《比翼の鳥》第43話:リリーの告白

最初は、リリーに魔法を覚えさせようかと思ったのだが、それ以前に魔力量がネックとなった。

そこで、俺は前から考えていた、魔力の鍛錬方法をリリーに提案してみる事にした。

そもそも、俺の魔力はなぜ増えているのか…。

我が子達によれば、俺のの中にある魔素が、擬似的に欠乏したような狀態にあるので、細胞がそれを補うために、自分で魔素を生み出すを作ったという話だった。

ならば、ある程度魔素の分布をいじって欠乏箇所を作れば、その分魔素量は増えていくのではないか?と言うのが俺の考えだ。

しかし、待てよ?それで俺の魔素が増えるっていう事は、既に俺のは異世界よりのという事か?それともこれは異邦人たる俺だけの特なのだろうか?

分かったつもりになっていたが、俺のがそんな変化を起こすという事は…俺は既に異世界の理に囚われているのだろう。

世界の理云々と言うより、が変質しているのであれば、俺のは既に別であるという事だ。

だとするなら、俺が元の世界に帰る可能は、全くないと言っても良いのかもしれない。

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そんな考えに自ら落ち込み、いかん!と首を振る。

今は良い。今は目の前の事をしっかりとこなす事が大事だ。

逃げているのかもしれないが、その事が分かっていれば、いつか自然と道は見える筈だ。

俺の経験がそう告げている。時間はかかるが、逃げるのも立派な対処方法だ。

今、心がれられないなら、れられるようになって改めて対峙すれば良い。

それで何回も心を壊した俺は、覚的にその引き際を知っていた。

俺はそんな思考を頭の片隅で行いつつ、リリーを中心にしつつも、皆に向かって話しかける。

「リリー。君の魔力量はない。だから、まず、それを上げると同時に、魔力の制をしっかり行えるようにするのを第一段階としようと思う。」

そんな俺の言葉に、リリーはしっかりと頷いた。

「じゃあ、今からリリーの魔素をしだけかすから、その覚をしっかりじてくれるかな?」

そう言って俺は、魔力を見ながら、リリーのお腹の下、丹田あたりに手を當てる。

「!?」と、リリーのが一瞬こわばる。それをじた俺は、結構際どい所をっていると気が付いた。

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「うお!?ごめん!!」と、思わず謝って手を離す俺に、リリーは真っ赤になりながらも「いえ、すいません。ちょっと驚いちゃって…。」と、小さな聲で謝りつつ、「ツバサ様なら、嫌じゃないです…から。」と、上目づかいで伝えて來た。

ちょっと、リリーさん。それは反則ですよ。駄目ですってば、マジで。

俺は、リリーから視線を逸らすと、空を見上げ、星を數え始める。

あーもう!別にそのまま抱き締めたって問題ないはずなのに、俺は何やってるんだか!?

そう混した頭で考えつつも、それが俺なのかもしれない、とじていた。

改めて、俺はリリーの丹田に手を當てて、「かすよ?いいかい?」と、リリーに言う。

「は、はい。大丈夫です。私の事は気にしないで好きにかしてください…。」と、リリーは答えた。

…あれ?なんかこの會話、かなりアウトっぽくないか?

と、一瞬気付いてしまうも、俺はそれを強引に頭の片隅に追いやる。

俺は丹田に集中する魔素の一部を、かす。

上へ下へ、循環させるように、円を描くように、々なきを行ってリリーの反応を見る。

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リリーは初めての覚に戸っているようで、くすぐったそうにしていたが、しばらくすると、何故か恍惚とした様子に変わっていく。

「リリー?大丈夫?痛かったりしない?」と、俺が聞くと、ハッとしたように、

「いえ!大丈夫です!むしろなんだか…気持ちよくなってきました…。」と、顔を真っ赤にしながら慌てて言う。

リリーさん?わざとやってませんよね?

俺は、このまま続けたいような、続けちゃいけないような微妙な心もちになりつつ、一応様子を見ながら続ける。

リリーは、どんどん呼吸を荒くしていき、それを見て俺はどんどん変な汗が出て來る。

「リリー?」と言う問いに、「いえ、大丈夫です…もっと!」とか完全に壊れていた。

俺は、すっと、手を離し、魔素の移を止める。

なるほど。リリー恐ろしい子…。危うく々と間違ったところへ到達するところだった…。

俺は、モヤモヤする気持ちを抱えつつ、リリーを見る。

まだ、息が荒く何となくっぽい顔をしているが、何とか理が戻って來ているようだ。

ふと、レイリさんを見ると、凄く楽しそうにニヤニヤしていた。

いやいや、娘がある意味、毒牙にかかってるんですから止めましょうよ。

ルナは興味深そうに、リリーの様子を見ていた。

絶対に俺はやらんからな!?ルナさん、そんなものしそうな目で俺を見ても駄目!!

俺も変な意味で沸騰し掛けた脳みそを冷ますと、

「リリー、覚はつかめた?」と聞いてみる。

「あ、はい、何となくわかりました。」

「じゃあ、次からはその覚を思い出して、自分で練習してみてね。」

「え!?も、もうやってくれないんですか?」

なんで、そこで殘念そうな顔をするんだ…。

俺はそう思いつつも、「また分からなかったら、やったげるから。まずは練習な。」と、答えた。

その答えに、「やった!」と、何故かガッツポーズするリリー。

つか、異世界なのになんでガッツポーズがあるんだよ…。とか、冷めた事を考えつつ、俺は何に対して喜んでいるか分からないリリーを見ていた。

そうして、リリーの特訓が始まったのだった。

リリーは順調に魔力量を増やしていった。

それを知るのに俺の、【アナライズ】に頼るまでも無かった。

リリーの能力が飛躍的に上がったのが、目に見えて分かったからだ。

最初は、うっかり、木椀を握りつぶしたところから始まった。

もう、それだけでも十分に生活に支障が出ているので、魔力量を増加させるのはその時點でやめた。

はずだった…。

流石レイリさんの娘だけはある。思い込んだら一筋だった。

そのまま獨斷で魔力を増やし続け、能力を強化し続けたらしい。

あれは訓練を初めて5日目だったろうか?狩に行く事になり、初めてリリーと組んで行った。

レイリさんも真っ青なきでした。何あれ?

獣化したレイリさん程ではないにしろ、早いうえに、上下左右に縦橫無盡に駆け巡っていた。

まぁ、その結果、下著が見える位に々翻っていたわけだが、俺は何も言わなかった。

そして、一撃の重さもなかなかのらしい。

一発でイノシシを仕留めていた。

あの能力で叩かれたら、強化していても骨折ものだよ!?

俺は、可かったリリーを忍んでそっと泣いた。

もしかしたら、魔力が上がった関係で、獣化に手が屆きかけているのかもしれない。

俺はその時、そんな事を考えたのだった。

そんな狩の帰り道。

「ツバサ様。し寄り道していきませんか?」と、リリーにわれ、俺達は川の辺へと足を運んでいた。

ヒッポ草を採った川と同じ川だが、し上流だった。ちょっとした大きな巖が多く、その間を流れる川も早い。

苔むした巖を椅子代わりに俺達は、並んで腰かけた。

リリーは俺を見上げて、何かを言おうとし、また俯く。そんな作を何回か繰り返していた。

「うぅー!」と、顔を真っ赤にしながらそれでも、彼は何かを懸命に伝えようと努力しているようだった。

俺は、焦ることないと言う意思を込めながら、リリーの頭を、ポンポンとでる。

一瞬溶けそうな表をしたリリーだったが、頭を振ると、真剣な表で俺を見つめて來た。

「ツバサ様。お話があります。」

「うん、何かな?」俺はなるべく優しい聲で、靜かに返す。

そんな俺の聲に安心したように、リリーは微笑むと、必死な顔で

「私を…お母さんを…おじいちゃんも、んな人を救ってくれて、本當にありがとうございます!」

そう、頭を下げて來た。そして、顔を上げたリリーの表は泣き顔だった。

「私…いつもお母さんに守って貰ってばっかりでした…。何にもお母さんにしてあげられなくて…凄く悔しかったんです。ツバサ様と、お會いした日も、おじいちゃんがお母さんの様子を見て…もって後1月だって言ってたの聞いちゃったんです…。」

リリーはただただ、靜かに、涙を落としつつ、話を続ける。

「私、居てもたってもいられなくなって…薬草をしでも多く取れればお母さん良くなるかもって…。だから、全然準備もしてなかったんです。獣除けの香とか、用意もしないでそのまま森にって、ティガの群れに囲まれました。」

リリーはその時の事を思い出したのだろう、を震わせる。しかし、俺の顔を見て、ニコリと微笑む。し無理のある笑顔だったが、泣き笑いにも近いその表は素敵だった。

「私、これは罰なんだって思っていたんです。お母さんに何もしてあげられなくて、村でもただ養ってもらうばかりで、一つも何も出來なくて…。そんな風に、何も出來ない子だから、きっと罰が當たったんだって。そう思って諦めていたんです。」

リリーは俺を見て、泣きながらも頬を染め、話を続けた。

「そうしたら…。ツバサ様が、風のようにやってきて…ティガをあっという間に蹴散らして…。私、本當に夢を見ているんじゃないかって、最初信じられなかったんです。」

「完全に呆けてたもんね。」と、俺はし茶化して言う。

「もう!そんな細かい事まで覚えてるんですか!?けど…嬉しいです。」と、ちょっと困ったような顔で恥ずかしそうに頬を染める。

「その後も、ツバサ様も、ルナちゃんも凄い優しくて…。私の事恐がるどころか、可いって…可いって…はう。」

ちょっと、意識を飛ばしそうになるリリー。

いつもなら、そんなリリーを眺めて楽しむのだが、大切な話の途中なので、頭をでてこちら側に引き戻す。

で始めると目がトローンとして來て、何とも幸せそうに耳と尾がれ始めるのだが、そこで俺はでるのを止める。

「はっ!?」と、目をパチクリさせ、俺の顔を見ると、ボッと赤くなる。

うむ、見ていて本當に和む…。これは至寶の域だね。全世界の寶にすべきだと思う。

「え、えっとですね…そ、それで…。何でしたっけ?」と、泣きそうな顔で俺に問うてきた。

「俺を村まで連れて來てくれた當たりの話じゃないかな?」と、俺は當たりを付けて答える。

「あ!そうでした!ツバサ様、いつも私の頭でてくれますよね?今もそうだったんですけど、あれ、凄く嬉しいんです。何だかとても幸せな気分で…どこかに飛んでっちゃうくらいなんです。」

うん。実際半分どっか行ってるからなぁ。そう思いながらも俺は言葉を返す。

「俺も、リリーの頭や尾をでるのは好きだよ。手りも良いし、何よりリリーの溫もりを手先からじられる気がして、優しい気分になれるしね。」

そんな俺の言葉に、リリーはウルウルと目を潤ませると、

「私、こんなにツバサ様のことが好きになるなんて、自分でも思っていませんでした…。最初は、ルナちゃんやお母さんが気になっちゃって、諦めていたんです。役に立たない子だから、きっと駄目だろうなって。」

そう言って、し悲しそうに目を伏せる。

「そしたら、ルナちゃんが言ったんです。私と一緒が良いって。私の素敵なところが沢山あるって言ってくれました。それで話が弾んで…そうしたら、ツバサ様の話になって…。」

俺は驚きながらも、その話の続きを待つ。

「私達、一緒に々ツバサ様の事話しました。そしたら、一緒に好きになれば良いって言ってくれて、それにお母さんも一緒に居られればそれが一番良いって言ってくれて…。」

俺はその言葉を黙って聞く。リリーはもう、自分が何を話したかったのかも分からない様だった。

「私、本當に今迄何もできなかったのに、お母さんも全然そんな事気にしてなくて…むしろ、私の知らないところで、私の姿を見て、お母さんは勵まされていたんだって知れて、私達、々知らなかった事を、ツバサ様が來てくれたことで、知る事が出來たんです。」

段々、話の繋がりはなくなって行くのに、俺は逆に、その事でリリーがそれだけ々な思いを吐き出してくれているとじられた。

「おじいちゃんも、いっぱい苦労してて、お母さんも治って。おじいちゃん死んじゃいそうだったのに、ツバサ様助けてくれて…。私、もう、ツバサ様にどうやって恩返ししたらいいかわからなくて、それでも、そんな凄い人、好きになっちゃ駄目だって…。けど、やっぱり好きで、みんなも好きで、一緒に居たいって思って。」

何だかわからないなりにも、一杯リリーは何かを伝えようとしてくれていた。

それは、本當に滅茶苦茶で、けど、とても見ていて答えたくなる。そんな姿だった。

「だから!んと!私、強くなって!!ツバサ様の傍に居たいです!好きです!しゅき…あう!」

噛んだ。

笑っちゃいけないと思っても、あまりにもリリーらしくて、それを止める事が出來なかった。

代わりに、笑いながら、俺はリリーを抱きしめる。

「ハハハハ…。はぁ…。いや、ゴメンゴメン。もう、これだから、リリーは最高だよね。俺を笑顔にさせる天才だよ。」

俺は、の中にすっぽりと納まったリリーを見る。リリーは恥ずかしそうにしながらも、俺の顔をしっかりと見つめて來た。

「リリー。君は、何も出來ない子なんかじゃないよ?むしろ、いるだけで周りを明るく照らしてくれる太の様な子だ。凄いんだよ?何もしなくてもみんなを笑顔にできるなんて。俺にはとてもできないよ。これはリリーだから出來る事なんだよ?」

俺は諭すように、一言一言丁寧に、リリーに投げかける。

「自分が信じられないなら、何度でも俺が、ルナが、レイリさんが言ってあげるから良く聞いてね。いいかい?リリー。俺は、ちょっとドジで、いつも一生懸命で、とても優しい、そんなリリーが大好きだ。殘念ながら俺は、異邦人のおっさんだけど、出來れば、俺の傍にずっといてしいと思っている。」

その言葉を聞いたリリーは、涙をボロボロとこぼしながら「ぼ、ぼんどうですがぁー!?」と、泣きながら聞いて來る。

「うん。だから、みんなと一緒に頑張って、幸せになろうよ。」

そんな俺の言葉を聞いたリリーは、「うわーーーん!!」と、號泣し始めた。

俺はリリーの頭をでながら、泣きやむまでずっとあやし続けた。

なんだか、ルナと同じ様なことになってるな…と俺は苦笑した。

ふと見ると、リリーの周りに嬉しさと幸せな気分を存分に乗せた魔力があった。

きっと、に乗せて飛び出て來たものだろう。

それに、引き寄せられるように、霊たちがポツポツと、顕現し始める。

リリーは気付いていなかった様なので、俺はそっと、その霊たちにお願いをした。

霊たちは、喜んでれてくれた。

そして、リリーの髪留めであるリボンの中に次々と吸い込まれていったのだった。

俺も、魔力を薄く放出し、霊を顕現させると、リリーのリボンに重ねるように、霊たちをいざなった。

そのリボンは淡く発し、やがてただのリボンに戻る。

『いつか、リリーが戦う時が來たら、この子の力になってやってほしい。』

そんな願いを込めたリボンを使う日が來ない事を祈りながら、俺は、リリーの頭をで続けたのだった。

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