《比翼の鳥》第51話:無知の代償

俺の姿を認めた來訪者3人は、一瞬にしてその顔に驚愕と警戒の表を表す。

ラッテさんと呼ばれた、子族の青年は、どちらかと言うと困しており、その表に嫌悪は無かった。

逆に、宇迦之さんと、ゴウラさんの反応は顕著で、見事なまでに闘志を燃えたぎらせる様子が見て取れる。

だが、流石は、その氏族の代表と言ったところか…立ち上がったものの、いきなり飛びかかるような真似はしなかった。

その目に、明らかな嫌悪と不信を滲ませ、俺に聲をぶつける。

「貴様…どうやって、この村に取りった…。」と、ゴウラさんが低く吠える。

その気迫は、正に戦士。耐の無いであればそれだけで震え上がる程の威圧を伴っている。

実際俺も、その気迫に押されそうになる…。

そして、頭頂部に鎮座するらしい白いうさ耳を見て、が吹き飛んだ。

なんだろう…この々と殘念なじは。

相変わらず、その目に宿る威圧はただ事ではないのだが…それ以上に全ての空気を凌駕するその圧倒的な存在であるうさ耳。

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殘念だ…俺は本當に殘念だ。足から力が抜ける程の、に見舞われ、俺はそのうさ耳を眺める。

そんな俺の態度を挑発とけ取ったのか、その気合を聲に乗せ、ゴウラさんは吠える。

ほのかに放出される魔力。それは風のようにゴウラさんのを取りまく。

ゆったりと服がたなびき、そのに多くの力が宿るのをじる。

ラッテさんだけでなく、宇迦之さんも、その様子を見て、一瞬後ずさる。

「貴様!!人族の分際で、俺を愚弄するのか!!答えろ!!」

そう、吠えた瞬間、その気迫が力となり、部屋を震わす。

ビリビリと空気が振する余韻を殘し、その中に立つゴウラさん。

そして、雄々しく立つうさ耳…。

駄目だ。どうやっても俺の頭があのうさ耳を見るたびに、気分がシリアスからかけ離れていく。

特に、耳以外は完璧なる、マッチョな戦士なのだ。それ故、ギャップが酷過ぎて返って、そのうさ耳の存在が際立つ。

とりあえず、俺は真面目にやろうとため息を吐くと、言葉を返す。

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「ゴウラさん…と仰いましたか。まずは、落ち著いて下さい。お連れの方々も驚いていらっしゃいますよ?」

その一言で、我に返ったのだろう。連れの2人の様子を見て、「む…。」と、一言、気まずそうに言葉をらすと、ストンと胡坐をかくように座る。

そんな様子を見た俺は、改めて言葉をかける。

「改めまして、挨拶致します。見ての通り、人族の佐藤翼と申します。訳あって、このルカール村に1ヶ月ほど前からお世話になっております。宜しくお願い致します。」

俺は、そう丁寧にあいさつをすると、深々と頭を下げる。

その様子を3人とも、言葉無く見つめていた。

俺が頭を上げると、ゴウラさんは目を閉じ、瞑目するように、微だにしない。

ラッテさんは、興味深そうに俺の様子を窺っていた。

そして、宇迦之さんと目が合うと、一瞬こちらを睨み、そのまま言葉を紡ぐ。

「ツバサ…と言ったか。人族がこの様な場所にいるのも驚きじゃが…それ以前に笑えぬ冗談を言っておったのぉ?先だっての魔力放出はそなたが原因と言っておったが…。はて?お主のそのからじられる魔力は無いにも等しいよのぉ?それをどう説明するつもりじゃ?」

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話しているうちに、自分のペースを取り戻したのだろう。段々とその顔にイヤらしい笑みを張り付けながら、こちらを小馬鹿にするように問い掛けて來る。

ふむ。確かに、今の俺の魔力は隠ぺいしているので、非常に小さくじる筈だ。

しかし、おおっぴらに魔力を開放する訳にもいかないしなぁ…。

そう考えて、昔ティガにやったように魔力を直接通すやり方なら、俺の魔力量を知る事が出來るのではないかと思いつく。

一瞬、何かが引っ掛かった気がするのだが、気のせいだろうと俺はその考えを頭の片隅に置いた。

「そうですね…。その懸念はごもっともです。実は私は魔力総量が大きすぎて、いつもは封じ込めています。そのため、一見すると魔力量がないように見えるのでしょうが…そう言っても信じて貰えないですよね?」

俺は困った様に、そう問いかけると。

「そうじゃのぉ。その言葉だけでは、判斷できんのぉ。」と、意地悪そうな笑みを張りつかせ、そう返す宇迦之さん。

「では、お手數ですが…握手しましょう。」

そんな俺の言葉に、周りは「は?」となるものの、俺は無視して右手を宇迦之さんに向かって差し出す。

その様子を俺の挑発とけ取ったのだろう。宇迦之さんは、鼻を鳴らすと、「よかろう。」と、俺の前へと歩いてきてしっかりと俺の手を握る。

俺の目には、しっかりと妙齢のが俺の右手を摑む姿が…しかし、としては、小さなの子が一杯頑張って、握っているようにじられ、視覚と角のギャップに一瞬混する。

流石、狐さんだけはある。幻はお手のと言う所だろうか?

しかし、わざわざ接を試みるという事は、ばれてない自信があるのだろうな。

本來ならば、覚も誤魔化せるのだろう。俺は看破してしまっているから、覚までは誤魔化せない様だが。

ボソリと小聲で、「うーん、可らしい手ですね。」と、宇迦之さんにだけ聞こえる聲で呟くと、明らかに顔をサーッと青くした後、「な、何故じゃ!?」という目で俺を見る。

そんな宇迦之さんの様子を俺は無視すると、

「では、これから私の魔力を宇迦之さんのに通します。これで私の魔力総量が分かる筈です。」

俺がそう、宣言した瞬間、宣言された本人だけでなく、會議場の全ての人から揺する気配が伝わって來た。

ん?なんかまずかったかな?と俺はし首を傾げ、桜花さんの方を見る。

「ツバサ様!それは…もが!?」

レイリさんが何かを言おうとしたが、何故かカスードさんがその口を塞ぎ、その先を言わせない。

そんな様子を見て困った俺は、改めて桜花さんを見ると、顎をしゃくり、「やれ…。」と、態度で示してきた。

腑に落ちない俺ではあったが、桜花さんが良いと言うなら良いのだろう。

「では、始めますね?」と、優しく微笑む俺を、宇迦之さんは信じられないものでも見るかのように俺を凝視していた。

一瞬、何か大事なことを忘れている気がしたが、場の勢いもあって、俺は魔力を宇迦之さんのに通し始める。

始めはゆっくりと、様子を見ながら魔力を流す。

って來た魔力をじたのだろうか、またもや宇迦之さんの表が驚愕に彩られる。

徐々に、魔力量を増やしていくと、その表が徐々に恐怖に彩られていくのが見て取れた。

「あ…そ、そんな…。」と、信じられないかのように呟く。

カタカタと震えながら、俺から遠ざかろうするが、俺が手をしっかりと摑んでいるため、離れる事が出來ずその場でズリズリと這いずるだけだった。

流石に余りにも痛々しい景なので、俺はそこで止めて、手を離す。

宇迦之さんは、自分のをかき抱くようにして、その場で震えていた。

そこに、先程までの威厳に満ちた様子は欠片も無かった。

俺はそんな様子にやり過ぎたとじると、

「えっと…。すいません…。やり過ぎてしまいましたか?お大丈夫でしょうか?」

と、宇迦之さんの顔を覗き込みながら聲をかける。

そんな俺の言葉に、一瞬ビクッとを震わせてこちらを見上げる宇迦之さん。

俺の顔を何故かマジマジと見つめ…ハッと我に返ると、顔をそむけて、「あ、あの位何ともないわぃ!」と、通常モードに戻られた様だ。

俺はその様子を見てホッとすると、「あ、ちなみになんですが…。」と、前置きしたうえで、

「今流したのが、最大魔力の1割くらいです。」と、伝えておく。

そんな俺の言葉に、またも驚きの表を浮かべ、

「ば…馬鹿か!?お主は!?あれで…あれで1割じゃと!?どういうをしておるのじゃ!?」

と言って、人目もはばからず俺のぐらを摑んで揺さぶりだす始末。

俺は揺さぶられながら、「そ、そんなこと言われましても…。」と、困するしかなかった。

そんなよく分からいやり取りに、レイリさんが突然、

「ツバサ様、ずるいですわ!!!」

と、びながら參し、宇迦之さんを押しのけると、またも、俺のぐらを摑み揺さぶり始める。

「私にも、魔力を下さい!なんで、あの狐などにお與えになるのですか!!私にも是非!さぁ!!早く!!」

と、宇迦之さんの時とは比べにならない力で俺を揺さぶる。

「ちょ、ちょっと!?れ、レイリさん。なんでそんな…ちょっと!?激し…。」

俺はグワングワンと揺さぶられながらも、なんでこんなにレイリさんが揺しているのか分からず、桜花さんに助けを求めた。

客人…お見苦しい所をお見せしておるが…何となく分かって頂けたと思う。こちらのツバサ殿は異邦人での…こちらの常識が全く通用しないのじゃ。」

俺がレイリさんに揺さぶられるのを後目に、淡々と説明を開始する桜花さん。

なるほどね!俺がやらかす姿を逆に見せて、説得力を持たせようという魂膽だったわけね!?

それはいいけど、レイリさん止めてくれませんかね!?

桜花さんの説明に、3人の來訪者は一瞬揺するも、俺の揺さぶられている姿を見て、何か納得したようだった。

本人置いてけぼりなんですけどね!?なんなんですか!?いったい!!

「ちなみに、ツバサよぉ。他人に魔力を通すって意味、考えた事あるか?」

と、カスードさんが、揺さぶられている俺を見ながら、ニヤ付いた笑みで俺に問い掛けて來た。

魔力を通す…意味…だと…?俺は何となく嫌な予がして、必死に頭を働かせる。

カスードさんの言葉で、レイリさんも我に返ったのか、俺のをがっちりとホールドすると、何故か子供のように頬を膨らませて俺を見上げて來た。

何ですか…その児退行は。抱きしめたくなるからやめて下さいよ!?

そう思うが、とりあえず、今カスードさんに言われた意味を考え…そして、ある一つの報に行き著く。

えーっと…?まさか?

俺が答えに行き著いたのを、表で悟ったのだろう。

レイリさんがブスーっとした顔のまま、俺に死刑宣告を行った。

「獣人族にとって、魔力をに流すという事は、『子供を作らせろ』っていう事を言っているのと同じなのですよ?」

「ですから…私とも…。」とか言うレイリさんの聲が遠い。

さーっと俺の顔からが無くなっていくのを、俺は他人事のようにじていた。

カスードさんを見ると、満面の笑みで頷いていた。

桜花さんを見ると、悪戯が功した子供のような笑みを浮かべていた。

他の族長は苦笑い。ゴウラさんとラッテさんに至っては、知らなかったのか…こいつ…的な憐れみのこもった目を向けて來た。

宇迦之さんは、真っ赤な顔をしながら、し俯き、上目使いに俺を見ると、すぐに視線を下におろしてしまう。

この事を、元の世界の価値観に置き換えて考えてみよう。

通りすがりのに面と向かって「今から子供を作らせてください。」と優しい笑みで迫り…。

何をとは言わないが、強引に注ぎ込み…。

恐怖ですくむ彼に尚も、無な事を続ける…。

え?最低じゃないですか?誰だよ!そんな事したの!!

あ、俺か…俺…??

ぎゃーーーー!?

「えっと…俺、もしかして、凄い最低な人っぽい事しました?」

恐る恐る、皆に聞くと、満場一致で頷き返された。

ご丁寧に、カスードさんは「明日から村を歩けなくなる位に酷いな。」と、楽しそうに伝えて來た。

「そんなん知らないんだから、教えて下さいよぉおおおおおおお!!!」

俺の絶が村に響き渡ったのだった。

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