《比翼の鳥》第65話:靜かな闘爭の始まり

俺達は、その後、詳しい數量や、ライヤモ草を持ち込む日時、期限について詳細につめた。

もっとも、面倒なことは沢山だとでも言うように、俺に殆ど丸投げだったため、すぐに決まったわけだが。

こんな調子なら、幾らでも付ける隙はありそうだ。俺は心ほくそ笑むと、挨拶もそこそこに、狐族の村から逃げるようにログハウスへと向かった。

この村にいると、いい加減、怒りメーターがブチ切れそうだったからである。

村長の嘲笑や、村人の無遠慮な視線に曬され、俺達は発寸前だった。

半ニートだった俺に、腹蕓とか渉とか任せないでいただきたい。

単なるおっさんなのだ。ある程度、溫厚な俺でも、これは流石に厳しかった。

それでも、俺にその視線が向くならまだ我慢ができる。

宇迦之さんとレイリさんにその矛先が向くのは、本當にきつかった。

その事が、俺の神力をゴリゴリと削っていった。

何度も、もう良いんじゃないかな? こいつ毆って良いかな?と思ったのだが……。

危ない場面もあったが、頑張って何とか耐えた。

そんな俺とレイリさんは無言でログハウスへと、ひた歩く。

宇迦之さんは逆に、そんな俺達を見て、何とも申し訳なさそうに著いて來る。

俺はログハウスの扉を暴に開け放ち、中にった瞬間、

「ルナ……全力で結界。よろしく。」

と、ボソリと呟く。

った様子のルナがそれに頷き、防護結界を張ったのを確認すると……俺は、遮音結界も張り、大聲でんだ。

「ふっざけんなよ!? 何が下賤だ! 高潔だ!! 馬鹿じゃないの!? 貴様らの方がよっぽど腐っとるわ!! 高潔ってそういう事でしたっけ!? もうし文字の勉強した方が良いんじゃないですかね!? あ、高潔な狐族様は、文字とか知らないんですっけ? そんなアホが宇迦之さんをあそこまで迫害しやがって!! 大切な家族傷つけやがって!! 絶対に許さん!! ハハハハ!!! なめんなーー!!! アハハハハハ!!!」

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と、俺は発させ、魔力もそれに伴い、一瞬放出される。

ズシンと言う音と振がログハウスを揺らし、ビリビリと空気が振するのがわかる。

皆がそんな俺を、唖然として見る様子が視界に映ってはいたが、完全に俺は黙殺して怒りを放出する。

その橫では、同じようにレイリさんが完全にぶち切れていた。

「宇迦之様をあそこまで……あそこ…まで……!!! 金狼族を汚らしい? ツバサさにでて貰えるこの並みを!? 食料一つ満足にそろえられない村の長が!? どの面を下げて!! つ、ツバサ様に対しても、あの暴言の數々!! 思い出しただけで腸はらわたが煮えくり返る思いがあぁあ!! ああああああああああ!!!! アオォオオオオオオオオオオオオーーーーーーン!!!!」

の魔力を発的に放出させたレイリさんは完全に獣化し、獣の姿を取っていた。

しかし、暴走はしておらず、ひたすら雄びをあげ、発的な魔力を放出している。

部屋の中を暴風の様に魔力が荒れ狂い、結界を幾度と無く振させる。

そんな俺達2人が狂ったような笑いと雄びを上げる姿を見て、そこにいる全員がガタガタと震えて部屋の隅にこまって、嵐が去るのを待っていた。

俺とレイリさんはそれから気が済むまで罵り、大聲を上げ、やっと落ち著いた。

レイリさんはまだ獣の姿だったが、意識ははっきりしているようで、自分のを不思議そうにったりきを確認したりしている。

こんなきっかけで、獣化をものにするとは……。

俺は微妙な表でレイリさんを見つめる。

ちなみに、皆、レイリさんの完全獣化した姿を見て、大騒ぎであった。

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「お母さん……綺麗……私もいつか……。」と、リリーがウットリとした顔でレイリさんを見つめていた。

結局、しばらくして、レイリさんはに包まれ、元の姿に戻った。

2度目である俺は、レイリさんがり始めた瞬間、何食わない顔でレイリさんに背を向ける。

後ろでは、「お母さん!? はだかーー!?」とか、リリーが騒いでいたが、気にしない事にする。

何故か、ルナが俺に背中からおぶさってきて、「んふー。」と、ご機嫌な聲で俺の頭にらかいを押し付けてきた。

何がしたいんですかね……? 甘えたいんですかね?

いまいち、ルナの行が理解できない俺であったが、元々、読めないのがルナだったと思い出す。

「ルナ、さっきは防護結界ありがとうな。助かったよ。」

「んーん! ツバサがあんなに怒るの初めて見た! ちょっとビックリしたけど、なんか嬉しかったなー。」

と、良く分からない想を述べてきた。

「怖かった……とかじゃないのか?」と俺が聞くと、ルナは首を振り、

「だって、ツバサもレイリさんも、宇迦之さんの為に怒ってたもん。だからね、なんか良いなーって思ったの。」

と、喜びに満ちた聲を上から降らせてくる。

そうか……そう思ってくれるなら、良いかな?と、俺は安心する。

ふと、視線の片隅に映った宇迦之さんが、呆然とした表でレイリさんの方を見ていた。

心配になった俺が近付くと、「わ、わらわは……。」と、目に涙を浮かべて視線を合わせてくる。

「これからは、俺達ずっと一緒ですからね?」と、宇迦之さんを優しくでると、涙を流して抱きついて來た。

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人目もはばからず號泣し、ずっと謝り続ける宇迦之さんを、俺達は皆で聲をかけめ続けたのだった。

「わらわの母は、いつも狐族の事を憂いておったのじゃ。どうしたら狐族がもっと仲良く幸せに暮らせるか、いつも悩んでいたのじゃ。」

泣き止んだ宇迦之さんは、俺に抱きつきながら、前れも無くポツリポツリと話し始めた。

それは、宇迦之さんの過去と、められた想いだった。

「母はこのままでは狐族の未來は無いと、常日頃つねひごろ言っておったのじゃ。そして、昔は……皆ここまで頑なでは無かったのじゃ。こんな風になってしまったのは、12年前の大侵攻で、村人の殆どが戦って死んでいってからじゃ。」

また、大侵攻か……。

俺は、そっと心の中でため息をつく。

どこの種族も、本當にこの戦で被った被害は恐ろしいほど大きいと、改めてじる。

「その後の村の変化は酷かったのじゃ。狐族の戦士達は皆、誇りを持ち、前線で散っていった者達ばかりじゃった。その勇敢さゆえに、戦いで生き殘ったのは、殆どいなくての……結局殘ったのは、今の村長だけだったのじゃ。そんな戦を生き殘ったのも、戦えなかった弱い狐族のみじゃ。そんな劣等と誇りと言う幻想に板挾みになった結果、村のものは他の種族を執拗に貶めるようになったのじゃ。」

なるほど。そういう経緯があっての、あの過剰な反応と言うわけか。

哀れなものだ。

自分を守るために他者を貶める。

一番簡単で、一番被害の大きい方法に手を出してしまったのだな。

「結果、村は他種族から孤立していったのじゃ。そんな狀況を、我が母は嘆いておった。実際に村人達に語りかけても回ったのじゃ。しかし、それを反逆とけ取った村の皆は、我らの家族を裏切り者扱いするようになったのじゃ。」

なるほど。過剰なまでに村人の敵意を集めていたのはそういう訳だったのか。

「だんだん、村から疎外され、ツバサ殿やレイリ殿の見たようなあの狀態になった訳じゃ。じゃが、母は最後まで村人を恨まず、行く末を案じておった。」

宇迦之さんは、そう懐かしい思い出を語るように言葉を紡ぐ。

「わらわは、そんな母の気持ちをけ継いだのじゃ。そして、それを達したいと切に願っておる。」

宇迦之さんは、そんな風に、決意をめた目を見せ、更に言葉を続けた。

「今、狐族は子供ができん。村長は悠長な事を言うておったが、そんなはずは無いのじゃ。現に今、子供ができないと言う現狀はあるのじゃ。」

俺は、そんな宇迦之さんの言葉に、賛同しうなずく。

確かに、村長が楽観視したい気持ちはわからないでもない。

しかし、現実から事を考えるとき、常に最悪を想定し事態に備えるのが基本である。

12年、子供ができなかった。

その事実に対し、このまま手を打たずに、もし、何かの問題が隠れていたことを見過ごした場合は、即、終了なのである。

それならば、大袈裟と言われようと、まずは、原因究明と、実態把握に勤めるのが、大切であろう。

この手の危機管理に、遅すぎることはあっても、早すぎることはないのだ。

俺は、そのような趣旨を宇迦之さんだけではなく、皆にも伝え、その意思を確認する。

皆、俺の意見には賛してくれたので、まずはひと安心だ。

そんな皆の意思をけて、宇迦之さんは、更に話を進める。

「確かに、今の村人たちは、行きすぎておる。正直、同じ狐族として、恥ずかしい思いじゃ。しかし、それでも、わらわは諦めたくないのじゃ。何とかして、昔のように皆で笑いあえる村にしたいのじゃ。」

自分も辛い思いをしてきただろうに、そんなことは微塵もじさせず、宇迦之さんは、そんな事を口にした。

俺にはとても真似できない。

俺だって、辛い思いもした。

心を何度も傷つけられた。それは勿論、俺の至らなさのせいもある。

そして、それは間違いなく、特定の人の勝手なによりなされたと言う事実もあるのだ。

勿論、俺が悪かった部分もあるが、全面的に俺が悪かったと言えるわけでもない。

確実に、噛み合わず、お互いに悪い影響を與えあったと言うのは否定出來ないはずだ。

ならば、その責任と原因の所在がどんなに一方に傾こうとも、100%一方が悪いと言う事は、現実としてありえないのである。

人と人が対面した時點で、雙方にその影響力があり、その、せめぎ合いが結果をもたらすだけなのだ。

しかし、今も俺を害した人達を恨んでいるかと言われれば、そうでもない。

ある意味で謝している部分もあるのだ。その事がなければ今の俺という存在は無かった。

ただ、その人たちの幸せを願えるかといわれれば、斷じて否である。

こちらから積極的に何か仕返しをしてやろうとは欠片も思わないし、その事実をれる事はできるが、相手に何か不幸が起こったのであれば、暗い笑みを浮かべられる自信はある。

その程度に、俺も腐った人間なのだ。

だから、俺は宇迦之さんのその真っ直ぐな気持ちには、憧れに似た眩しいものをじる。

この人は凄い。

俺の到達できない領域から、世の中を見ているのだろう。

いつか俺も、全てを許し慈しむことの出來る日が來るのだろうか?

そんな景を全然想像できない俺は、今はただ、宇迦之さんを支えて行こうと心の中でそっと呟くのだった。

宇迦之さんの話が落ち著いたのを契機に、俺は村で起こった事や見た事を大筋で皆に伝えた。

最初は落ち著いて聞いていた皆だったのだが、話が俺がへりくだり、ライヤモ草の援助を約束した所まで進んだとき、リリーが切れた。

「ツバサさん? すいませんが、今からちょっとその愚かな男をやって來て良いですか?」

何をやる気ですか……リリーさん。

「あ、ルナも行く。ちょっと、我慢できないよ。」

と、あっさりと追従宣言をするルナ。

「駄目です! 俺が何の為に我慢したと思ってるんだ。」

と、俺は2人を宥める。

ちなみに、後ろからヒビキが一聲鳴いた。

その聲にも押し殺す事のできない怒りが渦巻いている。

「えっと……『私なら、萬が一姿を見られても、野獣に襲われたと言う事故の一言で片付けられますので、やってきて宜しいでしょうか?』……との事ですわ。」

ここにも過激派がいた……。

「いやいや……ちょっと待ちなさい。皆、怒ってくれるのは嬉しいけど、それは駄目。もっとジワリとなぶり殺し……じゃなくて苦しめないと意味がない。」

サラッと酷い事を言う俺に、宇迦之さんが驚いた様な視線を投げかけてくるも、俺はその視線に爽やかな笑顔を向けつつ、答える。

「宇迦之さんが気分良くないのは分かりますが、あそこまで皆をコケにされて、黙っていられるほど、俺は聖人君子ではありません。あの村長だけは、全てを徐々に失わせ、絶を抱かせてやらないと気が済みませんから。」

その言葉に宇迦之さんは、複雑な表をするとレイリさんが俺の言葉に乗ってきて、

「宇迦之様?申し訳ありませんが、私もツバサ様の気持ちと同じですわ。まだ日は淺いとはいえ、私達の家族となった方やツバサ様を、あそこまで……あそ、こまで……。」

と、言いながら怒りが再燃したのだろう。必死に堪えるように、息をし目を閉じる。

そんな様子を見た宇迦之さんは流石に、皆と比べて村長を庇う気にもなれなかったのだろう。

「すまぬ、レイリ殿。その言葉だけで十分じゃ。わらわだって、奴が憎い。正直そんな気持ちに囚われてしまう自分が怖かったのじゃ。しかし、それ以上に皆の気持ちがありがたい。ここは、おぬし達に任せる事にするわぃ。」

宇迦之さんの話を聞いた俺たちは、それぞれに頷き、改めて、狐族の村を変えていこうと言う意識の元、団結する。

そこで、俺はこれから、どうやって狐族の村を変えていくのか、簡単に説明する。

やることは単純だ。

一言で言ってしまえば、文化攻撃である。

俺たち獨自の文化を浸させ、狐族の村の価値観を底から揺るがすことが目的だ。

その発信源は、ルカール村から始まり、卯族、子族も巻き込んだものとなるだろう。

最初は、食料から……食住と、生活に必要なものを含めて、屆けるものを織りぜていく。

徐々に、嗜好品類や、生活をかにするものと共に、価値観を織りぜ、多種族との流を進めていくのが目的だ。

そんな事が簡単にできるのだろうか……? そう思うかもしれないが、手順さえ間違えなければ勝機は十分にあると俺は考える。

し気の長い話になるが、意識改革を迫るのだから、多の時間は必要だろう。

ただし、ルカール村では既に、ある意味では功している為、広がりやすさは段違いだ。

前例があるものは、広めやすいのである。

特に、獣人族は文化面がすこぶる貧弱だ。

ここを押し上げて、しだけ狐族を低く設定し格差をつけてやる。

特に生産技に関してはその匿を厳とする予定だ。

自意識の高い狐族は、現実を見ればかざるを得ないはずだ。

生活に必要なものは率先して売り込み、生活をかにさせる。

そのがなければ、生活がり立たないと言う関係を作るのだ。

そうすることで、否が応にも、外との関係を継続させる環境を作り出す。

もし、それでも引きこもろうとすれば、恐らく村が真っ二つに割れる。

多分、村長は必死に現制を守ろうと躍起になるはずだ。

しかし、一度、味を占めてしまった村人は絶対に元には戻れない。

その日が楽しみである。

そんな風に説明する俺の顔を見て、ルナが「ツバサ? 笑顔が、なんか真っ黒だよ?」と、素直な想を述べてきた。

しかし、よく見ると、レイリさんもリリーも、「素晴らしいですわ。」「楽しみですね。」等と、黒い笑みを浮かべていた。

逆に、宇迦之さんはまだ、吹っ切れていないところもあるのだろう。「お主……恐ろしい事を考えるのぉ……。」と、呆れながらも笑っていた。

何だかんだで皆、結構ノリノリだったりするのを見て、俺は安心したのだった。

俺達は、一通り話し合った後、ログハウスで一泊し、朝一番で約束もしていた子族の村へ立ち寄る。

まずは、文化を広げる為の足がかりを作らなくてはならない。

その街道整備の打ち合わせを、細かく詰める為だ。

同時に、この作戦に際し、子族の約束を取り付けることに功した。

俺の話を聞き、ラッテさんも長老も最初は、「そんな恐れ多いことを!」と、恐していたのだが、俺が頭を指差し「これからは……ココの使い方が勝負を決める時代になりますよ?」と、笑いながら言うと、つばを飲み込み、真剣に食いついてきた。

子族は、常に底辺に見られてきた種族だ。

それを挽回できるチャンスを得られれば絶対に食いついてくるだろうことは、想像通りだった。

ちなみに、巫のイルイちゃんは、今回は出て來なかった。

どうも、ただ今、謹慎中&禮儀の勉強中とのことだ。

まぁ、昨日の今日でまたやらかされても困るので、その対応に素直に謝する。

今後の話だが、俺は、子族の皆さんに行商をお願いするつもりだった。

まず、教育により、算と、商売の基本を叩き込む予定だ。

その講師として、ラッテさんを初め、數人の子族の方々をルカール村へと招待し、教育を施す。

そして、ある程度教育が進んだ段階で、ルカール村から各村を回り、様々な資の換、および拡散をお願いすることにした。

今はまだ通貨の概念がない為、換での取引が基本になるが、ある程度文化がすれば、貨幣制度を導するつもりだ。

しかし、それには、また超えなければならない壁があり、今のところは保留狀態である。

また、新しい技の開発も急がなくてはならない。

特に、移手段に関しては早急に著手の必要がある。

街道はファミリアに任せれば問題は無い。

ただ、高速に移する手段が問題だ。

個人的には、馬のように飼育しやすいがいれば楽なのだが、今のところそれはみが薄かった。

そうなると、自車等、機械に頼った乗りを作る必要が出てくるわけだが……それを行うのは不可能ではないが、かなり大掛かりな事になりそうだ。

魔道の作方法がわかれば、結構あっさりクリアーできそうなのだが……。

こればっかりは、報収集の結果待ちとなりそうだ。

いずれ、森を出て人族の王國に潛する必要があるかもしれない。

俺達は夜通し、この先に必要なもの等を含め、対策を練っていったのであった。

俺達の話し合う部屋の中から、薄気味悪い笑い聲がずっと響いてきたと言う噂が後日、子族の村を駆け巡る事になったのだった。

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