《比翼の鳥》第50話:変わる生活

町へとった來訪者たちは、町の様子を見て、愕然としていた。

市壁より降りてきた族長達に率いられて、來訪者達は歩いていく。

俺は、その中に混じりながら、來訪者達の様子を窺う。

三者三様、それぞれに気になるものがあるようで、皆、好き勝手に視線を散らせている。

何に気を取られているのだろうと、気になった俺はその視線の先を追う。

子族ねぞくの青年の視線の先には、スルホとラーニャが、近所の子供たちに、勉強を教えている姿があった。

この1ヶ月で2人の算數は小學3年生程度まで進んだ。九九も既にマスターし、次なる勉學へと貪に挑み続けている。

しかし、勉強はただ教えを乞うだけでは実はあまり習得は進まない。

一回、自分の言葉で整理して、相手に伝える事をしないと、真の意味で定著しないのだ。

だから、この2人には、他の人へ自分の學んだことを教えると言う課題を與えていた。

最初は、うまくいかなかったようだ。

自分では分かっているのに、いざ教えようとすると、言葉にならない。良い方法が見つからない。

そうして、教える方も教えられる方もイライラが溜まって行くと言う悪循環を何回か経験したようだ。

しかし、ここが娯楽の無い世界で助かったのかもしれない。

結局、子供が出來る事など、家の手伝いをするか、仲の良い友達と集まって何かするぐらいだ。

ここに、勉強と言う未知の要素が割り込んできたことで、何割かの子供たちはその魅力を知る機會を得た。

今や、スルホとラーニャは15人くらいの子供たちに、足し算・引き算を教えるようになっていた。

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時々、スルホは間違え、それを逆に教えている子供達に指摘され、逆切れしたりと、なかなかに楽しそうであった。

そんな景を信じられないように、子族の青年はマジマジと見つめているのであった。

卯族の厳いかつい兄ちゃんが見ているのは、道の端っこで集まって、楽しそうに會話をする母親たちの姿だった。

1ヶ月前。俺が魔力開放をする前まで、この景は決して見る事が出來なかった。

何故なら、この村のの立場と言うのは、非常に低かったからだ。

妻は夫の為に、しっかりと家事をこなし、夫をたて、支えるというのが徳とされていた。

元の世界の日本も、そう言う文化は強くある。

しかし、最も違っていたのは、この世界では妻の自由が認められていなかった事だ。

勿論、夫の格による部分はあったのだが、基本的に、この村の男たちはの事を家政婦くらいにしか思っていなかった。

そこに、対等な立場は存在せず、男のいう事を黙って聞くのがの正しい姿と信じ込まされていたのだ。

俺は、その現狀を聞いて、キレた。

勿論、暴れたりはしなかったが、すぐさま族長會議を要請し、の立場向上を訴えたのだ。

そこで、族長會議を経て、ある取り決めがなされた。

衆の設立である。

主に、若衆、婦人衆、奧方衆と3つの派閥に分け、それぞれで相互連攜の取れる組織を作った。

衆は、子供から未婚までを一括りとした集団。

婦人衆は、既婚のを一括りとした集団。

奧方衆は、孫のいるを一括りとした集団。

そして、それぞれに、権力をある程度與えるようにしたのだ。

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もし、夫からの暴力や、不利益をこうむり、衆がそれを訴えた場合、

衆の頂點に當たる頭の判斷を経て、その訴えられた夫に対し、・衆・全・員・から報復を與える権利が発生する。

正直に言おう。これは恐い。

自分で作っておいて何だが、このシステムはマジで恐い。

例えば、ある夫が、妻に暴力を振るい、それに耐えかねて、妻が衆に救済を求めたとしよう。

その訴えが通り、夫に対して有罪の判決が出れば…

村の全てが、敵に回るのである。

想像してみてしい。

自分の街のが全て敵に回った狀況を。

最初は蔭口から始まり、そのうち、その範囲は広がって行く。

お店のおばちゃんは、を売ってくれなくなるかもしれない。

生活にまで支障をきたす様になるだろう。

妻は他の家、もしくは衆の援助場にてかくまわれ、自分の家には誰もいない。

そんな狀態になったら俺は、多分生きて行けないだろう。

泣いて謝って許して貰えるなら、いくらでもするだろう。

一時期、そうやって、傲慢だった男たちが何人も泣いて謝る姿が村のあちこちにあふれた。

そうして、よりを戻した夫婦たちは、前と違い幸せそうな家庭が増えて行ったのだ。

この村の男たちも馬鹿では無い。単に価値観からそう言う立場を許されて、それに胡坐をかいていただけなのだ。

を大切にすれば、幸せになれる。そんな風が村に広がり始めたのだった。

その結果、たちもノビノビと生活できるようになり、井戸端會議もチラホラとみられるようになった。

この村のたちはそれでも、自分の立場はちゃんと弁えていて、決して夫をぼろ糞にいう事も、貶す事もしなかった。

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これは凄い事だと思う。

普通は、報復も考えるのではないかと思うのだが、ここら辺は異世界の価値観が良いじでバランスを取ったのだろう。

結果…が皆、生き生きと生活する事で、人になっていった。

夫どもは大喜びである。ここら辺は、俺の世界とあまり変わらないらしい。

そして、徐々に俺のむ様に、村は笑顔が溢れるようになった。

族長たちからはこぞって謝された。

そんな俺は、逆に俺の好きなようにやらせて貰った事に謝したのだった。

卯族の厳つい兄ちゃんは、そんなたちの笑顔を眩しそうに見つめているのであった。

宇迦之さんは、先ほどからしきりに石畳を気にしている。どうやら、道路が気になっているようだ。

段差もなく、整然と村の中心に向かって敷き詰められている様子は、この世界では異様に寫るのかもしれない。

最初は、村人達も恐る恐る、石畳を気にしながら歩いていたのを思い出した。

そして、町外れに作られた集會場へと俺たちは辿り著いた。

その集會場の橫は、外周500m位の広場になっている。

この集會場は、村の外れにあることもあって、背に大きな市壁を背負っているように建っている。

この集會場はある必要に迫られて、建てることになった。

なんでこんなものを建てたかと言えば、學校の代わりが必要になっていたからだ。

スルホとラーニャが子供達に教えるようになってから、生徒數が増えたのだ。

主に、大人の生徒がだ。

ヨーゼフさんや、マールさんの口コミの影響もあるのかもしれないが、どちらかと言えば、家の事に余裕の出てきた、奧様方の要が出てきたのだ。

數こそ多くはないものの、1日平均5人ほどは、教わりに來ている。

そのため、レイリさん宅では、手狹になることもあり、俺が桜花さん達に相談して、建てさせてもらった。

とは言うものの、俺は特に建築の知識があるわけでもなく、カスードさんの知恵を借りながらではあるが。

その結果、木造平屋建てではあるものの、古き時代の學校を彷彿させる佇まいの集會場が完したのだった。

そのうち、改築して中央塔を作り、その頂上に鐘を、正面には時計を設置して見たいなぁ…とかな野を抱いている。

ちなみに、部屋は教室として使用できるようにし広めに5つ作っており、會議室と言う名の広間もある。

今回こちらに來たのも、會議室を使うためだろう。

そして…興味深く町を観察していた宇迦之さんが、広場での景を見て絶句していた。

視線の先にいるのは、ベイルさん率いる、元リリーファンクラブだった男衆だ。

彼らは2人一組になって、訓練に勵んでいた。

一人が、魔法で障壁を張り、一人が全力で打ち込む。

あちらこちらで、発やら突風やらが吹き荒れていた。

今でこそ、こんな派手な景になっているものの、初期の頃は酷いものだった。

そこかしこで、うめきながら魔力枯渇の疲労で倒れこむ大の男達。

そんな気持ち悪…いや、凄慘な景が何日も続いたのだ。

俺は、リリーとレイリさんに行った訓練の反省から、方針を転換した。

し辛くても、安全に魔力を管理できる修練方法に変えたのだ。

やることは至極単純である。

魔力を使いまくって、魔力の枯渇狀態を維持させるのだ。

ぶっちゃけ、辛い。

やり過ぎるとレイリさんのように命を削る事になるので、枯渇したらし休憩させるものの、し回復したら絞り取るかのように、また魔力を使わせる。

俺も初期の頃はそんなことを繰り返していたが、あの倦怠は半端ないものがある。

月曜の朝の憂鬱など目ではない。

一回だけ、ほぼ限界までチャレンジしたことがあったが、最後の方は泣きながらルナに止められるくらいだった。後日聞いて見たところ、それは凄い様相だったらしい。

俺も、実際に第三者としてあの景を目にして、改めてその辛さを改めて実した。

だが、彼らは投げ出さなかったのだ。

そうして、今、彼らは魔法で攻撃できる位まで魔力を増やし、制も出來ている。

この集団の発足には、紆余曲折あった。

俺が、今後の事を心配し、町の警備を任せられる人材を育したかったと言う目的が一つ。もう一つは、獣化の更なる検証である。

とは言うものの、俺も最初は迷った。軽々しく、力を持った集団を作って良いのかと、自問自答を繰り返した。

そうしたら、ベイルさんの率いる男衆全員が、その集団に加わることを希したのだ。

なんで、そこまで力を求めるのかと聞いたのだ。

中途半端な覚悟で力をつけられても、後々害にしかならないのは明白である。

だから、ルナにも手伝ってもらい、參加者一人一人に細かく面接を行っていったのだ。

結果は意外なものだった。

皆、一様に口にするのが、村のために何かしたいと言うことだった。

この村は今まで、その日を何とか暮らしていくのに一杯で、自分がしたいこととか、夢とか考える暇が無く、皆、そういった願を持てなかったらしい。

それが、俺が來てから変化したのだと言う。

たしかに、俺が來てから、々な事にテコれを行った。

特に食事と、インフラは力をれている。

ただ、それだけでは無く、意識の変化が大きいようだ。

変わらない日常。蔓延する停滯。目の前の事だけを黙々とこなす日々は、知らないうちに、ルカール村の人たちから変化に対する意を奪ってしまったのだろう。

しかし、俺が來て、瞬く間に全てをぶち壊していった。

既存の価値観にメスをれ、事あるごとに、奇行を繰り返す人族。

最初は反もあったらしいが、それ以上に好奇心が上回ったらしい。

次はどんなことをするのだろう?

そう思い、見るようになったら、次は自分も何かして見たいと思うようになったようだ。

ベイルさんを含め、元々リリーに首ったけだったこともあり、アッサリとリリーを奪い去っていった俺に反を覚えるのかと思いきや、そんな暇も無かったと皆笑いながら言っていた。

むしろ、俺に取りることでリリーの近くにいる機會が増えると、熱っぽく語る奴もいた。

なんとも、気持ちの良い奴等である。

だからこそ、俺は可能な範囲で、力になることを決意した。

その前に、一同を前に俺の思いも話した。

どう力を使ってしいか。俺の思う理想等を、語って聞かせた。

皆、々と思うところがあったのだろう。

真剣な表で俺の話を聞いてくれた。

その日から、ベイルさん率いる男衆は『ガーディアンズ』として呼稱されるようになる。

そして、日々、こうして魔法の訓練を通して、獣化への道を模索しているのだ。

元々、獣人族の中でも、犬狼族は魔法が不得意らしく、こうやって魔法を打つ姿すら見ることができないらしい。

であるレイリさんは別格であったが、それでも々、炎を打ち出す程度だったそうだ。

そんな犬狼族の男達が、當たり前のように魔法を使う姿は宇迦之さんには相當ショッキングな景だったようだ。

皆が集會場へとっていく中、一人呆けたようにその景に見っていた。

「宇迦之さま?こちらへどうぞ?」と言う、レイリさんの言葉で、漸く意識をこちらに引き寄せたのだろう。

慌てたように視線を反らし、集會場の中へと消えていく。

そんな様子を見た、レイリさんの口許に、なんとも言えない笑みが張り付いていたのを、俺は見なかったことにしたのだった。

會議室にると、すでに皆、各々の場所へと座り込み、桜花さんの言葉を待っていた。

俺は桜花さんの隣に空けられたスペースへと腰を降ろすと、會議の開催を待つ。

リリーとルナは、裏でお茶の用意をしているようだ。

ここに來るまでの道中、見かけることが無かったので、先回りして用意していたのだろう。

そう思っていると、リリーがお盆にお茶をのせて持ってきた。

客人と俺たち全員に配り終わると、リリーはこの場から去る。

卯族の兄さんが、俺の前に置かれたお茶を見て、顔をしかめている。

ふむ。まだ、バレていないのだろうか?

「お客人。遠路遙々、よくぞいらした。この桜花、犬狼族を代表して歓迎いたしますぞ。」

桜花さんがそんな言葉をかけ、會議が開始される。

今まで、興味深そうに周りを見回してしていた、子族の青年が、ビックリしたように、桜花さんに視線を合わせるの、俺はボンヤリと見ていた。

「うむ。丁寧な歓待ありがたく思うのじゃ。まずは、改めて自己紹介をしよう。わらわが狐族の巫、宇迦之じゃ。こちらは、子族の代表、ラッテじゃ。」

「ら、ラッテです。」と、オドオドしながらお辭儀をする。

聲はし高めではあるものの、のある綺麗な聲だった。

良かった。俺は、いろんな意味で安心する。

「そして、こちらが卯族の代表、ゴウラ殿じゃ。」

「よろしく頼む…。」と、ゴウラさんは目禮する。

なんだろう。溫泉的なイメージが付きまとうのは、俺の元の世界の知識の弊害だろうか。

その聲は、低かったが、そこから響くように全ての人に屆く力を持っていた。

その姿に違わず、一流の戦士なのかもしれない。うさ耳さえ無ければ…だが。

こちらも、族長達がそれぞれ、挨拶を行っていく。

相変わらず、銀狼族の族長であるダグス氏は現れない。

それで、大丈夫なのか?もう既に孤獨死していても、俺は驚かないんだが。

そんな失禮なことを俺が考えていると、更に話が進む。

「して、早速で申し訳ないのだが…例の魔力放出について説明をいただけるかのぉ?」

そんな風に、早速聞いてくる宇迦之さん。

その言葉に、桜花さんはし、考え込むと、俺の方をチラリと見て、

「そうじゃな。では、本人に説明して貰うとするかの…。」

と、全力で丸投げしてきた。

俺が「えー?」って顔をしていると、桜花さんは、楽しそうな笑みを浮かべながら、「自業自得じゃ!」と、目で訴えかけてくる。

俺は、溜め息をつくと、覚悟を決め、言葉を発する。

「今、桜花さんのご紹介にあずかりました…先の件の犯人である、佐藤翼と申します。ご迷をおかけし、申し訳ありません。」

その瞬間の、3人の慌てようは凄かった。

卯族のお兄さんは、俺の方を見て、「何奴!?」と、吠え。

子族の青年は、こまりながら、「ひぃぃー!?」と、び震えている。

宇迦之さんは、キョロキョロと視線をさ迷わせながらも、「馬鹿な…!?」と、狼狽える始末。

そして、そんな様子を、それはもう、満面の笑みで見つめる、レイリさん、桜花さん、カスードさん。

あんたら、最近、格悪すぎませんかね?

俺は、そんな腹黒軍団を見て、苦笑すると、さも、今さっき思い出したように。

「ああ、失禮いたしました。認識阻害をかけておりました。」

そう言って、【ステルス】を解除する。

この3人が迫っていると會議を開いてから、俺は、【ステルス】で姿を消していた。

市壁の上に上がって、3人の來訪者の様子を窺っていた時から今まで、俺はずっと消えたままだった。

ただし、族長達と、レイリさん、ルナ、リリーには、俺の姿は見えている。限定型の認識阻害魔法なのだ。

だから、認識阻害を解除した瞬間、來訪者3人には、俺がいきなり現れたように見えるだろう。

ちなみに、ルナにもそのやり方を教え、それの簡易版をかけてもらっておいた。

姿は見えるのだが、他人には銀狼族としてみえるはずだ。

俺もその姿を見てみたが、恐ろしいまでの破壊力だった。

思わず理が吹っ飛び抱きついたくらいだ。

後ろからレイリさんとリリーに引っ張られ、ティガに頭を丸齧りされてようやく我に返ることができたのだ…。

そのため、ルナの認識阻害は俺にだけは、効いていない。というか、絶対に効かせるなと、全員から怒られた。

何故、そんな面倒くさいことをしていたか?それは、単なる嫌がらせなわけではなく…。

「「「人族!?」」」

『獣人族の敵である人族』という位置づけの俺を見て、3人の來訪者達が綺麗にハモるの聞きながら、どうやってこの狀況を収集するんだよ…と半ば呆れながら、途方にくれるのであった。

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