《比翼の鳥》第45話:錯綜する想い

リリーの変化が、村に大きな揺を與えた事も想像に難くない。

初日こそ、特に大きな混も無かったが、2日目になると、みな興味深そうにしている様子が見て取れるようになってきた。

そうすると、リリーも俺も、村人に々と聞かれる機會が増えて來る。

俺は、まだ村には馴染めてないので、そういうことも無かったし、まだ無いと思っていた。

だが、ベイルさんが、突然ふらりとやってきて

「つ、ツバサの旦那…。さ、最近…り、り、り、リリーお嬢さんとは、ど、どうなんですかい?」

とか、完全に挙不審な狀態で聞いて來たことはあった。

さりげなく「ええ、良くしてもらってますよ。本當に良い子ですね。」と笑顔で答えておくに留める。

そんな言葉を聞いたベイルさんは、「そうですよ!リリーお嬢さんは最高でさ!!」と、気を良くしたのか笑顔で去って行く。

報収集できてないぞ…。それで良いのか?ベイルさん?と思ったが、面倒なことになるのは分かっていたので、そのまま見送った。

そして、俺とリリーが婚約しているという噂がまことしやかに囁かれるようになった。

それを、リリーが公然と肯定したことで、村は大騒ぎとなった。

この2日間の間に、ほぼすべての村人に知れ渡ったようだ。

殆どの人は、発しろ!とか、焼かれろ!とか、騒な視線を送って來た。

ベイルや男衆たちは、泣きながら、「ツバサの旦那なら…くぅうう!!」と、男泣きしていた。

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カスードさんは、「まだ抱いてなねぇのか?小せぇ奴だな!!」と、馬鹿にしてきた。

「ん?抱くのってなんか意味ありますか?」と聞いたら、「ばっか!おめぇ。男ならを喜ばせてなんぼだろう!」と、返答に困る事を言ってきた。

とりあえず、セクハラ発言だったので、桜花さんに突き出してみた。魔法で録音した聲付きで。

そして、前に俺に一撃も當てられなかった桜花さんは、カスードさんにその怒りの全てをぶつけたようだ。

八つ當たり気味に、ボコボコに毆られていたカスードさんが余りにも哀れだったので、ある程度の所で止めた。

なんか、カスードさんには逆に、涙を流して禮を言われたが、半分俺のせいだったので、俺は苦笑するしかなかった。

普通、カスードさんがボコボコにしそうなイメージだと思うんだが…どうにも、桜花さんは見かけによらず強いようだ。

そして、リリーの特訓を始めて1週間。

朝のレイリさんの獣化検証で、レイリさんの行がおかしかった。

何がおかしいって…俺、魔力注していないのに、勝手に半覚醒狀態までいってるんですもん。

何で!?おかしいでしょ!?

焦った俺はレイリさんを問い詰めたのだ。

「レイリさん?なんか俺、まだ魔力注していないんですけど、なんで覚醒狀態なんですか?」

そんな俺の狼狽えた様子をあざ笑うかのように、レイリさんは、

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「フフフ…。ツバサ様…リリーにし教わって、真似をしてみましたの。最初は難しかったですが、コツを摑めばなんとかなりましたわ。お様で、私、魔力の量がし増えましたわ。」

そう、魔力を迸らせながら凜と立つレイリさんは綺麗だった。

恍惚の表で、目が良くわからないところを見つめ続けていなければ…だが。

つうことはあれですかね?俺のサポート無しで、獣化できるって事ですかね?

それって、絶対に暴走するでしょ!?ってか、今半分、暴走してますよね?そうですよね!?

計らずとも治療なしに、あっさりと魔力量を増大させてくれたレイリさんに、俺は戦々恐々としていた。

なんだろうか…この徒労は。

いつしか、魔道的なもので、魔力を増強してとか、考えていたのに、その予定をさっくり越えただけでなく、狀況が悪くなるって…。

そして、俺の魔力供給は必要なくなったわけだが、代わりに、魔力を抑える魔法陣を開発する必要が出て來た。

なんだ?この本末転倒っぷりは…。

「せめて、制できるようになってから増やしてくださいよ!?」と、半分泣きながら詰め寄る俺に、

「大丈夫ですわ。気を抜かなければ暴走もしませんでしたし。」と、あっさり答える始末。

「それって、気を抜けば暴走するかもしれないって事ですよね!?」と、俺が絶すると、

突然俺にしがみ付いてきて、「その時は…また、止めて下さいまし…。」と、俺のに顔を埋めるレイリさん。

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それって、また噛まれるんですか!?嫌ですよ!?あれ、凄い痛かったんですから!!

つか、それやったら、桜花さんブチ切れますからね!?俺、今度こそ命無いかもしれないじゃないですか!?

俺は、とんでもない事をこの親子に教えてしまった…と、考えたが、後の祭りであった。

そんな俺とレイリさんを、桜花さんは呆れながらも、何か吹っ切れた様子で見ていたのだった。

その日も、今までと変わらず、いつも通りだった。

カスードさんの所では、し、石材を使って、新しい加工技を模索してみた。

俺は、先日、石切り場からし離れた崖で、石灰巖の取れる場所を見付けたのだ。

大理石とも呼ばれるこの石を、水魔法でらかに研磨し、石材としてタイルや、柱を作ってみたのだ。

うろ覚えの知識ではあったが、確か、焼卻すればセメントにもなったはずだったので、それも合わせて試してみた。

一応それっぽいものは出來たのだが、ちょっと強度に難があるので、試行錯誤は必要なようだ。

その後の算數講座も、滯りなく進んだ。今日はついに、レイリさんとヨーゼフさんが、九九にった。

なんだかこの2人。変なライバル心が芽生えたらしく、お互いに競って計算技の習得をしている。

まぁ、やる気があるのは良い事だね。他の生徒の見本にもなるし。

ちなみに、余談ではあるが、スルホが1桁の足し算の繰上りを徐々に出來るようになってきていた。

調子に乗っていたので、冗談でティガに聞いたら、あっさりと正解してくれた。

試しに、2桁の足し算もやらせたが、筆算であるならできる様だ。

用に、爪の先で、筆算を行い、數字を土に書いていくのだ…。

スルホは「ティガにすら負けた!?」と、落ち込んでいたが、違うぞスルホ。

ティガが明らかにおかしいんだ…。

筆算するトラってなんだよ?と、俺はティガの謎をまた一つ垣間見た気がしたのだった。

リリーの特訓も順調で、の使い方も魔力の練り方も、分かって來たらしい。

獣化特有の魔力による強化は、レイリさんに教わりながら日に日にその力を増しているようだ。

最初の頃こそうっかり、お椀を握りつぶしていたリリーだったが、最近はちゃんと調節できるようになってきた。

まぁ、が高ぶると、この前の桜花さんのように暴発する訳だが…。

一応、俺は口を酸っぱくして、2人にこれ以上魔力量を増やさないように、注意しておいた。

増やす事は出來ても減らす事は出來ないのだ。管理できないなら、力も毒になると、耳がタコになるほど説明した。

何も、意地悪で言っているわけでは無く、金狼族である2人には、暴走の危険があるからだ。

それに、俺のように、おちおち魔力開放すら行えないになってしまっては、生きるのも大変だろう。

俺の魔力開放を全力で行えば、ここら辺一帯にどんな被害が出るか判ったではない。

一応、俺も恐いので、自分に対してセーフティは何重にもかけているのだ。

そんな風に2人をしてしまいたくなかったのだ。

次の日。

最近では恒例となった、逆抱き枕狀態からすると、俺は皆を起こして、食事の支度を始める。

人間って、本當に慣れる生きなんだね。

あれだけ恥ずかしかったのに、なんだか段々、皆に包まれて寢るのが當たり前になってきている。

ある程度、食事の準備が済み、後は、火を通すだけという段階まで持って行き、レイリさんとリリーを引き連れて外に出る。

今日からリリーもレイリさんと一緒に、獣化の検証を行う事になったのだ。

し、魔力の作練習や、簡単な魔法の練習を行っていると、桜花さんがゆっくりとこちらにやって來た。

桜花さんは、レイリとリリーの姿を見ると、表を崩して、「おお、リリー、レイリ。それにツバサ殿。おはよう。」

そう聲をかけてきた。

そんな桜花さんに俺らはそれぞれ、にこやかに返事を返す。

この前の一軒以來、桜花さんの雰囲気がし変わったのを俺はじていた。

的に言えば、張り詰めていたものが無くなり、肩の力がし抜けたじだろうか。

最近、桜花さんの表が以前に比べてらかくなったと、レイリさんは言っていた。

リリーも、今の桜花さんの笑顔が好きだと言っていた。

しずつ、俺達の周りから変えていけば良い。

俺はそんな風に思いながら、レイリさん、リリー、桜花さんが楽しそうに話し合う姿を見守っていたのだった。

さて…朝の検証も終わった後、午前中、カスードさんの所で風呂を作って、機嫌よく帰って來たのだが…何故かリリー&レイリ親子のチームと、ティガ&我が子チームが家の前の広い空き地で睨み合っております。

なんで?どうして?何やってるんですか?この人達。

黙って両者の様子を見ているルナに聞いたところ、どうやら、発端はリリーの最近の行にあるらしい。

どうも、最近、調子に乗っているリリーに、ティガがついにキレたとの事だ。

…ティガよ…何がどうしてそうなったんだ?

最近、ティガに構ってやれてなかったのも要因の一つか?と俺は思い當たる。

確かに、最近リリーもちょっと浮かれすぎている部分はあるだろうが…。

あー、あれかな。格下に思ってる奴が、最近調子に乗ってるから、ちょっとしめてやろう的な話なんだろうな。

それに、雙方のセコンドがれて參戦したと…。

この面子がれて戦ったら、大慘事じゃないですか…。

俺は一応、念のために結界でこの空間を覆う。萬が一にも外に被害が出ないようにするためだ。

ティガが、リリーに向かって厳しい視線を向けながら、一吠えする。

「『最近、妙に調子に乗っているようだが、目に余る。ツバサ様の優しさにかこけつけて、つけ上がるのもいい加減にしなさい。』と、ティガ様はおっしゃっておりますわ。」

此花はそう、ティガの言葉を代弁する。

つか、我が子達は、ティガの言葉を正確に聞くことができるのか…。俺は、何となく言わんとしていることがわかるくらいなのだが。やはり霊って言うのは凄いな。

あの一吠えにそこまでの報量が収まっているのも驚きであるが。

俺はそんなことを思いつつ、會話を続ける2人を眺め、様子を窺う。

「私は、ツバサ様に全てを捧げても良いって思ってます!それをあなたに否定される言われはありません!」

リリーはそう、一息に言い放つ。一週間前には、目を合わせただけで震えていた子とは思えない。

それだけ、この一週間で力を急速に付け、それが自信となっているのだろう。

…だが、この自信の使い方はダメだ。

リリーは今、確実に傲っているのが、良くわかる。

もしかしたら、獣化に近い狀態を維持しているから、その影響なのかもしれない。

俺も、降ってわいたような、魔法の力に陶酔したこともあるし、元の世界でも勘違いして、痛い目を見たことが何回もあるから、気持ちは良くわかる。

だが、その自信の付け方は、他人への優しさを欠く。現に、今、リリーはティガの事を何も考えていない。

自分が何故、そんなことを言われているのか、し考えればわかるはずだ。

特に、普段は中立の立場を取る我が子達すら、ティガに著いている。

その意味を考えれば、リリーは気がつくはずなのだ。

いつもの彼であるなら…だが。

「リリー殿。お気づきでないかもしれませぬが、リリー殿の魔力に良くない気が紛れておりまする。お気持ちを沈められよ。」

そう、咲耶が言うも、リリーは

「咲耶ちゃんまで、そんなこと言うの?この力で、ツバサさんを守ってあげられるんだよ?もっと強くなって、ツバサさんに褒めてもらう事のどこがいけないのよ!」

リリーがそう吠えると、魔力が一瞬空気中にパッと散る。

その魔力に乗っている気持ちは、怒りだった。

そんなリリーの様子を見たティガは、レイリさんの方を睨むと、吠える。

「『レイリ殿。あなたとものあろう方が、何故娘の愚行を黙って見過ごすのか?』と、おっしゃっておりますわ。」

此花の訳したそんな言葉に、レイリさんはニコリと微笑むと、

「今までリリーには、々と我慢させてしまいましたからね。し位羽目を外すのも良いでしょう?」

と、結構無責任な発言をする。

ああ、こういうのが子供の増長を促すんですね。わかります。

やはり、レイリさんは桜花さんの娘だけあって、完全なる親バカだった。

ここは止めないと駄目でしょうに…と思いつつ、俺は最後の一線までこの狀況を見守ろうと、決めていた。

異常な雰囲気を気にして、村の人達も集まってきていた。

俺より後ろから、遠巻きにこの修羅場を眺めている。

ルナは、そんな狀況を見て、対決姿勢を強めるみんなを、心配そうに見ていた。

「ルナ。どちらかが危なくなったら、俺が強制介する。萬が一にも被害が出るとまずいから、その時は、防護結界張ってくれ。」

俺のそんな言葉に、ルナは頷くと、皆の様子を黙って見つめる。

両者の張は、先程のやり取りで一気に高まった。

正に、一即発。一瞬、俺はここで止めた方が被害はないと考える。

だが、同時に、皆なら気づいてくれるのではないか…という淡い期待もしていた。

どちらかが矛を引けば、なくともこの先に待つ衝突は回避できる。

もちろん、禍を殘すことになるだろうが、そこには俺が介在する余地が生まれる。

そして、その道を選択してしいと言う、みの薄い俺の願いがそこにあった。

あくまで、俺の願だ。そもそもからして、価値観の違うこの世界において、俺の考え方の方が異端なのだ。

特に人族と獣人族がいがみ合うこの世界では、そんな甘いことを言っていたら、滅ぼされてしまう…。

獣人族は特に、一歩手前まで追い詰められているのだ。その恨みも痛みも相當なものだろう。

だからこそ、戦うとなったときは、より一層容赦なく自分の意見を通すようになっているのだと思う。

仮に、今起こっている人族との爭いにおいて、獣人族が盛り返したとしたら、人族を滅ぼしてしまったとしても不思議ではない。

しかし、それでは駄目なのだと、俺の世界の歴史は語っていた。

意見がぶつかるのは仕方がない。

多種多様な人が集まれば、々な価値観がぶつかり會うのは當然だ。

だが、言葉が通じる以上、武力を用いるのはダメだ。

それでは、獣と変わらない。

例えみが薄くとも、最後まで言葉で相手を理解し、相手に理解してもらおうと努力すべきだ。

言葉を放棄し、武力を持ち出した時點で、それは暴力の応酬でしか無くなるのだから…。

より強いものに従う。勝ったものが全てを手にれる。

この弱強食の論理は一見して判りやすい。しかし、そこに人としての意思を、介在させる余地が全く無いのだ。

意思のあるものが、それで負け、異なる意思を押し付けられて、納得するのだろうか?

するはずがない。そのやり方では、人の意思を救えない。心を置き去りに全てを押さえつけることしかできないのだ。

人とは意思を持つ生きだ。意思のある以上、いつか押さえつけられた不満は発し、新たな暴力となって帰ってくる。

古來より続く戦と混はそうして作られていくのだ。

だから…俺は、最後まで言葉を通じて理解を模索してしいと思っていた。

しかし、俺の願いは屆かなかった。

リリーは、「わかってもらえないなら、従えるまでですね。」と、魔力の放出を高める。

それを見て、ティガは、目をスッと細めると、姿勢を低くして、迎え撃つ制を整える。

「リリーお姉さま。それはちょっと見過ごせませんわ。」

「リリー姉上。やはりそうなってしまうのですか?殘念です。」

ティガの両隣で佇んでいた我が子達は、ティガのその作を見ると、おもむろにティガの上に2人してがった。

騎乗ならぬ、虎乗?なのだろうか。

我が子達は首を降り、リリーとレイリさんをティガの背より見つめる。

レイリさんはそんなティガと我が子達を見據えると、「3対1は不公平ですわよね?」と、そのに魔力を纏う。

リリーの気持ちもわからないではない。

きっと、ティガは過去の自分を屈服させた、象徴なのだろう。

リリーの深層心理の奧では、ティガを倒すことで、更に自分は強くなれると…過去の自分を払拭できると…そんな幻想を抱いているのかもしれない。

けどな…リリー。今回の場合は、それでは駄目なんだよ。いくら他人を倒しても、自分を救うことは出來ないんだ。

俺はそう心の中で語りかけるが、勿論、その思いは屆かなかった。

リリーが自分を鼓舞するようにびながらティガへと飛び掛るのを、俺は冷めた気持ちで見守っていたのだった。

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