俺は、驚愕するレイリさんを余所に、更に続けて説明を行う。

「レイリさんに施した治療によって、レイリさんの魔力は現在、普段より多い狀態で保たれています。」

俺は、一旦目を閉じ、改めて自分の考えを整理する。

「つまり…、レイリさんのには魔力が満ち溢れている狀態です。そのため、空腹も無くなり、先程のようにも強化されているのではと考えられます。」

そんな俺の言葉を理解したレイリさんは、し困したように、しかし、しっかりと俺を見據えて聞いている。

「そして、今、レイリさんのに起きている現象があり…そして、先程教えて頂いた金狼族のが及ぼす効果を重ねて考えると…？」

俺は指を2本立てレイリさに見せつつ、話を続ける。

「考えられるのは、魔力の過剰摂取により、に似た現象を引き起こす事が可能であるという事です。」

そこまで俺が話すと、レイリさんはその目に強い決意を宿して、こう言った。

「でしたらツバサ様。この私めを使って、そのへの道…探って頂けないでしょうか？」

そんな言葉を、俺は納得と諦めを持ってけ取る。

この話を始めた時點で、こうなる事は既に決定事項だった。

レイリさんの自分を犠牲にしようとも、一族の為を思うその心。

今の獣人族の現狀と、その先に待つ滅亡の予。

2つが合わされば、この結果は必然だ。

それを知っていながらも、俺はこの話をした。

何故なら俺もまた、そうすべきであると考えていたからである。

迫りくる戦いの予が、俺を焦らせていたという面もある。

単純に、知らない事に対する、無邪気さにも似た好奇心もある。

そして、そのどちらも、俺個人の、我が儘な心から発しているだと言う事も全て理解したうえで、俺はレイリさんにその言葉を言わせたと言っても良い。

卑怯な奴である。甘い言葉と、退路を塞ぎ、俺の意のままの結果へと導しているような、そんな救いようのない思考。

同時に、自意識に塗まみれ、種族とレイリさんの為にという綺麗な言葉で、それを覆い隠そうとする思考。

しかし、どちらも本音であり、どちらも俺である。それを俺は、全てけれたうえでこの結果をんだ。

そこに、後悔は無い。自分をめるかのような、大きな罪悪と、小さな優越をじながら、俺は言葉を発する。

「場合によっては…、心に危険を伴うかもしれませんよ？制できなければ狂ってしまう事も考えられます。」

「構いません。もし、仮に狂ってしまったとしても…ツバサ様が何とかして下さると、信じておりますから。」

間髪れず、そんな言葉が返ってくる。

初めて會った時からじていたが、この人の決斷力はある意味異常だ。

俺に対しての信頼も半端じゃない。一歩間違えなくても、盲信と揶揄されても不思議はないほどだ。

他の族長たちの反応や、村人たちの反応が普通なのであって、この人の拠の無いように見える信頼こそが、異常であると俺は思っていた。

しかし、そんな異常なまでの信頼を俺は、目を閉じ、し心を落ち著けた後、若干の張と共にけれる。

「金狼族の巫が凄いのか…レイリさん自が凄いのか…いや、その両方ですか。とにかく分かりました。」

俺はレイリさんの目をまっすぐに見據えると言葉を続ける。

「ひとつ、試してみたい事があります。それで、大の事が分かります。付き合って頂けますか？」

そんな俺の言葉に、レイリさんは「ええ。もちろんですわ。」と、やや挑発するかのような笑みを浮かべたのだった。

とりあえず、俺達は一旦、獲を村の解屋に預け、再度森へと分けった。

これからやる事は、一つ間違えれば、大參事になりかねない事だ。可能な限り軽にしておきたかったのだ。

本當なら、わが子達にも手伝ってほしい所ではあったのだが、家まで戻って説明する時間を惜しんだ結果だった。

ある程度、き回れる場所に俺達は到著した。

俺は早速、レイリさんに説明を始める。

「今から、レイリさんに供給している魔力量を増やします。しずつ行いますから、無理はしないようにしてください。恐らく、何らかの変化が起こるでしょう。能力の変化は言うまでもありませんが、俺が心配しているのは心の方です。恐らくですが、極度の興狀態に置かれ、殺意が出て來ることも考えられます。」

俺は、し心配しながらも、レイリさんを見つめながら言い切る。

「もし、可能であれば、心の方は出來る限り制してみてください。どうしても駄目なときは…言ってください。魔力の供給を止めますので。それでも萬が一の時は…俺が全力でけ止めますから、安心して狂ってください。」

と、冗談にもならない冗談を、肩をすくめながら言う。

そんな俺の、質の悪い冗談をレイリさんは笑ってけ止めると、「その時は是非、お願いいたしますわ。」と、清々しいまであっさりと言ってきた。

俺はそんな言葉に、苦笑しつつも、気を引き締める。まず、【アナライズ】を展開し、レイリさんの狀況をリアルタイムで観測できる環境を整える。

その後、「では、始めます…。」と、一言伝え魔力供給を増やし始める。

俺は、レイリさんの様子を見ながらしずつ魔力の供給量を増やしていく。

今、供給している魔力の1.2倍位の所で一旦止め、狀態を聞く。

若干力が張るようなじはするものの、それ以外に変化はないとの事だった。

更に供給量を増やし、1.5倍位の所で止める。し、レイリさんは戸っているようだった。

「何か…の奧底から、力が湧き上がって來る様にじます。」

魔力の流れを見ると、の中心に何か芯のように魔力度の濃い部分が形されているのが見て取れた。

それが、強い魔力を放ち、腕と足に向かって流れて行く様子が見て取れる。

ある一定量の魔力が蓄積すると、発的な力を生する回路のようなか？と俺は當たりをつけた。

試しに、しいてみて貰ったが、きが半端なかった。

縦橫無盡に飛び回り、素手で木をへし折り、ついでに見つけた熊を瞬殺し、投げてこちらに寄こすとか、もう人外狀態だった。

弾戦に関しては、俺が強化して、ギリギリ対等に戦えるかと言うレベルだ。金狼族、恐ろしいぞ！！

そして、やはりと言うべきか、かなりハイになっているご様子だ。

熊を倒しに行くときとか、それはもう嬉しそうにだった。

恐ろしいまでも魅られてしまいそうな笑みを浮かべて、すっ飛んで行ったのを俺は見過ごさなかった。

一応、満足する結果を確認した俺は、「この辺りにしておきましょうか。」と、提案し一度魔力の供給を止めたのだが、レイリさんは首を縦に振らなかった。

「ツバサ様。まだあの先がありそうです。ここは徹底的に検証しとうございます。」

と、理と決意をめた目で、俺に懇願してきた。

あの先に行くと、どう考えても暴走しそうなんだがな…。と、俺は頬をかきながら考える。

俺は、そんな想をそのままレイリさんにぶつけてみたのだが…。

「あら？ツバサ様。もしもの時は、け止めて頂けるのでしょう？」と、首を傾げながら不思議そうに言ってきやがった。

こういう時だけ、わかりの悪い振りするのはやめて下さいよ！？

それでも、やはりこうなったレイリさんは梃子てこでもかない構えで、俺は折れる形となった。

なんとなく…。いや、誤魔化すのはよそう。絶対に面倒なことになる予しかしていないのだ。

そして、異世界に來てからこのかた、この勘は外れていない。

ルナで散々味わったこの覚。よもやレイリさんからける事になるとは…。

俺はそんな諦めにも似たを抱いたまま、さらなる検証へと踏み出した。

先程の1.5倍を超え、1.7倍にした所で、明らかにレイリさんの狀態が変化した。

魔力が放出され始めたのである。

それは金の魔力だった。レイリさんの背丈ほどまで、渦を巻きながら放出されている。

そして、その中には、恍惚の表を浮かべ自分のを抱きしめるようにして立つレイリさん。

ヤバいっす。もうその表だけで凄いっぽいんですけど…。男としてはたまらん…いや、けしからん景なんですよ。

けどね、なんかこう近付いたら食われるっていう覚も同時に起こっているんですが…。本能的な恐怖みたいなじ？

なんだろうね？このれちゃ駄目だってわかっているけど、れたくなる、赤いスイッチを見た時の様なこの狀況。

俺は、とりあえず背中に汗を大量にかき、インナーを背中にりつかせつつ、レイリさんに聲をかける。

「レイリさん。もうそれ以上はまずそうでしょ…。やめましょうよ。」

そんな俺の弱気な聲を一笑に付すかの様に、こちらを扇的な金に染まった目で見つめると、

「あら？ツバサ様。私はまだ大丈夫ですわ？」

そう、有無を言わさない聲で言ってきた。

どうみても、全然大丈夫じゃない狀態でそう言われましてもね！？

目のとかあからさまに変わってるじゃないですか！？

そう思うも、レイリさんがこちらを見る目は、「早く魔力よこさんか、ぼけぇ！！」と言う風にしか見えなかった。

うん、もう駄目だわこれ。なるようにしかならないな。俺は、覚悟を決める。

「レイリさん。もう完全におかしくなってますからね？それでも、言っておきますけど…。ちゃんと制できるように努力してみてくださいね。俺も頑張りますから！」

そう言って、俺は更に魔力供給量を更に増やす。

丁度、2倍前後で、観測しているレイリさんの魔力量にさらなる変化が起こった。

今までは、魔力がの中心で1本芯を通した形で増幅されていたのだが、その範囲が全へと広がったのである。

見ると、レイリさんはし苦しそうな表で、自分の顔を覆っていた。

言わんこっちゃない！？と思いつつも、俺は魔力の供給をストップした。

しかし、その反応は収まらず、ついに、レイリさんは魔力の発的なに包まれる。

そして、そのが収まった後、そこにいたのは神々しいまでのを放つ、1頭の黃金の狼だった。

長２ｍは超しているだろう。見たことも無いほど、大きな軀だった。

その並みは黃金一。の1本1本に魔力が通り、その見た目とは裏腹に、高い強度を誇っていることがわかる。

目のも黃金。その目には王者としての威厳があり、視線を向けられただけで、思わず後ずさりたくなる気持ちが湧き上がるほどだ。

「えーっと…レイリさん？ですか？」

俺は、恐る恐るレイリさんと思われるその狼に聲を変える。

狼はその目を俺に向け、俺もその目を覗き込む。そこには…狂気と闘爭本能しか見る事ができなかった。

あー…。完全にこれは、暴走狀態ですかね…。

そんな俺の引いた心をじ取ったのだろう。レイリさんだった狼は、音も無く跳躍し俺に襲い掛かる。

こうなる事を見越して強化していた俺であったが、それでも躱すのはギリギリだった。

なんつー速さ！？一応、強化した知覚で追えるだけ、咲耶よりはましだが、それでも恐ろしいまでのスピードだった。

しかも、それには予備作が全くないのが厄介だった。

突然、狼が吠える。

それだけで、魔力が放出され、一瞬旋風が巻き起こる。

次の瞬間、狼のスピードが更に上がり、攻撃が鋭くなる。

俺は避けきれず、結界から質な音が鳴り響き、狼の攻撃を跳ね返したのをじる。

ぐ…更に強化できるとか反則だろう！！と、俺が冷や冷やしていると、狼は更に吠える。

一瞬、狼の周りに放出された魔力が真っ赤に燃え上がる。

あー…。なんとなくだが、何したか、予想付いちゃったよ。

俺は、即座に、防護結界を強化、前面に特に厚めに結界を集中させた。

次の瞬間、狼は、トップスピードで、俺に飛びかかる。

結界が次々と音を立てて食い破られたのが分かった。

その牙と爪には、赤々と燃える炎が見える。

しかし、その牙も爪も俺には屆かず、全ての結界を破れなかった狼は忌々しそうに、離れて様子を窺う。

単の攻撃力でもなかなかのなのに、更に自己強化にてスピードと攻撃力も上げられると…。

きっと、これはレイリさんの屬に関係しているのだろう。そうなら魔法も使える筈だ。

しかも、本能で戦っているのに、この戦闘力。これ、使いこなしたら凄い事になるんじゃないか？

俺は、目の前の狼化したレイリさんを見て、そう評価した。

しかし、このまま捌さばいていても埒が明かない。

恐らく、魔力さえ切れれば元には戻るのだろうが、どの程度時間がかかって、その時の負擔がどの位あるのか想像もつかない。

あまり長引くと良くないと俺の勘は告げている。

倒してしまえば止まるのだろうが、それでは、レイリさんに手を上げる事になるし、俺もそんな事はしたくない。

それは最終手段にする。

結局、レイリさんに、自力で制して貰うのが一番なのだろうが、このままでは可能は低い。

やっぱり、あれしかないかな…。け止めるって言っちゃったしなー。

痛いだろうなぁ…。けど、頑張らないとな…。よし、やるぞ。俺！！

俺は、再度、覚悟を決めると、狼に向き合い、正座する。

突然の俺の奇行に、狼は一瞬狼狽えるが、その目は俺に対する攻撃の意思を宿したままだった。

俺は、魔法陣を展開し、その時に備える。

狼は再度吠え、自分を強化すると、俺に突っ込んでくる。

俺は、すぐさま魔法陣を展開した。

俺の魔法陣が展開した瞬間、狼の速度ががくんと落ち、牙と爪に掛かっていた炎の力も消え失せる。

しかし、同時に、俺の結界も消え失せた。

俺が展開した魔法陣、【ディスペルマジック】。

文字通り、全ての魔法・魔力効果を相殺する魔法陣だ。代わりに俺の魔法も例外なく一緒に相殺される。

正直、俺にとってはあまり恩恵の無い魔法陣だったが、今回は役に立った。

力任せに、狼の魔法を制圧しても良かったのだが、それでは何か違うと俺はじていた。

後で思ったのだが、俺は罰がしかったのだと思う。

レイリさんを強引にでも止めるべきだった。と心の奧底では思っていたのだろう。

俺はレイリさんに許して貰うためにも、あえて自分が傷つく選択肢を選んだ。

その行為で、レイリさんが傷つくと分かっていても…だ。

それがどんなに勝手な事か知った上で、それでも俺はそれを求めてやまなかったのだ。

でないと、自分が許せなかった。

強化の恩恵の消えた狼だったが、その牙と爪は健在だ。

狼は結界の無くなった俺に、容赦なく襲い掛かって來た。

俺はその牙が突き立つ瞬間まで、その狼の姿をその目に収め続けた。

一瞬だけ、狼に焦った様子が浮かんだのを俺は見逃さなかった。最初、口を狙ってきた牙は、しその軌跡を反らし、俺の右肩口へと突き刺さった。

間もおかず俺の脳へと忠実に送られる、激痛と言う名の危険信號。

俺は、予想以上の激痛に絶しつつも、その狼のをしっかりと抱きしめた。

殘念ながら、余りの痛さに、並みを楽しむ余裕は無かったが、なんとかく左腕でそのを優しくでる。

正直、痛すぎて、その時の事は良く覚えていなかった。

しかし、懸命に、レイリさんに「レイリさん！戻って下さい！」とか、「早く帰りましょう！！」と、び続けていたのは微かに記憶に殘っていた。

そんな俺の聲が、レイリさんにちゃんと屆いたのだろう。

肩口に突き刺さった牙が抜かれ、慌てて離れる狼。すぐさま、治療魔法が俺の傷を癒し、激痛から解放された。

俺は、わめきんでいた時に、一緒に出ていた涙を袖口で暴にぬぐう。

まだ整わない息を必死に整えながら、狼の様子を窺いつつ「レイリさん？」と、聲をかけた。

理を取り戻したレイリさんは狼の姿のまま、俺の方を心配そうに見て來た。

なんで、理を取り戻しているか分かったかと言うと、耳と尾がいつも見るようにワタワタしているからだ。

狼バージョンだとまた趣が違い、見ていて飽きなかった。

「レイリさん。とりあえず、元の姿に戻りましょう。魔力と気持ちを落ち著けるイメージを持って下さい。」

そんな俺の聲を聞いたレイリさんは、狼の姿のまま深呼吸を始める。

元の世界じゃ絶対に見れないぞ…狼の深呼吸とか…。

深呼吸と共に、活化していた魔力が落ち著いていくのが見て取れた。

流石は巫だけはある。魔力の制はある程度行えているようだ。

そして、ある程度活が落ちた段階で、レイリさんはに包まれる。

が収まった後には、いつもの綺麗なレイリさんがそこにいた。

ただし、生まれたままの姿で…だが。

ビキッと、音を立てて固まる俺。しかも、綺麗な肢から目を離す事が出來なかった。

マジマジと見てしまう。だが、頭は真っ白で何も浮かんでこない。

しかし、レイリさんはそんな事、全く気にしない様子で俺に詰め寄ると、肩をさわり、俺の頬をでつつ、「ツバサ様、お怪我は！？」と、心配そうに俺のをって來た。

そして、直した俺は、その目の前で々な形に変わるものに、視線を引き寄せられ…って、「だぁあああ！！？？」と、俺は大聲を上げると、気力を総員して至福の景から目を逸らす。

「ツバサ様？」と、訝しがるも、レイリさんは改めて、自分の姿を確認したのだろう。

次の瞬間…「きゃああぁあ！？」と、可い聲を上げていた。

ああ、レイリさんもそんな聲出せるんですね。ちょっと新しい発見が出來て嬉しいですけど、どうしようこれ？

俺は真っ赤になる顔で、正座をし、地面の砂の數を數えつつ、そんな事を考えていたのであった。