「こちらでも確認した所、確かに魔の群れがこちらに迫っておると言う報が上がってきたわい。」

その言葉に、ギルドマスターの部屋に駆けつけた、ボーデさんとライゼさんが息を飲む。

うん。まぁ、一応、確認したしね。いや、見事な數ですよ？

そう思いつつ、俺は更に報を補足すべく、口を開く。

「詳しい數は不明ですが、私が見た數から推察するに、最低でも數千からなる群れのようです。」

そんな俺の言葉に、今度は皆が揃って絶句した。

「數千……だと？　ツバサさんよ、それは本當かよ？」

「それは、確かな報？」

どうやら、この數は想定外だったらしく、ボーデさんとライゼさんが、思わず、と言うじで俺に確認して來る。

更には、ギルドマスターも、その數は思った以上だったらしく、口こそ開かないの、視線をよこし、その目で問うてきた。

だが、殘念ながら、これは事実だ。

【サーチ】で確認した所、７千以上の生反応が、こちらに向かっている。

しかも、最悪なことに、最低でその數である。どうやら、まだ増えるらしい。

ここに報告に上がって一時間の間に、更に５００程、追加されている。

このまま、この勢いが続けば、もしかすると、萬を超えるかもしれないな。

これが１つ１つの反応が小さいものであるならば、城壁をうまく活用して行けば、大した被害も出なさそうなのだが……殘念ながら、１つ１つがスケイルボア以上の魔力値を放っている。

流石に、あのレベルの生が集団で突進して來たら、いくら強固な防壁といえど、所詮は石造りである。どこかが突破されてもおかしくないだろう。

そして、それ以上に問題なのが……多くの反応が空……つまりは、飛行するであると言う事だ。

その場合は、殘念ながら城壁の意味はほぼ無くなる。

うーん、しかし今の報だけで、この驚きよう。

もし、正確な數を伝えたら、戦意喪失しないだろうか？

いや、それ以前に、どうやってその數を數えたかとか言われたら、面倒なことになるんじゃなかろうか？

【サーチ】の魔法は、どうやら、一般的ではないようだし。うーむ、これはこのまま黙っておこうかな。

思わずそんな事を考えてしまうくらいに、重い空気がこの場を支配している。

俺がそんな風に、報を伝えようかどうか迷っていると、それを察したのだろう。ギルドマスターが、重苦しい空気を破るように、口を開いた。

「まだ何かあるんじゃな？　もう、この際、全てぶちまけておけ。」

ふむ、宜しいのですかね？

俺は、確認の意味を込めて、ギルドマスターに視線をよこす。

しかし、彼はじない。その鋭い眼をまっすぐと俺へと向けて來る。

その様子を見て、俺も腹をくくる。

よし、とりあえず、ここの皆には、【サーチ】の事も含め、話しておこうか。

と言うか、別に今更、この人達に何か隠し事をする意味も無いだろう。

勿論、積極的に俺達の報を與えるつもりも無いが。

なんせ、共犯だからな。

俺の腹が決まった事が分かったのだろう。

駄目押しとばかりに、ギルドマスターは靜かに頷いた。

「そうですか。では、遠慮無く。」

そうして、俺は、その場の流れで、今ある報を開示したが……帰ってきたのは、やはりと言うか、予想通りの溜息と、呆れた様な言葉だった。

「またあんたは、そんな魔法まで持ってるのか……。」

「ツバサだから不思議ではない。」

なんですか、ライゼさんのその想は。

俺は、納得がいかないままライゼさんを見るも、無表に見つめ返され、にらめっこ狀態になる。

どうやら、その評価は覆らないようだ。

「ちなみにじゃが。」

そんな言葉に、視線を戻せばギルドマスターは何か諦めきった表を俺に向けて口を開いた。

「ツバサ殿達が本気で戦った場合、この都市を……いや、せめて、居住區だけでも守ることは可能か？」

「え？　居住區だけでなく、都市全守るくらいなら、余裕だと思いますよ？　此花や咲耶だけでも大丈夫じゃないですかね？」

そして訪れる沈黙。

あ、流石に、ギルドマスターも言葉がないようだ。

いや、だって、事実だし。

ただ、向かってくる魔たちを倒すだけであれば、俺とルナなら、恐らく遠距離砲撃、數発で終わる。

ああ、魔法陣をしいじれば、俺なら一発で行けるか。

我が子達だって、お願いしたら、喜々として突っ込んで殲滅せんめつしそうだな。

まぁ、あまりにも目立ちすぎるから、やらせないし、俺もルナも魔法は使わないけど。

「ちなみに、駄目ですからね？　流石に目立ちますし、々問題ありそうですから。」

俺は、そう釘を差しておいた。

そんな俺の言葉に、明らかに殘念そうな表を浮かべるも、

「そうじゃな。流石に、そんな事になれば、お主の素も隠せぬだろうしな。」

そう、理解を示してくれる、ギルドマスターの言葉が今はありがたい。

正直、俺とルナがいれば、この程度の敵がいくら來ようが完封できるが……さて、どうしたものか？

俺の力を見せるには、まだ、時期尚早だとは思う。かと言って、ここでこの都市が滅ぶのを黙って見ているというのも、何か違う気がするし。

だが、最初から、俺の力有りきで期待されても困るのだ。

あくまで、俺は一冒険者として、それとなくお手伝いするに留めておきたい。だって、目立ちたくないし。

それに、また森の時のように依存されても困るしな。

まぁ、実際、目の前で知り合いが窮地に陥っていたら、助けちゃうんだろうけど。

しかし、このぐらいの數になると、都市の設備では迎撃も厳しいのだろうな。

皆の様子を見るに、やはり今回の狀況は、冒険者ギルドの人員では手に余るのだろう。特に、先日見たボーデさんの戦い方を見るに、空中相手は、正直、打つ手がなさそうだし。

城壁の上には、一応、大型の弩弓の様なものが設置されていたが、一、どこまで応戦できるものやら。

ライゼさんは弓を使っていたし、あの炸裂弾？　みたいなものを使えれば、それなりに空飛ぶ獲に対しても対処は可能だろうが、それにしたって、一人でカバーするには、數が多すぎる。

これが、都市の見が気づく前だったら、俺がこっそり倒してしまっても問題なかったのだが……その判斷がつかなかったのが痛い。

何せ、今回、魔がこちらに向かってきている原因と思しきものを、俺は見てしまっているからな。

流石に、背後関係が分からない以上、問答無用で魔を全滅させるわけにも行かなかったのだ。

そう、この襲撃には理由がある。

そして、もし、俺の予想が正しければ……魔はあるものを追って來ているわけで……。

「しかし、何でまた、急に魔がこの都市を襲うんだ？」

そんな丁度良いボーデさんの呟きに、俺は即座に反応する。

「それなんですよ。実は、魔の大群を発見する前に、ここに向かう乗りを見かけましてね。」

「乗りじゃと？」

眉を顰めながらも食いついたのは、ギルドマスターだった。

「ええ、魔を発見するきっかけになったのは、その乗りのせいなのですよ。なんか、コドモオオトカゲみたいなに引かれて大急ぎで走る乗りが気になったから、その乗りが來た方向を調べたんですよね。そしたら、凄い數の魔の群れじゃないですか。慌ててこちらに報告に來たって訳です。」

俺のそんな言葉に、ギルドマスターは、暫し考え込むと、口を開く。

「ふむ。それは、何かの材料になるかもしれん。その乗り……恐らくは蜥蜴車じゃろうが、特徴は覚えておるかの？」

「はい。後、もう一つ。実は、その乗りには、２つのおかしい反応がありまして。今回の魔襲來の原因はそこにあると、私は推測しました。」

そうして俺が、ギルドマスターに馬車と反応についての報を伝えたところで、部屋にノックの音が響く。

皆が、注目する中、一禮しってきたのは、付だ。

「ロートラウト様、ギルド會議の要請が來ています。至急、教団本部へ出頭するようにとの事です。」

いつもの軽いじを隠し、淡々と伝達を行うその姿を見るに、この事態が迫ひっぱくしたものであることを、如実に語っていた。

そして、ロートラウト様って誰？　と一瞬、疑問に思い……ギルドマスターの本名だったと思い出す。

「ご苦労。すぐに行く。」

俺がそんな事を思っているとは思いもしないだろう。ギルドマスターはそう短く答え、それを見て、付は、一禮するとその場を辭した。その際、一瞬ではあるが、俺に視線を向けて行く。

その表は能面の様にかなかったが、その瞳の奧には疑問のをたたえていた。どうやら、この場に俺がいる事を不思議がっているようだ。

まぁ、一応、第一通報者だし、特に気にする必要はないのだが、何故か、その時、俺は彼から向けられた探るような視線が気になったのだった。

結局、一回、その場で解散となり、會議終了後に再度集まる事になった。

部屋を辭すと同時に、ボーデさんとライゼさんは、迎撃に向けて、準備をするために、足早にこの場を去っていった。

そんな二人が去った廊下をゆっくりと追う様に歩きながら、俺は先程から街に放ったファミリアの寄越す報を、分析していた。

最後にギルドマスターに伝えた件は、かなり重要な事だ。

それは、俺が、その場で魔たちを順滅しなかったことに、大きく関わる。

一応、遅かれ早かれ、ギルドマスターから報は降りてくるだろうが、今は一分一秒が惜しい。

そう、あの馬車……じゃないや、蜥蜴車には、奇妙な反応があったのだ。

そんな気になる反応は、先程、ギルドマスターに話した通り２つあり、今はどちらもこの都市の中にあった。

一つはこの街の中心。つまり教団本拠の建に。

もう一つは、商業地區の奧まった一角に。

その反応のどちらか、もしくは、どちらも追う様に迫る魔達。

どう考えても、関係があるとしか思えない。

俺はゆっくりと歩きながら、考える。

まず、教団にある反応だが……殘念ではあるが、今、教団本拠に近づくのは、なるべくしたくはない。

ファミリアでこっそりと見る事も考えたのだが、萬が一と言うことがあるし。何より、あの反応……良く似ているのだ。例の厄介な奴らに。

うん、藪を突いて、蛇を出すにはまだ早い気がする。

そうなると、とりあえず、ファミリアには教団本部周辺の報を探らせておいて、もう一つの、商業地區の反応を探ってみることにしようかな。

そう考えを纏めながら、ギルドを後にした所で、何故か、家族全員に揃ってお出迎えされた。

「おや、皆、わざわざ來てくれたのかい？」

し驚きながらも、改めて皆の表を見渡すと、一様に深刻なを浮かべていた。

「父上、敵にござる。」

「お父様、結構な數が、こちらに向かっておりますわ。」

その聲にし不安そうな分を含ませながら、わが子達は俺にそう伝えてきた。

おや、思ったより、この子達もナイーブなのだな。

何となく歳相応の子供っぽさが嬉しくて、俺は優しく二人の頭をでる。

そんな俺の手のひらに躙されらかい笑みを浮かべつつも、二人の表はどこか晴れない。

「私でも、に悪意をじます。ツバサ様、見て下さい。先程から、尾が逆だってしまって。」

そう言ったリリーは、し振り向きながら、俺に金に輝く尾を見せて來た。

確かに言われてみると、いつもよりふんわりと膨れている。

おお、なんか、これはこれでさわり心地が……良さそうだ。

「はぅ！？　つ、ツバサ様？　こ、こんな所で……。」

は！？　しまった。気がついたら、リリーの尾をで回していた自分がいて慌てて、尾から手を放す。

「ご、ごめん。あまりにもり心地が良さそうだったもので、つい。」

「もう、外では他人の目もありますし、恥ずかしいですから、なるべく抑えて下さいね。」

俺の言葉に、リリーはし怒ったように、腰に手を當てると、し困ったように俺に文句を言ってきた。

しかし、そう言いつつも、途端に顔を真っ赤にすると、

「そ、その代わり、宿に帰ったら幾らでもって下さって良いですから……。」

と、途端に顔を真っ赤にしたと思えば、もじもじとしながら俯いてしまう。

もう、この生、可すぎるんですけど。

リリーの背中に隠し切れない膨らんだ尾が、右に左に大きく揺れるのを見て、俺の中で何かが沸き上がるのをじた。

「よし。すぐ帰ろう。今すぐ帰ろう。急ぐぞ。」

俺はそんな衝に突きかされ、そう言いつつ、踵を返す。

が、何故か襟首を捕まれ、その場からけない俺。

ぐ、俺のもふもふを邪魔するのは誰だ！？

しイラッとしながら振り返ると、素敵な笑顔を浮かべたルナが、俺を見上げていた。

ルナはそのまま俺の手を取り、俺の手のひらに、彼の細い人差し指を這わせる。

《　それより、向かってきている魔はどうするのかな？　》

手に書かれた文字を解読し、俺は、ルナに咳ばらいをすると、視線を外しつつ、魔の群れが迫る方へとわざとらしく視線を向けた。

ついでに、サーチを飛ばし、その數が目出度く萬を超えたことを確認し、更には、とんでもなく大きな反応が最後方からゆっくりと迫る事実を目の當たりにする。

「あー……どうしようかね？」

流石に、ちょっとまずいような気がしてきた俺は、し困った顔をして、笑顔のルナに視線を戻した。

そんな俺の姿を、地べたに座り込むんだヒビキが欠をしながら、見つめているのだった。