《比翼の鳥》第78話 イルムガンド防衛戦 (3)
俺は、映し出されている景を見て、素直に心していた。
皆、救いをもたらしてくれた教団に対し、謝の言葉を口にしている。
うん、実に上手いと思う。
元々、なんでこの都市が狙われているかとか、大事な部分には、これっぽちもれやしない。
ただひたすらに危機を煽って、その対抗策を出す事により、心のきを演出する。
皆に不安な気持ちが湧き上がった所に、安心を與える材料を目の前にぶら下げれば、飛びつくのは當たり前だろう。
まぁ、仮に本的な原因にれたとしても、神が試練を與えたとか、皆の日頃の行いにしてごまかすんだろうなぁ。
こうやって一歩引いた場所で見ると、この手の手法は実に理に適っていると分かる。
形としてはこうだ。
理不盡に襲って來る強大な敵を作り、そこに抗う自分達と言う構図。そういう一方向の視點を與え、民衆を好きな方向へと導く訳だな。
しかも、敵が強大であり、こちらが一方的な被害者と言う形であれば、この演出は絶大な効果を発揮するし。
ここまで綺麗にお膳立てされれば、元々、勇者が元兇であるなど、この狀況では夢にも思わないだろう。
そんな民衆の様子を見る為、ファミリアをり映像をかしていった。
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そして、演説を終え、手を振る大司教から視線を外し、民衆達に目を向ける。
皆、興し、天に屆けとばかりに、邪竜打つべしとんでいた。
そんな中、ふと視線の端に広場の前の方で、涼しげに佇んでいるギルドマスターと冒険者達の集団が見え、そちらに注意を向ける。
きっと今頃、ギルドマスターの心の中は暴風雨狀態だろうなぁ。
そう思ってよく見たら、ギルドマスターのが小刻みに震えているのが見て取れた。
橫で寄り添うように立ち竦んでいるボーデさん達も、口こそ開かないの、どこか呆れた様子だ。
ギルドマスター、あんまり怒ると管切れますよ?
ふと、家族達が靜かなので、様子が気になって振り返ると、皆、畫面を見て言葉を失っていた。
ま、そりゃそうだろう。
俺達は、なんでこの都市が狙われているか知っている。
勇者様が、ドラゴンにちょっかいを出してボロ負けした事も知っている。
今の演説を聞いて、安心できる要素など皆無なのだ。
そういう狀況を知っているからこその反応である。
ただ、クリームさんはこの場の雰囲気と畫面の先との溫度差に、若干、戸っているようなじだった。
まぁ、彼はどちらかと言えば、覚的に民衆よりであるだろうし、俺達の持っている報を知らないから、當然の反応だろう。それに、彼の一番の心配事は、ライトさんの事だろうし、勇者様がいれば、ライトさんが出る必要も無いかも知れないって安堵している部分があるのかもしれないしな。変に不安にさせるのも可哀想だし、そのままでいいと思う。
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ふと、ルナと目が合う。
何か困ったような、呆れたような曖昧な笑みが口元に張り付いていた。
俺はそんな彼に肩をすくませて意を伝えると、歓聲が頂點に達したことをじ、畫面に向き直る。
目を向ければ、丁度、バルコニーに勇者と思しき人が出て來た所だった。
俺はその人を見て、思わず固まる。
いや、正確に言えば、人が出て來た狀況を見て、一瞬思考が停止したのだ。
整った顔立ちだが、目つきが鋭い。年の頃は多く見積もっても高校生位だろう。しさが殘るものの、その自信ありげな表と、どこか得意気な雰囲気を纏っているのが印象に殘る。
あれだ、中學や高校のクラスに一人はこんな奴いるよな。し斜しゃに構えたような雰囲気を醸し出す奴。
風になびくしなやかな髪は、黃金に輝いており、額にる銀のが、対になったようにアクセントを與えている。
背は俺と同じ位か? 170cmに屆くかどうかと言うじではあるが、細のせいかし頼りなさが出てしまっていた。
そんな細いではあるが、それを補うかのように防が必要以上に存在を出していた。
きを阻害しない程度に、肩、、腰、肘や膝を守る様にして金の鎧をに纏っている。
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左腰には長めの剣をぶら下げており、それも複雑で麗な彫刻に彩られた鞘に収まっていた。
目を引くのはそれだけではない。なんと獅子を模かたどったであろう金の刺繍が目立つマントをはためかせていた。風が強いのだろうか? マントは下から上へとし大きめに揺れ、赤と金のコントラストに思わず目を奪われる。
そんな目立つから目を逸らせば、異様な左手に目が止まる。肘から先。そこだけ金の鎧に覆われており、今迄のイメージと相まって、バランスが悪く、無骨な印象を與えていた。
まぁ、容姿だけ見ると、しやんちゃな子供と言う印象を拭えない。それがこれでもかと、華な裝飾で飾り付けられていた。
しかし、俺が驚いたのは今言った部分では無い。
何故か、彼の周りにはキラキラとが瞬いていたのだ。
思わず、俺はおかしくなったのかと思い目をこする。
しかし、やはり狀況は変わらない。勇者の周りにはが瞬いていた。
淡いを纏った勇者は、民衆に向かって、笑顔を振りまき、手を振ってこたえている。
そんな様子の勇者を見ながら、俺は思わず、皆に呟くように問いかけた。
「あー……何故か、俺の目には勇者がって見えるんだが……皆、どうかな?」
そんな俺のやや困ったような問いに、
「わたくしも見えますわ。」
「某にも、みえますな。」
「わ、私にもってみます。」
「不思議ですねぇ。私にも見えます。流石は勇者様ですね。」
我が子達、リリー、そして、クリームさんが聲を返してくれる。その後に、ヒビキがし呆れたような聲で一鳴き。
その聲の調子を聴くに、どうやらヒビキにも見えてはいるらしい事はわかった。
「そうだよなぁ。ってるよなぁ。」
俺はそう呟くと、改めて畫面に視線を戻す。
勇者を祝福するかのように、周りに瞬いている。なんだこれ?
そして、俺達と同じように、観衆にもそのは見えているのだろう。
一瞬、靜かになったものの、「ってる……。」「なんて綺麗……。」と言う呟きが聞こえ始め、
すぐに大地を揺るがさんばかりの歓聲が……いや、もう聲と言って良いだろうか? それが音の波となって、伝わっていった。
そんな熱狂的な民衆の狀況を見て、俺はふと思い當る事があり、まさかと思いつつファミリアの視點をし引いた上で、し上方から勇者を見下ろす形に映像を変える。
「「「「あ」」」」
その瞬間、皆の綺麗にハモった聲を耳に殘しながら、俺も聲こそ出さないの、それを見つけてため息をつく。
勇者の後方。床に這いつくばる様にして、何か玉の様なを勇者に向かって投げている人がいるのだ。
この位置ならばバルコニーを見上げる形の民衆からは、絶対に見つかる事はない。
そんな這いつくばった人達が、小さな玉を途切れぬように互に投げれている。そんな玉が、勇者の近くに投げれられると、破裂し弱いをキラキラと発しながら消えていく一連の様子が確認できた。
その意味を一瞬で理解し、俺はあまりの下らなさに、一瞬、理不盡な怒りすら覚え、それを瞬時に抑え込む。
《 そっか。あの玉がってたんだね。けど、なんであんな事してるんだろう? 》
謎が解けてスッキリしたのだろうが、新たな疑問が浮かびあがり、首を捻りながらもルナが虛空に字を躍らせる。
「なんとまぁ……。」
俺は、そんな言葉をつぶやきながら、疲れがドッと出るのをじつつ、靜かにソファーにを沈めた。
そりゃ、ルナや皆には、良く分からんだろうな。
これは、単なる演出だ。
単純に、民衆に勇者と言う存在を印象付けるための、言わばデモンストレーションである。
その為に、わざわざ民衆を集め、派手に著飾らせ、神聖なイメージを演出しているのだろう。
まぁ、民衆の心を摑む方法としては理に適っており、その演出も過剰ではあるものの、方向は悪くはないと思う。
だが、今は都市の存亡をかけた狀況であるという事を忘れて貰っては困る。
ちなみに、余談ではあるが、竜の軍団の先発隊は、もう視認出來る段階まで來ている。
この場所から外を見れば、禍々しさすらじられる黒い雲の様な大軍団を見る事が出來るはずだ。
アホな事に力れている暇あったら、さっさと戦いに行けと、聲を大にして言いたい気持ちグッと抑え、俺は大きく息を吐いた。
いかんいかん、こんな事、想定だろう?
俺は自分を落ち著かせるために、【ストレージ】より、お茶を取り出し、ゆっくりと飲み干す。
はぁ、落ち著く……。やはり緑茶は、日本人の心の支えだよな。
そうして、俺は落ち著きを取り戻し畫面に視線を戻すと、そこには、自信に満ちた表を浮かべる勇者の姿があった。
「みんな! 歓迎してくれてありがとう! 俺は勇者ゼクス。極のゼクスとは俺の事だ!」
大聲でそうぶ勇者の名前を聞き、俺は思わず咽むせる。
後ろから、俺を心配するルナが背中をさすってくれたが、俺は禮を言うと、畫面の中で観衆の聲に満足そうに答える勇者の顔を再度見つめた。
いや、どこをどう考えても日本人の顔つきだよな。
それが、金髪に染めて、ゼクスって名乗るって……どうなのよ? もの凄く違和しか無いんだが。
しかも、通り名を付けた上に、わざわざ自分から堂々と名乗るって事は……こいつは、まさか……?
嫌な予がむくむくと顔をもたげて來るのを俺は、否定したかったが、次に続く勇者様の言葉がそれを現実のものとする。
「卑怯にも邪竜が軍勢を引き連れて、この街を襲おうとしているらしい。だけど、安心してしい! この街は、この俺、極のゼクスが、守って見せる! そう、この聖剣エクスカリバーで!!」
そういうや否や、腰に差した剣を抜き放ち、皆にも見せつけるかのように天へと掲げる。
両刃の刀が、日のを反し金のを放つと、次の瞬間、網を焼くかと思える程の強烈なを放った。
ちなみにファミリアはそのを検知し、畫面をすぐに遮モードへと切り替えたので、畫面を通して見ている俺らには、特に問題は無い。
しかし、それを直に見ていた観衆の方は、皆、眩いから目を背ける姿が確認できた。
そして、強いが収まって來ると、恐る恐る民衆達が勇者様へと視線を戻す。
そこには、る剣を掲げたまま、悅にったようににやける勇者様の姿があった。
民衆からすれば、そんな姿は頼もしく映るだろう。を背負い、堂々たるその姿を見れば、勘違いしてもおかしくはない。
この勇者は凄い。なんだかわからないけど、凄い。そう思わせられれば良いのだ。
それが例え、ハ・ッ・タ・リ・だとしても、だ。
そんな演出は、間違いなく功を奏したようだ。三度、発したかのような歓聲が沸き起こり、ゼクスコールが鳴り響く。
そんな観衆の聲を耳に通しながら、俺はため息をついた。
はぁ。これは、參ったね。
俺が予想していた以上に、この勇者は不安要素しかなかった。
まず、この勇者、極度の目立ちたがり屋だ。
教団がそこまで手引きしたなら、それはそれで問題もあるが、それ以上にその狀況をけれてしまえる下地が、この勇者にはあるという事になる。
つまり、チヤホヤされる事が、この勇者にとっては、一種、當たり前である事が、一連の狀況から見て取れた。
それは、まぁ、良い。
問題は、そのチヤホヤされている勇者が、予想以上に弱・そ・う・だという事だ。
今、俺はファミリアを通して、勇者の魔力量を読み取っているのだが……ハッキリ言おう。ない。なすぎる。ぶっちゃけリリーよりないってどういう事?
この世界ではどうやら、魔力量が絶対的な強さの指標となるらしい事は、今迄の経験から分っている。
砂漠の生たちの序列は、そのまま魔力量に比例して上がっていったしな。手練れと言われる冒険者達もまた然り。
まぁ、勇者は強いと言う定説もあるので、もしかしたら、勇者は例外的に何かある可能もあるのだが。森に來襲した勇者カオルだって、魔力量は、この勇者よりは遙かに多かったと思う。まぁ、あの時は、まだ俺も魔力を上手く制できなかったし、経験則での話になるけどな。
しかし、疲弊している分を加味しても、恐らくヒビキ一人……いや、一頭? ともかく、彼だけでタイマン張れるレベルなんじゃなかろうか。やり方によっては、リリーでもいい勝負できそうだし。
我が子達をぶつけようものなら、明らかにオーバーキルである。
それが、あの莫大な魔力を放つ災害級の竜と戦うと言っているのだ。
うん、無謀を通り越して稽ですらある。
これ、俺達の支援無しでは、確実にこの都市終わっちゃうぞ?
俺は、一瞬、勇者が颯爽と竜に切りかかろうとして、そのまま都市ごと消される姿を幻視してしまい、思わずため息をつきながら眉間をむ。
これは、俺達が予想以上に頑張らんと駄目かもしれん。
そう決意を新たにしながら、民衆に向けて手を振る勇者の姿を、殘念な気持ちで見つめるのだった。
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