ。』
と、余裕綽々よゆうしゃくしゃくの様子で答えてきた。
俺はそんなわが子達の様子にし安心すると、覚悟を決める。
「わかった。俺はサポートした方が良いかい?」との俺の問いに、
『お父様の手をお借りするまでもありませんわ。』『父上は、我らの雄姿を存分に堪能してくだされ!』と、とても頼もしい答えを返す2人。
その言葉を俺は信じることにする。
「じゃあ、任せるよ。もし、萬が一にも君らが危ないとじたら、問答無用で介して、ティガを焼き盡くすから。そのつもりでいてくれ。」
そんな俺の言葉に、『わかりましたわ♪』『承知!』と、言い放ち、わが子達は俺の頭から飛び立つ。
『では行ってきます!見ていてくださいね!お父様♪』と、空へと上がっていく此花。
『父上に勝利を!!』そう勇ましく吼え、ティガに向かって一直線に飛び去る咲耶。
俺は、その場で腕組みすると、気持ちを落ち著かせ、いつでもティガを拘束できるように、考えうる魔法陣を用意し始める。
同時に、戦局を常にチェックできるように、60%に設定し意識を拡大する。
更に、強化80%に設定し、萬が一に備える。
俺は不安な気持ちを必死に押し殺しつつ、わが子達の戦いへと視線を巡らすのであった。
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