《比翼の鳥》第59話:親として、子として、霊として
ルナはそれから、落ちるように眠ってしまったため、俺は皆と同じ様に布団へと寢かせる。
今日はいつもと違い、皆、行儀よく布団へと収まって寢ている。
そんな景を見て、これが普通の筈なのに、何となく足りなくなっている事をじた俺は、「大分、異世界に毒されているな……」と、一人苦笑する。
何だか目が冴えてしまった俺は、久々に々と考えようと、屋へ向かおうとする。
居間を通り過ぎようとしたとき、此花と咲耶に目を向けると、ジッとこちらを見つめていたので、
「月見でもしようと思うが……來るかい?」と、聞いてみた。
「勿論ですわ♪」「是非に!」と、二つ返事で了承する我が子達を伴い、俺達は屋へと上がる。
俺は、屋の上に腰掛け、言葉無く夜空に浮かぶ蒼い月を眺めていた。
こんなにも幻想的で、元の世界とは異なる風景を見て、俺のに様々な思いが湧き上がる。
蒼い月は、空を寒々しく染め上げ、その大きなで、空だけでなく森を、村を、隣に座り黙って同じように月を見上げる我が子達を照らしていた。
そう言えば、元の世界でも良く、月を見上げていたなぁ……と、思い出す。
黃く空に浮かぶ月を見て、何故か月が寂しそうにしているとじていたものだ。
今考えれば、それは俺が世界から拒絶されたかのような気持ちを持っていて、俺がその心を勝手に投影していただけだったのかもしれない。
日に日に形を変える月を見て、羨うらやみもしたものだ。
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あんな風に、簡単に自分を変えられるのであれば、もっと楽に生きられるだろうと、今考えると馬鹿な事を、當時は真剣に考えていただ。
あの時の俺は、自分がもっとカッコよくなって、仕事もバリバリこなせて、お金を稼げるようになれば、皆に好かれるようになると本気で思っていた。
確かに、功者や勝ち組と呼ばれる人たちに、そういう一面があるのは事実だと思う。
実際は、カッコよくもなれなかったし、仕事もいつも失敗ばかりだし、結果として仕事を失い、闘病生活で金を失い、社會的地位の全てを失った。
正に、無い無い盡くしである。
全くもって稽だ。自分の過去ながら、笑うしかない。
そんな俺の自嘲めいた笑いに、我が子達は敏に反応した。
「お父様……?」「父上……?」
両隣に居座る我が子達が、心配そうな顔を向けて來たので、俺は微笑みながら2人の頭を優しくでる。
この子達はルナ張りに、俺の気持ちに敏だ。
俺の邂逅が、2人に不安を與えてしまったのだろう。
しかし、今日の俺は何となく、自分を見つめ直したい気分だった。
「心配ないよ。ちょっと過去の……元の世界の事を々と思い出していてね。」
俺は2人に優しく語りかけた。
そんな俺の言葉を、言葉無く聞く2人。その目には不安のようなが見え隠れしていた。
俺はいい機會だと思い、2人に自分の考えていることを伝えようと思った。
何故そんな事をしようと思ったのか、自分でも良くは分からない。
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だが、今でないと駄目だと、心の奧から突きかされるような衝があったのだった。
「2人だけでなく、ルナにも……夢で助けて貰っているから分かると思うのだけれど、俺は、元の世界では本當に駄目な男でね。」
そんな風に切り出した俺の言葉を、2人は「そんなことありませんわ!」「それは違いますぞ!父上!!」と、いきなり否定してくれる。
「ありがとう。2人とも本當に優しい子だな。」
そう言いながら、俺は2人の頭をでる。しかし、2人の目にはそんな事じゃ騙されない!と言う強い意志があった。
俺はそんな我が子達の様子を見て苦笑すると、言葉を続ける。
「まぁ、聞きなさいな。実際ね、駄目な男だったのは事実なんだよね。俺は結果を出せなかったんだよ……。元の世界ではね、頑張っただけでは誰も褒めてくれないんだよ。幾ら自分として頑張っても、反吐ちへどを吐いても、人に認められるには、求められたことに対する良い結果を得られないと駄目なんだ。」
俺は月を見上げ、そんな過去の事を思い出しながら、言葉にしていく。
「俺は、そりゃ自分なりには頑張ってたつもりだよ?けど、その頑張る方向を間違えていたんだよね。一生懸命やれば報われるって思っていたんだ。けど、我武者羅がむしゃらに頑張るだけでは結果は著いてこなかったんだよ。結果を出すために、何が必要で、求められていることは何なのか?それをちゃんと考えて行しないと、結果は著いてこないんだ。」
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俺は若かった日々を思い出し、失敗の數々を思い出し、そして、し落ち込む。
自分で言うのもなんだが、本當に使えない奴だった。言われた事しかやれない。
しかも、言われた事すら理解しないで失敗する事もある。
本人は至って真面目だったのだが、頑張りだけが空回りした日々。
その癖、評価にだけは敏で、評価されないのは俺へのやっかみもあるんだと、本気で思っていた時期もあった。
なくとも俺のいた會社には、どこも、「子供じゃないだろ? 言われたことをやったくらいで、何を褒めろと言うのだ?」 と言う雰囲気があったのも事実だ。
そんな會社の雰囲気は、どこも余裕が無く、仕事を押し付け合い、部署だ課だと派閥爭いでもするかのようにギスギスしていたので、余計にそういう風になっていったと言うのは、今ならよく分かる。
「何で俺ばかり……とか、周りのせいにしてたなぁ。実際、周りが悪い場合もあったけど、それを呼び込んでいたのは、俺の態度や仕事の仕方だったんだよね。もうし人の話を聞けばいいのに、否定ばかりでさ。全く、自分の事ながら嫌になっちゃうな。」
「お父様……。」「父上……。」と、悲しそうな顔をして俺を見上げる我が子達。
おっと、俺はなんで自分の子供にこんな愚癡みたいなことを話しているのだ……。
「すまんすまん……なんか愚癡っぽくなっちゃったな。」と、俺は2人の頭をでながら言う。
そんな俺に、此花はしっかりと目を向けて、口を開く。
「お父様! お父様の素晴らしさは、此花が存じておりますわ!」
「そうです! 父上! その様な、悲しい過去など、お捨てになるのが宜しいかと!」
それに咲耶も便乗し、力強く言い放った。
俺は、なんで子供にフォローさせているんだか……。
ちょっと自分で自分の事がけなくなりつつも、彼らが一つ思い違いをしているのでそれを指摘する。
「此花、咲耶。俺を気遣ってくれて、ありがとうな。けどな、一つだけ、知っておいてしい事があるんだよ。」
そんな言葉に、2人は不思議そうに首を傾げる。
その可さに、俺は思わず、2人を抱きしめると、そのままの勢いでにうずまる子供たちに大事なことを伝える。
「いいかい?確かに俺は、過去の事を思い出して後悔もするし、悶える事もある。けど、それは無かったことにして良いものではないんだよ。何故なら、今の俺は、その過去を踏み臺にして存在しているんだ。もし、過去の全てを否定するなら、今の俺はいないんだよ。ここまでは分かるかい?」
の中に納まりながらも、2人は、頷き返す。
俺はその様子を見て満足すると、更に続ける。
「だから、此花、咲耶。もし、今後、俺と同じ様に、辛い事や納得できない事があって、否定し全てを消してしまいたいようなことがあったら……時間はかかっても良い。ちゃんと自分をけれて上げなさい。どんなに愚かでも馬鹿でも、自分は自分だよ。あの頃はバカだったなぁって笑えるくらいになりなさい。」
俺はそれが分かるまで、10年も無駄にした。
逃げて否定して、こんなの俺じゃないって、ずっと見ないようにしていた。
それでは駄目なのだ。どんなに隠していても自分は自分なのだ。
「じゃないとね……。自分の事、好きになれないんだよ? いいかい? ちゃんと自分を好きでいられるように、自分をけれて上げなさい。」
そうか……俺はこれが伝えたかったんだな。
自分で話していて、やっとわかった。
俺は、自分と同じ過ちを、この子達にもしてしくなかったんだ。
何かを手渡しておきたかったんだな。
しかし、此花と咲耶は、何故か目に涙を浮かべ、何かを恐れるように、俺を見上げて來た。
「お願いですお父様!」「父上! 後生でございます!」
「もっと良い子でいられるように頑張りますわ!」
「私も、父上に嫌われないよう進致します!」
「ですから……。」「お願いします……。」
「「置いていかないで下さい!!」」
俺は、此花と咲耶からそんな言葉を投げかけられ、頭を鈍で毆られたような激しい衝撃をける。
一瞬、目の前が真っ暗になる様な、全てを否定されたかのようなそんな衝撃、久々だ。
なんだ?なんで突然、そんな事を言うんだ?
そして、俺は、自分の子供に何を言わせているんだ?
何で、この子達はそんな事を言わなくてはいけないのだ?
「な、なんで……いきなりそんな事を言うんだい?」
俺は、ショックから立ち直れないまでも、何とか言葉を口にする。
そんな俺の言葉に、2人とも泣きながら、
「だ、だって……お父様が、まるで訓のように……。」
「も、もう、我らの事などいらないのかと……。」
なんでやねん!?
折角、俺、良い事言ったとか、し悅にっていたのにぶち壊しだよ!?
しかし、なんでまた……そんな風に思ったのだろう?
俺が優しく聞いてみると、此花と咲耶から帰って來た言葉は意外なで……。
「お父様が私たちに、何かを伝えになるのは初めての事ですわ。」
「母上の験によれば、人が霊に自分の想いを伝えることなど滅多にないとの事でしたので……。」
「お母様の験では、私たち霊に、何か大事なことを伝えるのは、別れの時と……。」
「ですから……我等にも、もう興味が無くなってしまったのかと……。」
「「わぁあーーん!!」」
と、最後だけ綺麗にシンクロして泣き出す我が子達。
霊は不遇だと思っていたが、殆ど何も伝えられることは無いって……それはどうなんだろうか?
しかし、良く考えれば俺も、この2人に対して結構酷い仕打ちをしていたと今更ながらに気が付く。
どうも、元の世界の覚を引きずって、霊は人と違うと言う先観を捨てきれていなかったようだ。
年の割に聞き分けも良いし、聡明であった為、俺も甘えてしまう部分も多かったんだなと今更ながらに気がつく。
ちゃんと考えてみれば分かる話のはずだった。幾ら霊と言えど、見かけは本當に小さな子供だ。
そして、ディーネちゃんの言葉や、我が子達の言葉もあって、本當にただ、側に居れば良いんだと、何故か思・い・込・ん・で・いた。
そんな訳ないだろう……。人と同じ様にがあるんだ。
今みたいに、俺の一言で泣いてしまう位、が強いのに、俺の側に居るだけで満足とかそんな訳ないだろう!?
俺はやはり、々抜けている。全く、どうしようもない。
俺ので泣く我が子達を見て、が張り裂けそうな気持ちを覚える。それが罪悪なのか、何なのかは分からない。
しかし、この子達を泣かせてしまっているのは、俺の今の言葉だけでは無く、間違いなく、今迄の俺のこの子達に対する対応そのものであると思えた。
きっと、不安だったのだろう。
増えて行く仲間たちを、ずっと俺の傍らで見つめ続け、自分の存在を誇示することも無い日々。
それが霊の在り方なのかもしれないが、それを當たり前に許容できていたかは話が別だ。
ディーネちゃんと心通わせたときにも、彼の溢れ出す苦悩に俺は溺れそうになった事を思い出す。
霊として、人を害せず、憎めない心。
しかし、裏を返せば、憎み害したいと言う求があるからこその苦悩なのだろう。
霊とて、何もじない訳では無いのだろう。ただ、それを表に出す事が出來ない。
何という苦しみだろうか。もし霊を作り出した神とおぼしき何かがいるなら、あまりにも殘酷である。
俺はでぐずる2人を力いっぱい抱きしめる。
自分のけなさに、そしてこの子達の心を思い、思わず涙が出そうになるも、それをグッとこらえる。
「此花、咲耶……まずは、今迄不安させていてごめんな……。俺……いや、お父さん、お前等の事ちゃんと見れてなかったよ。」
まずは、俺は自分が父親であると言う自覚を促すところから始める。
子供に対して、俺とか言いたくなかった。俺は、父親なんだ……お父さんなんだ。
俺の雰囲気がし変わった事に気が付いたのだろう。
「お父様……?」「父上……?」と、不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる。
俺は、そんな2人の子供たちに、俺の心を伝えるべく口を開く。
「お父さんな……お前たちのお父さんとしてどうやって振る舞って良いか分からなかったんだ。やっぱりいきなりできた子だし、子供も持ったことないし。それでも、お父さんなりにを注ごうと思っていたんだが……。駄目だな、全然、此花と咲耶の気持ち考えてやれてなかった。駄目なお父さんですまん。」
「そんな!? お父様! 此花はお父様のお傍にいるだけで幸せです!」
「そうでございます! 咲耶も近くに置いて頂ければそれだけで良いのです!」
俺はそんな2人の言葉を聞くと、首を振る。
「それは、最低限の話だろう?お父さんはね……子供たちを見る機會が多くてね、時々、此花と咲耶と同じような目をしている子を見たことがあったんだよ。」
その子達は、話を聞いてみると親にあまり構ってもらえなかったりと、満足いくまでをもらえていない子達だった。
大抵の場合は、そういう子は、大人の言う事を良く聞き、塾で勉強を教えても熱心に人の話を聞いてくれる。
しかし、時々見せる笑い顔が他の子と明確に違うのだ。
その子達は、し寂しそうに笑うのだ。特に目にが現れる。
そして、あまり笑わない子も多い。
多分、笑うという事自に慣れていないのだろう。
想笑いをする子も多かったが、目を見れば一発で分かる。
俺は前から、違和を覚えていたものの、その正がわからなかったのだが……。
今日、やっとわかった。此花と咲耶の笑い方は、親とれ合いのない子達に良く似ていた。
そして、そんな笑い方をさせている自分に絶すら覚える。
絶対に認められない。俺は、この子達を幸せにしたい!
「そんな子達は、本當に心の底から笑えない子達ばかりだった。けど、2人にそんな目をしてしくない。……お父さんは、此花にも咲耶にも、心の底から幸せそうに笑ってほしいと思っている。」
そんな俺の言葉に、2人とも戸っているようだった。
「此花も咲耶も、それはもう素直で良い子だ。手が掛からなくて、いつもお父さんの事を助けてくれて……。だけどね、そんなに頑張らなくていいんだよ?もっと、我が儘を言って良いんだ。いや、違うな……我が儘を言ってくれ。」
そんな俺の言葉に、2人はお互いを見合うと、俺へと視線を戻す。
「しかし……。」「お父様……。」と、煮え切らない咲耶と此花。
「ほら、咲耶。今何してほしい。何されたら嬉しい?」
そんな俺の言葉に、咲耶は戸う様に視線を彷徨わせ、そして、俺の方を見て……俯いてしまう。
しかし、その小さな口から、「抱っこ……してほし……きゃ!?」そう呟く途中で俺は咲耶を抱え上げる。
「きゃ!?」とか、いつも凜々しい咲耶から想像も出來ない可い聲がれて、俺は思わずニンマリとした。
そのまま、両手でタカイタカイをすると、もう一度へと抱いて、クルクルとその場で回る。
星空が尾を引き、月が何度も視線を橫切る。
そんな景に咲耶は、聲こそ出さないものの、とても楽しそうに笑っていた。
1分ほど、そうして、咲耶を降ろすと、今度は此花に向き合って、同じく問う。
「次は此花だ。何してほしい?」
「咲耶と同じのが良いですわ! ずるいですわ!」と、しむくれながら言う。
「了解。了解。」
と、此花を抱え上げると咲耶と同じ様に、時々上下運をつけながら、クルクルと回る。
此花も、キャーキャー言いながら、楽しんでいるようだった。
高速で飛翔できる子がなんでこんなくらいでとか、一瞬思ったが、そういう事ではないのだと思い直す。
その後、月が真上に來るまで、2人は飽きることなく俺に振り回され続けるのであった。
いや、振り回されたのはどちらかと言えば俺なのだが……そんな俺の心には、よく分からない暖かなが宿ったのをじたのだった。
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