《比翼の鳥》第60話:狐族の村へ

結局、その夜は、我が子達が一緒に寢たいと言うので、両脇に抱えるようにして、一緒に寢た……はずだった。

朝起きると、いつもの様に、逆抱き枕狀態だったのは非常に不思議である。

しかも、別室で寢ていたはずのレイリさんが此花を一緒に抱き抱えるようにして、俺の腕をしっかりと固めていた。

ちなみに、もう片方の腕には咲耶が何故か宇迦之さんに抱き抱えられてそのまま俺にしがみ付いていた。

ちびっこいの癖に、らかさは素晴らしいものがあった。何がとは言わない。

ルナは安定の頭で、今日も寢起きに視界が無く、何となく安心を覚えてしまった。

ちなみに、リリーは足にしがみ付いていた。中々に大膽な子である。

昨日の事で、何かのタガが外れたのかもしれない。

いつもと変わらぬ朝が來たのだが、朝食時に、改めて今後の事について話し合った。

その際に、俺は我が子達に対して、し思うところがあり、改めて父親として頑張る決意を述べた。

それをヒビキにも伝え、クウガとアギトにも同じように、親として接していけるよう心がけるので、皆も家族として改めて力を貸してしいとお願いした。

皆、快く俺の決意をれてくれたので俺はホッとしていた。

結局、そんな話もあって狐族の村に行くメンバーは結局、家族総出になった。

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當初、レイリさんと俺、宇迦之さんだけで行く予定だったのだが、リリーがどうしても著いてきたがったのだ

そこから、なし崩し的に、我が子達とティガ親子が參戦し、ルナもおずおずと手を上げる。

正直に言えば3人だけなら、何の問題も無いのだが、家族に加え、帰るであろうラッテさんとゴウラさんも乗せる必要がある。

何か臺を作って、強引に飛ばす方法もあるのだが、試験飛行もしていないのでいきなりやるのはちょっと怖い。

のんびり陸路と言う手も考えたのだが、片道3週間と聞いてやめた。

この森で3週間とか、サバイバルになりかねない。

自分だけならまだしも、皆を守りながらは厳しい。

そんな事を話し合っていたら、ルナが、

「だったら、ビビにお願いしたら良いんじゃないかな?」

と、提案してきた。

一瞬、ビビって誰よ!? と思ってから、ふと思い出した。

なんか、々あって凄く過去の事のように思えるのだが、そんな霊もいたな……うん。

話を聞くと、どうやら、皆を載せて運んでくれるらしい。

運べる人數は俺が思って以上に多く、20人くらいでも大丈夫との事だった。

どうやって運ぶのかは知らないが、ルナが問題ないと言っているので大丈夫なんだろう。

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後は、ガーディアンズの指導をどうするかと言う問題だけだったのだが、それはあっさり解決した。

ゴウラさんが帰らずに殘ると言い出したためだ。

「報告だけお願いする。ラッテ殿か宇迦之殿に任せれば問題ないであろう……。」

と、完全に放り投げていた。良いのかそれで?

そんな狀況もあって、戦闘指南に関しては、ゴウラさんに任せればよくなった訳で、こちらとしても助かった。

そして、俺はとある懸念を抱いていたため、ゴウラさんにある技の特訓を行う事にする。

その間に、家族の皆には、念の為の食料と水、それに著替え等の類の確保を含めた、旅支度をお願いしておいた。

俺がゴウラさんに教えたのは、霊にダメージを與える事の出來る技だ。

元々は魔法陣で完させたものだが、それを改良し、ゴウラさんのように弾戦重視の戦い方に対応できるようにした。

これは、ゴウラさんの指導の元、俺がある程度の弾戦をこなせるようになっていたのが大きい。

鍛錬の中で、弾戦で使う場合の魔力の使い方を解析し、既存の魔法を拳に乗せられるよう、上手く応用できるように試行錯誤したのが、ここで役に立つこととなったのだった。

その結果できた魔法の神にダメージを與えるをアストラル系と命名し、それをゴウラさんに伝授しておくつもりだった。

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正直、この様な力を教える事に、一抹の不安がある事は事実だった。

しかし、この力が無いと、墮ちた霊が現れた際に、無駄に犠牲が増える事になる。

俺は、リスクを考え、ゴウラさんにこの技を託す方が良いと結論付けた。

ゴウラさんとこの1ヶ月共に修練する中で、この人の武に対する実直さはじている。

言葉遣いこそぶっきらぼうで、見た目も々殘念ではあるが、その生真面目さは折り紙つきである。

彼なら、この技を悪用することは無いと信じられたのも、伝授するきっかけとなったのだった。

ちなみに、信用に足る獣人達には、ゴウラさん経由での伝授をお願いする。

何も無ければ良いのだが……そう思いつつも、不安を隠せない俺であった。

つきっきりで1週間程かかったものの、なんとか基礎の部分は理解できたようだ。

後はたゆまぬ鍛錬の先に応用があるが、今はこれで良いと満足する。あくまで保険だ。

そして、準備も整い、あっという間に出発の日となった。

南門を抜けてすぐの開けた場所から出発する予定である。

村人が、ほぼ総出で見送りに來てくれていた。市壁の上から興味深そうに覗き込んでくる人たちも多かった。

大衆の大半は、何か面白い事をするんじゃないかと期待している野次馬なのは、目を見ればすぐに分かった。

大分、ここの村人もたくましくなったものである。

「では……卯族の者に宜しく頼む。」

ゴウラさんが頭を下げ、それに、「わ、わかりました……。」「任せておくのじゃ。」と、ラッテさんと宇迦之さんが答える。

「ツバサ殿……くれぐれも……いいか? くれぐれも! 相のないようにの?」

何故か桜花さんに、2回も言われる俺。そんなに俺、信用ないですかね!?

そう思って、周りを見ると、

「このレイリ。全力を持ってツバサ様を、監視いたしますわ。」

「大丈夫じゃ。まぁ、わらわがしっかりと手綱を握っておくからの。」

「おじいちゃん。大丈夫だよ。……多分。」

と、3人の獣人様より暖かいお言葉を頂きました。

リリーも最近、俺を盲信する事は止めたようだ。

良い事の筈なのだが……はて? 味方がいない気がする。

そんな落ち込んでいる俺を後目に、ルナが口を開く。

「皆、準備は良い? ビビを呼ぶよー?」

俺は、ルナの問いに、頷いて返す。他の者も頷いていた。

ルナは、そんな皆の様子を見て満足したように笑顔を見せると、ビビを呼び出す。

「ビビ!! おいで!!」

その瞬間、ルナの前の空間に、が集まり始める。

それは、淡い緑に発し、徐々にその大きさを増していく。

ルナの背丈を超える程のの球となった時、そのの球が収発した。

あまりの眩しさに、皆、目を伏せ、暴力的なの波をやり過ごす。

そして、が収まり……その場所にいたのは、市壁をも超えるのではないかと言う程、巨大な鳥だった。

をも照り返し、その存在を主張するかのようにり輝く白い並み。

薄く赤い鱗に覆われた様な足の先に、鋭くる3本の爪。

全てを呑みこみ、砕かんとする、太く真っ赤なくちばし

全てを見據える様な黒い目に、その目を縁取る赤い瞼まぶた。

そう、これは……この鳥は……まごう事無き……。

――― 白文鳥 ――― だった。

文鳥。江戸時代ごろから日本にりだした、

長15~20cmくらいの小鳥だ、

雑食で主にアワやヒエ等の穀を食べる。

生後しして、親から離しスポイト狀ので餌をやると、人にベタ慣れする。

かく言う俺も、元の世界では何回か飼っていたことがある。

壽命は個にもよるが、大7~10年前後。

俺は何度かその死を看取って、その度に涙したものだった。

とりあえず、ベタ慣れした子は本當に可い。けど馬鹿。だって鳥だもん。

呼べば一目散に飛んでくる。特に、肩、頭、手がお気にりの様で、慣れていると當たり前のように飛んできて、そこに居座る。

手の中の溫度が丁度良いのか、しばらく握っていると、そのまま手の中で眠る程、警戒心は薄いのである。

それに、肩で突然人間様に求するし、指を突き付ければ敵と思って威嚇してくる。

「バーカバーカ」と言いながら剣闘士の如く、指で決闘するのが、妹である春香の娯楽だったな。

最期は、負けて手の中に囚われ、頬ずり地獄と言うコースまで決まっているのに、何回やっても學習しなかった。

馬鹿である。しかし、その馬鹿さが非常にらしい。そんな鳥なのだが……。

その鳥が、8m位の巨で堂々と立って俺達を見下ろしていた。

そんな小鳥も大きくなれば威厳の一つでも出來るのかと思いきや……。

全くもって、野生の威厳もありゃしない狀態だった。正に、可らしいの一言である。

そんな俺の失禮な思いが分かってしまったのだろうか?

徐おもむろに吠えた。

その聲は、周りの木々を揺さぶり、葉を飛ばし、俺らの腹まで響くほどの大音響。

正に、王者の遠吠えであった。

その聲は、聞き覚えがあった。

これは……百獣の王ライオンだ。

とりあえず、俺はガックリと膝を付き、手を地面について項垂うなだれる。

なんで……なんで……文鳥にライオンの聲……。

あの、馬鹿でらしい、「ピッ」とか、「クルルル」と言う聲じゃなく、何でライオン!?

過去に飼っていた可らしい文鳥の全てが何か否定されたような、殘念さがを覆う。

々と、俺の価値観がブチ壊れ、かつ、力せざるを得ないこの絵に、とりあえず絶してみる俺。

此処は、せめてさ……鳥でもワシとかさ、フクロウとかさ、こう強そうなものを選ぶのが燃えるチョイスじゃないの?

「ルナさんや? 何故に文鳥? いや、可いんだけどさ……。」

俺は思わず、そんな言葉をルナに投げかける。

ルナはそんな言葉を吐く俺を不思議そうに見ながら、誇る様にこう言った。

「可いは……正義! でしょ?」

その言葉を聞いて、俺は天を仰ぐ……。

ええ、言いました。確かに言いましたよ。

けどな……ルナ。意味がちょっと違う気がするんだ。

「正義って強い人でしょ? カスードさんがそう言ってたよ? だからルナ、可くて強いビビになってしいって思ったの! そうしたら、こんなに可くなったの!」

その瞬間、俺は自分の事は棚上げし、憎しみを込めた目をカスードさんに向ける。

カスードさんはそんな俺の視線をけ、後ずさるがもう遅い。

俺は、カスードさんを魔法陣で拘束すると、心の底から湧き上がる笑いを止めることなくカスードさんへと近づいた。

「いや、待て! ツバサ!! おれぁ、間違った事は何も……。」

そして、広場にカスードさんの絶が木霊したのだった。

とりあえず、八つ當たりをして正常な思考を取り戻した俺は、改めて白文鳥、もといビビを見上げる。

まぁ、でかいもののやはり文鳥らしいのある顔をしていた。

本人はキリッとしているつもりなのだろうが……。

広場に集まった人々は口々に、ビビを見て、好き勝手に想を述べていた。

「あれが霊様……なんという威厳のあるお姿なんだ……。」

「きっと格の高い霊様に違いない。」

「ありがたや! ありがたや!!」

なんか、文鳥に頭下げている村人の図って凄く微妙なんだが。

そんな言葉の一方で、うちの家族たちは、

「なんか凄いかわいいですね! あれ小さくならないんですか?」

「このような鳥は見たことが無いのぉ。やはり、霊様は特殊なのじゃな。」

「雄雄しいお聲。流石は霊様でございます。」

と、なかなかに好意的だった。

うん。分かっているんだ。俺が異世界では異端だって。

とりあえず、俺はそんなモヤモヤした気持ちを心の奧に押し込めると、ルナにどうすれば良いか聞いた。

そして、背中に乗れば後は、ビビが結界で守ってくれるとの事だったので、ビビに座ってもらい、飛び乗れる人は自力で登ってもらう。

俺は、我が子達を両腕に抱え飛び乗った。

自分で乗れるだろうが、2人とも俺に運んでしいとせがんだ為だ。

まだ遠慮しているようだが、し、甘えるようになったので、まずは良しとする。

ヒビキは自分で乗っていたが、クウガとアギトは俺が抱えて乗せた。

2人ともやんちゃなようで、ビビの背中で早速ヒビキにじゃれ付いていた。

最後に、宇迦之さん、ラッテさんと、さくっと背中に皆を移させる。

背中は思ったより安定もあり、フワフワしたが、高級な絨毯の様だった。

まさか白文鳥の背に乗る日が來るとは……異世界、マジでわけわからん……。

そう思っていたが、別の意味で皆も困しているようで、

「こ、こんな……せ、霊様の背中に乗って良いのですか?」

ラッテさんは、震えながら心配そうに周りを見渡している。

「ツバサ様もおかしいですが、ルナ様も十分に……コホン。」

と、レイリさんが本音がダダれの呟きをする。

宇迦之さんは、興味深そうにビビのでていた。

ルナとリリー、そして此花と咲耶は、あまり見ることの無い視點で村を見下ろせたのが楽しかったのだろう。

4人で、楽しそうに村のあちこちを指差しては、はしゃいでいた。

ヒビキはいつもどおり靜かにに包まってノンビリしていた。

そのは心地よいらしく、中々にご満悅のようだ。

子供達もヒビキに寄り添って丸くなっていた。

しばらく、ビビに乗って思い思いに楽しんでいたが、ビビが首を巡らしこちらを窺うように見ると、

「みんな、そろそろ行くけど良い?」

と、ルナが聲をかけてきた。

皆、頷いたことを確認し、ルナは、ビビに離陸を促した。

「ビビ! お願い!」

ビビはそのルナの聲を聞くと、その純白のツバサを拡げ、雄雄しく吼える。

まぁ文鳥の姿なのでかなり殘念な絵だが。

「では、みなさん、行ってきます!」

俺が村人達に、聲をかけると、ビビはそれを待っていてくれたかのように、タイミング見計らって……。

走り出した。

「……待って!?鳥でしょ!?飛ぶんじゃないの!?」

どたどたと用に両足を互に前に出しながら森を疾走する文鳥。もといビビ。

いやいやいや……文鳥はそんな風に走れないから!?

あの、ピョンピョンと跳ね回って、フローリングとかでって転ぶ姿が最高なんだろうに!?

そして、元來そんな不用な文鳥の割には、不思議なことに全く背の上は揺れず、よく見ると木が勝手に避けていっている。

正に々ファンタジー。乗っている方は、快適でよろしいのだが……。

納得いかない! 々納得いかない!!!

俺のそんな言葉に、ルナは、

「んとね、本當は飛べるらしいんだけど、すぐに著いちゃって面白くないだろうからサービスだって。」

訳わかんねぇよ!?霊がサービスって何よ!?

俺のそんな嘆きは、他のメンバーには伝わっていないようで、皆、この現実をそのままれていた。

木々が自分から避けて、森が割れていく姿を見て、思い思いに騒いでいる。

「納得いかねぇぞー!!!」

そんな俺のびが、森を疾走するビビの背中から空しく発せられるのだった。

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