森の奧より、次々と涎をたらし、目を走らせた人々が次々と現れる。

俺は、そんな人たちに問答無用でアストラル系の魔法を発していく。

何せ、數が多い。しでも減らさないと、３人ではすぐに囲まれてしまう。

幸い、初手の攻撃で墮ちた霊に憑かれた人々……便宜上、狂人と言う事にする……は、どこから攻撃されたかも分からなかったようで、次々と倒れていった。

地面から吹き上がる青白い炎。その炎にれた瞬間、の中に潛んでいた墮ちた霊が狂人から弾き飛ばされ、燃えたまま力なく地面に落ちていくのが見て取れた。

俺は、罪悪を覚えつつも、「すまん……。今は許せ……。」と、自己満足にしかならない謝罪の言葉を呟く。

霊を引き剝がした人々は、俺が風の結界を張りつつ、吹き飛ばして俺の後方にドンドン集めていく。

々暴な扱いになるが、非常時である。

なんか、後方で、ゴッとか、ボコッとか、いい音がしているが、命に別狀は無いはずだ……多分。

咲耶は木々の間を疾走し、手にした自分の長よりも長い太刀を用に振り回し、次々と狂人達を切り捨てていた。

こう書くと死累々な景を想像してしまうだろうが、咲耶の持つ太刀は、霊裝と呼ばれる、霊獨自の決戦兵のようなものらしく、アストラルと、理を行き來できる代らしい。

アストラルというのは、言ってしまえば人の神や魂と言った非理の総稱であると、此花と咲耶は言っていた。

対して理は、文字通り、理的に干渉できるもの全ての総稱であるとの事。

咲耶はその太刀の刃をアストラルにして振るっているようで、木々をすり抜けて、狂人達をバッサバッサと切り捨てていた。

要は、魔力の流れもアストラルの一部であるらしく、よく見ると、木を通り抜けるとき、木の幹にある魔力の流れが太刀によって斷ち切られている様子が見て取れた。

暫くすると魔力の流れは回復していたので、太刀をアストラルで振り回す分には、周りの木々を痛めつける事は無さそうだ。

太刀は野太刀や大太刀に分類されるほど刃が長い。無骨な銀の刃は見るものを畏怖させるであろう鋭さと冷たさを見せていた。

「やぁ！！」と言う掛け聲と共に、更に數人の狂人達を切り伏せる。その際、甲高い音と共に、墮ちた霊達が地面に力なく転がる。

それを確認して、咲耶は次の獲へと視線を移し、駆け寄っていくのだった。

何か俺の子とは思えないほど、凜々しくていろんな意味で惚れそうなんだが。

俺は、咲耶の惚れ惚れするような姿を確認しつつ、アストラルファイアでまた一人から墮ちた霊を剝離し、咲耶の打ち倒した人々と共に、後方へ投げ捨て……いや、安置する。

いや、だって多いんだもん！　咲耶だけじゃなく此花もバシバシ倒しているから、人々の輸送が追いつかないんだよ！

そんな俺の橫にいる此花はと言うと、白の傘を差し、鼻歌じりで優雅に踴っている。

白い傘には所々レースが散りばめられていて、とてもおしゃれでセレブな雰囲気をかもし出していた。

というか、踴っているように見えるだけで、実際凄い速さで攻撃しているのだが……

ある意味、此花の武の方が恐ろしいかもしれない。

先ほどから言っているが、此花の武は傘だ。

え？　何言ってるの？　って思うだろう？　俺も何言っているか分からないんだ。

けど、間違いなくそれで攻撃しているのだ。

最初、此花が傘を振り回しながら踴り始めた時は、何をしているのかわからなかった。

わが子の事ながら、その思考回路がちょっと心配になったものだ。

此花が傘を狂人のほうに向ける。吹っ飛ぶ狂人。

更にステップで別の狂人へ。吹っ飛ぶ……８回ほど繰り返すとクルリと傘を回すか、自分がターンする。

そして、以下、エンドレスである。

どうやら、傘の先からアストラル系の弾丸が出ているようだ。

そして、ターンか何かで弾丸だか魔力だかを補充しているじらしい。

更に、弾速が目視するにはあまりにも早すぎる。傘を向けた瞬間、狂人はぶっ飛んでるのだ。

弾丸はアストラル系だから、木々に関係なく、直線で突き刺さっているようだ。

どうやら、此花も探知をしているようで、此花は狂人の姿も見えないうちから、素敵な笑顔であちらこちらにバカスカ打ちまくっていた。

質たち悪すぎだ……。スナイパーも真っ青な撃速度だよ。

俺は橫で楽しそうに踴る此花の様子に、心汗を垂らしながら、倒れた人々の回収にいそしむのだった。

戦闘時間は１０分にも満たなかった。

それだけの時間であれだけいた狂人達を、俺たち……より正確に言えば、此花と咲耶で殆ど駆逐してしまったのだった。

改めて、この２人の戦闘能力に驚かされる。俺より普通に強いんですもん。

２人は満面の笑みで、俺の元へと寄ってきた。

その途中、その手にあった霊裝は空気に溶けるように消えてなくなる。

俺はしゃがんで２人を抱き上げると、優しく聲をかける。

「此花、咲耶、お疲れ様。怪我は無いかい？」

「ふふふ。あの程度の敵、楽勝ですわ！」

「雑兵にも劣りますな。敵ではございません！」

２人は何とも頼もしい言葉を返す。事実、楽勝だったが、俺は気を引き締める上でも注意した。

「こーら。確かに、今回はそうだったかもしれないけど、油斷大敵だぞ！　まだ、墮ちた霊は浄化していないし、他に何かいるかもしれないから、気を抜かないようにな。」

そんな俺の言葉に、「わかりましたわ！」「了解です！父上！」と、元気に返事を返す２人。

俺は、そんな２人を降ろし、頭をなでてから、墮ちた霊達が散らばっている方へ目を向ける。

探知で見ている限りきは……おや？

俺が、異変を察知したと同時に、此花と咲耶が霊裝をその手に顕現させる。

「これは……。」「融合しておりますな……。」

２人の言葉通り、墮ちた霊達が１つに集まり融合しようとしていた。

正直、融合されても大した問題は無いような気がするが……その際、浄化が可能かどうかが不明だ。

俺は融合を阻止しようと、魔法陣を展開しようとしたとき……。

上空より雄雄しい咆哮が耳を打つ。

そして、次の瞬間、墮ちた霊のいた場所を衝撃波が抉り取った。

音と共に、吹き飛ぶ木々。そして、墮ちた霊も地面へと叩きつけられそのきを止める。

俺が上空に目を向けると、相変わらず羽ばたきもせず、その場に滯空するビビの姿。

その表は怒り一であり、何か懐かしいじさえする。

しかし……容赦の無い一撃だったなぁ……。

理攻撃と共にアストラル攻撃も加わっていたのだろう。相乗効果で威力は押して知るべしだ。

一吼えで戦闘不能ってなんだよ？　とか思ったが、聲には出さない。

俺は、改めて心地に目を向けると、墮ちた霊を中心に、半徑５０ｍ位のクレーターになっている。

勿論、木々は吹き飛び、地面はその痛々しい姿を曬していた。

クレータの真ん中には、墮ちた霊達が息も絶え絶えと言ったじで転がっていた。

その姿に、何となく同すらしてしまう。

ビビはそのまま、下降して來る。

背中に乗ったルナが「ツバサー！」と、笑顔で手を振っていた。後ろにはレイリさんもいるようだった。

俺は苦笑して、手を上げ返事をする。わが子達は戦闘態勢こそ解いたものの、霊裝の顕現は解いていなかった。

ルナとレイリさんを降ろすと、ビビはそのまま丸くなる。でかいがらしい。

俺はそんなビビから視線を外すと、降りてきたルナとレイリさんに聲をかける。

「レイリさんありがとうございました。村の方は大丈夫ですか？」

「はい。けれ準備を進めております。まさか、作ったばかりの集會場が早速役に立つとは……。備えていた事とは言え、皮なものですね。」

レイリさんの言うように、俺達は開発がてら、各村に集會場を設けていた。

このような時のために作っておいた面もあったが、いきなり役に立ってしまうのもどうかなと言う気がするのは確かだ。

「まぁ、役に立ったのですから今は良しとしましょうか……。」

と、俺は苦笑しながらレイリさんに返答した。

そして、ルナへと言葉をかける。

「ルナ、お疲れ様。早速で悪いんだけど、霊たちを浄化しちゃおうか？」

「うん！　早く助けてあげよう！」

ルナのそんな聲に押されるように、俺達は魔力を放出し、霊を集め始める。

次々と顕現する微霊達。

「皆、頼む！」「お願い！霊さん！」俺とルナの聲が重なり、それと同時に、微霊達はクレータ部に転がっている墮ちた霊たちの元へと殺到した。

ビビも突然を起こすと、宙に向かって大音量で吼えた。

しばらくすると、その周りに次々と顕現する微霊達。

ビビはその周りに、緑の微霊達を徐々にまとわり付かせ微霊の渦を巻いていた。

そして、その微霊達は同じようにクレーター部へと、殺到していく。

クレーター部は、とりどりのに包まれ、新生の時を待っていた。

しかし、ヒビキの時より多くの墮ちた霊がいるせいか、かなりの時間を要した。

確実に、前の時の倍以上の時間はかかったと思われる。

しかし、その終わりの見えない狀況にもようやく収束の兆しが見えてきた。

徐々になくなっていく微霊達。

そして、そのの幕の向こう。微霊達が消え去った後には、前と同じように大き目の霊の姿があった。

は水。水の霊だろうか？クレーター部にフワフワと漂うように浮いている。

俺が、「ルナ、行っておいで。」と聲をかけると、嬉しそうに、「うん！」と答え、霊に近づいていく。

『我……新生す……。汝に……求む……契約を……。』

そんな聲をが聞こえる中、ルナは笑顔で霊に

「うん！　契約しよ！」

と、笑顔で聲をかけた。

そして、りだす霊。

ルナが笑顔になったその瞬間。

霊が砕け散った。

「え？　え？」

とっさの事で、ルナは混している。見ていた俺達もそうだ。

ルナは、混の中にいながらも、バラバラとなり消えようとする霊を必死に手をばし、かき集めようとしていた。

「やだ！　駄目だよ！　こんなの！？　やだぁ！！！」

ビビが、森の一角を睨み、吼える。

ルナの様子が気になるも、俺もそれに釣られ、視線を向かわせる。

木々の向こうから現れる人影。

探知に、反応は……無い！？　くそ！　なんだこいつら！？

木より姿を現したのは……黒い髪、それに隠れるように頭に輝く銀のサークレット、白いブレストプレートをにまとい、マントを羽織った人・族・の男と、ローブ姿の何かだった。

「全く……とんだ出來そこないだな……。使えない上に裏切るとか。マジあり得ねーって！」

男がそんな愚癡とも獨り言とも付かない言葉を吐き出す。

そんな男にただ寄り添うだけのローブの人。

俺は慎重に観察しつつ、男に聲をかける。

「今、霊が砕け散ったのは……あなたのせいですか？」

そんな俺の言葉の何が面白かったのか、男は大笑いする。

後ろからレイリさんだけじゃなく、此花と咲耶の殺気が伝わってくる。

ルナは、泣きじゃくりながら霊を必死に呼び止めようとしていた。

その景を視界の片隅にれてしまい、が痛むも、俺は男から視線を外さず、黙って返答を待つ。

男はひとしきり笑した後、目に浮かんだ涙を自分で拭うと、

「全く……面白い事言うオッサンだなぁ。久々に俺、ちょー笑ったよ！」

と、心底面白かった！とでも言うように、俺に笑顔を向けてくる。しかし、その目にこもったは蔑みしかない。

俺は何も返答せず、そのまま黙って、男を見つめ続ける。

「ったく、ノリ悪いな。答えれば良いの？　ああ、俺がやりましたよ！　あったり前じゃん。このタイミングで出てきて関係ないとかあり得ねーっしょ！？　それとも、オッサン馬鹿なの？」

俺はその予想通りの返答に、心腸が煮えくり返る思いを隠しつつ、更に言葉を続ける。

「何で……そんな事を？　もうあの霊に戦う意思はありませんでしたよ？　殺す必要はないんじゃないですかね？」

そんな俺の言葉に、男は「ハンッ」と、馬鹿にしたように笑うと、

「そんな事、説明するまでも無いんじゃない？　俺が殺したかったからだよ。……と言いたいところだけど、オッサン面白かったから、特別に教えてやるよ。」

男はニヤリとした笑みを浮かべると、

「あれは俺がけしかけたんだよね！　けどさ、期待はずれも良い所だよなぁ。折角、霊を一杯集めてさ、全部墮としたのにさぁ。さっくりやられるし……全く……とんだ骨折り損だよ。ったく……大司教とかほざいてたけど大した事ねぇよな……あいつ。」

そう興したように捲くし立てた。

俺はその言葉から、この男が元兇の一旦だと理解する。

そして、俺は最悪の事態が起きている事を悟った。

ここに居るはずの無い俺以外の人族の男。

霊を墮としてけしかけたと言うその行。

何より、高価そうな裝備とその傲慢な口調。

俺をオッサン呼ばわりするその軽薄な言葉と価値観。

間違いない……。こいつは……。

「そんな事のできるあなたは……どちら様ですかね？　こんなところに何の用でしょうか？」

そんな俺のへりくだった質問を鼻で笑うと、男はこう答えた。

「一応、同郷っぽいから教えてやるよ。勇者　カオルとは、俺の事だよ！　目的？　もう分かってんだろ？　そこのモンスターどもを駆逐し、魔王を倒す事だ！」

そう高らかにぶ聲が、森に木霊したのだった。