《比翼の鳥》第66話:獣人族の変化
さしあたって、卯族と子族の村を繋ぐ街道を作る事に決まった。
子族の村近郊にあった山に富に資源があることを確認した俺は、その仕様許可を取り、さくっと街道整備に著手した。
今回は、誰の目を気にする必要も無いので全力で行う。
今まで貯めに貯めていたファミリアを、全て放出した。
その數2萬。
白晝堂々、蛍のように空を舞するファミリア達。
それが、石を切り出し、加工し、運び、並べると言う一連の作を、止まる事無く列をして行っていくさまは、圧巻の一言だった。
しかし、流石に數が多すぎた為、最初は大混だった。
まず、最初は石材を切り出す役目と、それを形し運ぶ役目に分けたところ、その作業量の違いから、大渋滯が起こった。
そこで、數を調整しつつ、上手く作業が流れるようになった頃に、卯族の村と子族の村を繋ぐ街道が完した。
所要時間は、1時間くらいだった。
流石に、この現実を見て、
「馬鹿じゃ! お主は馬鹿じゃ!! なんでこんな大事業をあっさりこなせてしまうのじゃ!?」
と、宇迦之さんは何故かお怒りだった。
「これは……酷いですね。」
「つ、ツバサさん……こんな事も出來ちゃうんですね……。」
と、レイリさんとリリーも呆れていたのだった。
ちなみに、ルナと此花、咲耶は、ファミリアの舞を見て、綺麗だとはしゃぎまくっていた。
ティガ親子は、我関せず。そりゃ獣ですし。
何とも平和である。
子族の村は事前に通達しておいたおか、混も無く、至って靜かだった。
むしろ、皆、恐れるように家の中にこもっていたようで、閑散としていたが。
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ちなみに、対照的に卯族の村は、大混だったようだ。
ちゃんと言っておいたのに……。街道作りますよって。
ビビに乗って整備した街道を早速とばかりに疾走し、卯族の村に向かったのだが……出迎えたのは長老を初め、殺気だった卯族の戦士達だったのだ。
皆、張の面持ちで、こちらに高速で向かってくる白文鳥……もとい、ビビを睨みつけていた。
長老が、「來たな!? 化けめがぁ!!!!」と、やる気満々で吼える。
その言葉に、ビビはカチンときたのだろうか?
俺やルナが制止する間も無く、口から指向の衝撃波を解き放った。
ライオンの猛る聲に乗せ、発せられた衝撃波が、長老以下、卯族の屈強な戦士達を紙くずのように吹き飛ばす。
ビビの上から悲鳴を上げながら転がっていく卯族の戦士を見て、一瞬良く分からない萬能を覚えてしまった。
なるほど、世の支配者の気持ちが何となく分かってしまった。
「ハーーハッハッハ!」とか、高笑いしたくなるね。
したら、皆から白い目で見られそうだからしないけど!
しかし……なんでまたこんな騒なお出迎えをされているのやら?
俺は、ビビの上から降り立ち、肩膝をついて立ち上がろうとしている長老に足を向ける。
長老は近寄る俺の姿を認めると、「ぬ!? ツバサど……。」「邪魔です!! お父様!!」「ぬがぁ!?」と、突然現れた皐月さんに、跳ね飛ばされて、轟音と共に頭から地面に埋まった。ひでぇ……。
皐月さんは、そのままの勢いで、俺のへと一直線へ飛び込んできた。
一瞬、お約束で避けて見る事も考え付いたのだが、可そうなのでやめて、そのままけ止めた。
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……つもりだったのだが、考えて見れば、あの卯族の長老を跳ね飛ばす勢いだった。
そのままタックルのように突っ込まれ、「うおぉ!?」と、思わずけ無い聲を上げながら一緒になって地面に倒れこむ。
常時発している防護結界が音を立てて砕け散り、大音響と共に地面に砂埃が舞った。
皐月さん!? どういう力してるんだよ!?
防護結界を、押し倒されて割られたのは初めてだよ!?
それでも、ちゃんと結界は仕事を全うした様で、派手な見た目の割りに、俺にも皐月さんにも傷一つ無かった。
「ツバサ様! 皐月はうれしゅうございます! 皐月のためにこんなにも早く戻ってきてくださるとは!」
いきなり、現れの再會とばかりに俺を押し倒した皐月さんは、嬉しそうに俺のへと顔を埋め抱きしめてきた。
と言いますか、皐月さん……貴、目が見えないんでしょ? なんで走って俺に抱きつけるんですか……?
そんな俺の思いが分かったのか、皐月さんは恥ずかしそうに頬を染めると、
「それは……つ、ツバサ様のお心をじたからですわ……。」
と、俯いてモジモジしながら言う。
なるほど、俺の心をじて、一直線にココまで走ってきたのか。
世が世なら、嬉しい行なのだろうが……。
俺は、皐月さんの後ろに広がる、跳ね飛ばされた人々や、吹っ飛ばされた建のり口を見て、汗をたらす。
目の前にあるものを全て跳ね飛ばしてココまで來たらしい事が、この慘狀を見て理解できる。
それは、どうなんですかね? 皐月さん?
そんな俺の心の聲に、「恥ずかしいですわ……。」と、両手を頬にあてモジモジする皐月さん。
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いや、あの……そういう……まぁ、いいや……。
とりあえず、俺はに抱きついた皐月さんに、離れてもらうと地面から這い出した長老に聲をかける。
そして、何故こんなに々しい事になっているのか、その経緯を聞いて納得してしまった。
朝、のどかな時間を過ごしていた卯族の村に突如迫り來る、る飛行。
そして、空を多い盡くすそのと、石材。迫り來る石畳。
子族の村の方向より、木をなぎ倒し、轟音を響かせ、石の波が迫る景は、恐怖を呼び起こすのに十分足る景だったそうだ。
途端に大騒ぎとなる村を治め、何とか戦士達を招集し、不測の事態に備えたところ、遠くより響いてくる地響きと空気を切り裂くような音。
皆、張の面持ちで子族の村へと続く、出來たばかりの石畳の先を睨む。
戦士達は口々に、「何が起こっているのだ……。」「何故石畳が……。」「道が……現れた……。」等、不安げに呟いていたとの事。
そして、道の先から砂埃を上げ、疾走してくる白い巨鳥。
皆の張は最大まで高まり、先ほどの慘事に繋がったとの事だった。
ああ、確かに……街道を作るとは言ったが、方法と時期までは言ってなかったもんなぁ。
そりゃ、ちょっとしたホラーだろう。
俺はし反省して、今後もこういうことがあるかもしれないが、気にしないでくれと伝えておいた。
長老は渋い顔をしていたが、まぁ、今度はちゃんと聲をかけてからやる事にしようと、心に決める。
その後、長老と村の職人達をえて話し合いを行った。
卯族の村でやれることを選別し、今後の産業の方向を決めるためだ。
々と、話を聞いているうちに、卯族は洋裁や、紡績にある程度の適正がありそうだとわかった。
また、その丁寧な格から農耕もこなせそうである。
兎の癖に、何故か力もあり、手先が用なのだ。
皐月さんの著ていたあの十二単モドキも、この村で一から作ったものであるらしかった。
絹のような、あの布地は森に生息する蠶のような生きからとれるらしく、上手くすれば養蠶も可能のようだ。
俺は、長老と共にその紡績を行う村人をえて、更に深く意見換を行う。
その結果、この村の特産を布地として、他にも、綿や麻のようなものから、生地を作っていくように、お願いをする。
幸い、綿や麻っぽい生地のもととなる植も自生しているようなので、こちらも農地を作り、栽培できないか試してみることに決まった。
比較的とんとん拍子に事が進み、次の日は、その勢いのまま簡単な農地の手れも行った。
俺が、魔法で森をある程度吹っ飛ばし、更地へと変えた後、さくっと開墾するのを見て、何か長老の心に火が著いたようで、俺に負けじと、森を開墾し、畑を耕し始めた。
なるほど。長老はこうやって使えばいいのか。
俺はひとつ學習し、作業効率は俺と長老のおで劇的に上がっていた。
長老が魔力と力切れでぶっ倒れた所で、お開きとなり、長老は村人に擔がれて退場した。
朝から始め、夕方近くまでぶっ通しで開墾したことになるのだが、そのおで、広大な農地を確保することに功していた。
水も川から引いてあるので、あまり苦労せず、栽培に著手できるだろう。
その後、皐月さんが、相変わらず猛アタックをかけてきたが、うちの婚約者達の鉄壁の防になすすべも無かったようだ。
がっくりと肩を落とし退場された。
ちょっと可そうではあるが、流石に今の狀況ではゆっくりと話すのも無理だ。
俺は心の中でそっと詫びると共に、今は時期が悪いと同じく頭の中で説得する。
そして、その気持ちが伝わったからこそ、皐月さんは黙って引いてくれたのだろう。
今、卯族は岐路に立っているのだ。ここは手を抜ける狀況ではない。
俺は四方を完全に皆に固められ、全くきの取れない狀態で、そんなことを思っていたのだった。
翌朝、俺は狐族の村へと続く街道を途中まで整備しつつ、同時に、ルカール村へと続く街道も整備し始める。
狐族の村への街道を完全に繋げないのは、まだ、準備が整っていない段階で、外界への接続路を作りたくない事と、あまりにも早く作りすぎると、また余計な騒を生むと思ったからだ。
もうひとつ、単純に石材が無かったと言う問題もある。卯族の村一を調査したが、石畳に使えそうな石場を見つけることができなかった。
変わりに、何か鉱石を含む地質が見つかったため、いずれ調査することになった。
完全に道を繋げるのは、ライヤモ草を持ってくるときで良いと結論付けた。
とりあえず、街道予定地を、魔法で均しつつ、ルカール村へと向かった。
後で、ルカール村から卯族の村へまた、石畳を作っていけば良いだろう。
俺は、ビビの上から、ルカール村と卯族の村へ続く道を作りながら戻る。
流石に焼き払って進むのも、々ともったいないので、木を切り倒し、道の端に寄せながら進んだ。
これは、最初のうちは俺が全部行っていたのだが、途中からルナとビビが手伝ってくれ、作業スピードが格段に早くなった。
ビビが吼え、ルナが風刃を飛ばし、木をなぎ倒し切り倒す。
霊なら木を移させる事とか出來ないのか? と聞いたのだが、流石にそこまでは無理だそうだ。
そして、舗裝こそされていないものの、平坦な道が俺たちの通りすぎた後に、出來上がっていった。
その道の橫には、ファミリアによって加工された木材が次々と積まれていく。
改めて、反則なまでの作業効率だな……と、次々と木材と道ができる様子を見て思っていたのだった。
途中、谷には簡単な木製の橋をかけ、進むこと6時間近く。
漸く、ルカール村へとたどり著いた。
たった數日離れていただけだったが、その市壁を見たときに、懐かしさを覚える。
良く見ると市壁の上に、桜花さんと、カスードさんをはじめとした長老達が勢揃いしていた。
リリーはその姿を認め、ビビの上から手を振っていた。
あんだけ派手に木を切り倒しながら近づいてきたから、流石に気づくか……。
街道を整備し終え、ビビにお禮を述べた後、村にった俺たちに、労いの言葉をかける桜花さん達。
俺は、村長たちと集會場に向かいがてら、簡単に説明を行った。
相変わらず、俺がやらかした事を聞いた桜花さんは渋い顔をし、カスードさんは大笑いしていた。
特に、卯族の長とのやりあいを聞いた時は顕著で、桜花さんは本気で顔を青くしていた。
集會場についた俺達の目には、広場で訓練を行うガーディアンズの姿が……と思いきや、何か様子がおかしかった。
何か、白いとガーディアンズの皆が、壯絶なバトルを繰り広げていたのだ。
魔法や、周囲に損害を與えるような攻撃こそしていないものの、放出される魔力は桁違いであるし、何よりきがおかしい。
皆、俺の強化した知覚でギリギリ捉えられるといった、壯絶な速さで戦闘を行っているのだ。
しかも、皆、深くなっている気がする? ん? なんだろ? 違和を覚える。
白い何かの周りを、猛スピードでフェイントを織りぜながら攻撃を連攜して行うガーディアンズ達。
しかし、そんな攻撃をものともせず、白い何かは最小のきでそれを避ける。
そして、白い何かが「ぬぁ!」と気合をれたその瞬間、音も無くぶっ飛ぶ、ガーディアンズ。
皆、壯絶に放線を描いて広場の端まで吹っ飛んでいく。
広場の真ん中には、靜かに佇む、白い何か……っていうか今の聲は……。
「何ですか……あのきは……。」
「全然見えないんですけど……。」
「あれはそもそも獣人なのかの?」
「皆、凄いなぁー。ね? ツバサ!」
と、皆それぞれが思うところを呟いている。
俺達が呆然と、その様子を眺めている事に気がついたのだろう。
白い何かは、「おお! ツバサ殿!! 宇迦之殿も! 戻られたか!」と、吼えるように聲を上げる。
その聲はどう聞いてもゴウラさんだった。だったのだが……。
ゴウラさんとおぼしき白い何かは、こちらに高速で走ってきた。
そして、俺達の前にその異様な姿を曬す。
頭頂部に燦然と輝くように切り立つうさ耳。
これは、変わらない。安定の存在だ。
しかし、そこから下がおかしい事になっていた。
まず、が見えない。全て白いもこもこに覆われている。
いや、分かっているんだ。これはだろう。
筋にそのままが生えたようなその風貌は暑苦しい。
そして、顔も同じように白いに覆われているのだが……顔がウサギだった。
赤くる目に見つめられた俺は、何も言葉が浮かばなかった。
もう、完なきまで人の姿を捨て去った兎を模した何かだった。
つまりだ……。
兎の著ぐるみを著た人が、俺の前に腕を組んで立っているイメージなのだ。
考えて見てほしい、その恐ろしさを。
夜中に暗い道で、一人そんな存在が佇み、道を塞いでいたら、俺だったら全力で回れ右して逃げる。
それぐらいインパクトのある姿だった。
「お、お主……ゴウラか?」
勇気ある者が、そのに聲をかけた。
その言葉で俺も、頭を切り替え聲をかける。
「ゴウラさん……その姿はどうしたのですか?」
「おお、この姿か? ツバサ殿の行ってくれた修練の結果よ。 魔力を練りに練ったら、こうなったのだ。」
そう、得意そうに……多分、笑っているんだろうが、赤くる目を細めながら、話してくれる。
やはり、獣化と魔力は接に関係していたか。俺の仮説が立証された結果となった、
そんな話の橫から、カスードさんが、口を挾む。
「なんせ、お前ぇが出てってすぐ、この兄ちゃんがこんな姿になってな。流石に村中、大騒ぎだったぜ。」
楽しそうに話すカスードさんに、ゴウラさんは「迷をおかけした。」と、目禮する。
「良いんだよ。どっかの奴がやる事に比べたら可いもんよ。なぁ?」
と、何故か俺に話を振るカスードさん。
俺は苦笑しつつ、それを流すと、よろよろとこちらに向かってきたベイルさんに聲をかける。
よく見ると、ベイルさん達も上半がに覆われていた。
ただし、まだ顔は人のままだ。
俺の視線に気がついたのだろう。
ベイルさんは「ツバサの旦那!」と、聲を上げるとこちらに走ってくる。
その際に、がって消え去った。
なるほど。ここら辺は、レイリさんと同じか。
「カスードさん、お疲れ様です。今、戻りました。なんだか、ちょっと見ない間に凄い事になってますね。」
「いやぁ。ツバサの旦那のおでさぁ。皆、真面目に練習してきた甲斐があったってものでさ。けど、まだゴウラの旦那には敵いもしませんで……けねぇこってす。」
「いやいや……この人に勝てるって、相當凄いですからね? この人の親なんか無茶苦茶でしたよ?」
「む? ツバサ殿。 親父殿と拳をえたのか?」
「ええ……。酷かったです。狹い部屋で、最終奧義とか言うものも食らいました。流石に厳しかったですよ。」
「な!? 親父殿はそんなものまで!? ツバサ殿お怪我は? 村は!? 大丈夫なのでしょうか!?」
「ええ、何とか相殺しましたから……。流石に服はボロボロになりましたが。」
そんな話を聞いて、ゴウラさんは急いで頭を下げて來た。
普通はそんな大技を振るう事はあってはならないと、必死に説明してくれた。
俺は、人型兎が必死に頭を下げる姿を、微妙な気持ちで見つめつつも、問題ないことを伝えた。
それから、ゴウラさんとベイルさんに、後日手合わせをお願いされ、渋々了承した後、皆と共に集會場にて報告を行ったのだった。
狐族の狀況を説明し、俺の考えを皆に説明した。
既に長老達には概略は説明しておいたので、この話し合いはすぐに終わった。
ルカール村からの報告としては、先ほどの獣化の件以外に、しだけ気になる點として、最近、見かけた事のない獣を見るようになったというものがあった。
どうも、その獣達は人に害をす事は無く、時々見かけても逃げてしまうだけとの事で、報がなく、この件は保留とした。
念のために、俺も注意しておく事で話を閉める。
そして、今後も、ルカール村の特産品を作る事や、教育を推し進める事で、生活水準を上昇させる事を目標に、皆で頑張っていこうと意識を新たにしたのだった。
それから、2ヶ月。
街道も整備され、ルカール村や、卯族の村、子族の村それぞれに特産品ができ始め、子族の商人達も徐々に巣立って言った頃。
突然、その異変は起こったのだった。
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