《比翼の鳥》第67話:不穏な空気

「貍族りぞくと、貓族びょうぞくの村から連絡がない?」

俺のそんな言葉に、レイリさんは頷いた。

「今まで、ツバサ様の指示通りに、特使を派遣して連絡を取っていたのですが……定期連絡が來ないようです。」

「連絡が途絶えて、どれ位になります?」

「3日程ですわ。単に連絡が遅れているだけなら良いのでしょうが……2族がほぼ同時に……と言うのが気になります。ツバサ様の懸念もございますので、報告に參ったようです。」

この2ヶ月間、俺達が特に力をれたに、報伝達手段の整備があった。

子族と卯族より派遣された、狐族を除く各村に、特使を常駐させ、狼煙のろしによる連絡を行えるようになっていた。

特に連絡は、決められた時間に必ず行い、報連攜をにするようにしたのだ。

これで、何かあった時にすぐに対応が取れる仕組みを作っていた。

各村には半鐘も設置されており、異変があった場合は町の中でもすぐに連攜が取れるようになっている。

本當なら貍族りぞくと、貓族びょうぞくの村にも街道を整備して流を図りたい所だが、時期尚早であった為、街道は繋がっていない。

その前準備としての特使派遣だったのだが、この様子では、何かが起きたのは間違いなさそうだった。

報告してくれた子族の若者に禮を述べて、俺達は長老たちもえて、意見換を行う事にする。

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桜花さんや、カスードさん率いる長老達は、俺がく事には消極的であったが、俺が何かあってからでは遅いと説得した結果、しぶしぶではあるが、了承してくれた。

俺がいないと進まない分野もまだまだあり、なるべく村を離れてしくないと言う気持ちは分かるのだが、今は急時だ。

短時間で駆けつけられるのが、俺達しかいないので、ここは目をつむって貰う。

俺は、レイリさん、ルナと此花、咲耶をつれ、ビビに乗せて貰って、貍族りぞくの村へと向かう事にした。

リリーと宇迦之さん、そしてティガ親子はお留守番である。

俺達は、ビビの背中に乗ると、留守番組に、「皆、すぐ戻るから、村を頼むね!」と、聲をかける。

ヒビキとクウガ、アギトが寂しそうに鳴き、「ツバサさん……気を付けて下さいね。」「また無茶するでないぞ?」と、リリーと宇迦之さんが心配そうに聲をかけて來た。

俺はそんな皆に笑顔を見せると、ビビを包み込む様に【ステルス】をかけ、ルナにお願いしてビビを出発させた。

ビビは、雄々しく吠えると、地面を蹴って飛翔する。

衝撃波と共に、空気を切り裂き貍族の村へと一直線に飛ぶ姿は、正に戦闘機の様だ。

まぁ、外見はただのでっかい文鳥なのだが。

しかも、羽ばたきもせず、いきなりのトップスピード。

羽を広げたまま飛ぶ姿は、違和しかない。推進力はどこから得ているのだろうか?

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そんなアホな疑問を考えているうちに、もう、貍族の村についてしまった。

確かに、この速さなら森中どこでも一瞬の様な気がする。

貍族の村の上で、ビビはクルリと旋回すると、真下にホバリングもせずゆっくりと落ちて行った。

もう、突っ込みどころがあり過ぎて、どうでもよくなってきた。

村の広場とおぼしき場所に、降り立ったビビの背から、俺は村を眺める。

村のあちこちに視線を向けるものの、村人の姿を見る事は無い。

貍族の住居は木造の作りに、藁葺わらぶき屋と、ルカール村に似た所がある。

しかし、作りは貍族の村の方がはるかに稚拙で、臺風でも來れば倒れてしまいそうなほど脆弱な作りだった。

良く見ると、打ち壊されたと思われる家屋や、戸が開け放たれたままの家屋が多くみられる。

まるで何かに追われ、逃げ出したかのような慘狀だ。

俺は探知にて、村人の反応を探す。

しかし、村人は発見できなかった。

その代わり、明らかに何か闘爭があったと思われる痕跡を數多く発見した。

折れた棒や、割れた石などがそこかしこに散していた。

いったい、何と戦ったと言うのだろうか? しかも、死も無くその様な痕跡も無い。

逃げてくれていればいいのだが……。

俺は、レイリさんや、ルナ、此花、咲耶たちとしばらく周りを捜索したが、良い結果は得られなかった。

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仕方なく、次に貓族びょうぞくの村へと向かった。

しかし、こちらも同じような狀況だった。

人だけがいなくなり、家や家財道は無造作に置かれたままだった。

これは……もしかしたら、さらわれている?

何者かは分からないが、村の人たちをこそぎ連れて行ったという事だろうか?

そんな事、果たして可能なのだろうか?

そもそも何のために? 人族でさえこれだけの數をさらう必要は無いと思う。

奴隷として連れて行くにしても、その輸送や生存に必要なコストだって馬鹿にならないだろう。

何より、結界に守護されたこの森にる事が出來るかどうかも怪しい。

結局、俺達はルナに頼み、ビビの上から探知をしつつ、ルカール村の方角へと戻っていく。

この森は、ルカール村を最奧として、卯族の村、狐族の村、子族の村、貍族の村、貓族の村と、南に下っていくように細長く続いてる。

より、正確に言えば、子族と狐族の村は、ほぼ同じ緯度にあるが、西と東に分かれているので、ひし形の、一番上の點を北として、卯族の村とすれば、右に子族、左に狐族、一番下の點に貍族と言う形になる。更にその先に貓族の村があるじで、概ね間違っていない。

俺達は、南端より、北端に向かって探知しながら北上していく。

貍族の村から北上して30km位のところで、俺はおかしな反応をとらえる。

集団で移する何かの反応があるのだ。

村人達か?とも思ったのだが……どうにも様子がおかしい。

良く見ると、2つの集団に分かれていて、先を行く集団を追いかける集団がある。

先行する集団は、100前後。その魔力反応はどれも弱い。

対して、追いかける集団が200以上。

しかし、その反応が、今までに見た事の無いようなパターンを示している。

いや? どこかで見たか? この特徴的なパターンは……?

俺は、ルナに聲をかけ、その反応のありかへと近づいて貰う。

勿論、そのまま不用意に近付くのも問題があるので、【ステルス】かけたままである。

まず、追従する集団を目視できる場所まで來て、その異様な景に思わず息を呑む。

皆、狂ったように走った目をして、黙々と一方向に向かって歩いているのだ。

俺は初めて見るが、見てすぐわかった。

丸い貍耳と、細長い尾をもつ貍族と、見事な貓耳とふさふさな尾をもった貓族達だ。

しかし、この様子は……どこかで見たことがある?

そして、暫く考えた俺はこれが、墮ちた霊に憑かれた際の狀況に似ていると気が付く。

俺が此花と咲耶に視線を向けると、2人とも黙って頷いた。

この集団も気になるが、それが追いかけている集団……つまり、先行している集団は生き殘りである可能が高い。

そのまま、追従する集団を追い越し、先行している集団へと向かう。

と言っても、その差はあまりない。5kmもあればいい方だろう。

そして、先行する集団の歩みは遅い。近いうちに追い付かれるのは間違いないだろう。

先行する集団は、貓族と貍族の子供が殆どだった。

もチラホラ見えるが、圧倒的にと子供が多い。

ビビを先行する集団の先に停めると、俺は【ステルス】を解き、指示を出す。

「レイリさん、何が起きたか確認をお願いします。ルナ、ビビに皆を載せて運べないか聞いてくれ。」

突然虛空より現れた様に見えたのだろう、その集団の皆に驚愕と不安の表が張り付いていた。

「私は、ルカール村のレイリです。こちらは、ツバサ様です。異常事態が起きていると判斷し、皆様を助けに來ました。狀況を確認したいのですが、代表者の方はおいででしょうか?」

そう言うレイリさんの聲に、「あたいだにゃ!」と、元気に手を上げる一人の貓族の

「にゃ!」って言った!今、確かに「にゃっ」て!!

俺が変な興の仕方をしていたのを、ルナが怪訝そうに見るも、張した皆はそれに気が付かずそのまま話は進む。

「あら?……あなた様は、貓族の巫様では?」

「そういうお前は、犬の巫だにゃ! 久し振りー!」と、妙にハイテンションで手を上げて挨拶する貓

「いえ、狼です。」と、レイリさんが冷靜に突っ込みをするも、それを「細かい事は気にするにゃ!」と、どっちとも取れるよく分からない表現で、そのままスルーする。

に、し白いじった髪のをショートカットに切りそろえ、その頭部には勿論、大きめの貓耳が鎮座していた。

先程からふりふりと振られている、髪のと同じの細い尾を見るに、なかなかご機嫌の様だ。

こんな狀況なのに元気で結構な事だ。いや、こんな狀況だからこそ余計に、なのかもしれない。

服は、きやすそうな膝までのショートパンツに、だぼだぼの半袖シャツと、なかなかに行的な格好だ。

どちらも、綿で織られているようで、麗しさは無いものの、何となく活的な雰囲気に一味アクセントをれている所に好が持てるデザインだった。

「して……貓族の巫様。」「ミールにゃ。」「……では、ミール様。一何が起こったのですか?」

そんな問いかけに、しだけ考え込むミールさん。

「なんかよく分からないうちに、村人が狂っていったにゃ。」

そう切り出したミールさんの説明によると、3日前突然、村人が次々と狂い始めたとの事だ。

狂った村人は、他の村人に襲い掛かるようになったらしい。

最初は等の暫定措置を施していたそうなのだが、徐々に狂う人々が増えて行ったそうだ。

折角閉じ込めていた、初期に狂った村人たちも、後発の狂った人々に解放されてしまい、仕方なく村を捨て、貍族の元へと逃げ込んだとの事だ。

しかし、そこでも同じように、狂った人が出始め、貓族の狂った人々と合流し襲ってきたため、現在、逃避行中との事だ。

おかしい……。

俺は、話を聞いていてそう思った。

俺の知っている墮ちた霊の行とはいささか異なる。

あれは、破壊衝と恨みだけを拠り所に行するはずだった。

捕まっていた狂人たちを開放するとか、そんな組織だった行は見たことが無い。

勿論、墮ちた霊の団を見たことが無いから、確実ではないが、あの暴れっぷりに理は無い気がする。

これは、まだ何か裏に居る気がする。

俺が腕を組み考えていると、レイリさんが心配そうにミールさんに問い掛ける。

「ミール様。貍族の巫はどうしたのでしょうか? 代替わりをしたとは風の噂で聞いておりますが……。」

その言葉を聞いて、俺はハッとする。

確かに、貍族の巫さんが墮ちた霊に憑かれているのなら厄介だ。

場合によっては、森を守護する障壁も消えてしまうかもしれない。

「心配しなくても大丈夫にゃ! あたいと一緒に逃げて來たにゃ! ただ……恥ずかしがり屋にゃんで、いつも隠れててみつからにゃいのにゃ。」

その言葉を聞いてホッとする。

とりあえず無事でいるなら良しとしよう。

そう思っていると、俺の著の裾が誰かに引っ張られる。

視線を落とすと、そこには、可らしい小さな貍族の子供がいた。

何故かに木彫りの人形を持っている。

耳は丸耳で、髪のは俺と同じ様な真っ黒だった。細い尾も黒。

のようなを著て、クリクリとした目で俺の事を興味深そうに見つめている。

「どうした? 家族とはぐれちゃったか?」

と、俺が何気無く、軽く頭をでると、気持ちよさそうに目を細め、手をばして來る。

「ん? 抱っこか?」との問いに、コクコクと頷く

俺は、苦笑すると、元で抱き抱える。

「あ、いたにゃ。あれにゃ。」

そんな言葉に、ミールさんの方を向くと、指先は俺に向けられていた。

皆の視線が集中する先は、に抱えられた

はそんな視線から逃げるように俺の腕の中で、ギュッとこまらせた。

「流石……ツバサ様……。早くもまた一人、を手なずけるとは。」

呆れたような、怒ったような聲を、ため息とともに吐き出すレイリさん。

いや、なんか俺がばかりに手を出しているような言い方やめて下さいよ!?

俺が焦った様に、レイリさんに目を向けると、貍族の巫様がまた、著を引っ張り俺を呼ぶ。

俺と巫様の視線が絡み合うと、巫様は俺の目を見ながら、「……佳代。」と、呟いた。

「ん? 佳代ちゃん……で良いのかな?」との俺の問いに、コクコクと頷く佳代ちゃん。

無表ではあるが、何か並々ならぬ興味を俺に抱いているようだ。

「あの人族凄いにゃ。貍族の巫がしゃべったの初めて見たにゃ。」と、とんでもない事を言っているが、俺はスルーした。

取り敢えず、巫の無事も確保できたことで、心に余裕が生まれた俺達は、村人たちをビビに乗せ、運ぶ準備を始める。

ルナがビビに聞いてくれたところ、全員をいっぺんに運べるとの事で、とりあえず、子族の村へと運んでもらう様にお願いする。

そして、レイリさんも一緒に運んでもらい、子族に危険を知らせるよう、お願いした。

俺と、此花、咲耶はここで、憑かれた人たちを足止めしつつ、開放する事を目指す。

ここで時間を食った事も災いして、追手たちはかなり近くまで來ていた。

ルナと、レイリさんは、ビビに乗り込むと、

「すぐに帰って來るからね!」「ツバサ様! ご無理はなさらないで下さいね!」と、心配そうに、聲をかけて來た。

「大丈夫だ! 危なくなったらすぐに逃げるよ! 村人たちの事宜しくな!」と、聲をかけ、ビビが飛び立つのを見送った。

俺の傍らには、此花と咲耶。

その手には、先日、ついに顕現できるようになった霊裝が握られている。

今はまだ、武だけ……しかも、顕現したてなので、まだまだ完全に能力を発揮できない様だが、この程度の相手なら問題ないとの2人の言だ。

「2人とも、気を抜くなよ? これは多分前哨戦だ。何か隠れているぞ。」

「分かりましたわ!」「承知!」

そんな頼もしい2人の答えに、俺は頷くと、森の奧から次々と現れる、墮ちた霊に憑かれた人々を見據える。

「では……戦闘開始!!」

「はいですわ!」「応!」

こうして、森の片隅で、戦端は開かれたのだった。

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