《比翼の鳥》第70話:殺意
「な……何で……? 何で……君みたいな子が……こんな所に……。」
俺は、何とか立ち上がり、一歩一歩、今井さんへと近づいて行く。
よく見ると、首に何か首のようながはめられている。
ぼさぼさになった髪に隠れてよく見えないが、頭にも何かはめられているようにも見える。
それを見て、俺は更にを締め付けられる。何で……何で!?
容院で、綺麗にしたって……嬉しそうに笑ってたじゃないか!
なんで、そんな……こんな!!
「せ……先生? 本當に……先生……なんですか?」
信じられないと言う様に、今井さんもこちらに歩こうとする。
しかし、勇者は「おぃ。てめぇ、何勝手にこうとしてるんだ?」と、不機嫌そうな顔をしながら、今井さんの脇を思い切り蹴飛ばし、地面へと転ばせた。
「貴様!?」
俺は、自分の中で殺意が膨らんでいくのをじていた。
何故、彼がこんな所に居るのかは分からない。
しかし、自分の育てた可い教え子をのように無造作に扱われ、傷つけられ、手を上げられる姿を見て黙っていられるはずがない。
どんな理由があるにせよ、彼は俺にとって大切な教え子の一人であることは変わらない。
絶対に、絶対に許すことは出來ない!
そんな俺の表を見て、勇者は楽しそうに俺を見下ろすと、
「ふーん? なるほどねぇ。こいつの知り合いとはねぇ。」
そう、ニヤニヤしながら今井さんに視線を転じ、その苦しそうに倒れている様子を見つめる
くそっ! 魔力さえ戻れば!!
こいつのアンチマジックフィールドとか言うさえなければ、こいつなど、消し炭にしてやれるのに!!
相変わらず魔力の戻る気配は無い。
Advertisement
を循環し、力を與えてくれていた覚は無く、その反で余計にが重くじる。
しかし、そんな風に悔しがる俺の姿を、勇者は楽しそうに見下すと、突然こんなことを言ってきた。
「なぁ、オッサン。俺のお下がりで良ければ、そいつくれてやるよ。も薄いし、よがりもしないから面白くないだろうけどさ。ああ、悲鳴だけはそそるね。つい、めたくなるんだよなぁ。」
そうやって、嫌らしい笑みを浮かべる。
止めろ……これ以上、彼を貶めるな……。
彼の、綺麗な心にるんじゃない!!
「その代りさ、そっちの白いお嬢さんくれよ。良い話だろ?」
「絶対に嫌!!」
間髪れずルナが拒絶する。
その目には、今まで彼を見て來て、一度たりともその目に浮かぶことが無かった、最大級の嫌悪がありありと浮かんでいた。
「お前は……どこまで……人を傷つければ気が済むんだ?」
俺は、抑えられない怒りと憎しみを隠すことなく、その聲に乗せて吐き出す。
そんな俺の言葉が、とても面白い冗談のように聞こえたのだろう。勇者は指を差して俺を笑う。
「オッサン! あんた本當に馬鹿だなぁ。この世界じゃ強いものが全てを手にれるんだ。俺みたいなカッコいい勇者が全てを手にれるのは當然だろう?」
そして、俺を見下すと、その剣を無造作に薙ぎ払う。
俺は、力のらないに鞭を打って、橫っ飛びに避ける。
しかし、斬撃がわき腹を掠め、そこから真っ赤なを飛び散らす。
ぐ!? 痛い!! けど、痛くない! 今井さんは、ルナは、皆はもっと痛い思いをしている!!
無様に地面に倒れ込む俺を見て、勇者は俺の事を指を差しながら大聲で笑う。
Advertisement
「先生!?」「ツバサ!?」と言う2人の心配する聲が響く。
それでも、肩で息をしながらも、俺は勇者に聲をかける。
「お前……に手を上げて、泣かせて、嫌われて……自分が恥ずかしくないのか?」
「うっせーよ。負け犬のおっさん。」
無造作に蹴られ、地面を転がる。
俺は一瞬意識を飛ばしかけるも、で立ち上がる。
ハハハ。そうだな。俺は異世界でもまた、負け犬か。
力があっても、より大きな力に潰され、今まで築いて來たものも全て無に帰す。
元の世界も異世界も変わらない。何も変わらない。
それでも……俺は……。俺は!! 絶対に簡単には負けてやらない!!
元の世界で散々諦めて捨てた俺の心だ。もうこれ以上、他人の勝手にさせてやら無い!
俺はせめてもの反撃にと、更に言葉を続ける。
「けない奴だな。お前……勇者と祭り上げられ、調子に乗って何人もの人を泣かせ……って見下してきたんだろう? この世界でお前を好いてくれる奴なんていないだろう? まるでピエロだな。お前、元の世界でもそんなじだったんだろう? 引きこもりのネット中毒者って所か? 世界から疎まれた気になって、自分だけの世界に逃げた奴か!」
「全く……べらべらとうるせえな。なるべく、同郷の人間は殺さず連れて來いって話だったけどよ。オッサン。あんたむかつくよ。」
ある程度當てはまる部分もあったらしく、明らかに怒りを燈した目で俺を見つめる勇者。
そうだろうな。そりゃ怒るよな……俺だって同類だからな。
似ているからこそ良くわかるよ……お前の気持ち。むかつくだろう?
俺は、馬鹿にするように笑いながら、勇者を挑発した。
Advertisement
「殺す……!」
勇者はそう言いながら、俺の左腕に剣を無造作に突き刺そうとした。
俺は咄嗟に躱すも、かなり深く切り裂かれ、またもが宙に飛ぶ。
「勇者様!もうやめて下さい!! それ以上、先生を、傷つけないで!!」
「許さない……絶対に……許さないから!!」
2人のから聲が上がるも、勇者はそれを楽しそうに聞いている。
そして、何を思ったか、突然、勇者は今井さんに向かって、見る者に吐き気を及ぼす笑みを浮かべると、聲を上げた。
「そんなにこのオッサンを助けたいなら。お前、今すぐ、俺に奉仕しろや。」
そんな勇者の聲に、一瞬固まる今井さん。
しかし、何かを決意したような顔になると、そのままヨロヨロと立ち上がり、勇者の前まで歩いて行こうとした。
「やめろ! 今井さん! そんな事する必要は……。」
「うっせーよ!」
俺は勇者に足蹴にされ、地面を転がる。
俺の心にはその時、どす黒いが渦を巻いていた。
此処まで明確に人を害して……いや、誤魔化すのは止めよう。
殺してやりたい。
本當に、心から一遍の曇りも無くそう思えたのは俺が今まで生きて來て、この瞬間が初めてだった。
力がしい……。この愚行を止められる力がしい……。
こいつを、この馬鹿な勇者を殺すための、力が! 力がしい!!
俺の心をどす黒い何かが渦を巻き、心の奧底から何かが湧き上がる。
これはなんだ? この高揚は? 力が湧き上がってくるじをける。
もっとだ! もっと!! この目の前の勇者に鉄槌を!! よこせ! 力をよこせ!!
俺が、俺がやらないと!! 今、俺が!! この、俺が!!!
絶対に、許さん。この愚か者は死をもってしても生ぬるい!
徐々に、思考がぐちゃぐちゃになっていく中で、俺は明確に力を求め続けた。
湧き上がる黒い。噴出す怨嗟の心。そして、涌きあがる力。
そして、心の奧底から何かが生まれようとしたその時、
「だ~め! ツバサちゃん。それは~駄目よ~?」
懐かしい聲が、俺を優しく包み込んだのだった。
俺は一瞬何が起こったのか分からず、その姿を茫然と見つめる。
空中に優雅に漂う、青い。
「ディーネ……ちゃん?」
俺は目の前に浮かぶディーネちゃんの姿が信じられず、呆けたように聲を出した。
そんな俺の言葉に、ディーネちゃんは微笑むと俺の頬に手を添え、おしそうにでる。
その瞬間、痛みが引き、がしだけ楽になる
見るとわき腹と左腕の傷が綺麗に消えてなくなっていた。
俺は、し寂しそうに、それ以上に嬉しそうに微笑んでいるディーネちゃんを真正面から見據える。
そして、そんなディーネちゃんの行から、ディーネちゃんが本當に、心から心配してくれていることを悟る。
突然の者に、皆、言葉も無く固まっていた。
その圧倒的な存在と、優しい波に、皆、時を忘れて見る。
「全く~。ツバサちゃんは~一人で~~頑張り過ぎなの!」
俺の目をしっかりと見據えながら、ディーネちゃんはし悲しそうな顔でそう呟く。
空気が凜とした雰囲気に包まれる。
俺は、ディーネちゃんのその目から、彼が真面目モードに切り替わったのをじる。
「そう……かな?」
「そうよ? もーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと周りをいっぱい頼った方が良いわね。」
「そんなにですか?」
「ええ、そんなに。」
「そうですか……。」
そう答えるも、いまいち実がわかない。
個人的には皆にはかなりお世話になっている印象が強いのだが。
「結構今のも危なかったのよ?危うく、私と子供たちまで墮ちる所だったんだから。」
うお!?まじか!?
俺は、背中に汗が伝うのをじる。
あまり意識してなかったけど、確かになんか心が相當ぐちゃぐちゃだったのは鮮明に覚えている。
あのまま進んだら、俺は戻って來れなかったのか……。
やっぱり俺はまだまだだなぁと思いつつ、それでも踏みとどまれた事に心から安心し、ついで、それはディーネちゃんが出て來てくれたお蔭だと気が付いた。
「ふふふ……。謝してくれていいわよ?」
「ディーネちゃん、ありがとう。來てくれて嬉しいし、助かりました。」
「もう、ツバサちゃん素直すぎ! そんな所が素敵なんだけど!」
そう言って、いきなり俺の顔を抱きしめ、その見た目以上にボリューム満點なへとい、埋める。
「むーーーー!」と、後ろでルナさんが怒っている。
あ、やっぱりディーネちゃんには嫉妬するんだ。そりゃそうですよねー。
そこで、勇者が我に返った様に、
「霊!? しかも、こいつ……大霊か! くそ、こんなに良いしやがって!! 『おい! そこの霊! 俺のいう事を聞け!!』」
と、隷屬をかけて來る。
しまった!? と思うも、ディーネちゃんはらかく微笑むと、
「あなた、し邪魔だからあっちで大人しくしてなさいね。」
と、投げやりに言う。
その瞬間、水の柱が勇者の周りを取り囲み、ついで、そのを水の珠の中に沈めてしまった。
ちなみに、殘念ながら勇者が今井さんに命令でもしたのだろう。
今井さんは嫌な顔をしながら水を防いでいた。
そして、勇者はその中で何かをんでいるようだがここまでは屆かない。
「全く……なんて不味そうな魔力……。まだゴミの方がましだわ。」
とか、凄い毒を吐くディーネちゃん。
やる事が々はんぱねぇっす。ディーネちゃんすげぇ。
「ふふふ……どう?お姉さんもしはやるでしょう?」
と、ちょっとおどけるディーネちゃんに、何か懐かしいものをじて、俺は思わず笑みをこぼす。
「ええ、最高ですよ。」
そんな言葉に、ディーネちゃんも微笑むと、俺の顔を再度両手で挾み込み、俺の瞳をじっと見つめて言葉を紡ぐ。
「ツバサちゃん。私はもうすぐ力が無くなるからまたいなくなるけど、無理しちゃだめよ?」
そうか、まだ、勇者のフィールドは生きているのか。
ここに顕現しているだけでディーネちゃんの魔力は無くなっていくんだな。
あれ?けど、なんでじゃあ魔法を使えるんだ?と俺は訝しがる。
そんな俺の疑問にディーネちゃんは答えてくれる。
「それは、今、私の霊力だけで顕現して、あの水牢を作ってるからなの。」
なるほど、霊力はフィールドの影響をけていないのか。
けど、魔力が無いなら、霊力は消費される一方だ。
霊は魔力を変換して霊力を得ていると、前にディーネちゃんは言っていた。
と言う事は、魔力の無い今、いずれ、ディーネちゃんは顕現できなくなる。
俺はしに寂しさを覚えるも、笑顔で、ディーネちゃんに頷く。
しかし、次の瞬間、俺は一抹の不安が心をよぎるのを隠す事は出來なかった。
俺は、このままで勇者に勝てるのだろうか?
そんな俺の不安をじたディーネちゃんは、その不安を笑い飛ばす。
「大丈夫よ。ツバサちゃん。貴方にはルナちゃんがいるでしょう?」
そう言って、ディーネちゃんはルナに手招きをする。
ルナはし顔をしかめながらも、素直にディーネちゃんの元へと歩いて來た。
ディーネちゃんはルナと俺を同時に抱き締めると、
「ルナちゃん……ツバサちゃんを宜しくね。この人、強がってるけど、結構一人だと失敗するし、お姉さんも見ていていつもハラハラしているから、ルナちゃん……助けてあげてね。」
いきなり、中々に酷い評価をされたが、言い返す言葉が無いから何も言えなかった。
そうなんだよなぁ……結構失敗だらけ……軽くへこむ。
ルナはそんな俺とディーネちゃんを互に見ると、何か覚悟をしたように、頷いた。
「わたし、ディーネちゃんさんに、謝りたいの。ツバサを取られるかもしれないって……ちょっと嫉妬しているの。これはどうしても止められないの。けどね、今もツバサを助けてくれたし、此花ちゃんと咲耶ちゃんと一緒に過ごせて、凄く嬉しいの。」
そこまで、一気に言うと、ルナはし恥ずかしそうに、モジモジすると、
「だから……ありがとうございます!」
と、素敵な笑顔でディーネちゃんに禮を述べた。
そんな風に言われたディーネちゃんはした様に、目をウルウルさせると、ルナをその満なにかき抱き、完全にホールドしながら言う。
「もう!!ルナちゃんったら何て可いの!! なんて健気!! きっとツバサちゃんの教育が素敵だっただけでは無く、ルナちゃんの魂が素敵なのね!!」
ディーネちゃんはに打ち震え、ルナを必要以上にへと埋め、ルナはその圧倒的な質量を持つの中でもがいていた。
……ちょっと羨ましいとか思ってませんよ?
ルナはディーネちゃんの束縛から解放されると、肩で息をしていた。
そして、「これが……ツバサを虜に……。」とか、見當外れの想を呟く。
違いますからね?ルナさん。の大きさ的にはルナさんが丁度良いですからね?
と、心で突っ込む俺に、
「ふふふ……ツバサちゃんも初心よねぇ。言ってあげればいいのに。」
とディーネちゃんが楽しそうに、俺に忠告してくれる。
いや、無理ですって。君のが最高だ!とか、変態チックで言えません。
そんな俺の心の聲を聞いて、ディーネちゃんは大笑いしていた。
そして、しばらく、笑って気が済んだのか、ディーネちゃんは、唐突に、ルナに向かって、
「ルナちゃん。勇者を倒すには、貴方の力が必要よ。お願い……隠している力……ツバサちゃんの為に使ってあげてね?」
そんな謎めいた言葉をかける。
ルナは、その言葉にびっくりしたように固まるも、すぐに真面目な顔になって、頷いた。
そんなルナの様子を見て、満足したのか今度は俺に抱きついてきて、またも、顔を両手で挾む。
これ、結構何気に恥ずかしいんですけど……。
まぁ、気持ちよくもあって安心も出來るので好きなのですが……。
「ふふふ……それが分かっているからするのよ。っと、もう時間が無いから要點だけ言うわね。」
ディーネちゃんはその顔に優しい笑みを浮かばせながら、言葉を続ける。
「ツバサちゃん。ルナちゃんを信じてあげて。全部彼に任せて心を開きなさい。そうしたら、あんな勇者、敵じゃないから。」
またも謎で意味深な事を言うディーネちゃん。
だが、俺は彼を全面的に信用している。疑うことなどあろうはずもない。
俺は、「わかりました。」と、笑顔で頷く。
そんな俺の笑顔を、眩しそうなでも見るような目で見ると、ディーネちゃんは徐おもむろに、
を重ねてきた。
!?!?!?!!!?!?!?!?!!!
完全にパニックに陥る俺。
「あーーーーーーーーーーー!!?」と、大聲を上げるルナ。
ちょ、ディーネちゃん!?ルナ見てる!!
あ、ちが、まって!? 見てなきゃ良いって言うわけでも無いけど。
いや、違くて、良いんだけど、嬉しいんだけど、って、舌ぁーー!?
そして、俺は完全にディーネちゃんに、いろんな意味で翻弄されてしまった。
途中から、見かねたルナが特攻してきて、強引にディーネちゃんを俺から引き剝がす。
ディーネちゃんは、そんな俺達を楽しそうに空中から見守りつつ、を舐める。
いや、ちょっと、なんかいちいち艶かしいんですけどね!?
俺は一瞬を拭おうとして、何となく勿無いような気がしてしまい、そのままにする。
ルナは半分泣きながら、敵かたきでも見るように、ディーネちゃんを見據えていた。
そんなルナを、本當に素敵で満足したような顔で見ながら、ディーネちゃんは聲をかける。
「ふふふ……。ごめんなさいね、ルナちゃん。お姉さん、どうしても我慢できなくなっちゃった。だって、みんなばっかり楽しそうでずるいんですもん。お姉さんは、みんなをいつも見ているから、羨ましいの。これくらいの役得、許してね。」
そんなしのある顔を見たルナは、「うー!」と、唸りながらも、々なをもてあましているだけの様だ。
その表には、悔しさと嫉妬こそあるものの、それ以上の負のは無かった。
そんなルナをディーネちゃんは満足そうに見ると、俺に向き直り、真剣な顔で
「ツバサちゃん、2人に素敵な名前ありがとうございます。あんなに真っ直ぐに、幸せそうに育って……私が嫉妬しちゃうくらいよ?」
「うん。まだ、父親としては落第中だけど、これからも頑張るよ。ディーネちゃんも早く出てきて下さいね。なんだか、嫁が増えるのが止まらないので困るんですよ。」
俺がそんな風におどけながら言うと、
「いいのよ。ツバサちゃんはツバサちゃんのやりたい様に。私は、それを見ていられるだけで……いいえ、噓ね。羨ましいから、早く出てこられるように頑張って魔力貯めるわね。」
と、楽しそうにそう返した。
そんな言葉に、「ええ、いつまでも待っていますよ。」と、俺は笑顔で答える。
ディーネちゃんは微笑むと、ルナに向き、
「ルナちゃん。頑張ってね? お姉さんに負けないように。」
と、またしても意味深な発言をする。
そんな言葉に、ルナはハッっとしたようにディーネちゃんを見つめるも、すぐに笑顔になって、
「うん! ディーネちゃんさんには負けないもん!!」
と、何か決意していた。
なんだろう?この逃げ場が無くなっていくじは。
俺のそんな疑問にディーネちゃんは答える事無く、微笑みながら消えていった。
『ツバサちゃん。ご馳走様♪』と、返答に困る微妙な言葉を殘して……。
暫く、俺達はディーネちゃんの消えた余韻に包まれていた。
相変わらず臺風のような……パワフルな霊様だ。
毎回、こちらの意図しないタイミングで表れて、自分の思うままに引っ掻き回し去っていく。
「なんか……凄い人だね……。」
呆然と、呟くように言うルナに、俺は苦笑しつつ、「ああ……。」と、短く返答した。
しばらく何かを考えていたルナだったが、考えがまとまったのだろうか? 「よし!」と、気合をれると、俺に向き直る。
俺が、興味深くルナを見ていると、途端に恥ずかしそうに、モジモジとしながら、俺を上目づかいに見てくる。
おや、こんな反応をルナがするとは珍しい。
そんな風に、俺が訝しがっていると、ルナはその顔のまま、口を開く。
「ルナね……ツバサの事……凄く好きなの! でね、ツバサもルナの事好きでいてくれてる?」
何この可い生。後ろに勇者じゃまものがいなければ、抱きしめてますよ?
「そんなの……當たり前じゃないか! ルナがいなければ、この世界でこんなに楽しく生きていけなかったよ。」
思わず大きな聲が出た。
しかし、俺はルナにちゃんと向き合わなくてはならないと、この時思ったのだ。
さっきのディーネちゃんの言葉の影響もあるのかもしれない。
俺のそんな言葉に、ルナは嬉しそうに微笑むと、その後すぐに不安な顔に変わる。
「ルナも! ……けどね、ごめんなさい。ルナね、ツバサに話してなかったことがあるの。」
話してない事?俺は訝しがりながらも、ルナの言葉を待つ。
「ルナね……ツバサと一緒にいたいから……勝手に、ツバサを選んじゃったの。ツバサもルナを好きでいてくれているけど、そんな勝手な事したから、それでルナを嫌いになっちゃうかもって……言えなかったの。ごめんなさい……。」
そういって、ルナはしゅんと萎しおれる様に俯いていた。
正直言えば、ルナの話していることは、殆ど分からなかった。
俺を選ぶとか、勝手な事が何を意味しているのかは、思いも付かない。
だが、俺はルナに伝えるべき言葉だけはしっかりと分かっていた。
「ルナ。君が何をしたのかは俺には良くわからないけど、これだけはハッキリと言える。ルナの事が好きなのは変わらないし、俺に例え何かしていたとしても、一緒に居られたのだから良いじゃないか。それこそ、喜びこそすれ怒る事などなど何も無いよ。」
そんな俺の言葉に、ルナは驚いたように目を見開くと、「本當に? ルナの事怒ってない?」と、呟く。
俺は答えの変わりに、ルナを抱きしめると、「大丈夫。全然怒ってないし、好きな事も変わらないよ。」と、ささやく。
そんな俺の言葉に、ルナは嬉しそうに微笑みながら泣いた。
その涙の伝う笑顔は、とても綺麗なもので、それを見た俺の心からは、おしさが溢れて止まらなかった。
ルナは俺を見上げながら、そっと、し恥ずかしそうにしながら、「ツバサ……ルナにも、ディーネちゃんとしてた事……して?」
と、呟く。
俺の頭は一瞬にして沸騰した。
ななななななななあな、なぁああにを!?
そして、ルナはそのまま目を閉じる。
俺の頭には々なが渦巻いていた。
しかし、俺の心が求めるものはハッキリしていた。
俺は、ディーネちゃんが言っていた言葉を思い出した。
一瞬、戸いはあったものの、覚悟を決める。
け無い話だが、あの言葉が無かったら俺は確実に躊躇して、行を起こせなかっただろう。
俺は、ゆっくりとルナのに、自分のを重ねた。
ディーネちゃんのときとは違う、拙いただの接吻。
しかし、ルナののは、俺の頭の芯を痺れさせるような甘なものだった。
俺がそんな覚と、心の充足をじたその瞬間、頭の中に聲が響く。
『シンクロ率:48% 比翼システム――起可能です。――起しますか?』
訳が分からない。
人様の逢瀬に割り込むとは何事!?と思うも、これが答えなのかと何となく理解した。
わからない事だらけだが、今は全てを棚上げして、俺は、心の中で選択する。
折角の甘いひと時を邪魔しやがって!けど、起だ!!
その瞬間、俺達はに包まれたのだった。
俺のハクスラ異世界冒険記は、ドタバタなのにスローライフ過ぎてストーリーに脈略が乏しいです。
ハクスラ異世界×ソロ冒険×ハーレム禁止×変態パラダイス×脫線大暴走ストーリー=前代未聞の地味な中毒性。 ⬛前書き⬛ この作品は、以前エブリスタのファンタジーカテゴリーで一年間ベスト10以內をうろちょろしていた完結作品を再投稿した作品です。 當時は一日一話以上を投稿するのが目標だったがために、ストーリーや設定に矛盾點が多かったので、それらを改変や改編して書き直した作品です。 完結した後に読者の方々から編集し直して新しく書き直してくれって聲や、続編を希望される聲が多かったので、もう一度新たに取り組もうと考えたわけです。 また、修整だけでは一度お読みになられた方々には詰まらないだろうからと思いまして、改変的な追加シナリオも入れています。 前作では完結するまで合計約166萬文字で601話ありましたが、今回は切りが良いところで區切り直して、単行本サイズの約10萬文字前後で第1章分と區切って編成しております。 そうなりますと、すべてを書き直しまして第17章分の改変改編となりますね。 まあ、それらの関係でだいぶ追筆が増えると考えられます。 おそらく改変改編が終わるころには166萬文字を遙かに越える更に長い作品になることでしょう。 あと、前作の完結部も改編を考えておりますし、もしかしたら更にアスランの冒険を続行させるかも知れません。 前回だとアスランのレベルが50で物語が終わりましたが、當初の目標であるレベル100まで私も目指して見たいと思っております。 とりあえず何故急に完結したかと言いますと、ご存知の方々も居ると思いますが、私が目を病んでしまったのが原因だったのです。 とりあえずは両目の手術も終わって、一年ぐらいの治療の末にだいぶ落ち著いたので、今回の企畫に取り掛かろうと思った次第です。 まあ、治療している間も、【ゴレてん】とか【箱庭の魔王様】などの作品をスローペースで書いては居たのですがねw なので、まだハクスラ異世界を読まれていない読者から、既に一度お読みになられた読者にも楽しんで頂けるように書き直して行きたいと思っております。 ですので是非にほど、再びハクスラ異世界をよろしくお願いいたします。 by、ヒィッツカラルド。
8 105複垢調査官 飛騨亜禮
某IT企業に勤務する《複垢調査官》飛騨亜禮と、巨大小説投稿サイトの運営スタッフの神楽舞とが繰り広げるドタバタコメディミステリー。 第二章では、新キャラの坂本マリアとメガネ君も活躍します。 第三章ではネット小説投稿サイト三國志的な話になってます。 第四章 僕の彼女はアンドロイド 少年ライトとアンドロイド<エリィ>の物語。ベーシックインカムとかアンドロイドが働いて家族を養ってくれる近未來のお話です。 第五章 複垢調査官 飛騨亜禮2 TOKOYO DRIVE(複垢狩りゲーム) 『刀剣ロボットバトルパラダイス』に実裝された<TOKOYO DRIVE>の謎を巡って展開する異世界バトル。 http://ncode.syosetu.com/n6925dc/ 第六章 《複垢調査官》飛騨亜禮の華麗なる帰還 《複垢調査官》飛騨亜禮が新ネット小説投稿サイトの調査に赴く。彼はそこで想像超えた恐るべき小説たちと出會うことになる。 第七章 AIヒューマン 「複垢調査官 飛騨亜禮」は第四章〜六章が未完になってますが、まあ、人工知能✕VALUの小説を書いてみようと思います。 複垢調査官 飛騨亜禮 https://kakuyomu.jp/works/4852201425154917720 書きたい時が書き時ということで、第四章なども書きながら完結させていきたいですね。 第四、五、六、七章は同時更新中です。 ほのぼのとした作品を目指します。
8 153異世界に転生しちゃった!なんか色々やりました!
日本に住む高校2年の結城拓哉。 これから高校2年という青春を過ごす予定だった。 ある日、幼馴染の小嶋遙香と買い物に出かけていた。 帰り道小さな子供が橫斷歩道で転んでしまった! 拓哉は無意識で小さな子供を助ける為にかけだした。 注意 女性は手當たり次第口説いてハーレムの仲間入りをして行きます。 ハーレムしすぎてるの無理な人は見ないでください!
8 78彼女が俺を好きすぎてヤバい
魔術を學ぶ學校に通う俺、月城翼には彼女がいる。彼女こと瀬野遙は、なんというか、その。ちょっと、いやかなりヤバい奴だった。ヤンデレとかメンヘラとか、そういうのではなくだな……。 (「小説家になろう」に投稿しているものと同じ內容です)
8 188Licht・Ritter:リッチ・リッター
ここは日本、生まれてくる人間の約90%は魔法・能力をもって生まれてくる時代。 そんな日本で生活する主人公、耀 練(かがやき れん)は様々な騒動に巻き込まれ、それに立ち向かう。 彼自身にも色々謎が多いなか、一體どうなっていくのか。 魔法の世界がやがて混沌にのまれる時...全ての謎が明かされる。
8 68永遠の抱擁が始まる
発掘された數千年前の男女の遺骨は抱き合った狀態だった。 互いが互いを求めるかのような態勢の二人はどうしてそのような狀態で亡くなっていたのだろうか。 動ける片方が冷たくなった相手に寄り添ったのか、別々のところで事切れた二人を誰かが一緒になれるよう埋葬したのか、それとも二人は同時に目を閉じたのか──。 遺骨は世界各地でもう3組も見つかっている。 遺骨のニュースをテーマにしつつ、レストランではあるカップルが食事を楽しんでいる。 彼女は夢見心地で食前酒を口にする。 「すっごい素敵だよね」 しかし彼はどこか冷めた様子だ。 「彼らは、愛し合ったわけではないかも知れない」 ぽつりぽつりと語りだす彼の空想話は妙にリアルで生々しい。 遺骨が発見されて間もないのに、どうして彼はそこまで詳細に太古の男女の話ができるのか。 三組の抱き合う亡骸はそれぞれに繋がりがあった。 これは短編集のような長編ストーリーである。
8 161