《比翼の鳥》第46話:虛しい戦い
リリーは一直線にティガに向かって飛び掛る。
レイリさんは、ティガの出方を窺いながら、大回りにティガの背後を取ろうと移し始めた。
「ティガ様。今のリリー様は、魔力によって能力が上がっておりますわ。お気をつけ下さいませ。」
「レイリ殿の攻撃は、我らが抑えますゆえ、ティガ様は、リリー姉上との決闘に集中下され。」
我が子達はそうティガに言うと、2人の向を追いつつ、ティガの上で待機する。
ティガはそんな我が子達に一吼えして、謝を伝えると、迫り來るリリーに視線を合わせ、その挙を見つめる。
「やぁ!!」と言う掛け聲と共に、ティガへと迫ったリリーは拳を突き出す。
ティガは、リリーの一撃を紙一重でかわすと、翻り、そのまま當たりをかます。
「あう!」という、悲鳴と共に、リリーは吹っ飛び、地面を転がった。
それを見て、俺は改めて気がついた。
そうか、ティガの牙と爪を封じて、対策したつもりだったが、全を使えばいくらでも、やりようがあるのか。
これは盲點だった。
ティガは村人にそんなことはしないだろうが、村人の方は怖がるかもしれない。
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俺は抜けていたから、こんなことにも気がつかなかったが、桜花さんや、カスードさん達、族長達が気がつかないものだろうか?
そこまで考えて、そんな馬鹿な話があるわけ無いと、気づく。
わかっていたんだ。それでも、俺を信じてあえて何も言わなかったんだ。
俺は改めて、桜花さんだけでなく、族長達に見守られていたんだとじた。
地面を転がるリリーを見て、レイリさんは「リリー!」と、ぶと仇とばかりに、猛然とティガに襲い掛かる。
ティガはちらりとその姿を見るも、すぐにリリーに視線を戻す。
まるで、「お前の相手など、していられるか。」と言っているようだった。
そして、その様子から、我が子達の言葉に信頼を寄せていることが窺えた。
「馬鹿にして!!」とびながら襲い掛かるレイリさんの一撃を、此花と咲耶が障壁を張ってけ止める。
「お引きくださいな。」「我々には、その程度の攻撃では通用しませぬ。」
淡々とそう語る我が子達。レイリさんに向けるその視線は冷たい。
リリーは、立ち上がるとすぐさまティガを睨み、突貫する。
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つか、リリーさんよ…。その素直な直線運はどうなんだろうか…。
応援するわけではないが、それはちょっと酷いんで無いかね?
そんなわかりやすいきだから、ティガは全く慌てていない。
冷靜に攻撃を見切ると、最小限のきでかわし、ボディアタックと言う名の言語で、リリーに応酬する。
レイリさんも、我が子達に良いようにあしらわれて、その攻撃をティガに屆かせることはできていなかった。
なんでこうなっちまったんだろうな…。
俺は、そんな無意味とも言える戦いを見守りながら、栓も無いことを考える。
自分としては、誠意を持って接しているつもりだった。
しかし、実際のところ、やはり、異世界と言う獨自環境における価値観の違い…というものはそんなに甘いものではなかったのか。
いや、違うかな…。
結局のところ、俺がもっと皆に自分の想いをちゃんと伝えてなかったのがいけなかったんだろうな。
価値観が違うのはわかっていた話だ。
俺の思い込みもあるだろうが、そのギャップを払拭し理解してもらう努力を怠ったのがこの結果なのだろう。
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皆と一緒に居たい。
蟲のいい話かもしれないけど、俺の周りに居る皆とも、それぞれが仲良くしてしい。
俺はそう思っているが、リリーとレイリさんが俺のその気持ちを知っていたかはまた、別の話なんだよな。
普通に考えて、みんなで仲良くしたい。
それが當たり前じゃないか…そう思う自分も居るが、それが誰に対しての當たり前か…。
俺が俺として認識している當たり前であって、それがリリーやレイリさんに當てはまるか、考慮しなかったんだな。
全く、どうにも俺は詰めが甘い。
もっと膝を突き合わせてお互いを理解するように、話をするべきだった。
俺は、頭を振る。
そして、隣にいるルナの様子を見る。
その表は不安と、どうして?と言う深い疑問に彩られていた。
俺はそんなルナを見て、思わず頭をでる。
ルナは、突然俺にでられたのでビックリしたようだったが、でられるが気持ちよいのか、しの間目を細める。
そんなルナを見て俺はし救われる。
「ルナ…。なんでこうなっちゃったんだか、想像つくかい?」
そんな俺の問いかけに、ルナは眉をぐーっと寄せて、一生懸命考えているようだったが、
「わからないの…。なんでみんなで仲良く出來ないんだろう…。」
と、悲しそうに言う。
「リリーちゃんも、レイリさんも、ティガちゃんも、此花ちゃんも、咲耶ちゃんも、みんな、凄く良い人なんだよ?みんなルナには無い良い所が一杯あって…。なのに…それじゃ駄目なの?」
ルナは、本當に、純粋でそして、俺が困っているときにいつも、ごく自然にポンと…俺に必要な言葉をくれる。
ちびっ子の狀態から今まで、本當にちょっとした時間でしかないけれど、この子に貰ったものは本當に大きい。
この子は、俺が時々羨ましくなるくらい真っ白で、そして真っ直ぐで、眩しい心を持つ子だった。
そんな子をある意味、俺の我が侭で、俺の思う通りに染め上げているという罪悪が一瞬湧き上がるものの、それ以上に、俺の思う理想を理解し、そして無意識なのだろうが、それを実行してくれていることに、俺は改めて謝する。
「ルナ…。ありがとうな。」
俺は、一瞬ではあるが、ルナをグッと抱きしめる。
すぐにを離すが、ルナは突然の俺の抱擁に驚いているようだった。
そんな俺を戸ったように見るルナに、俺は話しかける。
「ルナ。俺もルナの言うように、みんなで仲良くしてしい。けど、みんなはそう言う俺の気持ちを知らないんだと思う。いや、なんとなくはわかっているんだろうけど…。」
俺は、未だに爭い続けるみんなのようすを一瞬見て、そして、ルナに視線を戻す。
「みんな…自分の気持ちを優先してしまって、本當の意味で俺の気持ちにまで至っていないんだよ。俺は…あんな風にみんなが爭う姿は見たくないし、見ていると辛い…。こうなる前に、話し合いで解決してしかったよ。」
俺はため息をつき、言葉を區切る。そんな俺の様子を見て「ツバサ…。」と、ルナは呟く。
「けどね、これは俺のせいでもあるんだよ。俺はちゃんとみんなに自分の気持ちを話していなかった。何をされたら嫌で、何をされたら嬉しくて…そんなこと一緒に住んでいればわかるだろうって…そんな風に勝手に思って言葉にするのを怠ったんだよ。」
俺のそんな言葉に、
ルナも思うところがあったのか、俺の目を見て、納得のいったような顔をする。
そんな聡いルナを見て、俺は微笑むと、もう一度ルナの頭をでる。
「俺は、爭いが大嫌いだ。好きな人同士で爭ってなんてしくない。けど、どうしても譲れない事もあるだろうし、どうしても納得のいかないことも一杯あると思う。けど、限界まで言葉を盡くしてしい。甘い考えだと思うけど…俺はそうしてしいと思っているんだよ。」
そんな俺の言葉を、ルナは聞きながらしっかりと頷いた。
俺はそんなルナの様子を見て、思いの丈を吐き出す。
「けど、俺が絶対なわけではない。俺は間違っていることもあると思う。その時は、ちゃんと言ってしいし、止めてほしい。俺がむのは…俺の言うことを何でも素直に聞く奴隷やペットじゃないんだ…。一緒に悩んで歩いていけるパートナーなんだよ。」
そこで、俺は言葉を切りルナの目を覗き込むように語りかける。
「ルナ、だから、知っておいてしい。そして、考えることをやめないでしい。俺の言葉が絶対とかそんな事は思わないでくれ。俺は人間なんだ。人間である以上、間違える。絶対にだ。」
そんな俺の心を込めた言葉に、何かをじたのだろう。
俺の目を覗き込みながら、その意味を自分の中に取りれていくように考え込む。
そして、理解が及んだようにニコリと素敵に微笑むと、
「うん!わかったよ、ツバサ!けど、ルナ一杯知らないことあるから、々教えてね?」
そう、嬉しそうに答えてきた。
そんな可らしいルナを直視できず、照れ隠しにポンポンと短く頭をでると、俺は未だ戦い続けるみんなに視線を戻したのだった。
膠著していた戦闘に、レイリさんとリリーは業を煮やしたように、魔力を放出し始めた。
それに伴い、2人の目のが金へと変化する。
それは駄目だろう…。
この狀態になると、2人はまだ、自分のを完全にはコントロールできないでいるのだ。
ちょっとした弾みで暴走しかねない。
それがわかっているからこそ、今までその領域まで踏み込んでいなかったのだろうが…たがが外れたようだ。
それは、ティガを殺める可能が出てきたということを意味し、それでも仕方がないと割り切った2人の気持ちがあるという表れでもあった。
悲しかった。俺は、本當に、ただただ…悲しかった。
そんな俺の表を見て、ルナは辛そうな顔をした。
俺は、無理やりに微笑むと、決著のときに備えて魔法陣を呼び出す。
一歩間違えれば、最悪の結果を生む。ここからは、俺も気が抜けなかった。
能力を大幅に開放したリリーとレイリさんは、微笑を表にり付けながらティガへと踴りかかる。
「私は…絶対に…貴方を…倒す!!ツバサ様のために!!」そうぶリリー。その目には、力を振るうことしか見えない。
いつも浮かべている、暖かい春の日差しのような笑顔は無かった。
その事実に、が軋んだ。
痛みより、その圧力が苦しさが…そして、俺を言・い・訳・にしたその心が…俺には辛かった。
リリーが飛び掛るその速さは、今までの比ではなく、ティガも初が遅れ、リリーの爪がそのをかする。
獣化した2人の爪は、魔力によりある程度長さを変えられるようになる。
今までそれをしてこなかったが、そのままでは我が子達の障壁を抜けないと思ったのだろう。
能力開放と同時に爪を使って攻撃するようになった。
障壁を抜いた後、その爪がティガや我が子達の命までも奪いかねないという事実を見ないように、當たり前にその選択をしたのだった。
レイリさんはやはり、リリーより魔力の扱いが慣れているせいか、爪に魔力を込め全力で打ち込んでくる。
それをけ止める我が子達の表にも焦りが見える。
「こ…これは、こんな力で打ち込むのは灑落になっていませんわ!!」「く…レイリ殿、リリー姉上。修羅道に墮ちるおつもりか!!」
しかし、舞い踴る2人の獣人はその聲に耳を貸さない。
それは正に舞いだった。2人の獣人はまるで、その獲を包み込むように、クルクルと回りながら、すれ違い、その都度攻撃を加えていく。
走る一閃。黃金のそれは、何度も何度も重なりその空間を自分のへと染めていく。
そうして、徐々にその攻撃の手を強め、障壁を削っていく。
ティガも必死に避けているものの、速さの次元が違った。
徐々に追い込まれ、障壁を抜けた攻撃に、そのを曬し傷を増やしていく。
そして、苛烈な攻撃に曬された我が子達の障壁もついに限界を迎える。
「きゃぁ!?」「ぬぅ!?」という我が子達の悲鳴と共に、障壁が砕け散った。
それを確認したリリーは、躊躇も無く、ティガへとその爪を向ける。
「これでぇえええ!!!」とぶその目に、慈悲は無い。
俺は、ルナを見ながら言う。
「ルナ、すまないけど…全力で防結界頼むね。上側は空けておきなよ?逃げ場がないと簡単に壊れるからね。」
ルナは聲をかける俺の顔を見て、辛そうにその表をゆがめ、涙を流しながらも黙って頷いた。
加速され引きばされた思考の中、俺は一人思案する。
全く…怒るのは好きじゃないんだけどな…。
けど、俺が怒らないと誰が怒るんだよ…。
俺は、一瞬、塾での過ちを脳裏によぎらせ、その決意を確かなものにする。
塾では滅多に怒らなかった。
怒りたくなかったし、何より大事なお子さんを預かっているんだ。そんな簡単に怒れるはずもない。
だが、中には舐めてかかってくる子供も大勢いた。
特に俺は、怒鳴りもしないし、諭して言い聞かせることも多いので舐められる事は多かった。
しかし、勉強に支障が出なく、俺をちょっとからかう位なら俺は黙って許容した。
だが、やはり中には調子に乗る奴もいるのだ。
それは、先生として俺を見ずに、俺の前で勉強をしなくなったり、俺だけでなく周りを舐めきって見たり…明らかに悪い意味で甘えている子が出るのだ。
そして、その比率は決して高くも無かったが、低くも無かった。
どうしても、子供は…いや、違うな。人間は調子に乗るのだ。
だから、俺はそういう時は怒った。
時に靜かに、時に激しく…。驕った全ての子供を泣かしてきた。
決して手を上げなかったが、裏で俺も泣きながら、すまんと思いながらも、それでも泣かしてきた。
それでよかったと思う。大抵の子はそれで、ちゃんと俺の言葉を聞いてくれるようになった。
きっと、今の子は、本気で怒られる事が、家以外ではないんだと思う。
だが…一人だけ…俺の聲がどうしても屆かなかった子がいた。
いくら言葉を盡くしても、どうしてもその心はけ取ってもらえなかった。
俺はついに、最後までその子に手を上げることができなかった。
その子は俺に一目置いていてくれたのはじていたが、それでも止めることはできなかった。
塾をやめたその子は、後に喧嘩で友人を重に追い込み、年院へと送られたと聞いた。
今でも俺は後悔している。
あの時、もし毆っていれば…嫌でも拳を使ってでも言うことを聞かせていれば…それで例え塾を俺がやめることになったとしても…その子の人生はそんなことにはならなかったのかもしれない…。
「もう…あんな思いは…ごめんだ…。」そう呟き…
俺は初めて、リミッターを外し、魔力を全開放した。
その日、世界が震えた…。
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