その日、白晝堂々と起きたそのの舞は、後にルカール村に語り継がれるまでになった。

後日、その日のことを聞いた俺に、リリーはその時の景を思い返し、こう話した。

「まるで、星が降るような景でした。あれは夢のような、現実のない…それでも素敵なひと時でしたよ？」と。

まるで流星のように、次々と一か所へと向かって飛び去る微霊たち。

空一面が、４の流星に埋め盡くされる。そんな、涙すら出そうになるほどしい景。

しかも、それは次々と虛空より現れ、いつまでも終わることなく、永遠に続くかに見えるほどだった。

が飛び去る先には、墮ちた霊。

最初は禍々しい黒いオーラを発していたそれは、微霊が飛び込むたびに、徐々にそのを変えていく。

ずっと響いてやむことの無かった怨嗟の聲が、徐々に小さくなっていく。

更に止まることなく、微霊達が次から次へと、墮ちた霊に集まる。

その大量の微霊達に遮られ、その姿を直接見ることはできなかったが、刻々と変わっていく狀況は、良いほうに向かっているとじさせた。

延々と続くかにも思われたその景も、徐々に微霊の數がなくなっていくことで、終わりが近いと分かる。

そして、しばらくして完全な靜寂が帰ってきたのだった。

微霊が姿を消し、墮ちた霊のいた場所に鎮座するのは、煌々と白緑のを発する微霊。いや、霊だった。

そして、その大きさが今まで見た微霊より３周り位大きかった。

普通の微霊がテニスボールくらいだとすれば、目の前の霊はバスケットボールくらいの大きさだろうか。

その波に、もはや禍々しさはじられないものの、同様に存在も希薄だった。

とりあえず、浄化に功したのだろうか？と、俺が不安に思っていると、頭に聲が響く。

『我…新生す…。…人の子らに謝を…。』

その言葉を聞いて俺は理解する。

そうか、とりあえず生まれ変わったのか。やはり元の霊にそのまま戻すのはやはり無理だったのだろう。

それでも、完全な形ではないにせよ、何の罪も無い霊を救えたことを俺は素直に喜ぶ。

それはルナも同じようで、その霊に向かって嬉しそうに聲をかけた。

「霊さん、治ってよかったね！」

『我、謝す…。汝に求む…契約を…。』

霊はそんな事をルナに言って來た。

その言葉を聞いて、俺の顔を窺うように、こちらを見つめるルナ。

なるほど。契約か…。確かに、それはそれでありかもしれない。

若干、また騒がしくなるか？とも思ったのだが、まぁ、今も十分すぎるほど騒がしいので、今更一人二人増えたところで変わらないだろうと、俺は一人で納得する。

俺は、ルナに、「ルナの好きなようにすると良いよ。」と、笑顔で言うと、ルナは、「うん！」と、笑顔で返す。

ルナはトテトテと、霊の前まで移すると、「いいよ！契約しよ！」と、元気に語りかけた。

そんなルナの言葉に、嬉しさで震えるように明滅すると、霊は自のより分離させた緑のでルナを包む。

こちらでは、それ以降霊の聲は聞こえなくなったのだが、何か、２人の間でやり取りがされているようで、ルナは笑顔でそれに答えていた。

しばらく、そんな外野そっちのけのやり取りが続けられたのだったが、ルナが、

「うん！じゃあ、その時はよろしくね！ビビ！」

と、笑顔で霊に聲をかけると、霊はふわりと音もなく浮き上がり高度を上げていく。

そして、その時、俺の脳に霊の聲が響く。

『賢き者…改めて謝を。我を貶めたのは、人族の王國。注意せよ。』

俺は、いきなりの報に戸うも、霊を注視し、小聲で「わかった。ありがとう。」と、返した。

それを見屆けた霊は、大きく一度発すると、虛空へと消え去ったのだった。

今の言葉を聞いた俺の心境は…「やはりか。」という一言であった。

今回の騒の裏には、人族が絡んでいる。それは、ともすれば、この森に危機が迫っていることを意味していた。

俺は、し計畫を前倒ししなければならないと、考えていた。

そんな難しい顔をしている俺とは関係なく、ルナは、霊の消え去った虛空を暫く見ていた。

そして、何か踏ん切りがついたのだろうか？俺に視線を合わせると、テテテテと、駆けてくる。

「ツバサ！霊さんと契約しちゃった！」

ルナはちょっと興した様子で、俺に話し始めた。

「なんかね！名前付けてほしいって言うから、ビビってつけたの！可いでしょ？」とか、

「名前付けたらね、急に話し方が変わったんだよ！ビックリだよねー。なんか、存在？が固定化された？とか言ってたよ？ルナには良くわからないけど。」とか、

「んとね、いつも一緒にいられないけど、呼んだらすぐ來てくれるって！」とか、

それはもう、それだけで大何が起こったのかを察することの出來る報を勝手に教えてくれた。

ちなみに、早速呼び出そうとしていたので、俺はやんわりと止めておいた。

これで、いきなり呼び出されたら、折角流れている、この的な空気が木っ端微塵だ。

呼び出された霊…ビビだったか？も気まずいだろう。

俺は、そんな興気味のルナの頭をでて、し気分を落ち著かせると、上空で靜観していたわが子達にも聲をかける。

「此花！咲耶！お疲れ様！もう大丈夫だろう！降りておいで！」

そんな言葉を待っていたのか、一直線に俺の頭へと降り立つわが子達。なんで頭なんでしょうかね？

『お父様！どうでしたか？此花の魔法は？』『父上！咲耶の剣筋は如何だったでしょうか！？』

こちらも、降りてきた瞬間から大興だった。

俺は、そんな興する娘達に、

「此花、凄い魔法だったぞ！是非、今度どうやるか教えてくれな。」

「咲耶、剣…だったのか？それすらも分からないくらい優雅で見事なきだったぞ！」

と、それぞれ褒めちぎる。

そんな俺の手放しの賛辭に、わが子達はを震わせるほど喜んでいた。

そして、２人に俺は、

「良く無傷で、ティガを助けてくれた。２人とも怪我は無いな？大丈夫だよな？」

そんな言葉をかけながら優しく頭の上にとまる娘達の小さな頭をそっとでた。

そのまま、「俺の我侭を聞いてくれてありがとうな。」と更に言葉を付け加えた。

それに娘達は極まったのか、いきなりだした。

そして、人の形をとると、地面へと降り立ち両脇から抱きついてきた。

「ちょっと！？素っでしょ！？駄目！！それは幾らなんでも無し！！俺の威厳的に！」

思わず聲に出してんでしまった。

しかも、そんな様子を見たルナが、「ルナも！！」と、參戦してきて俺は更にきが取れなくなる。

こら！？駄目だって！？家の中ならまだしも、往來でとか、どんな高度なプレイよ！？

そして、そんな俺の思いなど知らないといったじで、俺は２人ののと、ルナに々と躙され続けたのだった。

とりあえず、民衆の目に俺の娘達の生まれたままの姿を曬すのが、俺の心的にどうしても許容できなかったので、ジャケットをいで２人にかける。同時に、魔法陣で隠蔽を施す。

これで、俺の近くにいる間は、曇りガラスを通したようにハッキリと見えないはずだ。

右袖側に此花、左袖側に咲耶と、２人で俺のジャケットの中に納まったわが子達は、何故かとても幸せそうだ。

逆に、ルナはそんな２人を羨ましそうに見た後、俺のズボンをしきりに凝視していた。

ちょっと…ルナさん？変なこと考えていませんよね？

俺は、ルナが変な気を起こさないうちに、先ほどから気になっていたティガの様子を見に行く。

ティガは倒れたままの姿勢だったが、そのモフモフしたら気持ち良さそうなお腹は、かすかに上下していた。

良かった。とりあえず息はあるようだ。俺はふと、切斷されたはずの足が綺麗に元通りになっていることに気がついた。

もしかしたら、微霊達がどさくさに紛れて治療してくれたのかもしれない。

俺は心の中で、微霊達にお禮を言うと、ティガの前に跪いた。

俺は、そっとティガの頭をでる。うむ、短いながらも理きめ細やかな並みは、これはこれで良い！

そんな風に俺がちょっと癒されながら、並みを堪能していると、ティガがをし鳴らしながら目を覚ます。

俺は、ティガの目を覗き込みながら、聲をかける。

「ティガよ。大丈夫か？し手荒にしてしまって、すまんな。」

そんな俺の言葉に、ティガは弱々しく、甘えたような可い聲で鳴く。

おう…。そんなお聲も出せるのですね。一瞬、キュンとした俺がいた。

ティガは聲こそ出せるものの、をかすのは無理そうだった。

ああ、そりゃあんな派手な技をもろに食らったんだ。ダメージも相當なものだろう。

んー、とりあえず、このままでは埒があかないな。

俺は、カスードさんの方へと振り返り、聲をかけようとした…。

が、皆様どうやら、完全に茫然自失のようで、未だに彫像のように固まっていた。

いつの間に來たのか、桜花さんや他の族長達の姿も見て取れた。

これは駄目だな…。仕方ない。とりあえず、ティガを連れて行こう。

俺は、ティガを抱え上げると、そのまま、皆の下へと歩いていく。

ティガは俺に抱えられても特に暴れることも無く、嫌な顔も…多分してない。うん。

ただ、何故か俺の顔を驚いたように、じっと見つめている。なんか恥ずかしいな。

俺は、皆の前までティガを抱えていった。

目の前まで來て俺の姿を確認したからか、やっと皆再起し始めたようだ。

「皆さん、とりあえず、事態は収拾しました。お騒がせして申し訳ありません。」

俺が、皆に聲をかけると、再起したカスードさんが、

「いやいや、ツバサ…やるじゃねぇか…。って、ティガぁああ！？」

と、俺の抱えているティガを視界にれ、途端に後ずさる。

なんか、カスードさんが絶して後ずさるとか、レアな姿を見ることができたな。

それにつられるように、族長組みは皆、俺と距離を取るように離れる。

「失禮な…。こんなに可いのに…。別にこいつは皆さんの事、とって食ったりしませんよ？なぁ？」

俺はティガにそう聲をかけると、ティガは甘えたように一聲鳴く。

そんな様子を見て、どよめきが起こる。

「ティガが…あんな聲を…。」「つか普通に、ティガとしゃべってやがる…。」「お、お姫様抱っこ…きぃいいい！！羨ましい！！」

そんな呟きがあちこちから聞こえる。とりあえず、皆さん驚きのようだった。

若干一名、レイリさんっぽい変な聲が聞こえた気がしたが気にしない事にする。

そして、俺は、再度、族長達にお願いをするために聲をかける。

「無理は承知でお願いしたいのですが…。こいつが元気になるまで、この村に置いて貰えませんかね？」

「そ、それは…」「流石に、ちょっと厳しいんじゃねぇか？」「ここここ、怖いですぅ！！」と、ヨーゼフさん、カスードさん、マールさんは難を示す。

しかし、桜花さんは、驚くべきことに

「１週間はレイリ宅の敷地から出さんと言う事と、そのティガが危害を加えられないように対策を取って下されば、特例で許可しよう…。」

と、妥協案を示してくれた。

そんな桜花さんの態度に、俺は逆に違和を覚え、「本當に宜しいのですか？」と、問う。

桜花さんはし疲れたような顔をしながらも、

「ツバサ殿は、ワシらの想像をはるかに超える力をお持ちじゃ。正直、わしらではどうにもならんと言うのが、本音じゃ。もし、この村に害をす存在じゃとしても、的な手立てが思いつかんのじゃ。」

と、長老としての苦悩を吐き出す。そして、「じゃが…」と呟くと俺の目を見據え、

「…ワシはツバサ殿を信じたいと思っておる。じゃから、実績を示してほしいのじゃ。」

そう桜花さんは言ってくれた。

チャンスをくれたのだ。その目には、信じさせてほしいという思いが見え隠れしている。

俺は、そんな桜花さんの決斷と、優しさに謝をしつつ、真摯に接してくれた桜花さんに対し、俺も一杯真摯に答える。

「わかりました。絶対に、期待は裏切らないと誓います。」

責任を負う者の苦悩は計り知れない。

その判斷が間違っていた場合、下の者も道連れなのだ。

自分の判斷ミスのせいで、村人が傷つけられる。

最悪、村人が死に至り、更に酷ければ村の存続事態が危ぶまれることもあるだろう。

肩に乗る責任と、重圧は俺ではとても耐えられるものではないだろう。

そんな重圧を抱えつつも、俺の信頼を優先さえてくれた桜花さんの決斷と勇気と心の広さに、俺は服した。

俺は、早速ティガに処置を施すことにした。

「すまん、ティガ。そういうわけだから、お前の攻撃力を無効化させてもらうが良いか？」

突然の俺の申し出にも、ティガは、一言、鳴くに止まった。

こいつもいい奴だな。自分の立場を良く理解してくれている。

俺は魔法を発させる。

そして、ティガの牙と爪に、コーティングを施す。

熊と戦ったときは魔力をコーティングし、攻撃力を倍増させたが、今回はその逆を行った。

つまり、幾ら噛もうが、引っ掻こうが、傷つけることは出來なくする。

まぁ、食事のときは一時的に解くことになるだろうが、それ以外ならこれで問題は無いだろう。

「ティガの牙と爪に、コーティングを施しました。これで、ティガの攻撃力は、皆無です。ほれ、ティガ、ちょい噛んで見て。」

そう言って、俺はカスードさんの腕を摑むと、ティガの口に放り込む。

ちなみに、ティガは一時的に風で浮かせて見た。

「うぉぃ！？ちょっ！？」とか、言いつつカスードさんは逃げようとしたが、俺は魔法陣で拘束しけなくする。

ティガは言われたとおり、カスードさんの腕を噛むが、シリコンでも噛んでいるように、ふにょんふにょんと、甘噛みにも屆かないほどの噛み応えでかみ続けている。

カスードさんは最初はおっかなびっくりな様子だったが、痛くないのが分かったのだろう。冷靜に自分の腕を噛むティガを見つめていた。

「なるほど…確かにこれなら大丈夫そうだな。」と、呟くと、

「しかし…ツバサ。なんで俺なんだよ…。」と、恨めしそうに俺を見る。

「何となくですよ。何となく。會議のことをに持ったりしてませんよ？」と、ニヤニヤしながら返した。

そんな俺の言葉を聞いて、「かー！」と、カスードさんは頭に手を當て、天を仰ぐ。

その後、カスードさんはティガの涎で腕をべとべとにしながらも、「大丈夫そうだぜ？」と、周りにアピールしてくれていた。

そして、ティガはめでたく、ルカール村の一員となったのであった。