《比翼の鳥》第75話 本當の原因

《 ツバサ、ギルドマスターさんが相談したいことがあるって。すぐ來れる? 》

怒濤の勢いで食事を済ませた竜の子を寢かしつけた所で、ルナから文字が飛んできた。

あらま。嫌な予しかしないな。

「分かった。ちょっと野暮用済ませたら、すぐに行くよ。」

ルナにそう伝えると、立ち上がる。

俺の脇に寄りかかる様に眠りについている竜の子を起こさないよう、草原へと橫たえた。

そして、俺は先程から視線が飛んで來ている方へと向き直る。強化した目で良く見ると、遙か遠くからこちらの様子を伺っていた2頭が見えた。

気を利かせてくれたのか、はたまた、単純に怖いだけなのか。

俺は苦笑すると、息を吸い、大聲でその2頭に呼びかけた。

「ごめん、行かなきゃいけないんだ。良かったら、この子の事、頼めないかな。」

俺のそんな聲を聴いてだろう。その2頭は、恐る恐ると言ったじで、近づいて來る。

細くしなやかな軀とは対照的に、天を突くように、螺旋にねじれた1本の角を持つその獣は、先日、此花が育てると言った鹿……らしきだったものだ。

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そう、この數日間で、恐ろしい程の長を遂げてしまったのだ。

おかしいな……こんな予定ではなかったのだが。

その鹿の影に隠れる……と言っても、全く隠れてないその大きなを揺らして近づくダチョウ……だったはずの生きもまた、規格外の姿を俺の目の前に曬していた。

まず、なんと言っても、が大きい。足の先から頭の先まで、優に7m以上ある。橫幅ですら3m近くだ。近くで見たら軽トラック並みの大きさである。

ただ、臆病なその格は治らないようで、頭をの部分に隠すように、低く折りたたみながら、オドオドとした様子で、一歩ずつ、こちらに歩いてくる様は、軀の迫力と相まって、ちぐはぐな印象をける。

ちなみにだが、2頭とも保有魔力量がおかしいことになっている。

先日戦った、サボテンモドキに迫る勢いだ。

その原因と言えば……実は心當たりがある。

俺は、2頭から目を外すと、遠くから敬禮を返すある植……いや、植? もう、いてるからじゃね? と言いたくなる程、世界の不條理を詰め込んだ生に視線を向けた。

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そう、言わずと知れた、お米さん達である。

米する前のもみ殻は、【ストレージ】に沢山あった。

そして、それも試しに餌としてに與えてみようと思ったのが、そもそもの間違いだったのだ。

まぁ、與える際に、よく見てなかった事もあり、何粒かが、地面に落ちたらしいのだ。

そこから、あいつ等は、當たり前のように生えてきた。

まぁ、それは良い。それ自は、特に不都合は無かった。

問題はその後だ。

生えた數束のお米たちは、この土壌の中でも、特に魔力の強い、龍脈に沿った部分へと居を移し、そこからなんと、勝手に數を増やし始めたのだ。

自己増するってどういうこと? この世界では、命は霊樹から生まれるんじゃないの? そう誰かにびたい気持ちもあったが、過ぎた事は仕方ない。

今更、枯れろと言うのも酷であるので、とりあえず、あまり増えすぎないようにお願いしたら、敬禮してくれたから多分大丈夫だろう。うん、大丈夫だと信じたい。

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そして、現在。

彼ら……彼らかもしれないが……とにかく、ここのお米さん達は、たった數日で長し、森の時と違い、積極的にき始める様になったのだ。

他にも森のお米さん達とは大きく違い、全的に白く小さな……? をしているのが特徴的で、が小さいせいか、きが素早い。

時々、逃げ回る野生と並走しているのを視界の端に見かけるが、俺は見なかったことにしている。

そして、どうやって判別しているか不明だが、お腹のすいたがいると、そこに歩いていき、もみ殻のついたお米を差し出していた。

僕をお食べって、どこのあんぱん的な奴だ。餌付けまでしてるって何よ?

そんな行が、あまりにも気になったので、そのもみ殻をし分けてもらって、調べてみた所、魔力含有量が普通の食と比べておかしい事になってはいるものの、その他は、普通だった。

甚だ憾ではあるが、森産の黒い米とは、見た目の時點で完全に別である。

も白く、見た目は味しそうな、元の世界のお米そのものである。炊いて食べてみたが、弾力も甘みもあり、米で米が食えるという、まさに、至高のジャパニーズライスであった。

悔しいので、1tトン程貰ってしまったが、後悔はしていない。

そして、そんな食事をする俺の姿を見たからか分からないが、どうやら、最近ではこの白米がこの地下農場の主食になっているらしい。

他の野生が、お米さん達にすり寄る様子が良く見られるようになった時點で、俺は何か間違っている事に遅まきながら気づいた。

おかしいな。本當なら、草原となったこの草達を餌にするはずだったのに。どうしてこうなった?

兎に角、ここはお米を中心に食糧事が回り、その結果、たちの保有魔力が増大し、俺の知っているじゃない何かになろうとしている。

例えば、先程から、おどおどしながら、こちらを見ているダチョウも、本気で走れば衝撃波をまき散らしながら逃げる事が可能だ。

最近では、咲耶との追っかけっこが、もうF1レースっぽい事になっている。

腹に響く音を周囲にまき散らしながら、走る二人の姿を見て、俺は々と諦めた。

ちなみに、鹿はその大きな角をらせ、此花と魔法合戦を繰り広げていた気がするが、俺は忘れた。うん、忘れたいんだ。

そんな風に、視線をここではないどこか遠くに向けた所で、鹿が俺の頬に、すり寄って來た。

いや、この子達に罪は無い。そもそも、俺が連れてきた事が、問題なんだし。

俺は、そう気持ちを切り替えると、心配そうにすり寄る鹿に、聲をかけた。

「ああ、ごめんな。本當は、こんな事頼みたくないんだけどな。もし怖かったり、手に負えそうも無かったら逃げていいからな?」

俺は、そう言いながら、なおも角が當たらないようにすり寄ってきた鹿の頭を、優しくなでる。

そして、自分もと言わんばかりに、俺の頭上からのしかかる様におろしてきた、ダチョウの頭をけ止めた。

ぐお、ちょ、潰れるってば。

軽く強化を強めながら、バスケットボールを三回り大きくしたような頭を抱え、暴にでてやる。

ひとしきり2頭の頭をでると、俺は先程出來たばかりのファミリアを顕現させた。

それはぐっすりと眠る竜の子に寄り添うように停滯し、明滅する。

「念のためにこのファミリアを置いておくよ。何かあれば、こいつに話しかければ俺に繋がるから。」

俺はそんな風に、2頭に話しかけると、重力から解き放たれる。

そんな2頭は音も無く浮かび上がる俺を、し心配そうに見つめるも、その眼には力があった。

多分、大丈夫だろう。

俺は、高度を上げていく途中で、未だに敬禮を返す軍団を見つけ、聲をかける。

「この場所を……皆を、頼むね。」

俺の聲が屆いたのだろう。

數・百・もの穂が、一斉に揺れ、葉に當たる部分が、一度天を指し、再度、くの字に折られる。

何とも頼もしいこって。

俺は苦笑すると、一路、イルムガンドへと飛翔したのだった。

「來たか。」

俺の姿を認めたギルドマスターが放った第一聲は、重いだった。

見ると、部屋には先ほどの面子が勢揃いしている。

我が子達はソファに座っているが、流石にこの空気を読んで、靜かにしていた。

付で聲をかけた俺は、に伴われ、すぐさま、ギルドマスターの部屋へと通された。

そんな彼からは、やはり、一瞬、何か探るような視線をじるも、俺は黙殺する。

俺がいるのは場違いなのはわかっている。だが、そうも言ってられないしな。

そんなが部屋から出て、隠蔽が確保されると同時に、ギルドマスターが俺へと視線を寄越した。

「まずは、馬鹿な奴らを捕まえてくれたこと、禮を言うぞ。奴らを逃しては、真相も分からぬままであったしな。」

溜息と共に吐き出された禮を、俺は苦笑しながらける。

「いえ、お気になさらず。まぁ、捕まえた所で、狀況が変わるわけでも無さそうですしね。」

「そうじゃな。とりあえず、厄介な馬鹿共はこちらで拘束しておる。軽く話も聞けたのじゃが……実に困った事になったの。」

そう言うギルドマスターは、忌々しそうに呟きつつ頭を振った。

「えっと、やっぱり、黒幕はあの自稱 大司教様ですか?」

俺のそんなおどけた言葉を聞いて、ギルドマスターは更に苦蟲を噛み潰した様な顔をすると、

「ああ、本じゃよ。あの愚か者、とうとうやりおったわい。」

そう吐き捨てるように口にした。その口調には、もう、口にするのも忌々しいと言う気持ちが滲んでいた。

「あれ、本なんですか。」

「殘念ながらの。」

お互い顔を見合わせると、同時に溜息をつく。

あ、アホじゃないだろうか。まさか本だったとは。

大方、どこかの商人か、悪くても教団の部の誰かが自稱で語っているだけかと思っていたが……冒険者を直接子飼いにするとか、どういう神経しているのだろうか?

大司教っていえば、教団のトップの方だろ? 管理職だろ? それが、あまりにもお末すぎるだろう。

「あー、まぁ、教団ってそういうじなんですかね?」

「そういうじじゃな。」

俺の問いに、投げやりに答える彼の目も死んでいる。

そんな溜息しか出ない狀況に、ボーデさんが苦笑しながら、口を挾んだ。

「まぁ、実質、教団の連中は、金も奴隷も思いのままだからな。厄介な奴は……な? ちょっと首をつければ、どうにでもできるんだよ。」

「握り潰すのは得意。」

そんなも蓋もない、ボーデさんとライゼさんの言葉に、俺は苦笑を返すしかない。

そんな微妙な空気になった所で、ギルドマスターは咳ばらいをすると、

「兎も角、あの馬鹿共の件は、こちらで何とかするわい。今回は、教団に摑まれる前にこちらで確保できたからの。報も既に、各ギルドへと共有済みの上、ギルド連盟で教団本部に抗議をした上で、査問會を要請しておる。流石に、ここまでいてしまえば、握り潰すには骨が折れるじゃろうて。」

そう何とも言えない意地悪な笑みを浮かべた。

しかし、何て良い表をするんだろうか。これは相當、鬱憤うっぷんを溜め込んでいたな。

「でも、それはこの街が殘ればの話。」

しかし、そんなライゼさんの言葉で、一気に場の雰囲気が凍りつく。

いや、そりゃそうなんだけど、今言わんでも!

ほら、ギルドマスターの眉間に皺が寄ってるじゃないの!

そんな思いを込めてライゼさんに視線を寄越すも、彼は素知らぬ顔をしたままだった。

ちなみに、ボーデさんは、ギルドマスターの表を見て、苦笑している。

しょうがない、良い報を出して、この場を和ませようか。

「ああ、ちなみに、例の子供は一命をとりとめて、安全な場所に隠してあります。」

そう思い、俺は切り出すも、ギルドマスターの表は何故か更に曇る。

あれ? 上手くすれば、切り札になるかもしれないのに、なんだ? この反応は。

俺が、眉をひそめたのが分かったのだろう。ギルドマスターは、言いにくそうに口ごもると、再度、俺を見據え、こう言った。

「殘念じゃが、竜がここを目指しているのは、別の理由の様なのじゃよ。」

その言葉で、俺は、瞬時に悟る。

マジか。親竜が、子供を取り戻すために來たのではない?

だとすれば、もう一つの反応が原因か……。

「まさか……教団の?」

思わず出た俺の言葉をけて、ギルドマスターは頷くと、決定的な言葉を口にした。

「うむ。勇者が竜に手を出して、返り討ちにあった挙句に、ここへと逃げ込んだようじゃな。」

その言葉を聞いて、俺は天を仰ぐしかなかったのだった。

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