《比翼の鳥》第81話 イルムガンド防衛戦 (6)

あれから、更に2分程経った。

勇者様は、微だにせず、「はあぁあぁあ!」とか時々びながら、魔力制をして、剣へと魔力を収束させていた。

そして先程、勇者様に向けて飛び立った魔たちも、もう直ぐに接敵する段階まで來ている。

そろそろかないと、囲まれちゃうぞ?

見ていて、あまりの危なっかしさに、逆に俺の方がハラハラする。

俺は心を落ち著けるため、意図的にゆっくりとお茶を口に含み、ゆっくりと飲み干していく。

はぁ。落ち著く。

その距離が、あと100mを切った所で、ついに勇者様がいた。

「これで……終わりだぁ! 天魔滅殺てんまめっさつ破斬竜王はざんりゅうおう撃滅刃げきめつじんぃん!!!」

俺は思わず、茶を吹き出した。

それと同時に、勇者様は刀を上へと打ち払った後、その勢いのまま、橫薙ぎにする。

いかん、気管に……。

咳き込む俺の背を、またもルナが心配そうにさすっている間に、勇者様の放った大層恥ずかしい名前の大技(?)は、その形を直徑5m程のる球に変え、まずは、迫って來ていた魔の一団を飲み込んで更に進む。

しかし、その歩みは遅く、しかも、重力に引かれているのか、徐々にその高度を落としていく。

の軍団は、勿論、そんな危なそうなには近づこうとしないため、飛んでいるワイバーン達は、ごく數の避けきれなかった者たちを除いて、その球から距離を置き、無視して勇者様の方へと向かって來た。

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一見すると非常にまずい狀況に見えるが、勇者様はその場からかず、何かを待つように、その場で立ち盡くす。

そして、球が魔の軍勢の中心部へと到達したかと言うその時、

ぜろ!」

勇者はびながら、手にした剣を天へと掲げる。

その瞬間、球は発し、覆いつくした莫大なが、畫面を強制的に遮モードへと切り替えさせる。

漸く、苦しみから解放された俺は、狀況の確認に努めた。

見ると、魔の軍勢の奧深くへとり込んだ攻撃は、ほぼ綺麗に球狀に魔達を消し飛ばしていた。

かなりの広範囲に攻撃が行き屆いたらしく、中心から遠く離れた端の方の魔達にも、傷を與えていたのだ。

一見すると、凄いように見える。見えるが……。

《 駄目。威力が全然足りない。 》

ルナが文字を空中へと書き出す。

そう。傷は負わせているが、かすり傷だ。しかも、ど真ん中以外、ほぼ全ての魔が、その程度の傷しか負っていない。

どうやら、あの技は電撃を広範囲にまき散らす魔法だったようだ。

はっきり言おう。あんだけ時間をかけて、派手な演出と大層に廚二……いや、長い名前の割に、全く意味が無い攻撃だった。

正直、あんな魔法を打った意味が解らない。それならば、まだ、魔法で落としか、壁でも作った方がマシである。

「ねぇ、ルナちゃん。何だかあまり効いてない様に見えるんだけど、あんなに凄そうだったのに、駄目なの?」

リリーは魔力知が不得意なので、その辺りが解らなかったようだ。

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だが、派手さの割に、魔への被害がない事はすぐにわかったようで、ルナに対して問いかけている。

《 うん。ほぼ全ての魔に攻撃は通っているけど、ちょっと痛い程度だと思うの。麻痺させるにも足りないし、被害は殆ど無いんじゃないかな? 》

そんなルナの言葉に、意味が解らない様に首を傾げるリリー。

「え? つまり、無駄だったって事?」

《 うん。あれだけ時間をかけて、良く分からない長い名前の技を放っても、意味が無かったの。 》

はっきりと事実を突きつけるルナに対し、突きつけられたリリーは、微妙な表を浮かべて耳をしおらせる。

と言うか、ルナの言葉の端々に毒が見られる気がするんだが、俺の気のせいなんだろうか?

ともかく、俺も似た様な気持ちだったので、フォローもできず、とりあえず、無言でやり取りを見ていたが、そんな時に、勇者が獨りごちる。

「うっし、手付け完了っと。味いね!」

その言葉を聞いた瞬間、俺の中で、今の攻撃の意味が理解できた。できてしまった。

「ああ、そういう事か。」

思わず聲に出して、俺は余りの馬鹿らしさに力すると、ソファーへとだらしなくを預ける。

対して、俺が何かを理解したことが分かったのだろう。

未だに謎を抱えたままの二人が、俺に向けて興味深い視線を送って來た。

えー……、これを説明するのか。參ったなぁ。

俺は、頭の中で、理解したことを整理する。

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何てことはない。勇者様は、元の世界のゲームと同じ事をしているのだ。

元の世界には、『R P G』ロールプレイングゲームと言うジャンルのゲームがある。

自分の分であるキャラクターを育てて行き、最後に強大な敵を倒すと言うのが、そのゲームの大の流れになる訳だ。

これはまあ、良いだろう。

問題はここからで、そういったゲームでは、基本的に、経験値と言う、不思議な數値を稼いで、キャラを強化していくことが多い。

まぁ、経験というを簡易的に、かつ、數値化する為の苦の策と言うべきものだ。

敵を倒したら、いきなり強くなるとか、意味わからんと言うのは野暮なのだろう。実際は、様々な経験を通して、複合的に自分の長を実できるというのが、より現実に近い形になる訳だ。だが、そんな事、ゲームでやろうとしたら、それこそ、膨大なパラメーターと処理を行い、數値管理しなくてはならなくなる。それはもう、分析とか別の領域になってしまうだろうしな。

まぁ、話を戻そう。

そんなRPGの中には、キャラをかして敵を直接攻撃するアクションの強いものがある訳だが、その手のゲームの多くは、多數の敵を相手に戦うも多い。

さて、例えばだが、Aと言う敵と、Bと言う敵を同時に相手にした場合、片方を自力で倒し、もう片方は、他のキャラ、もしくは味方が倒したとしよう。

その場合、倒した時に生じる経験値や、得られる報酬はどうなるのだろうか?

最後に倒したキャラのなのだろうか? それとも皆のなのだろうか?

その辺りの細かいルールはゲーム毎に違うので、差が出てくるが、共通することがある。

とりあえず、敵に対して攻撃を食らわせておけば、なんらかの権限は発生すると言う事だ。

この場合、Bと言う敵を他の人が倒す前に、一発でも攻撃を與えておけば、報酬の権利が発生する。

このように、例え敵を倒せなくても、攻撃を當てて報酬を確保する手法を「手付け」と言うのだ。

つまりだ。この勇者様は、経験値を得るために、とりあえず、手付けをしたのだろう。

一回、手付けをしておけば、誰かがその魔を倒してくれても自分に経験値がる。なくても、ゲームではそう言う事が多かったはずだ。

……全くもって馬鹿馬鹿しい。

まぁ、百歩譲って、もし、仮に、そういうシステムがこの世界にもあるとしよう。

俺は見た事ないけどさ。

それでも、今のタイミングで倒せなかった敵の多くは、確実に都市に到達する。

そして、その敵は、下手をすれば……いや、この狀況下では、確実に、都市の人々を害するのだ。

つまり、この勇者様は、『都市の人間の安全』と『自分の経験値』なる訶不思議なを天秤にかけて、後者を選択したと言う事になるだろう。

俺は迷った末に、そんな概念を、二人に例えを用いて、説明した。

そして、帰って來た言葉は、思った通りのだった。

「そのげぇむ? と言うのは、つまりは遊びなんですよね?」

「そうだな。まぁ、俺も好きだから良くやっていたけど。」

《 ツバサが広めて、ルカールで流行っていた、『どろけい』と似た様なものだよね? 》

「そうだな。使う道も、ルールも違うけど、同じ立ち位置で良いんじゃないかな?」

中には人生かけている人も、いるにはいるけどね。とは、口にしない。

「けど、それって、人の命をかける程のものではないですよね?」

「そうだな。人の命と比べられるようなではないね。そこまで崇高なものではないと思うよ。」

《 じゃあ、あの勇者は、都市の人間を使って遊んでるって事? 》

ルナの何気ない一言が、包する本質を突いた。

一瞬、俺は即答しかねたが、事実としては間違っていないのだ。それを意図してやっているかどうかは別として、だが。

「そう……だな。そう言う事になるね。」

そんな俺の歯切れの悪い返答を聞いて、二人とも首を傾げる。

そして、俺も気が付いてしまったのだ。

俺も、勇者の事をとやかく言えるような立場ではないなと。

つまり、どこかゲームをしているような、軽い気持ちで事に當たっていた事もあったのだ。

勿論、そこには、悪意も無いし、人を害するような事をしたいと思って行したことはない。

だが、結果として、ルカールの生活の本をこそぎ作り替え、多くの人の人生を巻き込んで來たのは事実だろう。

その萬能、故だろうか。どこか、現実とは切り離されたような、それこそ、ゲームを楽しむかのような気持ちで、俺は今まで過ごしてきた部分が無いとは言い切れないのだ。

俺がそんな思考に沈みかけたとき、突然、ルナが俺の頬を両手でそっと挾み込んだ。

驚いて視線を上げると、澄んだ瞳が、俺を真っ直ぐに貫いてくる。

一瞬、俺はそんな瞳に吸い込まれるような錯覚を覚えるも、次の瞬間、ルナは指を使わず、直に俺の目の前へ、文字を浮かべる。

《 また変な事考えてる。 》

俺がその言葉を読み、返答に迷っていると、更にルナは言葉を続けた。

《 ツバサは、あの勇者とは違うよ? だって、森の人達は、皆、笑顔だったもん。 》

俺はそんな真っ直ぐな言葉をけ、一瞬、口ごもる。

そうか。俺は、一つ重要な事を忘れていた。

確かに、俺はし楽しんで……そう、遊びの延長上の覚で、事に當たった事はあったかもしれない。

だが、それでも、俺は。

《 うん。いつもツバサは、周りの人の事を笑顔にしようとしてたよ? 私、ずっと見てたもん。わかるよ。 》

そうだ。それでも、俺は、皆に笑ってほしくて、幸せになってほしくて、そうしていた。

それは、結果的に、俺を満たす事に繋がると知っていたから。

《 そう。でも、あの勇者は、自分の事しか考えてないよ? ツバサは違う。ちゃんと周りの人の事も・考えてる。だから、全然別だよ。 》

俺はそんなルナの言葉を聞いて、思わず涙ぐみそうになる。

なんて心強い言葉なんだろう。たったこれだけの事、ほんのしの言葉なのに、俺は、落ちかけた心が、こんなにも満たされている。

もう、そろそろ子供扱いは本気で出來ないな。

「そうか。そうだな。ありがとうな。ルナ。」

《 どういたしまして。 》

そう笑顔を返すルナが、眩しくおしい。

本當に、いつの間にか、こんなに頼りになる子になっちゃって。

思わず衝的に、俺はルナを抱きしめる。一瞬、びっくりしたようにくするも、すぐに応えるように、手を回してきた。

もう、なんかまずい。何がまずいって、ルナがしすぎてしょうがない。

この奧から湧き上がってくる衝にも似た激しいが、俺を突きかす。

そして、ルナをどうにかしたくてしょうがないと言うこの想いが、止められない。くそ、これが、バカップルの元なのか!

「うぅー……良いなぁ。」

しかし、そんな俺の狀況を見て、思わずれたのだろう。リリーの呟きで俺は我に返る。

ふと俺は元から見上げているルナと目が合い、思わず顔をそらすと、ゆっくりと抱擁をといた。

ルナはし顔を赤くしながら、そのまま一歩下がる。しかし、その顔から、し呆けた様な、それでいて幸せそうな笑みが消える事はない。文字にすれば「むふー」であろう。その辺りは、実にルナっぽいなと改めて思い、何故かちょっとホッとした。

そして、そんな「むふー」なルナが橫目でリリーに視線を送る。はいはい。ちゃんと平等に、ね。

「……っと、リリーも、いつもありがとうな。ほら、良かったらおいで。」

ルナの意図を組んだ俺は、そう言いながら、俺はリリーに向かって、手を広げる。

そんな俺の思い切りの良さに、流石のリリーも一瞬ひるんだようだったが、すぐに尾を振ると、そのまま飛び込むように抱き著いてきた。

リリーはリリーで、抱きしめたときに、安堵のような違った暖かさが、俺の心を満たす。

不思議なものだ。同じ抱擁のはずなのに、こうも湧き上がるが違うとは。

それに、どちらも心地良いのに、全く質が異なると言うのが、また面白く、謎である。

「えへへ。」

目の前で何か可い擬音が付きそうな勢いで揺れる獣耳に、俺は手をばし、ゆっくりとでる。

俺がでる度に、リリーの表は溶けて、耳のきも緩慢になっていくのが、またリリーらしい。

そんなリリーの様子を見ていたら、俺は何とも無しに口を開き、思ったままを口にしていた。

「リリー。そのままで聞いてくれ。俺は、ルカールの皆を巻き込んで、騒を起こすことが多かった。それに今も、皆を巻き込んでいる。けど、さっきの勇者を見ていて、俺にもそんな遊びの延長で、事を楽しんでしまっている事があったと、そう気がついてしまったんだよ。俺も人の事言える立場じゃなくて、結局、勇者と同じことをしているんじゃないかってね。」

懺悔と言うわけではないが、先程の心を、俺はリリーに伝えたくなったのだ。

そんな俺の言葉をけ、暫しけた様な表のまま、し考え込んでいたリリーだったが、顔を上げるとはっきりと視線を向けて口を開く。

「うーん。それはツバサ様がやった事を、皆がんでいたから良いんじゃないでしょうか? 皆だって、誰かに強制されて、ここにいるわけじゃないんですもん。私だって、勝手にツバサ様についてきて、迷かけているって思っている部分もあります。」

真剣な表で、そう言い切ったリリーは、一瞬目を伏せたが、

「それでも、私はツバサ様について行きたいって思っています。これって、私の我儘だと思うんです。これは、駄目ですか? ツバサ様には、許して貰えない事でしょうか?」

そう俺の目を真っ直ぐ見つめながら、言い切る。見ると、し耳が震えていた。

そうか。そうだよな。リリーだって、何も考えずに、俺に著いて來ている訳じゃない。

さっきの姉妹のやり取りだって、潛在的にあるリリーの恐れを刺激して、ああいう過剰な反応になったのだろう。

も、そうやって、役に立たない事を恐れつつ、皆に捨てられるかもしれないと言う恐怖と戦いながら、ここにいるんだろう。

分かった気になっていたが、全然分かってなかったのかもしれないな。ごめんな。

「勿論。リリーが著いてきたいなら、どこまでもおいで。」

俺は、彼の恐れを払拭ふっしょくするために、む言葉をかける。勿論、本心からだ。

「良かった……。斷られないって思っていても……もし斷られたらって、私、どうしても頭に浮かんでしまって、ちょっと怖かったです。」

苦笑しながらも、割と本気でそう言っているのだろう事が、その表からも読み取れる。

ついでに、抱きしめているため、著している部分から、彼の跳ねる様な鼓が伝わって來て、し罪悪も沸いた。

俺は、「そんな事するわけないよ。」と、優しく頭をでながら、言い聞かせるように伝える。

「はい、私、ツバサ様に著いて行きます。そして皆も、許してくれました。私もんで、ツバサ様も、皆も許してくれて。だから、えっと、うー。そんな気持ちに応えたいって思ってます。んー、えーっと、そ、そんなじです。だから、良いんです!」

かなり最後が強引だったが、言いたい事は良く分かった。

そう、俺も我儘を通したが、皆がそれを認め、んでくれた。喜んで、れてくれた。

同じ我儘であり、押しつけであったかもしれないが、皆がれてくれるなら、それで良いじゃないか。

また、難しく考えるところだった。そうだな。なくとも、俺は許されていた。

皆にれられていた。

獨りよがりで遊びの延長の部分もあったかもしれないが、それをまれた部分があったのも確かだ。

もし、それでも自分が何か間違ったのなら、皆の意見を聞けば良い。

皆のむ方向を見て、俺も一緒にそちらに向きさえすれば、おのずと、共に歩けるようになる。

だが、あの勇者にはそれがない。

自分が向くのではなく、自分の向いている方に皆が向くとしか、考えていない。

それは、危ういのだ。旗を振って先頭をひた走り、ふと振り向いたら、誰もいなかったと言う事もあり得る事を俺は知っている。

その時の絶たるや、言葉ではとても言い表せない。

俺は、そんな事に気づかせてくれたリリーに、心の中で改めて敬意を表すると、暴に頭をでまわす。

「あう。ツバサ様、いきなりなんですか。」

そう言いながらも、グイングインと俺の手に弄ばれながら、何故か満面の笑みである。

「いや、リリーって時々凄いなってね。ありがとうね。大事な事、ちゃんと伝わったからさ。」

俺はつられてそんな風に、笑顔で禮を口にした。

そんなゆったりとした雰囲気が流れ、俺も心が軽くなったのだが……

「あのー……お楽しみの所、大変申し訳ないのですが……。」

いきなりかかった聲の方を向くと、クウガとアギトに寄りかかられ、きの取れないクリームさんがいた。

そんなクリームさんはし困ったような、呆れた様な表を浮かべて、畫面を指さす。

「どうやら、戦闘が本格的に始まっている様なのですが。何かしなくて良いのでしょうか?」

クリームさんの言葉で、畫面に目を戻すと、市壁へと到達した魔と戦う冒険者たちの姿が飛び込んできて、

「「《 あ……。 》」」

俺達は、そう呟くことしか出來なかったのだった。

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