《比翼の鳥》第42話:小さな変化

あれから1週間が経とうとしている。

実に、度の濃い1週間だった。

まず、レイリさんと失われたについて、桜花さんに報告に行った。

靜かに俺の説明を聞いていた桜花さんだったが、レイリさんが暴走した件くだりで、激高して毆りかかって來た。

爺さんの力とは思えない位、気合のった拳だった。

口の中が裂け、だらけにはなったものの、歯が逝かなかったのは運が良かった。

流石のレイリさんも咄嗟の事で、唖然としていて止められなかったと後で言っていた。

俺は逆に、最初から毆られる覚悟で目の前に対峙していた。

結界も強化も使わず、生のままで、もろにその拳を食らった。

親の立場だったら、俺も多分、毆りかかっていたと思う。それだけの事を俺はしたと自覚している。

俺なりのケジメの付け方だった。

流石に、口と鼻から思いっきりを流しつつ、起き上がる俺を見て、冷靜さを取り戻したのだろう。

その後は、謝罪こそ無かったものの、淡々と話が進んだ。

二度と、暴走はさせないと言う前提で、俺は引き続き、この現象の検証を任されることとなった。

そんな桜花さんの心の深さと優しさを改めてじ、俺は深々と頭を下げた。

また、その時、このを便宜上、獣化じゅうかと命名することにした。

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この日より、桜花さんが時々立ち會う形で、レイリさんの獣化検証が日課に加わった。

主にこれは朝行われることになり、結果として、朝食に桜花さんが加わるようになった。

「レイリ!老い先短いワシに、を譲らんか!!」「可い娘に譲るのが親として當然でしょう!?」などと、のある日には、いつも、桜花さんとレイリさんが取り合いをするという構図が、恒常化している。

リリーは自分の分が確保できれば、そこまでがっつく必要が無いと分かったのか、それとも、単に親の醜い爭いに何かをじたのか、落ち著いて食べるようになった。ただし、まるで庇護を求めるかのように、俺の隣で…ではあるが。

結構、ちゃっかりしてますね?リリーさん。

そんな視線を向けるも、リリーは嬉しそうに耳と尾をパタパタしながら、俺に笑顔を向けて來るのだ。

俺はそんな様子にほんわかしつつ、リリーの頭をで、そして、それを羨ましがった、ルナが俺に飛び付き、そんな様子に気が付いた、レイリさんと桜花さんが騒を拡大化し、朝食の最後はいつも騒ぎとなっていた。

そして、そんな俺達の様子を、し離れた所から、わが子達とティガが、「「「なにやってるんだか…」」」という目で見つめているのだった。

午前中、俺はカスードさんの所で、修行と言う名の小間使いをさせられていた。

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まぁ、こちらとしても々と、づくりの現場を見れるし、々なを作る事が出來て良いのだが…。

流石のカスードさん。人使いが荒かった。

とりあえず、俺の力をかなり上方修正したカスードさんは、ハードルをどんどん上げて行ったのだ。

最初は石切り場の石を、切って運ぶところから始まった。

確かに、魔法があれば不可能じゃないんですけどね!?

流石に、山一つ分位指定されて、どうしようかと頭を抱えた。何トンあると思ってんだよ!?

それでも、出來なかったら負けた気がすると思った俺は、試行錯誤しながら、石材を大量に作り続けた。

問題は、資材置き場にどう運ぶかという事だった。

最初は1辺10m位の石材を強引に、飛ばせて運ぼうとしたのだが、流石に重すぎたらしい。

それを浮かせるだけで、周りが臺風の被害でもけた様な狀態になった。

出して、著弾點に緩衝魔法を張ってけ止めるとかもやってみたが、「頭の上を巨大な石が飛んでいくのが恐い」と、村から苦が殺到してやめた。

最終的には、石の大きさを小さくして、その分、數を運ぶことで対処した。

10m四方に切り出した石を、更に、1m四方に切り刻み、その1つ1つに風魔法で浮遊をかけ、資材置き場で元の10m四方の石に組み直すと言う魔法を作った。

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応用すれば、一連の作業を繰り返す事を効率よく行えるようになる。

一部の人から、「石が整然と列をして、自分で資材置き場に鎮座していく姿が恐ろしい」と、言われたが黙殺した。

結局、資材置き場を埋め盡くすほどの石材を置いて、嫌がらせを完了すると、それをみたカスードさんが慌てふためくのを見て、留飲を下げるのだった。

次に言われたのは、道路の改善だった。

きっと、資材置き場が使えなくて困っているからこうなったのだろう。

今の村の道路は、只の踏み固められた土だ。

晴れている日は砂埃が舞い、雨の日はぐしゃぐしゃになる。

これを切り出した石を使って何とかできないかと、言われた。

俺は、石切り場で使用した魔法陣を応用して、石畳を作る事にした。

整地し、し削り取ってくぼませた道に、砂利を敷き詰め、同じ大きさに切り出した石畳を敷いていった。

村人には通知が行っていたので、事故も無くスムーズに進んでいった。

むしろ、綺麗に敷かれていく石畳を、皆、興味深そうに眺めていたのが印象的だった。

取り敢えず、村の東西南北と広場を結ぶ、大きな通りを石畳化した。

カスードさんは満足そうに、次は何して貰おうかな…とか、言っていたから近いうちに、また何か押し付けられそうだ。

そうやって、徐々に町の人の反応が、どこか慣れた様なに変わっていく過程を見て、俺はこの前、レイリさんと話していた時にじていた、気持ち悪さの正に気が付く事が出來た。

結局のところ、それは、俺の想像を超えた何かに対する嫌悪だったのだ。

価値観のぶつかり合いと言っても良い。

ある意味、ありえないと思われていても、想像の範囲…たとえば、空想であっても、それをそういうとして知っているなら嫌悪は起きなかったのだ。

魔法が良い例だ。あれは、本來ありえないものでありながらも、知っていただ。

食事をとらなくてよいなのに、他の事は何で駄目なのだ?排せつが必要ないのに、あの程度の事が駄目なのか?

冷靜に考えてみると、自分でもよく分からない部分はある。

だが、俺の考えの及ばない角度から、いきなり出て來たものに対し、俺は拒否反応を示してしまったのだと思っていた。

何という事は無い。俺の視野の狹さからくるものだった。それに気が付いた時、自分で自分に呆れた。

俺の知らない違う理でく人たちの事を、俺は自分とは違う恐ろしいもののように捉えてしまったのだ。

そして、村人が不安に思ったりしているそれも、同じようななのだ。

しかし、そういうが日常的に目に飛び込んでくるようになると、人間慣れるのも又、道理である。

村人達は、俺の奇行に徐々に慣れ始めていた。同様に、俺も異世界の異質さをれつつある。

まだ、完全にはれきれてないのは分かっている。

現に、頭で理解していても、心が著いてこない部分があるのだ。

ただ、その発がどこからなのか見據えていれば、おのずとけ皿は自分の中にできるのだ。

自分がれようと努力できれば、大抵の事は収まる。あくまでれようと思えば…だが。

最近、時々俺が思いにふける姿を、レイリさん、リリー、ルナが気にしているのは分かっていた。

近いうちに、本心でしっかりと向き合って、話してみようと俺は決意した。

そして、そんな決心をした時、俺の心の底で、何かが音を立てたのを、遠くで聞いたような気がしたのだった。

午後は、基本的に俺の自由時間に宛てていた。

新しい魔法陣の構築であったが、時折、狩に出かける事もあった。

前と違い、1日中という訳にはいかなかったが、この1週間で、霊に有効と思われる魔法の開発に功していた。

主に、神にダメージを與える魔法である。魔力を霊力に変換し打ち出す為、威力は非常に高い。

もっとも、我が子達にぶっ放す訳にもいかないので、空撃ちして、我が子達に見て貰った。

想を聞いたが、霊に間違いなくダメージを與えるだろうと言っていた。

俺は、我が子達からその言葉を聞いた後に、そっと2人を抱きしめて、

「こんな魔法作っちゃってごめんな…。けど、絶対にお前達や、俺を慕ってくれる霊たちには撃たないから…。約束する。だからと言うのも変だが、許してくれ。」

と、俺は、心の底から吐き出すように謝罪した。

そんな俺の言葉に、「お父様…。」「父上…。」と、言葉を失ったように、我が子達は呟いた。

俺はこの魔法の必要を理解しつつも、この魔法の持つ意味がどうしても頭から離れなかったのだった。

それは、我が子達だけでなく、ディーネちゃんや、関係の無い霊たちをも害する事の出來る魔法を作っているという事実だ。

勿論、今まで作った魔法の中には攻撃魔法もあり、それが周りの人たちを害すると言う一面を持っていることは否定しない。

しかし、その魔法を作った時と、今の魔法を作った時の俺の心が、全く違うのだ。

正直、今迄作っていた魔法は、単純に俺の好奇心を満たす為のであり、それをふるう事に躊躇いもあまり無かった。

だが、この魔法は明確に霊に対して作られた魔法だった。

それは、我が子達やディーネちゃんをも自分の手で害する可能を自らの手で生み出したことに他ならない。

今迄と何ら変わらない。変わらないのに、そんな事が恐くなったのだった。

それは恐らく、霊というを俺が近しい存在としてれ始めているからなのだろう。

同様に、我が子達に対する気持ちが大きくなっていることの表れなのかもしれない。

そんな事に悩む俺に、2人は笑顔で、「大丈夫ですよ!此花はお父様を信じておりますわ♪」「父上!この咲耶、父上のしております!」と、答えてくれるのだった。

2人の笑顔を守りたい。俺は改めてそう思っていた。

何かの音が響いたのを、俺はじていた。

夕方から夜にかけては、算數講座である。

結局、何故かレイリさんの家で、行う形に変わっていた。

と言うのも、レイリさんとリリーが、參加を申し出たからだ。

初回こそ來られなかったヨーゼフさんとマールさんだったが、2回目から毎日顔を出す様になった。

1時間ほど講義をして、食事を皆で取った後、必要があれば更に講義を行う形で進んでいった。

食事は、人數が増えた事もあって、賑やかなへと変わっていた。

そして、ちゃっかりティガも気配を消すようにって來ると、食事に參加するようになっていた。

最初の頃こそ、慣れてないヨーゼフさん、マールさん、スルホにラーニャが取りし、主にマールさんが大參事を引き起こしていたが、最近は慣れて來たのか、ちょっと耳を立てる程度で、普通に食事を取れるようになった。

「ふわー!?私のおぅうう!!」と言うび聲で目を向けると、囲爐裏の中に落としたおを摑みとりそのまま食べるマールさん。灰ごと行くんですね?凄い執念だ…。

前言撤回。マールさんは通常通り、食事の時も騒がしいです。

ティガも2日目くらいから普通にけるようになったらしく、レイリさん宅をあちこち移して自分のくつろげる場所を探しているようだ。

ちなみに、簡易的にではあるが、ティガ用の小屋を作ってみた。

結構気にったらしく、日中はそこでのんびりと晝寢をしているようだった。

何故か時々、我が子達も一緒に寢ていることがあった。仲良くなったようで何よりだ。

算數講座も終わり、スルホとラーニャをヨーゼフさんに家まで送ってもらうと、後は寢るだけ…と思いきや、ここから先がある。

発端はリリーの一言だった。

「ツバサ様、ルナちゃん。私…強くなりたいです…!」

リリーは初めての算數講座が終わったあの日、そう言ってきた。

珍しく積極的なリリーを見て驚く俺に、ルナも「ツバサ。お願い。手伝ってあげて。」と、懇願してきた。

何かあったのは間違いない。恐らくはティガ絡みかな?と、當たりを付けるも、正直俺は迷っていた。

リリーを戦いに參加させても良いのだろうか?と言う本的な問題だ。

正直言えば、俺はそんな事してしくは無い。レイリさんやルナにだって本音で言えば、戦ってほしくない。

しかし、俺は最悪の事態を想定して、ルナとレイリさんには戦力になってもらうよう、お願いするつもりだった。

それは、レイリさんには獣化、ルナには魔法と言う戦う為の力があるからだ。

しかし、今のリリーにそれは無い。確かに、戦う力があればいざという時、生存率はグッと上がるだろうが、逆に死地へと向かわなければいけなくなる可能も上がる。

そんな迷いの中にいる俺に、レイリさんが後押しをした。

「ツバサ様。私からもお願い致します。」と、頭を下げて來たのだ。

俺は、改めてリリーを見ると、心に直接問い掛けるように聞いた。

「リリー。何で力がしいんだい?別に戦えなくても誰もリリーを疎んじたりしないよ?」

「ツバサ様…。私は…みんなの傍に、皆の近くに居たいんです。このままでは、私は近い將來、皆から離れなくてはなりません。」

「そんな事は無いと思うけど…」と、否定する俺に、リリーは黙って首を振ると、

「ツバサ様は、いつか絶対にこの村を出て行きます。私はその傍でしっかりとツバサ様を見ていたいんです。」

そう言うリリーの目には、決意と覚悟が見て取れた。そして、その言葉も俺に否定できる要素は無かった。

何より、リリーが俺の近くにいるために頑張りたいと言う心を折る事は出來なかった。

俺がもうし鈍系だったら、俺はリリーを自分の思う通りに、村へと縛り付けただろう。

だが、この目を見てしまった俺に、その選択肢は取れなかった。

「分かった。やるからには徹底的にやるよ?」

と、俺はし脅かすように、答える。

リリーはそんな俺の言葉に、一瞬耳がしなびかけるが、すぐにピンと戻ると、

「の、むところです!」

と、気合のった聲でんだ。

こうして、リリーの訓練が始まったのだった。

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